残暑と(3期)
「あつー」
パタパタパタ。
今年も酷暑だ。日本の夏は暑い。時に40度をこえる温度にまでなり、日射病の患者が多くでる季節。
水分をいつもとるために、人々はペットボトルに水を入れて持ち歩く。
そんな暑さ。
買い物から一人帰ってきたフェルトは溶けていた。
ペットボトルの水は、お湯をわかしたようになまるくて、木陰で休んでも蝉の声だけがじわじわと体力を奪うようにうるさくて。
乾燥砂漠地帯のような酷暑とは違う、じっとりとした蒸し暑さをまぜた風が気持ち悪い。汗をかけばそれはかわく前に次の汗を呼ぶ、まるで呼び水のように。
ミーンミーン。
冷房をつけているので、締め切っているというのに蝉の声はうるさい。緑化計画で、東京は大都市でありながら、緑を確保するために公園などが多くなった。
「ああ、そういえば河川敷でとんぼが飛んでいたわ・・・秋はまだかしら」
名前も知らない綺麗な茜色のとんぼだった。日本では、とんぼは夏の終わりを告げる秋の使者のようなもの。
「早く、終わればいいのに。夏。秋がいい。秋が。ガクッ」
そのまま力つきたフェルトに、扇風機で風を当てて、額にヒエピタシールをはって、ソファーに寝かせてやったのは刹那だ。
今は夏季休暇をとって、トレミーの主だったメンバーは休暇旅行に出ている。
刹那とフェルトは、旅行などいく予定もなかったので、刹那の自宅で休暇の時間を過ごすことにした。しかしこの暑い夏は、近年でも稀にみる酷暑であった。
刹那は暑さに強い。生まれた地方が乾燥地帯のように昼と夜とでは温度差の激しい地域、クルジスタン、今のアザディスタンであったため、まだ平気だが、フェルトは普通に生まれた。
暑さにも寒さにも弱い。
これがニールやライルなら、もう溶けて原形もとどめていないかもしれない。彼らは寒いアイルランド出身だ。暑さは相当苦手なはず。
ピッと通信をつけると、画面にガチガチと寒さに身を震わせて分厚い保温コートを着たティエリアが映し出された。
「せつ・・・・・・な、僕は、今日本の、夏が、恋し・・・い。ここは北極地方・・・・ニールと二人で旅行・・・なぜこんな寒い地域ばかり・・・・・・・ニールは、今、氷に丸い穴をあけて釣りをして・・・・2時間何もつれて・・・ガガガガ」
「おい、ティエリア!?」
「ガガガ・・・・これだから地上は嫌いなんだ・・・・ガガガガ、プツ」
そのまま、不鮮明に画像は途絶えてしまった。音も途切れた。向こうは向こうで、二人きりで恋人同士らしく旅行と決め込んだようであるが、宇宙育ちのティエリアは寒さにも暑さにも弱い。地球嫌いな彼は、重力すら疎ましく思う人種だ。彼、という言葉が相応であるかは分からない。性別をもたぬイノベイターの純粋種であるティエリアは中性。彼女、といっても差し支えはない。
「大丈夫かあいつ」
すでに大丈夫ではないのかもしれない。ニールは多分平気そうだけれど。
「こっちはこっちで・・・フェルトが溶けていると、報告したかったのに」
暑さにダウンしたフェルトにうちわで風をある程度送ってから、冷えたスイカを用意した。ふと、フェルトが目を覚ました。
「あー涼しい。極楽」
「スイカでも食うか?」
「食べるわ。ありがとう」
フェルトはスイカの種を綺麗にとって食べる。刹那はそのまま丸かじりだ。
「今度花火大会があるんだが。暑いから出かけるのはやめておくか?」
「ううん、せっかくだからいくわ。浴衣買ったし」
「そうか」
和やかに微笑む二人のカップルの時間を裂くように、通信が入った。ニールからだった。
「?・・・なんだ」
「刹那ー!大物が釣れたぞお!!」
ニールの姿が映し出される。刹那は、冷静に応える。
「ティエリアはどうした?」
「あー、あいつ寒いっていって、保温カプセルの中で寝てる。いちいちそりに乗せてくるからなんのために使うんだろうと思ったけど・・・・冬眠か?はははは」
ブツ。
そこで、刹那はニールからの通信を切った。
ニールと話をすると無駄に長くなる。面倒だったので切った。
「ちょ、刹那お前、話き」
ブツ。
今度はもう通信がこないように、暗号コードを変えてやった。ティエリアからのみの者しか受信できないように。
横で、おかしそうにフェルトは笑っていた。
チリンチリンと、冷房の風に風鈴が優雅な音を奏でる。
「夏だなぁ」
「そうだね」
二人は、またスイカをかじりながら、風鈴の音に耳を傾けるのであった。
パタパタパタ。
今年も酷暑だ。日本の夏は暑い。時に40度をこえる温度にまでなり、日射病の患者が多くでる季節。
水分をいつもとるために、人々はペットボトルに水を入れて持ち歩く。
そんな暑さ。
買い物から一人帰ってきたフェルトは溶けていた。
ペットボトルの水は、お湯をわかしたようになまるくて、木陰で休んでも蝉の声だけがじわじわと体力を奪うようにうるさくて。
乾燥砂漠地帯のような酷暑とは違う、じっとりとした蒸し暑さをまぜた風が気持ち悪い。汗をかけばそれはかわく前に次の汗を呼ぶ、まるで呼び水のように。
ミーンミーン。
冷房をつけているので、締め切っているというのに蝉の声はうるさい。緑化計画で、東京は大都市でありながら、緑を確保するために公園などが多くなった。
「ああ、そういえば河川敷でとんぼが飛んでいたわ・・・秋はまだかしら」
名前も知らない綺麗な茜色のとんぼだった。日本では、とんぼは夏の終わりを告げる秋の使者のようなもの。
「早く、終わればいいのに。夏。秋がいい。秋が。ガクッ」
そのまま力つきたフェルトに、扇風機で風を当てて、額にヒエピタシールをはって、ソファーに寝かせてやったのは刹那だ。
今は夏季休暇をとって、トレミーの主だったメンバーは休暇旅行に出ている。
刹那とフェルトは、旅行などいく予定もなかったので、刹那の自宅で休暇の時間を過ごすことにした。しかしこの暑い夏は、近年でも稀にみる酷暑であった。
刹那は暑さに強い。生まれた地方が乾燥地帯のように昼と夜とでは温度差の激しい地域、クルジスタン、今のアザディスタンであったため、まだ平気だが、フェルトは普通に生まれた。
暑さにも寒さにも弱い。
これがニールやライルなら、もう溶けて原形もとどめていないかもしれない。彼らは寒いアイルランド出身だ。暑さは相当苦手なはず。
ピッと通信をつけると、画面にガチガチと寒さに身を震わせて分厚い保温コートを着たティエリアが映し出された。
「せつ・・・・・・な、僕は、今日本の、夏が、恋し・・・い。ここは北極地方・・・・ニールと二人で旅行・・・なぜこんな寒い地域ばかり・・・・・・・ニールは、今、氷に丸い穴をあけて釣りをして・・・・2時間何もつれて・・・ガガガガ」
「おい、ティエリア!?」
「ガガガ・・・・これだから地上は嫌いなんだ・・・・ガガガガ、プツ」
そのまま、不鮮明に画像は途絶えてしまった。音も途切れた。向こうは向こうで、二人きりで恋人同士らしく旅行と決め込んだようであるが、宇宙育ちのティエリアは寒さにも暑さにも弱い。地球嫌いな彼は、重力すら疎ましく思う人種だ。彼、という言葉が相応であるかは分からない。性別をもたぬイノベイターの純粋種であるティエリアは中性。彼女、といっても差し支えはない。
「大丈夫かあいつ」
すでに大丈夫ではないのかもしれない。ニールは多分平気そうだけれど。
「こっちはこっちで・・・フェルトが溶けていると、報告したかったのに」
暑さにダウンしたフェルトにうちわで風をある程度送ってから、冷えたスイカを用意した。ふと、フェルトが目を覚ました。
「あー涼しい。極楽」
「スイカでも食うか?」
「食べるわ。ありがとう」
フェルトはスイカの種を綺麗にとって食べる。刹那はそのまま丸かじりだ。
「今度花火大会があるんだが。暑いから出かけるのはやめておくか?」
「ううん、せっかくだからいくわ。浴衣買ったし」
「そうか」
和やかに微笑む二人のカップルの時間を裂くように、通信が入った。ニールからだった。
「?・・・なんだ」
「刹那ー!大物が釣れたぞお!!」
ニールの姿が映し出される。刹那は、冷静に応える。
「ティエリアはどうした?」
「あー、あいつ寒いっていって、保温カプセルの中で寝てる。いちいちそりに乗せてくるからなんのために使うんだろうと思ったけど・・・・冬眠か?はははは」
ブツ。
そこで、刹那はニールからの通信を切った。
ニールと話をすると無駄に長くなる。面倒だったので切った。
「ちょ、刹那お前、話き」
ブツ。
今度はもう通信がこないように、暗号コードを変えてやった。ティエリアからのみの者しか受信できないように。
横で、おかしそうにフェルトは笑っていた。
チリンチリンと、冷房の風に風鈴が優雅な音を奏でる。
「夏だなぁ」
「そうだね」
二人は、またスイカをかじりながら、風鈴の音に耳を傾けるのであった。
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