忍者ブログ

プログ

小説掲載プログ
10 2024/11 14 2324 25 26 27 28 29 30 12

エリュシオンの歌声1-2


京楽は、剣を腰の鞘にしまうと、神殿の奥へ奥へと入っていく
一番奥に、閉ざされた大きな扉が見えた。

神話のレリーフが施された扉の鍵には魔法がかかっているようで、力でおしても、剣で傷つけようとしてもびくともしなかった。

「だから、鍵ね・・・・まるで、籠の中の小鳥じゃないの」

この中に、神子、浮竹十四郎はいる。
人々の前に姿を現すのは1ヶ月に一度の神祭の時だけ。あとは、いつもこの部屋の奥にいるのだという。

鍵を穴にいれる。
カチャリと音がなる。

京楽は、扉をあけて中に入って息をのんだ。
扉の奥には、きっと広い部屋が広がっているのだろうと思っていた。

確かに、広かった。広すぎる。

そこは、空中庭園だった。

さわさわと風に揺れる緑。小鳥たちの歌う声。花畑と草原。

中央には噴水があり、浮かぶ小さな岩からも水がたえず零れ落ちていく。

「なにこれ・・・・」

太陽が二つ、天空に浮かんでいた。

「夢でも見てるのかな僕は・・・・」

信じられない光景に、自分の頬をつねると、確かに痛みがした。

「らららら~~~」

綺麗な綺麗な、とても美しい歌声が京楽の耳を打った。

その歌声を聞いた瞬間、京楽は涙を流していた。

「なんなんだ・・・・」

エリュシオンの歌声。神の楽園へと導くという、神の歌声。
神に愛された寵児。

「ららら~~~」

さぁぁぁと、風が鳴る不思議な空中庭園の奥に、天蓋つきのベッドがあった。

歌声は、そこから聞こえてくる。

咲いている花を踏み潰して、近づいていく。

(誰だ?)

京楽は、何重もの深いヴェールに覆われたベッドの中に、動く人影をみて足を止めた。何より、頭の中に直接声が響いてきて、彼はびっくりした。
 
(神官長か?それともシスター長のメリア?それとも巫女の誰か?イリアか?昨日会いたいって聞いたから・・・・)

また、綺麗な歌声が聞こえてくる。

「ららら~~神よエリュシオンへの道を~♪」

声と、頭に直接響いてくる声は同じだった。

(今日の患者さん?)

「違う。僕は君を・・・・・・・・」

京楽は、逡巡気味に浮竹に剣を突き付けた。

(なんだ、これは?)

「剣だよ・・・見たことないの?」

(剣?見たことないな)

ふわりと微笑む姿は、とても美しかった。

神の寵児、神子。

本当に、その通りだ。

真っ白な足元まである長い髪をいくつにも束ね、たくさんの装身具を飾りあげてもなお色褪せない美貌。

女神だ。

そう、これはまるで女神。

いや、天使か。

浮竹の背にある大きな白い翼を見て、京楽は剣の切っ先を下げる。

「君、こんなところに一人で住んでるの?」

(そうだ。俺はここで暮らしている。それが神子の定め。外には月に一回しか出れない。ここは俺を閉じ
こめておく偽りの楽園)

「君・・・神殿の外にでたことは?」

(ない。神祭も神殿の中で行われる。神殿から、出たことはない。一度でいいから、本当の空と太陽を見てみたい

すっと、人工の空を見上げる浮竹は、哀しそうな顔をしていた。

とても綺麗なのに、なんて哀しそうなんだろうか。

「なんで、しゃべらないの?」

(禁じられているからだ。歌を歌う以外で、声を出してはいけないんだ)

「それで、テレパシーみたいに直接相手の頭に話しかけるのかい?」

(そうだ。奇跡の力と人は呼ぶ)

「奇跡ねぇ」

京楽は、これから殺す相手、浮竹と言葉を交わしてしまった。

その奇跡の歌声を聞いてしまった。

「なぁ、なんでその翡の目・・・さまよわせてるんだ?」

空を見ていたかと思うと、視線をさまよわせる浮竹に、京楽が首を傾げる。

(目が見えないから)

「はぁ?」

(この翡翠の瞳はものを見ない。魔法をとおして、第6感を通しておぼろけに色と形を教えてくれる。耳も聞こえない。言葉だけは・・・歌の形で、出すことを許されている。お前の声も、魔法で直接脳にとりこんでいる)

「そんなんで、本当に神子なのかi?」

(ああ・・・・あ、まってくれ)

離れていく京楽を追おうとして、浮竹はベッドから転がり落ちた。

「おいおい、何してるんだい。一応魔法で視界はなんとかなるんでしょ?」

浮竹は、静かに京楽の顔を見つめた。

(生まれつき、歩けない・・・・)

「ええっ・・・」

これのどこか、神の子だというのか。

エリュシオンの歌声だけをもつ、綺麗なだけの人形のような天使だ。

声を出すこともできず、目も見えず、耳も聞こえず、あげくに自分の足で歩くこともできないなんて。

どこが、神に愛された寵児だというのか。見た目だけではないか。

(翼も・・・・飛ぶことが、できない。この体は欠陥だらけだ。でも嬉しいな。俺を、連れ出すためにきてくれたのだろう?)

期待で頬を薔薇色に染める浮竹に、京楽の胸が締め付けられた。

「僕は、君を・・・・」

(ああ、殺しにきたんだろう?でも、殺す前に外に連れて行ってくれようと思っているんだろ?)

京楽は、言葉を失った。

「君、死ぬこと怖くないのかい?」

(怖くない。神の御許にいけるのだから。この呪縛から解放される。自分では死ねないんだ。早く外に連れて行って、そして殺してくれ。もう生きていたくない。カナリアのようにこの籠の中で囀ることしかできない俺は、もうこんな生活嫌なんだ)

京楽は、気づくと浮竹の桜色の唇を自分の唇で塞いでいた。

(ん・・・・・)

甘い味。

バサリと、浮竹の背中の翼が広がる。

浮竹の足首には、金色の足枷がしており、それはベッドの柵に繋がっていた。長い金色の鎖が見えた。

それを見た京楽は、剣を振りかざした。

この神子は、本当にここに閉じ込められているのだ。籠の中のカナリアだ。

パキン。

金属的な音をたてて、浮竹を縛っていた鎖がとれる。

(・・・・・・・・本当に、連れて行ってくれるのか?)

浮竹は、自分の鎖が断ち切られたことに、涙を流して京楽にしがみついた。

背の白い翼は小さくなって、折りたたまれている。

「連れて行ってあげるよ。外の世界に」
 

拍手[0回]

PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら
新着記事
(11/22)
(11/21)
(11/21)
(11/21)
(11/21)
"ココはカウンター設置場所"