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血と聖水ムーン「フォーリシュ、屑の中の屑」

ネイの意識は、沈むゆく船のように、ゆっくりとロックオンの中に溶け、やわらかく溶解していく。
「質が悪いかぁ」
ルシエードの声は、ロックオンに届いていた。
自分の背中に生えた6枚の翼を手で触わる。
「んー。別に、これはこれでいいと思うけどな。ルシエード」
くっくっくと、ロックオンは血の繋がりのない兄の名を呟く。
「ルシエード・ブラウシェス・・・・・・ワールドエンド」
ネイと、ルシエードは血など繋がっていない。
そもそも、種族が違うのだから。同じ神は神でもネイはヴァンパイアだ。
神に血の繋がりなどどうでもいいことだ。神格が、魂がつながっているかどうか。それが親子であり、兄弟となる。
人に生まれようと、同じ神から生まれることもある。血など繋がっていないし、種族も違う。魂が繋がっているのだ。
ロックオンは、自分が夭折した天帝エルガ・ブラウシェスの子であり、邪神であり、天界から落とされこの世界に流れ着いたのだとはじめて知った。
でも、全部どうでもいい。
世界は我にあり。そうネイが告げている。
この世界で生まれたのがネイであり、親だろうか兄弟だろうが、神のことなど知ったことではない。
今はロックオンでもあるのだから。生きている今が大切なのだ。
未来は、また考える。まだ猶予はあるのだから。考える時間があれば、策もあるかもしれない。
少なくとも、絶望はしていない。

「血と聖水の名において、アーメン!」
ティエリアは、空の上でくつくつと笑うロックオンを放置して、今日もヴァンパイア退治である。
前回ネイリル大公という大物を退治したが、これはハンター協会の指定したものではなく、成り行き上の展開であった。灰をいつものようにカプセルに詰めることもしなかった。
「血よ、貫け!」
もとはブラッド帝国の下級貴族であったそのエターナルは、血の魔法を使って、巧みにティエリアの攻撃をかわして避け、逆に攻撃をしかけてくる。
「なぜ俺を殺そうとする、同じヴァンパイアであろう!」
「お前は、法を、掟を破った。人を殺した」
「たった3人だ!なのに、何故殺されねばならぬ!下等な生物を殺して何が悪い!人間だって、家畜を殺して肉を食べるではないか!それと道理!」
「違う!」
ティエリアは、二丁の拳銃でガンスリンガーの如く軽くできた銀の、特殊な洗礼をうけている銃で血のランスの攻撃を、ギリギリと受け止める。
力は相手が数倍上。
ずくりと、重い力に地面が軋み、腕がみしりと音をたてて、筋肉が悲鳴をあげる。
「そのまま潰れてしまえ」
「血と聖水の名において、アーメン!」
ティエリアは跳躍すると、背中に白い、ネイの血族の証である6枚の翼を広げると、その翼でエターナルの血のランスを切り裂いた。
「ネイ・・・・フォーリシュ!!!」
貴族が、ネイの本名を呼んで、驚愕に震える。
「ネイ様か、あなたは」
「違う。僕はティエリア。ネイの、血族。血と聖水の名において、アーメン!」
銃の引き金をひく。
弾丸は、エターナルの肺を貫いた。
「ぐ・・・・フォーリシュ・・・・堕ちた存在でありながら、神であられるネイよ。その血族であるならば、あなたもすでに堕ちている・・・・フォーリシュの、ティエリア」
「黙れ!」
ティエリアは、銀の弾丸をエターナルの心臓に叩き込む。
「家畜の肉を食うように・・・人間が・・・・ヴァンパイアは人間の血を吸い殺す・・・・それが、我らの自然。人間は獲物・・・・食料を殺して、殺されるのか」
「人工血液製剤がなんのためにこの世界に存在すると思っている!人間の血液を吸わなくとも、自然のエナジーと人工血液製剤と、血液バンクの血液を飲めば、生きて、いけるだろう!!」
ブラッド帝国では、民である人間を殺せば死刑。
それは外に出ても変わらない。人間を外で殺せば、外の法が待っている。
人間と共存するために、ヴァンパイアたちは人を殺さず生きていく共存の道を選んだ。それなのに、人を襲い殺すヴァンパイアは後を絶たない。

フォーリシュといわれて、珍しくティエリアが頭に血を上らせていた。
ネイの本名でもあるフォーリシュは堕ちた・・・・最悪の屑を意味する。人間だけを襲い、殺戮の快楽に目覚めたヴァンパイアたちを、フォーリシュとも呼ぶ。
なぜ、ネイの本名にフォーリシュの響きがあるのかは知らない。少なくとも、ティエリアが受け継いだネイの名、ティエリア・アーデ・ネイ・フラウ・ブラッディ・ナハト・ブラッディにはフォーリシュの名はない。

「フォーリシュと、呼ぶな!僕は、ヴァンパイアハンター、人を守るために生きている!」
「フォーリシュの姫王・・・・血族ならば、お前もフォーリシュだ!こうして、仲間を殺す、最悪の屑。堕ちた、ヴァンパイア。フォーリシュだ!!」
「黙れ!!」
激昂するティエリアを、地上に降りてきたロックオンがその手で抱き上げた。
「な、ロックオン!?」
「フォーリシュはなぁ・・・エルガが、俺によこした名前さ。天界から落ちる、フォールダウンする・・・フォーリシュ。神ではない邪神よと。気に入っているから、名乗っている」
ロックオンの背のエーテルイーターは10%限定起動し、エターナルの心臓に食らいついていた。
「どうだ。フォーリシュの味は?屑は、最高だろう?屑でも、神になれるんだよ」
「もああああ、ああああ、苦しい、苦しい、助けてくれネイ様、エーテルイーターだけは!」
ブシュッと、エターナルの頭がはじけ飛んで、血潮をたててティエリアの顔を彩った。

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