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桜のあやかしと共に53

山の王の京楽がいなくなった。あやかしたちの噂で、死んだと聞いた時、浮竹はまた友を失ってしまった喪失感に苛まれた。

山の王の京楽の手紙を読んで、藍染の手下にやられたが、生きているようなので安心した矢先の出来事だった。

彼岸花の精霊の浮竹も、洞窟にはもういない。

山にいかなくなって、1年が経った。

「彼岸花の精霊の俺の気配がする。あと、山の王は何かのあやかしに転生したな。あの山に行ってみよう」

「いいの?また、失うかもしれないよ」

京楽が、浮竹のためを思って口にするが、浮竹は首を横に振った。

「それでも、俺は何度でも友になる」

山にいくと、彼岸花の精霊の浮竹がいた。

『久しいな。1年ぶりというところか』

「お前は元気そうで安心した。そっちの京楽が、新しく転生した元山の王か?」

『ああ、そうだ。鴆(ちん)というあやかしだ』

「鴆の京楽、俺たちのことは‥‥」

『残念ながら、俺のことは記憶にあるらしいが、お前たちのことは忘れてしまったみたいなんだ』

浮竹と京楽は顔を見合わせる。

「はじめまして、鴆の京楽。俺は桜の王。お前の転生する前の友人だ」

『えっと、はじめまして。ごめんね、浮竹のことは覚えているけど、それ以外のことは覚えていないんだ』

「かまわない。友達に、なろう」

「ボクは桜鬼の京楽。桜の王と一緒で、君の友人だったよ」

『転生前のボクって、友達がいたんだね』

嬉しそうに微笑む鴆の京楽は、前と同じように洞窟に住むらしかった。

「麓の町がなくなっているな。強力な幻術だったわけか」

『ああ。全ては京楽を殺すための。それさえ、四季の王になりたがっている藍染とやらの手下の
せいだった』

雪女の言葉を思い出す。

友人が死ねば、悲嘆にくれて弱った桜の王を殺せるかもしれない。確か、そんなことを言っていた。

「お前が殺された最初の原因は俺にあるかもしれない。すまない」

『ううん。ボクはまたこうやって浮竹と出会えたし、何も不満はないよ』

「そうか。それならいいんだ。ちょっとまってろ、今コーラと酒と作り置きしておいたガトーショコラもってくる」

浮竹は一度京楽のマンションに戻ると、コーラと赤ワインとガトーショコラをもって帰ってきた。

『お、久しぶりのしゅわしゅわだ』

嬉しそうな彼岸花の精霊の浮竹は、コーラを受け取って、コップに注ぎ飲んでいく。

『ボクは主食は毒蛇なんだけど‥‥‥人の食べ物も食べれるかな?』

鴆の京楽は、おそるおそるガトーショコラを口にする。

『少し苦いけど、甘みもあっておいしいね?』

「だろう?酒ももってきたんだ。まぁ飲め」

「十四郎、ほどほどにね?」

京楽が、苦笑する。

『人間の酒はうまいからな』

彼岸花の精霊の浮竹も、赤ワインを口にした。

『じゃあ、ボクも』

鴆の京楽も、赤ワインを口にする。

『君たちは飲まないの?』

「じゃあ、ボクも飲もうかな」

「俺も飲む」

京楽が止めるより先に、浮竹がグラスに並々と注がれた赤ワインを飲み干す。

「うぃーーー。妖艶でけしからんぞおおお」

浮竹が、彼岸花の精霊の浮竹を押し倒す。

『ふふふ、俺を抱くのか?』

彼岸花の精霊の浮竹は、妖艶に微笑み、浮竹を抱きしめる。

「ZZZZZZZZZZZ]

『寝てる‥‥』

浮竹をべりっとはがして、京楽が謝る。

「ごめんね、浮竹酒に弱い上に酒乱なんだ。君たちにまた出会えて、よっぽど嬉しかったんだね」

『浮竹はボクのものだから、あげないよ』

鴆の京楽は、そう言って彼岸花の精霊の浮竹を抱きしめた。

「ぐへへへへへ。京楽、げへへへへ」

「どんな夢見てるんだか」

浮竹を抱きしめながら、京楽はため息をつく。

『久しぶりだし、お前たちも泊まっていったらどうだ?』

「うーん、浮竹はこんなだし、一晩だけ泊まっていこうかな」

京楽は、洞窟の奥にある藁のベッドに浮竹を寝かせた。

そして、この1年間をどう過ごしていたのか、お互いに話しあった。

藍染は以前姿を見せず、雲隠れしたままだった。

祓い屋稼業をしていて、彼岸花の精霊がたくさん術者を殺したという噂があったが、あえて触れないでおいた。

日も暮れて、鴆の京楽は毒蛇を調理したものを食べて、彼岸花の精霊の浮竹と、起きてきた浮竹と京楽は、ビーフシチューを食べた。

『人の世界の食べ物は、うまいな』

「だろう。特に俺の作る料理は世界一なんだ」

「十四郎の料理は、本当においしいからね」

そんな風に夕飯を食べて、晴れているので、寝袋をもってきて、浮竹と京楽は外で星を見ながら寝ることにした。

「ねぇ、十四郎」

「なんだ」

「死ぬ時は一緒だけど、もしそんなことがあったら、一緒に転生しようね」

「不吉なことを言うな。転生するのはいいとして、俺たちはそう簡単には死なない」

「うん、そうだね」

洞窟の奥では、藁のベッドで彼岸花の精霊の浮竹と鴆の京楽が、お互いを抱きしめあいながら寝ていた。

「四季の王の名の元に命ずる。命咲かせよ、花たち」

浮竹は、洞窟の前を春の花畑に変えてしまった。

「明日になったら、あの二人驚くかな」

「驚くよ。ボクも、君がこうやって花を咲かせるのあまりみたことないからね」

「ふふ、酔って押し倒してしまった詫びだ」

「もう寝よう。腕時計だけど、0時過ぎてるから」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」


朝起きると、洞窟の前が花畑に変わっていて、彼岸花の精霊の浮竹はそこに彼岸花も加えてみた。

「き、昨日の詫びだ。べ、別に酒に酔って押し倒してしまったのは、お前があまりにも綺麗だったからってわけじゃないからな!」

『ふうん』

クスクスと、彼岸花の精霊の浮竹は笑う。

鴆の京楽は、花畑で花冠を作ると、それを彼岸花の精霊の浮竹の頭にのせる。

『綺麗だよ、浮竹』

『ふふ。俺はお前のものだから、当たり前だ』

彼岸花の整理絵の浮竹は妖艶に微笑む、

京楽も花冠を編んで、浮竹の頭にのせる。

「十四郎、かわいい」

「べ、別に嬉しいなんて思ってないんだからな!」

一晩を山で過ごして、浮竹と京楽は朝食を作って食べてから、自分たちの家に戻っていくのであった。




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