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エリュシオンの歌声3-1

ベッドで眠る浮竹の衣服を整えてやる。

そのまま、浮竹を抱いて同じベッドで京楽も眠った。

朝になって、外の騒がしさと、女将の悲鳴で京楽は目覚めた。

浮竹はまだ疲れて眠っている。

「きゃああああああ!!」

女将の激しい悲鳴に、京楽はベッドの横に置いていた剣に手を伸ばす。

外の廊下で、何人もの足音が聞こえた。きっと、追手だ。浮竹の首級を持ち帰らずに、盗賊団からいなくなったことを、ソウル帝国の皇帝が、京楽が浮竹を連れだして逃げたと判断したのだろう。

殺気を感じた。こういうことには敏感だ。

長年盗賊なんて伊達にはしてない。

「いるな・・・この部屋だろう。始末しろ」

「は・・・・」

バタンと扉が開かれる。

武装した騎士が何人も飛び込んでくるが、室内はもぬけの空だった。

京楽は浮竹を抱き上げて、荷物を背中に背負い、窓からひらりと飛び降りると、馬小屋にいき、吃驚して起きた浮竹を前に乗せて、馬を走らせる。

(京楽!?)

「やあ、大丈夫?昨日は無理させすぎてごめんね。ちょっとやりすぎた」

かぁぁぁと、浮竹の頬が紅くなる。

(そ、それは!)

「平気?」

(なんとか・・・・)

「追われてるみたいだよ。相手は帝国騎士かな」

(帝国・・・・ソウル帝国の皇帝が俺を殺そうとしているという噂は、本当だったんだな)

「君、怖くないの?」

(怖くなどない。だって、死ねばこの呪われた呪縛から解放される・・・)

「解放、なんてさせないよ!君を殺させたりしない。このまま僕と逃げよう!」

京楽は必死になって馬を走らせる。

追ってきた騎士たちと、馬上で剣を交わしあう。

「エリュシオンの扉よ開け!!」

それは歌声であった。

でも、それは呪文でもあった。

ざぁぁぁと、京楽と浮竹の乗った黒馬の後をついてきて、剣で切りかかってくるソウル帝国の騎士たちの馬の足を、地面から突然生えた蔦が絡めとり、馬は騎士たちを振り落とすと、嘶いてその場で静かになってしまう。

「くそ、何をしている!」

「しかし隊長、馬が!!」

隊長の騎士は、馬の足に絡み付いていた蔦を剣で切り裂いていく。

「神子の歌声は奇跡を呼ぶ・・・か。続け!」

全ての馬の蔦を切り裂いて、ソウル帝国の騎士たちは京楽と浮竹を追い始める。

その頃、大分先に進んだ浮竹と京楽は森の中に入り、馬を下りた。

(どうした?)

ひょいっと浮竹を抱き上げる京楽の顔を見る。

瞳はものを見ていないが、魔法で一応の視界は利く。

「いや・・・・宿の3Fから君を抱いて地面に降りたとき、ちょっと足首を・・・」

(見せてくれ)

「大丈夫だって。こういうことには慣れてるから・・・・」

浮竹は、歌を歌い出した。

「ららら~~エリュシオンは楽園、さぁ誘わん神の子らよ、奇跡をエリュシオンの歌声と共に~♪」

それは、癒しの歌であった。

歌声に含まれた奇跡の魔力で、あっという間にはれていた京楽の右足首の痛みはとれてしまった。

京楽は驚いて、浮竹を抱き上げるとくるくると回った。

(な、なんだ!?)

「すごいね君!ほんとに神子だ。奇跡だね」

子供のようにはしゃいで、京楽はぎゅっと浮竹を抱きしめた。

浮竹は、いつの間にか涙を零していた。

「泣かないで・・・・」

京楽が、その体を抱きしめる腕に力をこめる。

(でも・・・・俺は、もう神殿に帰れない。皇帝が俺を始末しようとしたということは・・・俺がこの世界に必要であることがなくなったことでもある。ソウル帝国の皇帝が、俺を神子として神殿に迎えてくれるようにしてくれた。ソウル帝国の皇帝は、俺の・・・・実父だ。ソウル聖神殿の朽木白哉とは双子だ)

京楽は驚いた。

同じ神の子である朽木白哉も、皇族の血を引いているということは知っていたが、まさか父が皇帝とは。

そういえば、よく考えてみれば神の巫女姫である朽木ルキアは第3皇女で、朽木白哉はその兄にあたる。

ソウル帝国の皇帝の名は朽木ではないので、母親が同じなのだと思っていた。

それでは、この浮竹は皇子・・・。ソウル帝国の正当なる皇族の、しかも皇位継承権をもつであろう直系になるのか。

(父は・・・・何度か、俺に会いにきてくれたが、それは皇帝としてだ。そして・・・・・ルキアを愛しすぎて・・・・ルキアにエリュシオンの歌声を譲れと言った。でも、俺にもそれはできなかった。一度宿ったエリュシオンの歌声は、資格を持っている者が他にいても、すでに宿ったものがもっている限り、消えることがない。そう、殺さない限り・・・・父は、ついに俺を本当に捨てたんだな。歌声をルキアに与えるために、殺すために・・・・お前を雇ったのだろう、京楽?)

「君、何処まで知ってるんだい?」

京楽は、ソウル帝国の皇帝から、ルキアにエリュシオンの歌声を与えるために、浮竹を殺せと命令されていたのだ。

カール公国が滅ぼされようと、神殿の者は普通生き残る。

戦争のどさくさに紛れて、エリュシオンの歌声をもつ浮竹を殺すつもりだったのだ。

(さぁ・・・何処までだろうな)

浮竹は
、空を見上げた。

また涙を零す。

「僕は、そのエリュシオンの歌声に囚われたただの盗賊さ」

(京楽?)

浮竹を抱き上げて、休ませていた馬にまたがらせる。

「いったでしょ、君を僕のものにするって。もう僕のものだ。誰にも、たとえソウル帝国の皇帝にも、殺させはしない。絶対に守るよ。守り抜く・・・」

(お前は・・・・愚かだ・・・・懸賞金をかけられたいのか?)

「すでに、騎士団が動いているんだし、もう遅いよ」

(俺を置いていけ)

「そんなこと、できるはずないでしょ」

馬上の上で京楽は浮竹に、ディープキスを繰り返すと、京楽は手綱をさばいて馬を走らせた。

向かう場所はどこだろうか。

遠い異国まで落ち延びようか。

二人は馬で森をかけぬけた。浮竹は、ずっと馬上の上でエリュシオンの歌声を響かせていた。

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