桜のあやかしと共に1
その人は、とても綺麗だった。
長い白髪に、翡翠の瞳をしていた。町を歩けば、皆振り返るくらいだろう整った顔立ちをしていた。
その人は、人間ではなかった。
樹齢5千年にもなる、桜の大木の精霊だった。あやかしというべきか。
かつて、その人には「春」という名の男性の恋人がいた。
その人の性別は桜のあやかしであるため、固定されていないが、いつも男性の姿をとっていた。
「春」は、その人が見ている目の前で、子供をかばって交通事故で死んだ。
その人は泣いた。
泣きすぎて、天候まで嵐にしてしまった。
今、その人は前世が「春」の男性を見つけて、どうすれば接触できるか、悩んでいた。
ここは、小さな公園には不釣り合いの少し古い桜の木。
その人の樹齢5千年になる桜の木は、異界にある。
なので、火事やなんやらで、公園の桜の木がなくなっても平気だった。
「にゃーーーん」
その人は、愛しい「春」をなくしてから、人の姿をあまりとらなくなった。
もっぱらオッドアイの白猫の子猫の姿をしていた。
「春」が好きだといってくれた姿だった。
「春・・・・・・いや、今は京楽春水か・・・・・・」
子猫は、公園から億ションの高い建物を見あげた。
「なー」
「にゃおーん」
物思いにふけるその人の名は浮竹十四郎。
浮竹は、同じ桜の精霊である朽木白哉の黒猫姿のあいさつに、鳴き声で返した。
「兄は、またあの男のことを思っているのか」
「ああ。あいつは、「春」の生まれ変わりだ。一目見ただけで分かった。
「兄は、まだ「春」を思っているのか。死してもう120年にもなるのだぞ」
「それでも、俺は待っていた。ずっとずっと、「春」の生まれ変わりを」
「私たちはあやかし。人とは相いれないもの。「春」は人間だったが、特異体質であやかしが見えた。今度の「春」の生まれ変わりは、あやかしの私たちの姿が見えるかどうかも分からないのだぞ」
白哉は、そう言って浮竹に黒い毛並みの体をこすりつけた。
「にゃあ」
「なおーん」
人々には、猫がぽかぽかした春の日差しの下で、日なたぼっこをしているように見えるだろう。
「ああ、言っていたらきたぞ」
「なぁ」
浮竹は、猫に完全になりきって、思い人にすり寄る。
「やあ、ジュリア。猫缶もってきたよ。お友達のスザンヌの分もあるし、チュールもあるから喧嘩せずに仲良くお食べ」
京楽春水。
父方がドイツ人とのハーフで、京楽はクォーターにあたる。
堀の深い顔立ちをしており、鳶色の瞳が印象的だった。
「にゃああああ」
浮竹は、猫缶をおいしそうに食べて、チュールももらって、京楽にすり寄った。
「ごめんね。ボクのマンション、犬はいいけど猫はだめなんだ。外でしか会えないけど・・・・」
「問題ない」
どうせ見えないだろうと、人の姿をとった。
満開の桜舞い散る場所に、白い長い髪に翡翠の瞳をもった、桜色の着物を着た人物が突然現れて、京楽はぎょっとなった。
「ジュリア?」
「俺の名は浮竹十四郎。ジュリアとは、お前が俺につけた名だな」
「え、何これ。子猫が青年に・・・・・?」
「正確には、桜のあやかしだ。桜の精霊さ。お前がスザンヌと呼ぶこの黒猫も桜の精霊で、朽木白哉という。俺の弟のようなものだ」
「えっと・・・ボク、昔から特異体質で幽霊とか妖怪とか見えるんだけど、これもそのせい?」
京楽は、鳶色の瞳を瞬かせた。
「そうだな。ただ、今は普通の人間にも見えるようにしている」
「ジュリアは桜のお化けなの?」
「浮竹と呼べ。ジュリアは女のようでいやだ」
「ああ、うん・・・・でも、すごく綺麗だね。えっと、浮竹だっけ・・・・」
「ああ」
「はじめまして。ボクは京楽春水。ちょっと特異体質の霊感があって、それにあうようななんというか、稼業?をしているよ」
「あやかしや幽霊を祓う、便利屋だろう。知っている」
「なんで、初めて会うのに、ボクのこと知ってるの?」
「お前をずっと見てきたからだ。俺はお前を愛している」
「え」
「にゃおーん」
浮竹は、子猫の姿になって、京楽の足元にすりよった。
「どういう意味?」
「にゃああ」
「人の言葉通じるかな」
「通じるぞ。スザンヌだとか、ふざけたような名前の改名を求める」
黒い毛皮をなめながら、白哉はそう言った。
「猫がしゃべった・・・・・・」
「だから、俺たちはあやかしだ」
「ねこのお化け?」
「桜のお化けだな。桜の季節は、人を惑わす者も多いが、俺たちはそういうことはしない」
「ああ、うん。駆除対象じゃないって、接してれば分かるけど・・・・でも、ボクを愛しているって?ボクは君とは猫の姿をしているときは会ってるけど、人間の姿をした君と会うのははじめてだよ。ボクをからかってる?」
「違う。お前は「春」の・・・・・俺の120年前の恋人の生まれ変わりだ」
「は?」
「信じてもらえなくてもいい。ただ、時折でいいからこの公園にきて、猫の姿でいるから餌でももってきてくれ。俺は、お前だけを、ずっとずっと・・・・120年間、愛し続けていた」
浮竹は、涙を零した。
「浮竹。兄のもつ妖力は強い。泣くと、雨になる」
「ああ、すまん、白哉」
浮竹が泣いていると、空からにわか雨が降ってきた。
「京楽春水。愛している」
「ボクは・・・・・」
ずきりと、京楽は頭痛を覚えた。
走馬灯のように、前世の記憶がぶわりとおおいかぶさってきて、京楽はどこかでこの浮竹という桜のあやかしとあったことがあると、愛していたと、確信していた。
「前世・・・・あんまり思いだせないけど、どうやらボクは君に恋をしてしまったらしい」
浮竹の美しい姿に、見惚れてしまっていた。
「では、今生でも俺の恋人になれ」
やや強引な浮竹に押し任されて、京楽は頷いてしまった。
それを、白哉はただ見守っていた。
「雨降ってきたし、人の姿ならはいれるから、ボクの家にくる?ジュリア・・・・じゃなかった、浮竹。あと、スザンヌも」
「スザンヌではない。朽木白哉だ」
白哉も人型をとった。浮竹とはまた違った美しさをもつ、若い青年だった。
「ボクの家、広いから3人になっても平気だよ」
白哉は、首をと横に振った。
「私は、桜の木の中で休眠する。浮竹、行ってこい。思い人と通じあえたのであろう」
「春の記憶は、あまり蘇っていないだろう。前世の記憶は、夢などでゆっくり思いだす。ということで、ちょっと京楽の家に寝込みを襲いに行ってくるぞ、白哉」
「ほどほどにしておけ」
「え、ボク、寝込み襲われるの!?」
「冗談だ。ただ、お前の傍にいたい」
「うーん。ほんとはダメなんだけど、子猫の姿でいいよ。今、人の姿をとり続けているのは辛いんでしょ?」
「なぜわかった?」
浮竹が首をかしげると、京楽は札をだして浮竹の背後に飛ばし、除霊した。
「寄生虫?みたいなの、くっついてたから」
「え・・・気づかなかった」
「この手の妖怪は、宿主を少し苦しめるけど、気づかない場合が多いからね」
「すまん・・・・恩に着る。では、子猫の姿になるので、運んでくれ」
「名前、猫の時はジュリアでいい?」
「だめだ。浮竹と呼べ」
浮竹は、子猫姿になると、京楽に抱かれて京楽の部屋に入る。あまりもののない、殺風景な部屋だった。
「ここが、京楽の家か・・・・」
「広いでしょ」
「ああ」
浮竹は、人の姿をとった。
「3億したからね。ボクの家柄は元華族で、大正時代くらいまで貴族だったよ」
「ふうん。金はあるところにはあるんだな」
「まぁ、寝るためだけに使ってるような部屋だから。よければ、浮竹も一緒に住まない?桜の木がいいっていうなら、断ってもいいけど」
「一緒に住む」
即答だった。
「俺はお前を愛している。その意味を、教えてやる」
浮竹は、京楽を押し倒してキスをした。
「ん・・・・・・」
キスをしかされて、これはやばいと、浮竹はいったんストップを入れる。
「まだ、体の関係にはなりたくない」
「どうして?君はボクのことが好きで、ボクも君のこと気に入ったよ」
「まずはプラトニックからだ。キスとハグまで」
「ええ、それ生殺しじゃない?」
「春は、いきなり体の関係なんて求めてこなかった」
「ボクは春水。春じゃないよ」
「分かっている」
浮竹は、また子猫の姿に戻り、京楽のベッドの上で京楽と一緒に、ただ眠った。
浮竹の願いは、ただ愛しい者の傍にいること。
傍にいれるなら、なんだってする。
京楽は知らない。
浮竹が、精霊としての頂点に君臨する桜の精霊で、4大精霊長の1人だということを。
長い白髪に、翡翠の瞳をしていた。町を歩けば、皆振り返るくらいだろう整った顔立ちをしていた。
その人は、人間ではなかった。
樹齢5千年にもなる、桜の大木の精霊だった。あやかしというべきか。
かつて、その人には「春」という名の男性の恋人がいた。
その人の性別は桜のあやかしであるため、固定されていないが、いつも男性の姿をとっていた。
「春」は、その人が見ている目の前で、子供をかばって交通事故で死んだ。
その人は泣いた。
泣きすぎて、天候まで嵐にしてしまった。
今、その人は前世が「春」の男性を見つけて、どうすれば接触できるか、悩んでいた。
ここは、小さな公園には不釣り合いの少し古い桜の木。
その人の樹齢5千年になる桜の木は、異界にある。
なので、火事やなんやらで、公園の桜の木がなくなっても平気だった。
「にゃーーーん」
その人は、愛しい「春」をなくしてから、人の姿をあまりとらなくなった。
もっぱらオッドアイの白猫の子猫の姿をしていた。
「春」が好きだといってくれた姿だった。
「春・・・・・・いや、今は京楽春水か・・・・・・」
子猫は、公園から億ションの高い建物を見あげた。
「なー」
「にゃおーん」
物思いにふけるその人の名は浮竹十四郎。
浮竹は、同じ桜の精霊である朽木白哉の黒猫姿のあいさつに、鳴き声で返した。
「兄は、またあの男のことを思っているのか」
「ああ。あいつは、「春」の生まれ変わりだ。一目見ただけで分かった。
「兄は、まだ「春」を思っているのか。死してもう120年にもなるのだぞ」
「それでも、俺は待っていた。ずっとずっと、「春」の生まれ変わりを」
「私たちはあやかし。人とは相いれないもの。「春」は人間だったが、特異体質であやかしが見えた。今度の「春」の生まれ変わりは、あやかしの私たちの姿が見えるかどうかも分からないのだぞ」
白哉は、そう言って浮竹に黒い毛並みの体をこすりつけた。
「にゃあ」
「なおーん」
人々には、猫がぽかぽかした春の日差しの下で、日なたぼっこをしているように見えるだろう。
「ああ、言っていたらきたぞ」
「なぁ」
浮竹は、猫に完全になりきって、思い人にすり寄る。
「やあ、ジュリア。猫缶もってきたよ。お友達のスザンヌの分もあるし、チュールもあるから喧嘩せずに仲良くお食べ」
京楽春水。
父方がドイツ人とのハーフで、京楽はクォーターにあたる。
堀の深い顔立ちをしており、鳶色の瞳が印象的だった。
「にゃああああ」
浮竹は、猫缶をおいしそうに食べて、チュールももらって、京楽にすり寄った。
「ごめんね。ボクのマンション、犬はいいけど猫はだめなんだ。外でしか会えないけど・・・・」
「問題ない」
どうせ見えないだろうと、人の姿をとった。
満開の桜舞い散る場所に、白い長い髪に翡翠の瞳をもった、桜色の着物を着た人物が突然現れて、京楽はぎょっとなった。
「ジュリア?」
「俺の名は浮竹十四郎。ジュリアとは、お前が俺につけた名だな」
「え、何これ。子猫が青年に・・・・・?」
「正確には、桜のあやかしだ。桜の精霊さ。お前がスザンヌと呼ぶこの黒猫も桜の精霊で、朽木白哉という。俺の弟のようなものだ」
「えっと・・・ボク、昔から特異体質で幽霊とか妖怪とか見えるんだけど、これもそのせい?」
京楽は、鳶色の瞳を瞬かせた。
「そうだな。ただ、今は普通の人間にも見えるようにしている」
「ジュリアは桜のお化けなの?」
「浮竹と呼べ。ジュリアは女のようでいやだ」
「ああ、うん・・・・でも、すごく綺麗だね。えっと、浮竹だっけ・・・・」
「ああ」
「はじめまして。ボクは京楽春水。ちょっと特異体質の霊感があって、それにあうようななんというか、稼業?をしているよ」
「あやかしや幽霊を祓う、便利屋だろう。知っている」
「なんで、初めて会うのに、ボクのこと知ってるの?」
「お前をずっと見てきたからだ。俺はお前を愛している」
「え」
「にゃおーん」
浮竹は、子猫の姿になって、京楽の足元にすりよった。
「どういう意味?」
「にゃああ」
「人の言葉通じるかな」
「通じるぞ。スザンヌだとか、ふざけたような名前の改名を求める」
黒い毛皮をなめながら、白哉はそう言った。
「猫がしゃべった・・・・・・」
「だから、俺たちはあやかしだ」
「ねこのお化け?」
「桜のお化けだな。桜の季節は、人を惑わす者も多いが、俺たちはそういうことはしない」
「ああ、うん。駆除対象じゃないって、接してれば分かるけど・・・・でも、ボクを愛しているって?ボクは君とは猫の姿をしているときは会ってるけど、人間の姿をした君と会うのははじめてだよ。ボクをからかってる?」
「違う。お前は「春」の・・・・・俺の120年前の恋人の生まれ変わりだ」
「は?」
「信じてもらえなくてもいい。ただ、時折でいいからこの公園にきて、猫の姿でいるから餌でももってきてくれ。俺は、お前だけを、ずっとずっと・・・・120年間、愛し続けていた」
浮竹は、涙を零した。
「浮竹。兄のもつ妖力は強い。泣くと、雨になる」
「ああ、すまん、白哉」
浮竹が泣いていると、空からにわか雨が降ってきた。
「京楽春水。愛している」
「ボクは・・・・・」
ずきりと、京楽は頭痛を覚えた。
走馬灯のように、前世の記憶がぶわりとおおいかぶさってきて、京楽はどこかでこの浮竹という桜のあやかしとあったことがあると、愛していたと、確信していた。
「前世・・・・あんまり思いだせないけど、どうやらボクは君に恋をしてしまったらしい」
浮竹の美しい姿に、見惚れてしまっていた。
「では、今生でも俺の恋人になれ」
やや強引な浮竹に押し任されて、京楽は頷いてしまった。
それを、白哉はただ見守っていた。
「雨降ってきたし、人の姿ならはいれるから、ボクの家にくる?ジュリア・・・・じゃなかった、浮竹。あと、スザンヌも」
「スザンヌではない。朽木白哉だ」
白哉も人型をとった。浮竹とはまた違った美しさをもつ、若い青年だった。
「ボクの家、広いから3人になっても平気だよ」
白哉は、首をと横に振った。
「私は、桜の木の中で休眠する。浮竹、行ってこい。思い人と通じあえたのであろう」
「春の記憶は、あまり蘇っていないだろう。前世の記憶は、夢などでゆっくり思いだす。ということで、ちょっと京楽の家に寝込みを襲いに行ってくるぞ、白哉」
「ほどほどにしておけ」
「え、ボク、寝込み襲われるの!?」
「冗談だ。ただ、お前の傍にいたい」
「うーん。ほんとはダメなんだけど、子猫の姿でいいよ。今、人の姿をとり続けているのは辛いんでしょ?」
「なぜわかった?」
浮竹が首をかしげると、京楽は札をだして浮竹の背後に飛ばし、除霊した。
「寄生虫?みたいなの、くっついてたから」
「え・・・気づかなかった」
「この手の妖怪は、宿主を少し苦しめるけど、気づかない場合が多いからね」
「すまん・・・・恩に着る。では、子猫の姿になるので、運んでくれ」
「名前、猫の時はジュリアでいい?」
「だめだ。浮竹と呼べ」
浮竹は、子猫姿になると、京楽に抱かれて京楽の部屋に入る。あまりもののない、殺風景な部屋だった。
「ここが、京楽の家か・・・・」
「広いでしょ」
「ああ」
浮竹は、人の姿をとった。
「3億したからね。ボクの家柄は元華族で、大正時代くらいまで貴族だったよ」
「ふうん。金はあるところにはあるんだな」
「まぁ、寝るためだけに使ってるような部屋だから。よければ、浮竹も一緒に住まない?桜の木がいいっていうなら、断ってもいいけど」
「一緒に住む」
即答だった。
「俺はお前を愛している。その意味を、教えてやる」
浮竹は、京楽を押し倒してキスをした。
「ん・・・・・・」
キスをしかされて、これはやばいと、浮竹はいったんストップを入れる。
「まだ、体の関係にはなりたくない」
「どうして?君はボクのことが好きで、ボクも君のこと気に入ったよ」
「まずはプラトニックからだ。キスとハグまで」
「ええ、それ生殺しじゃない?」
「春は、いきなり体の関係なんて求めてこなかった」
「ボクは春水。春じゃないよ」
「分かっている」
浮竹は、また子猫の姿に戻り、京楽のベッドの上で京楽と一緒に、ただ眠った。
浮竹の願いは、ただ愛しい者の傍にいること。
傍にいれるなら、なんだってする。
京楽は知らない。
浮竹が、精霊としての頂点に君臨する桜の精霊で、4大精霊長の1人だということを。
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