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海燕の死

ふと、雨乾堂で荷物を整理していると、古いアルバムが出てきた。

「懐かしいなぁ・・・・・うわぁ、俺が院生時代の写真まである。一番最近のは・・・海燕のか・・・・」

もう、写真など撮らなくなって久しい。

あの優秀だった副官、海燕は死んだ。浮竹が、死神として死ぬ道を選んだ海燕を思う通りに行動させた。あれは、優秀な副官を死なせたのだ。

誰でもない、浮竹自身が。

ふと感傷に浸ってしまい、このままではいけないと頭を振って、アルバムを閉じた。

持っているだけ、悲しくなるだけだ。

海燕には悪いが、海燕の持ち物は全部処分したのだ。めぼしいものは志波家に託した。アルバムの中から海燕が映っている写真だけを抜き取って、鬼道で燃やしていく。

もう、副隊長はいらない。

その浮竹の思いは硬く、数十年経っても、副隊長を置かなかった。

代わりに、3席が2名できた。清音と仙太郎だ。

二人とも、甲斐甲斐しく、浮竹の身の周りの世話から仕事までしてくれた。

数日が経った。

「そういえば、今日は海燕さんの命日ですね」

「ああ、そうか・・・・・」

海燕が死んでから、何年経っただろう?

20年くらいまでは数えたが、数えるだけ虚しくなるだけで止めてしまった。

「今日は、墓参りにいってくる」

京楽を誘った。

京楽は、浮竹が誘うところなら例え火の中水の中、喜んでついてきてくれる。

「京楽、海燕の墓参りに行こうと思うんだ。お前も一緒にきてくれ」

「うん。海燕君には世話になったからねぇ」

思い出の品を処分しても、やはり情は残る。

海燕の墓は、元5大貴族である志波家の廟堂の中にあった。

墓は立派なものだった。

今は落ちぶれてしまったが、かつて志波家は上流貴族の中の上流貴族だった。

「俺は元気でやっている。いつか、俺がそっちにいくまで、待っててくれよ」

「ちょっと、そんな不吉なこと言わないでよ。海燕君、悪いけど浮竹はそう簡単に渡さないからね」

「死人に、渡すも渡さないもないだろう」

「それでもだよ。君、海燕君が死んだ時、茫然となって3日は眠りもせず食べもせず・・・虚空ばかりを見ていて、このまま海燕君が連れていくのかと心配したんだよ」

あの時は、茫然自失としていた。

何故、自分は副官の死を許し、部下を見捨てたのかと。

自分を責めているうちに、生きているのがいやになって、魂魄を滲ませていた。

結局4番隊に運ばれて、卯ノ花に診てもらい、点滴を受けて鎮静剤を投与されて、深く眠った。

あんなに深く眠ったのは、初めてかもしれない。

1週間は起きなかった。

病気というわけでもないのに、起きない浮竹がおかしいと、また卯ノ花診てもらい、心を閉ざして起きることを拒否していると言われた。

「強く訴えかければ目を覚ますかもしれません」

そう言われて、浮竹の耳元で何度も帰ってこいと囁いた。

思いが通じたのか、昏睡状態から10日後には、浮竹は意識を取り戻した。

「あれ、俺は何をしていたんだ?京楽、どうしたんだ?」

「どうしたって君、海燕君が死んだせいでこうなって・・・・・」

「海燕?誰だ、それ」

「え」

本当だった。

浮竹は、生きるために「海燕」の全てを忘れていた。

卯ノ花には記憶は徐々に戻るでしょうと言われ、退院を許可された。

「海燕・・・・言われれば、そんな者がいたかもしれない」

最初の一週間は、そんな存在ほんとにいたのかと疑心暗鬼になりながら。

1か月後には、海燕はいたことを思いだしていた。

そして、2カ月目には自分が見殺しにしたことを思いだして、取り乱した。

「しっかりして、浮竹!もう海燕君は安らかにいったんだから!君にお礼を言っていたんでしょう?」

はっきりと、記憶が蘇り、浮竹は海燕を失ってはじめて涙を見せた。

海燕が死んで、3か月が経とうとていた。


「こいつは、素直じゃないからこんなこと言ってるが、海燕、お前のことを京楽も好いていたんだぞ」

「不思議だね・・・・いないのがこんなに寂しくなるなんて」

「ああ、寂しいな」

隊長!そう言って、寝込んでいたのに熱が下がって甘味屋にいった浮竹を叱る者がいなくなった。

「おはぎ・・・・お前も好きだったよな。ここに供えておくから」

墓の前に、菊の花とおはぎを供えた。

「俺は、これからも歩いていく。京楽と一緒に・・・・・・」

「浮竹・・・・・」

京楽とキスをする。

「ふふ・・・海燕はいつも、俺たちがキスをしても、平然な顔をしていたな。今度副官になる予定の男がいるのだが・・・断るよ、海燕。しばらくの間はお前がずっと副隊長だ」

「でも浮竹、副隊長がいないといろいろ不便でしょ?」

「何、清音と仙太郎がいる。ここ20年以上もなんとかなってきたんだ。大丈夫だ」

でも、雨乾堂は、本当に静かになった。

海燕と3人でぎゃあぎゃあ言い合っていたのが、昨日のことのように思い出される。

「海燕君・・・浮竹は、僕が攫っていくから。君には、あげない」

そう言って、踵を返す。

先に歩き出した浮竹の後を追う。

隊長、ありがとうございます!

ふと、そんな言葉が聞こえた気がして振り返る。

何もなかった。

浮竹は、迷いをふっきって、歩き出す。

明日へ向かって。

京楽と共に。

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