ナンバリング(3期)
「ほら」
チリン。
鈴が小さく鳴った。
「はい?」
可愛らしく首をかしげる。サラリと猫毛の濃い紫の青みがかった髪が、光に弾ける。サラサラと、肩から零れ落ちていく。
「いや、なんだ、あのさ」
「はっきりしてください」
言葉を濁すロックオンに、ティエリアは冷たく言い放った。カタカタと、顔はロックオンのほうを向いているが、今現在はコンピューターを使って、先日スメラギからもらった戦術の復習のようなものをしている。復習というか、変えるに値する場所があるかどうかの真価を、戦術を使う方の目から見てどうかというものだった。そういう点で、スメラギから頼られていることは誇りでもあった。
カタカタカタカタ。
無機質な音が部屋の中で、響いた。
「だから、さ。お返し」
「なんの」
ティエリアは、溜息をつくと、コンピューターの電源を落とした。きちんとセーブして、データをDVDに焼き付けている。
ティエリアにとって、仕事中にこうやって声をかけられるのはあまり好まないのだが、仕事のコンピューターを、自分の部屋でもなく、一緒に寝起きしているロックオンの部屋に置いている時点で、ロックオンと話すことになるとなるべく電源を切るようにしていた。
そうしないと、話が成り立たないからだ。
ミススメラギからもらった仕事も、急ぎではない。
「なんなんだ急に」
いつもは愛らしい天然も、仕事中だったということもあり、なりを潜めている。
「んー、そういうとこも好きだぜ」
後ろから抱き付かれて、ティエリアは目の前でなる鈴を受け取った。
「あなたはいつもそうですね。そうやってごまかす」
「いや、ごまかしてなんかない。ちゃんと仕事終わらせて、俺の相手してくれるティエリアのことが大好きだぜ?」
好きだと耳元で囁かれて、ティエリアは頬をかすかに薄く桃色に染めた。
「なんなんですか、これは?」
「こうすると、かわいいだろ?」
「あ・・・・」
ティエリアの手の中にあった鈴を、ロックオンは一房ティリアの髪を手ですくいとって、それにシャツの中から出してきた髪ゴムと一緒に、ティエリアの髪にくくりつけた。
チリン、チリン。
「もしかしてバレンタインのお返しのつもり?」
「そうだといったら?」
「お返しはすでにもらっていますが」
ティエリアの首には、純銀でできており、ティエリアの髪の紫色と同じアメジストがペンダントトップになっているペンダントをしていた。それが、ロックオンからもらったバレンタインのお返しだった。
たかがチョコレートをあげただけなのに、貴金属の類をもらうのは、相応ではないと辞退したのだが、ロックオンにせがまれて結局もらうような形になってしまった。
バレンタインのお返しは、3倍以上のものでもうもらってしまっている。それ以上の品物を受け取る気などさらさらなかったのだが、こうやって好きだと言われてこうやって、ロックオンの手でつけられてしまうと、自分ではとれなくなってしまう。
「このペンダントで十分なのに・・・・・」
「いいんだよ。あげるのは俺が好きでやってるんだから」
個人口座にかなりの額のお金があるが、こういった形で消耗するのはティエリアはあまり好まない。
それを知っていても、せっかくあるお金なんだしと、ロックオンは暇があればティエリアに花束や貴金属を買ってあげていた。
いつの間にか、ティエリア専用の宝石箱ができてしまったほどだ。
もらっても、それをいつも身に着けているわけでもなく、デートの時などにしか身に着けてくれないとロックオンも知っている。
デートの時に身に着けてもらえるだけで十分だと、ロックオンも思っているようだった。
「かわいいだろ?音がティエリアみたいだ」
チリンチリンとなる鈴は、明らかに金でできていた。
「またこんなものにお金をかけて・・・・・少しは、自分のために使ってはどうですか」
「いいんだよ、俺は。ティエリアに似合うんだから、買いたくなるのは仕方ないだろ?」
「僕に似合う?」
チリン。
鈴が鳴る。
こんな、小さくて可愛い存在じゃないと、ティエリアは知っている。自分というイノベーターがどんなに汚れているのかも。何故、自分なのだろうと問うた時もあった。
ティエリア・アーデは、一度好きなロックオン・ストラトスことニール・ディランディを失ってしまっている。いや、失ってしまっていたと認識すべきか。
そして、ここにいるティエリアは、ニールが愛したティエリアではなかった。本来のティエリアはすでに死亡しており、宇宙に棺が流された。見送ったのは刹那だ。
本来、ロックオンに好きだと抱きしめられる価値もない。しょせん、ナンバリングで選ばれただけの存在だ。
ティエリアの代わりは、ティエリアと同じ容姿、声をもったティエリアが他にも今も眠っているのだ。
「またそんな顔をする。お前さんは、ティエリアだ。それ以外の何者でもない」
チリン。鈴が鳴った。
「あ・・・・・」
唇が重なる。
少しかさついたロックオンの唇の感触に、ティエリアは目を閉じた。
自然と、涙が滲み出てきた。
ロックオンは、今のティエリアがかつて愛したティエリアでないと知っても、こうして同じに扱ってくれる。
それが愛しくて、そして哀しくもあった。
「ロックオン・・・・」
ニールと呼ぶよりも、ロックオンと呼ぶのに慣れすぎてしまっているティエリア。
記憶も意識も感情も、何もかも前のティエリアと同じものを刷り込まされているせいで、ティエリアはどのティエリアが本当の、ニール・ディランディに愛されているティエリアなのか分からなくなってくる。
「泣くなよ。離せなくなるだろ」
「僕は、あなたのティエリアになれているだろうか?」
「バーカ。お前はもう俺のティエリアだ。離すもんか、もう二度と」
先に、ティエリアを死という形で手放したのはロックオンである。結局は生き残り、こうしてまた抱き合ったり体温を共有することができるが。
ロックオンは今も後悔している。ティエリアを置いて、仇をとることを選んだ自分に。しかし、あの時はその選択肢しかなかったのだ。ティエリアよりも大切なことがあった。だから、ロックオンことニール・ディランディは死が先にあると知りながらもその未来を選んだ。
結局家族の仇は取れず、リジェネの手によって助けられ、再生された。
そして知った真実。
イノベイターという存在。
愛しくてたまらなかったティエリアの死。
葛藤しなかったといったら嘘になる。初めて、目覚めて間もないティエリアと対峙した時のことは今でも記憶に焼き付いている。
ティエリアは、ロックオンが愛したティエリアの声で、態度で、感情で、全てで包み込んできた。
このティエリアは、「代わり」なんかじゃないとロックオンは悟った。
「お前さんは、お前さんかもしれない。でも、もう俺にはお前さんしかいないんだよ」
ロックオンの腕に力がこもる。
ティエリアは、涙をぬぐって、ロックオンの手に手を重ねた。
チリン。
不安定な形で、髪に結われていた金の鈴が床に転がり落ちた。
その後を追うこともなく、二人の恋人は無言で抱きしめあい、体温を共有すると、ぎこちなく微笑んだ。
何度かキスを繰り返して、頬を染めたティエリアは、床に転がった金の鈴を手に取った。
「直しておきますね」
「ああ。それよりもっかいキスさせて」
ティエリアが宝石箱の中に金の鈴を入れたと同時に引き寄せられた。力強い、抗いがたい腕だった。
「ロックオン・・・・好きです。もうどこにも行かないで」
「ああ。約束する。ティエリア、好きだ。お前さんこそ、何処にも行くなよ」
二人の恋人は、音もなく抱きしめあいながら、口づけを交わし続けた。
もう、二度と失わないように。
離さないように。
最後の時、死が二人を分かつまで、と祈るように。
チリン。
鈴が小さく鳴った。
「はい?」
可愛らしく首をかしげる。サラリと猫毛の濃い紫の青みがかった髪が、光に弾ける。サラサラと、肩から零れ落ちていく。
「いや、なんだ、あのさ」
「はっきりしてください」
言葉を濁すロックオンに、ティエリアは冷たく言い放った。カタカタと、顔はロックオンのほうを向いているが、今現在はコンピューターを使って、先日スメラギからもらった戦術の復習のようなものをしている。復習というか、変えるに値する場所があるかどうかの真価を、戦術を使う方の目から見てどうかというものだった。そういう点で、スメラギから頼られていることは誇りでもあった。
カタカタカタカタ。
無機質な音が部屋の中で、響いた。
「だから、さ。お返し」
「なんの」
ティエリアは、溜息をつくと、コンピューターの電源を落とした。きちんとセーブして、データをDVDに焼き付けている。
ティエリアにとって、仕事中にこうやって声をかけられるのはあまり好まないのだが、仕事のコンピューターを、自分の部屋でもなく、一緒に寝起きしているロックオンの部屋に置いている時点で、ロックオンと話すことになるとなるべく電源を切るようにしていた。
そうしないと、話が成り立たないからだ。
ミススメラギからもらった仕事も、急ぎではない。
「なんなんだ急に」
いつもは愛らしい天然も、仕事中だったということもあり、なりを潜めている。
「んー、そういうとこも好きだぜ」
後ろから抱き付かれて、ティエリアは目の前でなる鈴を受け取った。
「あなたはいつもそうですね。そうやってごまかす」
「いや、ごまかしてなんかない。ちゃんと仕事終わらせて、俺の相手してくれるティエリアのことが大好きだぜ?」
好きだと耳元で囁かれて、ティエリアは頬をかすかに薄く桃色に染めた。
「なんなんですか、これは?」
「こうすると、かわいいだろ?」
「あ・・・・」
ティエリアの手の中にあった鈴を、ロックオンは一房ティリアの髪を手ですくいとって、それにシャツの中から出してきた髪ゴムと一緒に、ティエリアの髪にくくりつけた。
チリン、チリン。
「もしかしてバレンタインのお返しのつもり?」
「そうだといったら?」
「お返しはすでにもらっていますが」
ティエリアの首には、純銀でできており、ティエリアの髪の紫色と同じアメジストがペンダントトップになっているペンダントをしていた。それが、ロックオンからもらったバレンタインのお返しだった。
たかがチョコレートをあげただけなのに、貴金属の類をもらうのは、相応ではないと辞退したのだが、ロックオンにせがまれて結局もらうような形になってしまった。
バレンタインのお返しは、3倍以上のものでもうもらってしまっている。それ以上の品物を受け取る気などさらさらなかったのだが、こうやって好きだと言われてこうやって、ロックオンの手でつけられてしまうと、自分ではとれなくなってしまう。
「このペンダントで十分なのに・・・・・」
「いいんだよ。あげるのは俺が好きでやってるんだから」
個人口座にかなりの額のお金があるが、こういった形で消耗するのはティエリアはあまり好まない。
それを知っていても、せっかくあるお金なんだしと、ロックオンは暇があればティエリアに花束や貴金属を買ってあげていた。
いつの間にか、ティエリア専用の宝石箱ができてしまったほどだ。
もらっても、それをいつも身に着けているわけでもなく、デートの時などにしか身に着けてくれないとロックオンも知っている。
デートの時に身に着けてもらえるだけで十分だと、ロックオンも思っているようだった。
「かわいいだろ?音がティエリアみたいだ」
チリンチリンとなる鈴は、明らかに金でできていた。
「またこんなものにお金をかけて・・・・・少しは、自分のために使ってはどうですか」
「いいんだよ、俺は。ティエリアに似合うんだから、買いたくなるのは仕方ないだろ?」
「僕に似合う?」
チリン。
鈴が鳴る。
こんな、小さくて可愛い存在じゃないと、ティエリアは知っている。自分というイノベーターがどんなに汚れているのかも。何故、自分なのだろうと問うた時もあった。
ティエリア・アーデは、一度好きなロックオン・ストラトスことニール・ディランディを失ってしまっている。いや、失ってしまっていたと認識すべきか。
そして、ここにいるティエリアは、ニールが愛したティエリアではなかった。本来のティエリアはすでに死亡しており、宇宙に棺が流された。見送ったのは刹那だ。
本来、ロックオンに好きだと抱きしめられる価値もない。しょせん、ナンバリングで選ばれただけの存在だ。
ティエリアの代わりは、ティエリアと同じ容姿、声をもったティエリアが他にも今も眠っているのだ。
「またそんな顔をする。お前さんは、ティエリアだ。それ以外の何者でもない」
チリン。鈴が鳴った。
「あ・・・・・」
唇が重なる。
少しかさついたロックオンの唇の感触に、ティエリアは目を閉じた。
自然と、涙が滲み出てきた。
ロックオンは、今のティエリアがかつて愛したティエリアでないと知っても、こうして同じに扱ってくれる。
それが愛しくて、そして哀しくもあった。
「ロックオン・・・・」
ニールと呼ぶよりも、ロックオンと呼ぶのに慣れすぎてしまっているティエリア。
記憶も意識も感情も、何もかも前のティエリアと同じものを刷り込まされているせいで、ティエリアはどのティエリアが本当の、ニール・ディランディに愛されているティエリアなのか分からなくなってくる。
「泣くなよ。離せなくなるだろ」
「僕は、あなたのティエリアになれているだろうか?」
「バーカ。お前はもう俺のティエリアだ。離すもんか、もう二度と」
先に、ティエリアを死という形で手放したのはロックオンである。結局は生き残り、こうしてまた抱き合ったり体温を共有することができるが。
ロックオンは今も後悔している。ティエリアを置いて、仇をとることを選んだ自分に。しかし、あの時はその選択肢しかなかったのだ。ティエリアよりも大切なことがあった。だから、ロックオンことニール・ディランディは死が先にあると知りながらもその未来を選んだ。
結局家族の仇は取れず、リジェネの手によって助けられ、再生された。
そして知った真実。
イノベイターという存在。
愛しくてたまらなかったティエリアの死。
葛藤しなかったといったら嘘になる。初めて、目覚めて間もないティエリアと対峙した時のことは今でも記憶に焼き付いている。
ティエリアは、ロックオンが愛したティエリアの声で、態度で、感情で、全てで包み込んできた。
このティエリアは、「代わり」なんかじゃないとロックオンは悟った。
「お前さんは、お前さんかもしれない。でも、もう俺にはお前さんしかいないんだよ」
ロックオンの腕に力がこもる。
ティエリアは、涙をぬぐって、ロックオンの手に手を重ねた。
チリン。
不安定な形で、髪に結われていた金の鈴が床に転がり落ちた。
その後を追うこともなく、二人の恋人は無言で抱きしめあい、体温を共有すると、ぎこちなく微笑んだ。
何度かキスを繰り返して、頬を染めたティエリアは、床に転がった金の鈴を手に取った。
「直しておきますね」
「ああ。それよりもっかいキスさせて」
ティエリアが宝石箱の中に金の鈴を入れたと同時に引き寄せられた。力強い、抗いがたい腕だった。
「ロックオン・・・・好きです。もうどこにも行かないで」
「ああ。約束する。ティエリア、好きだ。お前さんこそ、何処にも行くなよ」
二人の恋人は、音もなく抱きしめあいながら、口づけを交わし続けた。
もう、二度と失わないように。
離さないように。
最後の時、死が二人を分かつまで、と祈るように。
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