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黒猫と白猫の亜人2

浮竹は、白哉の家で発情期を迎えた雌猫たちに囲まれていた。

「にゃああ(ねえ、私に子種ちょうだいよ)」

「にゃあ(ずるい、私が先よ。私と寝てよ)」

「なーお(お前の子が欲しい)」

「いや、俺は白猫だが亜人なのでただの猫のお前たちに子をやれない。猫の姿で交尾したこともないし、したいとも思わない」

浮竹がそう言うと、群がっていた雌猫たちは興覚めした様子で浮竹から離れていく。

「にゃあにゃあ(じゃあ、京楽も同じなのかしら。あの人、優秀だから子が欲しかったけど、あの人も黒猫の亜人だから。残念だわ」

「ごめんねぇ。ボクもできれば君たちに子をあげたいけど、亜人だから」

京楽は、猫の姿でキャットタワーの一番上で黒い尻尾を優雅に揺らす。

「なおーん(ああ、亜人って分かってるけどやっぱり素敵)」

京楽は、雌猫にもてまくりであった。

浮竹は、一匹寂しそうにキャットタワーの近くに白猫の姿で寝そべる。

「まぁ、みんなの気持ちは嬉しいんだけど、ボクは浮竹が好きだから」

「にゃああ(きゃっ!亜人だから、同性でもいけるのよね。禁断の恋ね!)」

「にゃあああ(浮竹が羨ましいわぁ)」

「おい、京楽!」

浮竹は立ち上がると、身軽にジャンプしてキャットタワーの上にいた京楽の隣にくる。

「ボクは嘘はいってないよ。君が好きだよ、浮竹」

「皆の前で・・・・・・・恥ずかしいから、やめろ」

「君は?君は、ボクのこと好き?嫌い?」

「好き嫌いで言うなら、好きだ」

「やったぁ!」

京楽がキャットタワーから飛び降りて、人の姿になると、同じく人の姿になった浮竹を抱きしめた。

「京楽、だが俺の身は汚れている」

「そんなことないよ。過去のことは忘れよう?」

「忘れようとしても、毎夜悪夢を見るんだ」

「じゃあ、白哉君に頼んで、いやな記憶は消してもらおう」

「そんなこと、できるのか?」

いつの間にか、白哉がやってきて、黒猫姿になった京楽を抱きあげる。

「私になら、可能だ。魔法で、人の記憶をいじることができる。だが、あまり多用はできない。使えるとしたら一度きりだぞ。どうする、浮竹?」

白哉は、美しい顔で白猫姿になった浮竹も抱き上げる。

「ああ‥‥お願い、しようかな」

「先に警告しておく。記憶は失うが、何かのきっかけで戻ってしまうこともある」

「それでもいい。起きる度に死にたい気分になるんだ。俺の記憶を消してくれ。京楽と出会ったところは残して」

「分かった」

白哉は何か呪文を唱えだすと、浮竹を抱き上げたまま、その猫の頭にキスをする。

「これで、おしまいだ」

「あれ、白哉?俺はどうしたんだ?確か、京楽に拾われて‥‥」

「浮竹、外に散歩に行こう?」

京楽が、猫の姿のまま散歩に出かけようと誘ってくる。

周囲の猫たちも、思い思いに外に出たり、餌を食べたり、寝ていたりしていた。

「分かった、外で遊ぼうか」

「京楽」

「分かっているよ。浮竹の記憶が戻りそうな場所には、行かない」

その言葉に、白哉は安心した。

「浮竹、兄は来たばかりで記憶の整理がついていないだけだ」

「でも、俺は前の自分のことを思い出せない。何故だろう?」

「ここに来る前、高熱を出してショックで記憶を失ったんだよ」

すかさず、京楽がフォローする。

「そうか。京楽、市場のほうへ遊びにいこう。魚屋で魚をかっぱらっていこう」

浮竹は、明るい顔でいたずらを思いついて、京楽と一緒に散歩がてら、市場に行って、それぞれ魚をくわえて逃げ出す。

「あちゃあ、やられた。朽木様のとこの猫か。あとでお代もらいにいかないと」

魚屋の店主は怒らなかった。

目立つ純金の首輪をしている2匹は、朽木家の猫として扱われる。

朽木家に出入りしている猫の全部が、純金の首輪をしていた。

何かいたずらを起こしたりしたら、その度に白哉が弁償した。

「なぁ、京楽。こんなことして、白哉が困るんじゃあ」

「いいのいいの。白哉は好きでボクらを飼っているんだから」

かすめてきた魚を食べながら、京楽が笑う。

純金の首輪をした猫を害した者は、鞭打ちの刑が待っているので、人間たちは純金の首輪をとろうともしない。

一度、昔に純金の首輪をとり、白哉の猫を殺した野盗の男は、両目を潰されて拷問にかけられた後、処刑されたので、誰ももう四大貴族の白哉の猫を粗末に扱う者はいない。

野良猫でも、白哉のものの証である純金の首輪をもっていたら、そこらの奴隷よりいい暮らしができた。

「にゃああ(おや、見ない顔だね)」

市場の近くに、老齢の猫がいた。純金の首輪をしていて、自分たちの仲間だと分かって浮竹はほっとする。京楽は、老齢の猫に毛づくろいをする。

「この前、白哉君のものになった京楽春水。こっちは、浮竹十四郎」

「にゃああ(おや、珍しい。白哉様が猫の亜人に首輪を与えるなんて)」

「やっぱり、分かるんだ?猫の亜人だって」

「にゃあ(猫族には分かるとも。もっとも、人間には区別できないであろうが)」

「白哉は、俺たちのことすぐ亜人だって分かったぞ?」

浮竹が首を傾げると、老齢の猫は笑った。

「にゃあにゃあ(それは、白哉様が猫神に愛されておいでだからだ。猫神様は、全ての猫、猫の亜人のはじまりとされてる故)」

京楽も浮竹も、猫神様など聞いたこともなくて、目をまくるしていた。

「猫神様‥‥‥どこにいけば、会えるんだ?」

「ちょっと、浮竹」

「にゃあにゃあ(猫神様は他の神々のように、神界におられる。元は白猫の亜人だったそうだ)」

「白猫の亜人‥‥‥俺と同じ存在か」

「にゃあああ(白猫の亜人は高貴だからな。その身を欲しがる者は多い。浮竹といったか。純金の首輪をしているからと、安堵してはいけないぞ。奴隷狩りにあうかもしれない」

奴隷という言葉に、浮竹は頭痛がして顔を顰めた。

「頭が、痛い」

「浮竹。じい、また今度話しにくるよ。今は浮竹の具合が悪いみたいだから」

「にゃあにゃあ(猫神様を祭る神社にでも行くといい。痛みも柔らぐだろう」

老齢の猫は、猫神様を祭っている神社の場所を教えてくれて、京楽は浮竹を連れてその神社までやってきた。

まさに猫神様は、猫に慕われてるのだろう。

たくさんの猫がいた。白哉の家にも猫が多かったが、その数倍はいた。

「あれ、新しい白哉さんとこの猫か。亜人だな。俺は阿散井恋次。白哉さんが好きで、白哉さんと将来結ばれる、赤猫の亜人だ」

「なんか痛いこと言ってる子がいるけど、無視しよう」

「ああ、そうだな」

恋次は、赤い毛並みを逆立てる。

「白哉さんに、一応は認められているんだからな。恋仲だって。俺は猫神様の神官だ」

「白哉と本当にできているのかな?」

「さぁ、どうだろう」

浮竹と京楽は、たくさんの猫に挨拶して、白哉の家に帰宅する。

「白哉、阿散井恋次という赤猫が‥‥‥‥」

「れ、恋次のことはあまり話したくない」

白哉は、白皙の美貌を赤くして、浮竹を抱き上げる。

「記憶は、しっかりしているか?」

「ああ。大丈夫だ」

「京楽もついているのだ。まぁ心配あるまい」

「俺の記憶がなんなんだ?」

「いや、なんでもない。さぁ、夕餉の時刻だ。浮竹と京楽は猫のままキャットフードを食べるか?それとも人になって、人の食事をするか?」

「「もちろん人の食事で」」

二人の声ははもって、浮竹と京楽は顔を見合わせてから、人の姿になって笑うのであった。




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