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温泉宿

「いやぁ、貸し切りっていいなぁ」

温泉宿に京楽と泊まりにきた。京楽と旅行に出かけるのは珍しいことではないが、長期休暇をとっての温泉旅行ははじめてだった。

「いい場所でしょ」

立地条件も悪くない。
緑に包まれた温泉宿の中でも、特別高い店だ。

「ああ、気に入った」

外では、ふわふわと雪が舞っている。

普段、こんな時期に長い間外にはでない浮竹であったが、有名な温泉宿が貸し切りになるときいて、京楽の誘いに乗って、温泉旅行にでかけた。

「早速温泉に入ろう」

いそいそと、荷物をとく浮竹。

浴衣と、シャンプーやリンス、ボディシャンプーに櫛にタオル、バスタオルなどの銭湯グッズをもって、ルンルン気分で、浮竹は温泉に入っていった。

男湯を選んで、着物を脱いで腰にタオルを巻く。湯船に髪をひたしてはいけないからと、髪留めで髪を結いあげて留めていた。

髪留めは、京楽が浮竹の誕生日プレゼントにあげたものだ。できるだけ質素なものを選んだつもりだが、それでも浮竹の給料の1年分はする。その価値を知らない浮竹は、好んで、自分の瞳の翡翠色に輝く髪留めを使っていた。

「京楽も早くこい」

体に湯をかけて、さっと体を洗うと、温泉に入った。

「浮竹、君、早いよ。せめて、荷物を全部といてからにしなよ」

そう文句をこぼしつつ、温泉に入ってきた京楽を見た浮竹は、顔を朱くした。

逞しく鍛え上げられた体。いつも、体を重ねあう時には見慣れているのに。

何より、タオルで前を隠していなかった。

その一物のでかさに、浮竹は視線をそらせた。

あれで、ここ数百年何度も啼かされてきたのだ。

「京楽・・・・・・・・いくら二人きりだといっても、その、前くらい隠したらどうだ」

「隠す?今更だよ、浮竹。何度も見てきただろう」

「それはそうだが」

「浮竹こそ、隠さないでよ。綺麗なのに」

男に綺麗はないだろう。

浮竹は、ぶくぶくと温泉につかって泡をだした。

京楽は、体を洗うと、温泉に入ってきた。髪は結い上げてはいるが、はっきり言ってあまり似合っていない。

浮竹が、給料の一か月分をだして京楽の誕生日にあげた髪留めで、京楽は意外と長い黒髪を、結い上げている。

派手なものを好むから、できるだけ派手なものを選んでみたのだが、気に入ってくれたのか時たま・・・・温泉とか、銭湯にいく時に使ってくれている。

「浮竹は、やっぱり綺麗だねぇ」

湯煙の中で、水面に揺れる白い髪と、温泉の熱でやや上気した白い肌を見ているだけで、今すぐにでも浮竹を啼かせたいと思う京楽は、浮竹をじっと見つめてから目を離した。

温泉は、室内に設置されたものだった。

露天風呂に入るには、季節が寒すぎる。温まりにきたのに、逆に風邪をひきそうなのでやめておいて正解だった。

体の弱い浮竹では、露天風呂から出て体を洗っているうちに熱をだしそうだ。

京楽を一言で言い表すと、でかい。

十分に長身である浮竹よりさらに背が高く、どっしりとしていて体も鍛え上げられている。同じく鍛え上げいるはずの浮竹の体は、肺の病で寝込むことが多いので、あまり筋肉がつかないでいる。

食が進まない時もあり、痩せてしまうこともあった。

今は小健康状態を保っているが、いつ寝込むかもわかったものではない。

「浮竹、おいで」

手招きされて、近づくと京楽は、浮竹の髪留めを外してしまった。

ぱらりと、音をたてて広がっていく白。

湯船の中を漂う。

「やっぱり、浮竹は結っていない方が綺麗だよ。もちろん、結っている浮竹も綺麗だけどね。こうやって、湯の中を漂う髪を見ていると、まるで人魚に見える」

「冗談を・・・・」

「冗談じゃないよ」

触れるだけの口づけをされて、浮竹は翡翠の瞳を見開いた。

「京楽、まさか盛っているんじゃ・・・・」

「いやいや。これはね、ただの熱膨張さ。決して、裸の浮竹を見て欲情しているわけではないんだよ」

「嘘くさい」

「はははは」

京楽から距離をとる。

温泉の中で体を重ねる気はない。夜ならば、とにかく。

湯船からあがって、髪を洗っていると、京楽がやってきて、髪を洗ってくれた。それから、背中を洗ってくれた。

お返しに、髪を洗い背中を流してやると、熱をもっていた京楽のものはすでに処理したのか、正常に戻っていた。

「浮竹は、本当に綺麗だ」

しっとりと濡れた白い髪を櫛ですいて、京楽は後ろから浮竹を抱きしめた。

「そういう口説き文句は、女の子にすればいい」

「したら、浮竹が嫉妬するでしょ?」

「別に」

本当に、京楽が女の子を口説いているシーンを想像するだけで、腸(はらわた)が煮えくりかえりそうになった。

「嘘ばっかり」

「京楽、ここではだめだ。部屋に戻ってからにしてくれ」

浮竹に明らかに欲情している京楽に、浮竹は声を低くした。

「温泉でってのもいいと思ったんだけどね」

「俺はいやだぞ。湯あたりしそうだ」

切実だった。

「ああ、きもちいいねぇ」

再び髪を結いなおして、温泉につかる。

長期休暇をとったといっても、2週間ほどだ。あまり、隊長が不在ではいろいろと支障がでる。

2週間、二人だけで過ごす。

大切な時間だ。

いつでも大切だが、一緒にこうして二人きりだけで過ごすことができる時間は、いつもなら限られている。

「そうだ。一護君にもらったあひるさんがある」

死神代行の、黒崎一護が浮竹にあげたあひるさんは、ルキアが企んで一護から浮竹に渡したものだった。

かわいいものが好きなルキアの上司だけあって、浮竹もかわいいものが好きだ。おはぎとか甘いものほどではないが。

ネジをまくと、あひるさんはぱしゃぱしゃと湯船の中を泳いだ。

「おお、泳いだ」

「浮竹・・・・」

かわいすぎる。犯罪だ。

目を輝かせてあひるさんと戯れる姿に、京楽は眩暈を覚えた。

「もう、僕はそろそろあがるから。浮竹も、ほどほどにしておきなね」

「ああ、先に戻っていてくれ。あと5分くらいで俺もあがるから」

温泉の後には、豪華な夕飯が待っていた。

伊勢海老が、4匹くらい調理されてでてきた。新鮮な刺身を中心に、肉料理や野菜料理もあるし、デザートにはアイスもついていた。

夕食を堪能し、夜になる。

「その・・・・・する、のか?」

「いやかい?」

「いやじゃないけど・・・・・その、これだけは言わせてくれ」

「なんだい」

「前のにゃんにゃんきゃんでぃとかいう、変なのは禁止だ。媚薬もだめだ!」

「ちっ」

「おい」

舌打ちする京楽に、浮竹はつっこみをいれる。

「わかったよ」

「あと、1回だけ、だからな」

「ちっ」

「おい」

何回するつもりだったのだろうと、浮竹は思った。

京楽とのセックスは、麻薬みたいなものだ。快感にひたされて、ただ気持ちよくなって、そして後から熱をだす。禁断症状もでる。京楽が、欲しくなるのだ。愛されたいと思うようになる。そう思うように、京楽に仕込まれた。体が疼く時があるように、京楽に慣らされた。

行為の後に、微熱を出すことが多い浮竹であるが、それでも京楽を受け入れた。京楽が、満足するまで何度も。

今夜は、浮竹はあまり乗り気ではない。温泉にきたのを楽しみにしていたのであって、セックスをしにきたわけじゃないのだ。

それは京楽も分かっていたが、夜になれば浮竹を求めるのは自然のことだと思っている。最近はご無沙汰というわけでもなく、一週間に一度は交わっていたので、年を考えれば十分すぎた。

「じゃあ、いただきます」

布団ではなく、ベッドだった。

音もなく、浴衣姿の浮竹を寝台の上に横たわらせて、京楽はごくりと喉をならした。

浴衣姿。

温泉に入ったせいで、上気した肌が色っぽい。まだ濡れたままの、白い髪から甘いシャンプーの香りがする。

「あまり、見るな」

人工灯の明かりを消した。

多少声がもれても、客は浮竹と京楽しかいない。宿の女将たちは、違う建物にいる。

「やっ」

浴衣の裾から手を侵入させて、やわりと花茎を触る。いきなりで、浮竹は身をよじった。

「全部、見せて?ああ、下着つけてないのか。期待してたって、思っていい?」

「ちがっ、京楽っ」

深く口づけされる。

浮竹は京楽との口づけが好きだった。口腔を乱暴に侵されるのが好きだった。はじめての頃は、触れるだけのくちづけでも躊躇していたのに、今では舌を絡めあうようなディープキスが当たり前で、それが行為の最初の儀式のようになっていた。

細い足首をとらえられて、肩に乗せられた。

そのまま、花茎を口に含まれて、今までされたこともほとんどないその経験に、頭が真っ白になる。直接、口の中で愛撫されるのは刺激が強すぎた。

「ああっ」

すぐに達してしまい、吐き出されたものを京楽はごくりと音をならして飲み込んだ。

「京楽」

「大丈夫。手加減するから」

いつものような、激しい交わりはしない。

1回だけと、決められているせいで、ゆっくりと浮竹を味わっていく。

浴衣を着せたまま、乱れさせ、喘がせる。

素直に啼く浮竹が愛しくて、京楽は浮竹の中にゆっくりと侵入した。すでに、いつもの潤滑油で蕾をほぐし、指で、前立腺を少しいじっただけだった。

「あ、あ・・・・・・・・・」

ゆっくりと。

ずくんと、腹の中を京楽が入ってくる異物感に、浮竹は目を閉じた。

小さく突き上げると、浮竹は啼いた。

「あっ」

「きもちいい?ねぇ、きもちいい、十四郎?」

「んっ・・・」

ぐちぐちと、前立腺を緩やかに突き上げて、京楽は汗を流した。

浮竹を気遣って、交わるのはあまり得意ではなかった。いつもは思いのたけをぶつけるかんじで、一方的に犯しているようなものだ。

「気持ちいいなら、キスして」

京楽に、浮竹は自分から口づけた。

「きもちいいんだね、十四郎。優しくするから、力ぬいて」

緩やかに最奥まで入ってくる。

薄い浮竹の腹の中を割って入ってくる熱は、外から見ても分かった。

京楽のものの形が分かる。

「あうっ」

浮竹が、全身から力をぬくと、ぬぷぷと、京楽のものが出ていき、そしてゆっくりと入ってくる。

「春水・・・・」

「もう少し、君を犯すよ。1回だけだから、まだ終わらせない」

ぐちぐちと、結合部が水音をたてる。

緩慢な動作に、浮竹がしびれを切らした。

「春水・・・も、いいから。気遣わなくて、いいから。いつもみたいに、してもいいから。もっと、春水がほしいっ」

京楽に一方的に犯されるかんじの多いことに慣れてしまっている浮竹の体は、貪欲になっていた。

「十四郎・・・・・・・・・・」

性を放たないように、浮竹を攻めるのは苦しかった。

吸い付いてくる内部が心地よくて、すぐに性を放ちそうになるが、1回と約束しているので我慢する。

浮竹の体に溺れるようになって、貪るようになって、数百年。

恋人同士である二人は、時にはお互いを大事にしながら、時には一方的に。もう、何千回と犯されている浮竹の体は敏感なまでに感じるようになっていたし、京楽に侵略されることに慣れていた。

「・・・・っ」

最奥をえぐると、浮竹がシーツをつかんだ。

涙がこぼれおちていく。

頭が真っ白になって、墜ちていくのを感じる。

「十四郎、愛してる」

「俺もっ」

ぐちゅりと音をたてて、前立腺をすりあげて、最奥を貫くと衝撃で浮竹の白い髪がシーツに零れた。ぐっと、こらえていた射精感が爆発する。

「ん・・・・」

京楽が、浮竹の中の性を放ち、京楽が歓喜の声を低くあげた。

一度きりの交わりだったが、いつもより満足できた。

「やっ」

抜き去られて行く熱に、浮竹が声をあげる。

「何が嫌なの?」

「あ・・・・・春水・・・・」

「ああ、まだいってなかったのかい。今、いかせてあげるから」

浮竹のたちあがったっままの花茎に手をかけて、先端に爪を少したてると、呆気なく浮竹は熱を放った。

何度か、中を犯されることでオーガズムで達していたらしい浮竹は、深く息を吐いて、浮竹の毛深い胸に顔をこすりつけた。

「いつもより、きもちよかった・・・・・・」

「そうだろう?やればできるんだよ、僕は」

「いつもこうなら、いいのに」

「そうしてあげたいけどねぇ。僕の体力がもたないよ」

大抵、最後には意識を飛ばすことが多い浮竹。京楽との交わりは、いつもは激しいものだ。

本当に、京楽とのセックスは麻薬に似ている。快感で満たされて、溢れて、でも禁断症状で貪欲にもっともっと欲しくなる。

「温泉、いこうか。べとべとだし。髪と体、洗ってあげる」

「ん」

乱れた浴衣を直して、京楽は浮竹を抱き上げると、新しい浴衣とバスタオルを手にもって、温泉に身を清めにいった。

「んーきもちいい」

京楽に髪を洗ってもらって、浮竹はご機嫌だった。

セックスをした後に、ご機嫌になることは珍しい。

そういえば、今日は酒を飲んでいなかった。

風呂上がりに、最近尸魂界で人気の現世のビールという酒の缶をあけて、乾杯した。

「苦いけど、うまいな」

「この苦さがいいんだよ。日本酒のほうが好きだけどね」

浮竹は、果実酒が好きだった。
甘いものも好きだ。

「おまけだよ」

ポイッと投げられたチョコレートを、浮竹はキャッチするとすぐに食べた。

「やっぱ甘いものはいいな」

「あんまり、甘いものばかり食べてると、虫歯になるよ。甘味を食べているわりには、太らないしねぇ。君、痩せすぎだから。もっとちゃんと食べて、鍛錬しないと」

「分かってはいるんだが、食べても食べても、なかなか体重が増えない」

「この温泉宿で、いいものをいっぱいくって、運動しよう」

「その運動ってまさか・・・・」

「そそ。セックス」

「馬鹿かお前は。毎日なんてできるか。年を考えろ、年を」

「僕はできるけどねぇ?」

「お前は無駄に元気がよすぎだ。この性欲魔人がっ」

「ひどいいわれようだ」

「知るかっ」

クスクスと、笑いあう。

もう、何万回にもなる、同じ夜を一緒に過ごす。何百年も、恋人同士であるので、もう何千回を通りこして万になるほどの夜を一緒に過ごす。

「浮竹ぇ」

「なんだ」

「愛しているよ」

「言ってろ、ばか」

俺も愛してるよよ、心の中で浮竹はつぶやいた。





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