比翼の鳥(院生)
「夢じゃないのか・・・・」
浮竹は後悔した。
京楽と、酒を飲んだことを。
隣を見る。見知った京楽が、布団をかぶってはいたが裸で寝ていた。
自分の姿を見る。体中に、多分京楽がつけたと思わしき痕があった。おまけに裸だ。
浮竹にその手の趣味はない。それは京楽も同じだった。
二日酔いにはなっていないが、頭が痛くなってきた。
二人して、夜更けまで酒を飲みあった。京楽は、好きな子ができたんだと酒をぐいぐい飲んでいた。杯に注がれるままに、浮竹も飲んだ。
何件か飲み屋をはしごにして・・・・・そこから先の記憶がぷっつりと、途絶えていた。
浮竹は、脱ぎ散らかされていた衣服をかき集めて、身に着ける。こんな痕のいっぱいついた格好では、授業にでれないと、学院を休むことにする。
「・・・・・・料亭か」
部屋を出ると、窓から見慣れた景色が見えた。
安宿なんかじゃない。高級料亭だ。それこそ、京楽くらい金をもっていない入れない場所だ。誘ったのは自分ではないと、言い聞かせる。
酒のせいだ。
一時の気の迷い。
そもそも、何も覚えていないのだ。
男同士でする場合、何処を使うかくらい知っている。痛みもない。
きっと、未遂だ。
そういい聞かせて、浮竹は料亭を去った。
痕が消えるまで、数日がいった。欠席を続ける浮竹の席を、京楽は面白くなさそうに見ていた。
「浮竹、いるかい?」
寮の浮竹の部屋を訪ねると、返事があった。
「なんだ」
「君、休んでばかりでどうしたんだい」
「ちょっと、風邪をひいて」
少し扉をあけると、京楽が部屋の中に入ってきた。
「君、覚えてないの」
「何を」
「料亭でのこと」
「な。なんのことだ」
「まさか、覚えてないの?」
悲げな京楽の顔に、ずきりと心が痛んだ。
「な、何もなかった!俺とお前との間には、何もなかった!」
「やっぱり、覚えてないんだ」
「俺はもう寝る!」
「待ってよ」
京楽を外に追い出そうとして、腕を捕まれた。
ちゅっと、音をたてて頬にキスをされて、浮竹は眉をしかめた。
「俺はお前の玩具じゃない!」
京楽の背中を蹴って、部屋から追い出した。
「浮竹!」
「知らん!」
浮竹は、毛布をかぶってベッドで耳を塞いでいた。
京楽が何かを言っていたが、聞こえないふりをした。
多分、君が好きだ・・・・・そう、京楽は叫んでいた。
それから数日が経った。
京楽は、あれ以来浮竹に接してこない。浮竹も、京楽と口を聞かなかった。
「どうしたんだよ、お前と京楽。あんなに仲が良かったじゃないか」
1回生の頃からの友人が、二人を心配して声をかけきた。
「喧嘩したんだ。多分、仲は元に戻らない」
「なんだって!」
友人は、京楽との仲を取り持ってくれると何度も言ってきたが、断った。
「俺たちは、終わりなんだ」
友人と親友という関係に訪れた突然の終わりは、心に軋む罅をいれた。
次の日、現世までの虚退治の訓練に参加した。浮竹と京楽の力は拮抗している。自然とペアを組まされた。
二人とも、無言だった。
「浮竹・・・・・・」
「何も、いうな。お前の玩具にはならない」
「浮竹、僕は・・・・!」
「ごほっ、ごほっ」
返事をしようとして、咳をした。
「ごほっ、ごほっ、ごほっ」
ごぽりと音がして、浮竹は吐血していた。
「浮竹!」
虚が現れた。
なのに、こんな時に病の発作だなんて。
ああ、ついていない。こんなことなら、京楽とちゃんと和解すればよかった。
鮮血を散らして倒れた浮竹を庇って、京楽は怪我をする。痛みを無視して、京楽は虚と切り捨てた。
「浮竹!」
「・・・・・・・・・すまな・・い・・・・覚えてないんだ。あの日のことを」
「そんなこと、どうでもいいから今はしゃべらないで!」
「すまない」
ただ謝って、浮竹の意識は途切れた。
次に目があくと、寮の中の自分の部屋だった。
ベッドのわきに椅子が置いてあって、京楽が寝ていた。手が、繋がれたままだった。
「京楽!」
「ん・・・・・浮竹、もう大丈夫なのかい!?」
「手を放してくれないか」
「ああ、ごめんね。もう、現世で君が発作をおこしてから3日も起きないから、とても心配したんだ」
「お前、怪我は?」
浮竹を庇って虚にやられた傷はけっこう深かった。なのに、京楽は平気そうだ。
「ああ・・・金を積んで、4番隊の席官の回道で治してもらった」
京楽は、上級貴族だ。下級貴族の浮竹などが、本当ならため口を話せるような立場ではないのだ。身分差は学院では関係のないことと言われているが、京楽の金使いの粗さは、上級貴族ならではのもので、浮竹は嫌いだった。
「京楽。もう、親友には戻れないのか俺たち」
「僕は、それを望んでいない。君が好きだ。愛している」
「俺は男だぞ!付き合っていた女性はどうしたんだ!」
「別れたよ。とっくの昔に。女遊びもやめた。本気なんだ、浮竹。君のことが」
「やめろ」
浮竹が耳を塞いだ。
京楽は、浮竹の体を抱き寄せた。
「好きなんだ」
口づけられて、でも不思議と怒りの感情はわいてこなかった。気持ち悪いとも思わなかった。
「・・・・・・・・・時間をくれないか。混乱しているんだ。気持ちを整理する時間をくれ」
それだけいうと、京楽は満足そうに浮竹に口づけて、去って行った、
時間だけが過ぎる。
大分長くなった白い髪がうっとうしいので、切ろうとすると京楽に止められた。
「君の髪は長いほうが似合っている」
まるで、女に愛を告白するように、京楽は浮竹に愛を囁いた。
もう慣れてきた。
浮竹と京楽ができているという噂がながれ始めた。
多分、わざと京楽が流しているのだろう。
昔のような友人の輪がそれで崩れることはなかったが、女生徒から黄色い声をあげられたり、告白してくる女性がいなくなった。
太陽のように明るく平等な浮竹の周りには、常に京楽がいた。
親友なのだとは思う。それ以上に思えるのか、まだ分からない。
時間だけが虚しく過ぎていく。
京楽に愛を囁かれ続け、抱きしめられてキスをされる。発作をおこすと、京楽が軽々と抱き上げて医務室まで運んでくれた。
「俺はお前のことを・・・」
「時間は、あるから。好き以外の言葉を聞きたくない」
なんて我儘なんだろう京楽は。
休日、いつもの友人と京楽と三人で、現世の海に出かけた。浮竹は暑い日差しの中では倒れてしまうので、ビーチパラソルの下にいた。
友人は女をひっかけて、車に乗って部屋に戻ってしまっていた。
そんな場所に戻ることもできなくて、浮竹は京楽と二人でずっと海を眺めていた。
「泳がないのか?」
「君を置いて、遊べるわけないでしょ」
「俺は大丈夫だ。女でもひっかけてきたらどうだ」
「怒るよ?僕は、君が好きなんだ。他の者はいらない」
夕刻になり、浮竹はとっていたホテルの部屋に戻った。京楽は、一人になりたいと夜の海にでかけてしまった。
「・・・・・・浅井?」
友人の名を呼ぶ。
がっと、後頭部を打撃された。
少し意識を飛ばしていた。
気づくと、手を戒められていた。
「おい、どういうつもりだ」
「ばかだなぁ、浮竹。ずっと、俺はチャンスをうかがっていたんだ。お前を手に入れるチャンスを!」
「!?」
音をたてて、着ていたシャツが破かれた。
「やめろ!」
「京楽とがしてるんだろ?俺でもいいじゃないか。俺を京楽と思えばいい」
「やめろ!」
口づけられて、相手の舌をかんだ。
「この、淫乱のくせに!」:
重いきり殴られて、口の中を切った。
錆びた鉄の味が広がる。
男の手が、肌をはいまわる。気持ち悪くて、浮竹は気づくと叫んでいた。
「やめろ、京楽!京楽!!!」
声が通じたのだろうか。思いが通じたのだろうか。
帰ってきた京楽は、斬魄刀で男を切りすてて、浮竹を助けてくれた。
「大丈夫かい、浮竹?」
「ん・・・・・平気だ」
「君は見た目がとてもいいんだから、気を付けて。あんな輩、今までもいたんだよ。全部僕がつぶしてきたけど」
戒めを解かれ、着換えの服を渡される。
「殴られたの?見せて?」
着換えおわると、京楽に手当された。
「こいつ、どうするんだ?」
友人だったはずの男は、京楽の斬魄刀で貫かれて死んでいた。
「虚に襲われて死んだんだよ」
「無理がなくないか?」
「京楽の名前なら、こんな雑魚の処分なんて簡単だ。浮竹に手を出した罰だ」
酷く冷酷な京楽の瞳に、初めて京楽が怖いと感じた。
その日浮竹は、京楽の腕の中で眠った。近すぎる距離に戸惑いはしたが、嫌悪感ははやりなかった。
次の日、現世に戻ると、友人だった男は虚に殺されたのだと火葬された。
周囲の誰もが違和感を覚えなかった。
一人、浮竹が京楽を怒らせとどうなるかを知った。
京楽が怖い。でも、助けてくれた。とても優しい京楽。
京楽は、無理強いをしてこない。
それが、浮竹を安堵させる原因になっていた。
また、時間だけが過ぎていく。
京楽の目の前に着替えていると、京楽が目を背けた。
「君さ、忘れてない?僕は、君が好きなんだよ。君を抱きたいと思っている」
触れられたり、キスされたりで、もう半ば浮竹の中にも想いができていた。
「俺は、お前になら・・・・・・・」
「浮竹?」
「もう寝る。おやすみ」
4回生になっていた。もう、料亭のことから、1年が経過しようとしていた。
4回生になって、京楽と同じ部屋になった。京楽は、相変わらず無理強いはしてこない。
京楽のベッドで共に眠るようになっていた。
京楽の腕の中で眠った次の日は、発作をおこしていても気分が楽になってたり、なおったりしていた。
京楽は、回道を身に着けているらしかった。
いつの間とは思ったが、全て君のためだよと微笑まれて、心の中に広がった罅は深くなり、ついには粉々になってしまっていた。
また、二人で飲み屋をはしごして歩いた。
したたかに酔って二人は、かつてきていた高級料亭にきていた。無論、京楽のおごりだった。
2階の部屋をとる。
褥が用意されていて、浮竹の体が少し強張った。
「浮竹?嫌なら、逃げていいんだよ」:
「俺は・・・・・・もう、逃げない」
「浮竹、愛している」
口づけられ、衣服を脱がされていく。
浮竹は、長くなった白髪を乱した。
「愛しているのか、まだわからない。でも、好きだ、京楽・・・・・」
褥の横たえられて、京楽に囁かれる。
「ほんとはね・・・一年前のあの日は、君としてなかったんだ。君を手に入れようとした僕の浅知恵だったんだ・・・・・今度こそ、君の全てを手にいる。酔っているけど、はっきりと認識している。君が好きで愛している」
浮竹は、いつの間にか涙を流していた。
心で粉々になったのは、親友としての京楽だ。でも、新しく恋人としての京楽が心の中で芽吹いていた。
「多分・・・愛してる」
貫かれ、揺さぶられて、涙をこぼしながら、囁いた。
「一緒に生きていこう、浮竹」
「俺の傍にいてくれるのか?」
「いつでも、君の傍にいるよ、浮竹」
褥の上で、何度も交わった。浮竹を手に入れた京楽は満足そうに眠っていた。浮竹は意識を飛ばしていた。
気づくと、もう朝だった。
「京楽!」
揺り起こされて、目をこすりながら京楽が起きてくる。
「どうしたんだい、浮竹」
「学院に遅刻する!」
「ああ、もう休むって連絡いれておいたから」
いつの間に・・・・・。
浮竹は、京楽に抱き寄せられた。
「おはよう。僕たち、恋人同士になったで、いいんだよね?」
「ああ・・・・・」
まだ、迷いは少しあったけれど。
4回生の初めになって、結ばれた。
京楽が浮竹に想いを抱くようになって、実に3年以上の月日が流れていた。
浮竹の中に芽吹いた、京楽という恋人は、ぐんぐんと背を伸ばして浮竹を支配していった。
京楽が傍にいないと落ちつかない時がある。
それは、依存症に似ていた。
京楽と共に、笑い、怒り、悲しみ、いろんなことを経験した。
「浮竹ぇ~」
雨乾堂に、今日も京楽が遊びにきていた。
あれから何百年時が経ったのかもう忘れてしまった。
「今行く、京楽」
ただ、二人はいつまでも寄り添いあう。
お互いが隊長となり、忙しくなっても時間があれば常に傍にいた。
尸魂界にに2つしかない、二対一刀の斬魄刀のように。
2つで1つ。二人で一人。
ただ、その傍に。
時間がある限り。
常に在ろうとする二人は、まさに比翼の鳥。
浮竹は後悔した。
京楽と、酒を飲んだことを。
隣を見る。見知った京楽が、布団をかぶってはいたが裸で寝ていた。
自分の姿を見る。体中に、多分京楽がつけたと思わしき痕があった。おまけに裸だ。
浮竹にその手の趣味はない。それは京楽も同じだった。
二日酔いにはなっていないが、頭が痛くなってきた。
二人して、夜更けまで酒を飲みあった。京楽は、好きな子ができたんだと酒をぐいぐい飲んでいた。杯に注がれるままに、浮竹も飲んだ。
何件か飲み屋をはしごにして・・・・・そこから先の記憶がぷっつりと、途絶えていた。
浮竹は、脱ぎ散らかされていた衣服をかき集めて、身に着ける。こんな痕のいっぱいついた格好では、授業にでれないと、学院を休むことにする。
「・・・・・・料亭か」
部屋を出ると、窓から見慣れた景色が見えた。
安宿なんかじゃない。高級料亭だ。それこそ、京楽くらい金をもっていない入れない場所だ。誘ったのは自分ではないと、言い聞かせる。
酒のせいだ。
一時の気の迷い。
そもそも、何も覚えていないのだ。
男同士でする場合、何処を使うかくらい知っている。痛みもない。
きっと、未遂だ。
そういい聞かせて、浮竹は料亭を去った。
痕が消えるまで、数日がいった。欠席を続ける浮竹の席を、京楽は面白くなさそうに見ていた。
「浮竹、いるかい?」
寮の浮竹の部屋を訪ねると、返事があった。
「なんだ」
「君、休んでばかりでどうしたんだい」
「ちょっと、風邪をひいて」
少し扉をあけると、京楽が部屋の中に入ってきた。
「君、覚えてないの」
「何を」
「料亭でのこと」
「な。なんのことだ」
「まさか、覚えてないの?」
悲げな京楽の顔に、ずきりと心が痛んだ。
「な、何もなかった!俺とお前との間には、何もなかった!」
「やっぱり、覚えてないんだ」
「俺はもう寝る!」
「待ってよ」
京楽を外に追い出そうとして、腕を捕まれた。
ちゅっと、音をたてて頬にキスをされて、浮竹は眉をしかめた。
「俺はお前の玩具じゃない!」
京楽の背中を蹴って、部屋から追い出した。
「浮竹!」
「知らん!」
浮竹は、毛布をかぶってベッドで耳を塞いでいた。
京楽が何かを言っていたが、聞こえないふりをした。
多分、君が好きだ・・・・・そう、京楽は叫んでいた。
それから数日が経った。
京楽は、あれ以来浮竹に接してこない。浮竹も、京楽と口を聞かなかった。
「どうしたんだよ、お前と京楽。あんなに仲が良かったじゃないか」
1回生の頃からの友人が、二人を心配して声をかけきた。
「喧嘩したんだ。多分、仲は元に戻らない」
「なんだって!」
友人は、京楽との仲を取り持ってくれると何度も言ってきたが、断った。
「俺たちは、終わりなんだ」
友人と親友という関係に訪れた突然の終わりは、心に軋む罅をいれた。
次の日、現世までの虚退治の訓練に参加した。浮竹と京楽の力は拮抗している。自然とペアを組まされた。
二人とも、無言だった。
「浮竹・・・・・・」
「何も、いうな。お前の玩具にはならない」
「浮竹、僕は・・・・!」
「ごほっ、ごほっ」
返事をしようとして、咳をした。
「ごほっ、ごほっ、ごほっ」
ごぽりと音がして、浮竹は吐血していた。
「浮竹!」
虚が現れた。
なのに、こんな時に病の発作だなんて。
ああ、ついていない。こんなことなら、京楽とちゃんと和解すればよかった。
鮮血を散らして倒れた浮竹を庇って、京楽は怪我をする。痛みを無視して、京楽は虚と切り捨てた。
「浮竹!」
「・・・・・・・・・すまな・・い・・・・覚えてないんだ。あの日のことを」
「そんなこと、どうでもいいから今はしゃべらないで!」
「すまない」
ただ謝って、浮竹の意識は途切れた。
次に目があくと、寮の中の自分の部屋だった。
ベッドのわきに椅子が置いてあって、京楽が寝ていた。手が、繋がれたままだった。
「京楽!」
「ん・・・・・浮竹、もう大丈夫なのかい!?」
「手を放してくれないか」
「ああ、ごめんね。もう、現世で君が発作をおこしてから3日も起きないから、とても心配したんだ」
「お前、怪我は?」
浮竹を庇って虚にやられた傷はけっこう深かった。なのに、京楽は平気そうだ。
「ああ・・・金を積んで、4番隊の席官の回道で治してもらった」
京楽は、上級貴族だ。下級貴族の浮竹などが、本当ならため口を話せるような立場ではないのだ。身分差は学院では関係のないことと言われているが、京楽の金使いの粗さは、上級貴族ならではのもので、浮竹は嫌いだった。
「京楽。もう、親友には戻れないのか俺たち」
「僕は、それを望んでいない。君が好きだ。愛している」
「俺は男だぞ!付き合っていた女性はどうしたんだ!」
「別れたよ。とっくの昔に。女遊びもやめた。本気なんだ、浮竹。君のことが」
「やめろ」
浮竹が耳を塞いだ。
京楽は、浮竹の体を抱き寄せた。
「好きなんだ」
口づけられて、でも不思議と怒りの感情はわいてこなかった。気持ち悪いとも思わなかった。
「・・・・・・・・・時間をくれないか。混乱しているんだ。気持ちを整理する時間をくれ」
それだけいうと、京楽は満足そうに浮竹に口づけて、去って行った、
時間だけが過ぎる。
大分長くなった白い髪がうっとうしいので、切ろうとすると京楽に止められた。
「君の髪は長いほうが似合っている」
まるで、女に愛を告白するように、京楽は浮竹に愛を囁いた。
もう慣れてきた。
浮竹と京楽ができているという噂がながれ始めた。
多分、わざと京楽が流しているのだろう。
昔のような友人の輪がそれで崩れることはなかったが、女生徒から黄色い声をあげられたり、告白してくる女性がいなくなった。
太陽のように明るく平等な浮竹の周りには、常に京楽がいた。
親友なのだとは思う。それ以上に思えるのか、まだ分からない。
時間だけが虚しく過ぎていく。
京楽に愛を囁かれ続け、抱きしめられてキスをされる。発作をおこすと、京楽が軽々と抱き上げて医務室まで運んでくれた。
「俺はお前のことを・・・」
「時間は、あるから。好き以外の言葉を聞きたくない」
なんて我儘なんだろう京楽は。
休日、いつもの友人と京楽と三人で、現世の海に出かけた。浮竹は暑い日差しの中では倒れてしまうので、ビーチパラソルの下にいた。
友人は女をひっかけて、車に乗って部屋に戻ってしまっていた。
そんな場所に戻ることもできなくて、浮竹は京楽と二人でずっと海を眺めていた。
「泳がないのか?」
「君を置いて、遊べるわけないでしょ」
「俺は大丈夫だ。女でもひっかけてきたらどうだ」
「怒るよ?僕は、君が好きなんだ。他の者はいらない」
夕刻になり、浮竹はとっていたホテルの部屋に戻った。京楽は、一人になりたいと夜の海にでかけてしまった。
「・・・・・・浅井?」
友人の名を呼ぶ。
がっと、後頭部を打撃された。
少し意識を飛ばしていた。
気づくと、手を戒められていた。
「おい、どういうつもりだ」
「ばかだなぁ、浮竹。ずっと、俺はチャンスをうかがっていたんだ。お前を手に入れるチャンスを!」
「!?」
音をたてて、着ていたシャツが破かれた。
「やめろ!」
「京楽とがしてるんだろ?俺でもいいじゃないか。俺を京楽と思えばいい」
「やめろ!」
口づけられて、相手の舌をかんだ。
「この、淫乱のくせに!」:
重いきり殴られて、口の中を切った。
錆びた鉄の味が広がる。
男の手が、肌をはいまわる。気持ち悪くて、浮竹は気づくと叫んでいた。
「やめろ、京楽!京楽!!!」
声が通じたのだろうか。思いが通じたのだろうか。
帰ってきた京楽は、斬魄刀で男を切りすてて、浮竹を助けてくれた。
「大丈夫かい、浮竹?」
「ん・・・・・平気だ」
「君は見た目がとてもいいんだから、気を付けて。あんな輩、今までもいたんだよ。全部僕がつぶしてきたけど」
戒めを解かれ、着換えの服を渡される。
「殴られたの?見せて?」
着換えおわると、京楽に手当された。
「こいつ、どうするんだ?」
友人だったはずの男は、京楽の斬魄刀で貫かれて死んでいた。
「虚に襲われて死んだんだよ」
「無理がなくないか?」
「京楽の名前なら、こんな雑魚の処分なんて簡単だ。浮竹に手を出した罰だ」
酷く冷酷な京楽の瞳に、初めて京楽が怖いと感じた。
その日浮竹は、京楽の腕の中で眠った。近すぎる距離に戸惑いはしたが、嫌悪感ははやりなかった。
次の日、現世に戻ると、友人だった男は虚に殺されたのだと火葬された。
周囲の誰もが違和感を覚えなかった。
一人、浮竹が京楽を怒らせとどうなるかを知った。
京楽が怖い。でも、助けてくれた。とても優しい京楽。
京楽は、無理強いをしてこない。
それが、浮竹を安堵させる原因になっていた。
また、時間だけが過ぎていく。
京楽の目の前に着替えていると、京楽が目を背けた。
「君さ、忘れてない?僕は、君が好きなんだよ。君を抱きたいと思っている」
触れられたり、キスされたりで、もう半ば浮竹の中にも想いができていた。
「俺は、お前になら・・・・・・・」
「浮竹?」
「もう寝る。おやすみ」
4回生になっていた。もう、料亭のことから、1年が経過しようとしていた。
4回生になって、京楽と同じ部屋になった。京楽は、相変わらず無理強いはしてこない。
京楽のベッドで共に眠るようになっていた。
京楽の腕の中で眠った次の日は、発作をおこしていても気分が楽になってたり、なおったりしていた。
京楽は、回道を身に着けているらしかった。
いつの間とは思ったが、全て君のためだよと微笑まれて、心の中に広がった罅は深くなり、ついには粉々になってしまっていた。
また、二人で飲み屋をはしごして歩いた。
したたかに酔って二人は、かつてきていた高級料亭にきていた。無論、京楽のおごりだった。
2階の部屋をとる。
褥が用意されていて、浮竹の体が少し強張った。
「浮竹?嫌なら、逃げていいんだよ」:
「俺は・・・・・・もう、逃げない」
「浮竹、愛している」
口づけられ、衣服を脱がされていく。
浮竹は、長くなった白髪を乱した。
「愛しているのか、まだわからない。でも、好きだ、京楽・・・・・」
褥の横たえられて、京楽に囁かれる。
「ほんとはね・・・一年前のあの日は、君としてなかったんだ。君を手に入れようとした僕の浅知恵だったんだ・・・・・今度こそ、君の全てを手にいる。酔っているけど、はっきりと認識している。君が好きで愛している」
浮竹は、いつの間にか涙を流していた。
心で粉々になったのは、親友としての京楽だ。でも、新しく恋人としての京楽が心の中で芽吹いていた。
「多分・・・愛してる」
貫かれ、揺さぶられて、涙をこぼしながら、囁いた。
「一緒に生きていこう、浮竹」
「俺の傍にいてくれるのか?」
「いつでも、君の傍にいるよ、浮竹」
褥の上で、何度も交わった。浮竹を手に入れた京楽は満足そうに眠っていた。浮竹は意識を飛ばしていた。
気づくと、もう朝だった。
「京楽!」
揺り起こされて、目をこすりながら京楽が起きてくる。
「どうしたんだい、浮竹」
「学院に遅刻する!」
「ああ、もう休むって連絡いれておいたから」
いつの間に・・・・・。
浮竹は、京楽に抱き寄せられた。
「おはよう。僕たち、恋人同士になったで、いいんだよね?」
「ああ・・・・・」
まだ、迷いは少しあったけれど。
4回生の初めになって、結ばれた。
京楽が浮竹に想いを抱くようになって、実に3年以上の月日が流れていた。
浮竹の中に芽吹いた、京楽という恋人は、ぐんぐんと背を伸ばして浮竹を支配していった。
京楽が傍にいないと落ちつかない時がある。
それは、依存症に似ていた。
京楽と共に、笑い、怒り、悲しみ、いろんなことを経験した。
「浮竹ぇ~」
雨乾堂に、今日も京楽が遊びにきていた。
あれから何百年時が経ったのかもう忘れてしまった。
「今行く、京楽」
ただ、二人はいつまでも寄り添いあう。
お互いが隊長となり、忙しくなっても時間があれば常に傍にいた。
尸魂界にに2つしかない、二対一刀の斬魄刀のように。
2つで1つ。二人で一人。
ただ、その傍に。
時間がある限り。
常に在ろうとする二人は、まさに比翼の鳥。
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