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桜のあやかしと共に44

山の王の洞窟で、浮竹と京楽はもの珍しそうにきょろきょろしていた。

『ああ、洞窟は奥が深くて入り組んでるから、行かないようにね。過去に戻ってこなかったあやかしがいるから』

山の王の京楽の言葉に、浮竹はついつい探検しようと思っていて、びくっとなる。

「そ、そいうことを言うなら、おとなしくしてやらんでもない」

『ねぇ、桜鬼のボク。この子って‥‥』

「一種のツンデレだよ。ツンが多くてデレが少ないけど」

『やっぱり‥‥‥』

二人の京楽は、ため息をつく。

「それより、彼岸花の精霊の俺には、家はないのか?」

『ないぞ。冥界の彼岸花の花畑が家のようなものだ』

「じゃあ、今度は俺たちの家に来ないか?」

『いいが、遠いと行けないぞ』

『そうだね。遠いと無理だね』

二人の意見は一致している。

そこで、浮竹は異界へのゲートを開く。

「異界渡りをしよう。一度行った場所には、異界を通っていくことで、すぐにつく。ここに来るのも、異界渡りをした」

『じゃあ、行ってすぐ帰ることもできるの?』

「俺が道案内をしなきゃいけないが、可能だ」

『じゃあ、言葉に甘えてお邪魔しようかなぁ』

山の王の京楽は、楽しそうにはっしゃいでいた。

異界渡りをして、迷子にならないようにみんなで手をつないで、向こう岸のゲートを出ると、京楽のマンションの玄関だった。

『広いな』

彼岸花の精霊の浮竹は、きょとんとしていた。

それから、浮竹をじーっと見つめてくる。

「3億するらしいぞ。このマンション」

『高級タワーマンションかぁ。いいなぁ』

山の王の京楽は、一度住んでみたいという顔をしていた。

浮竹は、彼岸花の精霊の浮竹にじーっと見つめられて、ついつい目をそらすこともできずに、じーっと見返してきた。

「何してるの?見つめあって」

「彼岸花の精霊の俺が、俺を見てくるから視線合わせてた」

『浮竹、ほら、珍しいからってジーっと見ちゃだめだよ。変に思われちゃう』

「べ、別に、視線が合って嬉しいなんて、これぽっちも思っていないからな!」

浮竹は、ツンデレになっていた。

「こっちが寝室で、こっちがバスルーム。こっちがキッチンで、こっちがトイレ。リビングルームにゲスト部屋が5つ。うち1つは、浮竹の弟である白哉くんが使ってるよ」

『きみ、弟なんているんだ』

「ああ。血は繋がっていないが、弟だな。俺は桜の王で、異界に俺の本体の桜の大樹がある。そこから株分けされた桜が、朽木白哉という。俺の自慢の弟だ。今は恋次くんというパートナーとあやかし退治に出かけている」

『桜鬼のボク』

「なんだい?」

『依頼があったら、やっぱり祓うのかい?』

「時と場合によるね。話し合いで解決できるならそうするし、だめでも封印とかの場合もある。問答無用で祓うのは、人に害をなすあやかしくらいだね」

『そっか、よかったぁ。ボクと浮竹はあやかしでしょ?祓われたらどうしようと、思ってたんだよ』

京楽は、クスっと笑う。

「祓う相手を、自分の家に招くことなんてしないよ」

『それもそうだね』

「茶菓子はあやかしまんじゅうしかないが、これでも飲んでくれ」

浮竹が出してきたのは、コーラだった。紅茶の茶葉を切らしていたのだ、

『お、これはコーラだね。人の子からもらって飲んだことあるよ』

『しゅわしゅわしている。毒じゃないのか?』

「毒じゃないぞ。ほら、俺が飲んでる」

浮竹が、コップにコーラを注いで、飲んでみせた。

『じゃあ、俺も飲んでみる。なんだこれ!しゅわしゅわしてて甘くておいしい!』

「コーラ、見たことないのか?」

『ああ。初めてだ。飲むのも初めてだ』

「じゃあ、今度違う種類のドリンクを飲めるようにしておく」

『ああ、楽しみにしている』

山の王からもらった川と山の幸を鍋にして食べて、4人は満足した。

「今度来るときは、泊まっていってね?」

『考えておく』

『山のことがあるからね。調整しないと』

その3日後、再び彼岸花の精霊の浮竹と、山の王の京楽は京楽の家にきていた。

『ドリンク』

「ああ、待ってろ。今、メロンソーダとバナナ・オレをコップに入れるから」

2つの飲み物をもってこられて、しゅわしゅわしているメロンソーダを先に飲む。

『おいしい!』

「こっちもうまいぞ?炭酸じゃないから、しゅわしゅわしてないが」

バナナ・オレを飲んで、彼岸花の精霊の浮竹は、幸せそうな顔をする。

『飲み物がこんなにうまいなんて。人の世界は広いな』

京楽達は、今日の夕飯の準備をしていた。

今日のメニューは、簡単にカレーだった。京楽達は、サラダを作っていた。

「じゃあ、俺が世界一うまいカレーを作ってやるから、少し待ってろ」

『出た、世界一。でも、実際おいしいんだよねぇ』

『カレー、食べたことがない。楽しみだ』

「浮竹の作る料理は、どれもおいしいよ?」

『桜の精霊王の俺が作った料理を食べると、胸の奥がほっこりするけどうずくんだ。何か、大切なことを忘れている気がして』

「あー。転生した名残かなぁ」

『転生?』

「ううん、なんでもないよ。今のことは、忘れて?」

京楽は言葉を濁して、彼岸花の精霊の浮竹に、バナナ・オレのおかわりをついであげた。

「できたぞー」

『あ、なんかすごいい匂い。香辛料がきいてそう』

『‥‥‥泥?』

彼岸花の精霊の浮竹の言葉に、浮竹がずこーっとこける。

「泥はないだろ、泥は!」

『じゃあ、うんこ』

「食事の前なんだから!」

『す、すまん。でも、においはうまそうだ』

「実際、おいしいよ?食べてごらん」

京楽に渡されたスプーンで、彼岸花の精霊の浮竹は、カレーを一口食べて。

『う、うまい!なんだ、この異様なまでのうまさは!』

カレーを気に入ったようで、3回もおかわりをしていた。

「サラダも食べてね?」

京楽達が作ったサラダは、普通の味だった。

「デザートは、苺のミルフィーユだ」

『デザートもうまい!お前、料理が本当に上手だな!』

彼岸花の精霊の浮竹に褒められて、浮竹は嬉しそうにはにかみながら、涙ぐんだ。

『どうした?また、目にゴミでも入ったのか?』

「ああ、そうだ。京楽、ちょっと‥‥」

カレーとサラダとデザートを食べ終わった浮竹は、京楽と話していた。

「やっぱり、転生のことを話すのはよそう」

「君のことだから、てっきり話すと思ってたのに」

「今の彼らの存在を否定してしまう。それは嫌だ」

「そうだね。また、一から友情を育んでいくといいよ」

京楽に頭を撫でられて、額にキスをされる。

「もう、失いたくない」

「大丈夫。彼らとて、そう簡単に死んだりしないさ」

戻ってきた浮竹は少しだけ赤い目をしていた。

『また、泣いていたのか?』

「ああ。少しな」

『理由は?』

「秘密だ。俺と京楽だけの秘密」

『むう。ずるいぞ』

『浮竹、苺のミルフィーユ1つ余ってるんだけど、食べる?』

『ああ、食べる』

その細い体のどこにそんなに入るのか、彼岸花の精霊の浮竹はよく食べた。

『ああ、今日は泊まっていけるからね?』

「じゃあ、先にお風呂使って。バスルームは2つあるから」

『じゃあ、俺もお風呂にする』

彼岸花の精霊の浮竹はそう言って、違うバスルームに消えていく。山の王の京楽は、一緒に入りたそうな顔をしていたが、諦めたようだった。

「ゲストルーム、2つ使って寝る?それとも、そっちのボクと同じベッドで寝る?」

『俺は同じベッドでいい』

『わお。いいね』

山の王の京楽は、喜んだ。

やましいことはまだ何もできないけれど、一目惚れの相手と一緒に寝れるのだ。それなりの幸せだろう。

「じゃあ、俺も京楽と一緒に寝る。おやすみ」

みんな就寝している中、浮竹は気配を感じて起きてきた。

「いるんだろう、夏の王」

「おや、ばれはった?うまく気配隠せてたつもりなんやけどなぁ」

「何の用だ」

「新しい友人を失いたくなければ、桜の宝玉を渡せ、らしいで?」

「桜の宝玉は‥‥‥もう、ない」

「ええ、まじやの?」

「まじだ。「春」を失ったその日に壊した。もう、桜の秘術は全部俺が覚えているから、必要ない」

「あちゃー。君にきてもろうてもいいんやけど、京楽はんがうるさそうやな。また来るさかい、その時に藍染様の欲しいもの、言うわ」

「もう二度と来るな。もし、俺の友人や家族に手を出したら、生まれてこなければよかったという目に合わてやる」

怒りむき出しの浮竹を、夏の王の市丸ギンは、こわいこわいといって、去るのであった。









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