エリュシオンの歌声4-1
女神アルテナ、女神ウシャス、創造神ルシエードと一緒につくったこの世界。
人間のために、選ばれた人間か神の子が、天使になれる世界を造った。それがこのエリュシオン。
楽園と人は呼ぶ。
騒ぎに遠くから、天使たちが集まってくる。
「アルテナ様、この人間たちは」
「いいのです。おいきなさい」
女神アルテナは、浮竹を天使にした。
でも、この浮竹という人間は天使になりたくないという。
そんな人間ははじめてだ。
今まで、このエリュシオンの扉をあけたり、生まれて魂に神格をもちこの地に誘われ、天使となった人間は全てこの女神アルテナに感謝をしていたのに。
敬われ尊ばれてこそが基本なのに、女神に歯向かうなんて。
「天使になんて・・・・誰が、なるものか」
ふわふわと、浮竹の背中の12枚の翼が溶けていく。
女神アルテナが与えた神の力を京楽に与える浮竹。
「ネイ・・・・これが、人の愛というものですか」
違う世界で生きるネイのことを思い出す。人間を作り出した我が妹。人に交じり、人として生きることを選んだ女神、創造神ネイ。
人として生き、そして死んで、また人として生まれ生き続けるネイ。
ネイは、人の愛は無限だと言っていた。女神アルテナには想像もできないもの。
それが人の愛。
「あなたは天使ではなくなりました。エリュシオンにいる資格はありません。消えなさい」
「殺すなら、一緒に殺せ。別れ別れになるのは嫌だ」
なんとか蘇生した京楽を腕の中に抱いて、きっ、と浮竹は女神アルテナを睨んだ。
人の愛は無限だよ。
同じ世界を創造した女神ウシャスの言葉を思い出す。
ウシャスは人が好きだった。アルテナは好きではない。
創造神ルシエードも人は好きではない。
「あなたには分からないんだ、女神アルテナ。人の愛は、神の力なんて必要としない。人は人のままでいいんだ。天使になんて人はなりたいと願わない。だって、人は人なのだから」
透明な、迷いのない翡翠の瞳。
こんな瞳をした神の子ははじめてみる。
そして、自分を否定した神の子も。
女神アルテナは、ざっと手を前に突き出した。
浮竹の生命力と魔力を与えられて生き返った京楽は、浮竹といくつか言葉を交わして、そして今エリュシオンの地にいるのだと分かって、浮竹を庇うように後ろに匿う。
「女神かい・・・・・悪いが、浮竹はやれないよ」
「女神アルテナ。俺は天使にはならない。京楽は生贄ではない。京楽を生贄にして天使になって、何が俺に残るという?愛した人を失って、幸せでいられるはずがないじゃないか。お前は間違っている」
「うるさい。人間が。消えろ」
女神アルテナは顔を歪めて、二人に魔法を放つ。
二人とも消してしまおうか。
でも、二人はお互いを抱きしめあって、とても幸せそうだった。
「消える時は一緒だぞ、京楽」
「うん。ちゃんと歩けるんだ。神の世界だと、目も見えるし耳も聞こえるんだね。歌声じゃなくても言葉を使ってるし」
優しく浮竹を包み込むネイと同じ色彩を持った京楽に、女神アルテナは白い光を向ける。
「消え・・・・ろ・・・・」
女神アルテナの放った魔法が、二人を包み込む。
それでも二人は幸せそうだった。
このエリュシオンにいるどの天使よりも。
ネイ。お前の言葉が分かる気がする。
ウシャス。お前の言葉が分かる気がする。
人間の愛は・・・・。
愛は、神など必要としないのだ。
そう、神の救いなど必要としていない。
それが、人間という存在。
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