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エリュシオンの歌声4-2

浮竹がエリュシオンの歌声を失ったことで、ルキアにエリュシオンの歌声は宿った。

浮竹の故郷であるカール公国は、ソウル帝国の手で滅ぼされてしまったけれど。

皇帝は、浮竹の抹殺の命令を取り消した。

皇帝とて、浮竹の存在に全く愛おしさを感じなかったわけではなかったのだ。

だが、ルキアを愛するあまりに、浮竹を殺してでもルキアにエリュシオンの歌声を継承させてやりたかった。

皇帝は、エリュシオンの歌声を失い、ルキアと白哉と和解した浮竹を、どうこうしようとはもうしなかった。
浮竹は、残酷な父でも愛していたのだ。

エリュシオンの歌声を失った浮竹には、もう帰るべき場所などなかった。

ソウル帝国は生まれた国であるが、今更皇族として復帰しても皇位継承権争いに巻き込まれるだけだ。

女神アルテナは、浮竹と京楽を殺さなかった。

ただ、エリュシオンの地から追放しただけ。

二人は互いの無事を喜んで、聖神殿から二人だけで、京楽の愛馬に乗ってまた旅立った。

もう、皇帝の追っ手はこない。

皇帝は、罪を償うつもりで浮竹を皇子として向かえるために、聖騎士をよこしたが、浮竹はそれを蹴って京楽を選んだ。

だって、愛しているから。

「ららら~エリュシオンの地は神の歌声によって開かれる~。でも天使になんてなりたくない、だって人間だから~♪」

浮竹は、変わらず綺麗な声で歌う。

でも、もうその歌声にエリュシオンの歌声は宿っていない。

エリュシオンの歌声を失ったお陰で、体の欠陥は消えた。エリュシオンの歌声を持っているからこそ、神の子はその代償に目が見えなくなったり耳がきかなくなる。浮竹はその典型的な例だった。

「変わらず綺麗な声だな」

「お前のためだけに歌う唄だ」

そっと、後ろに跨る京楽の柔らかな黒いの髪を撫でて、浮竹はちゃんと見える瞳で蒼い空を見上げた。

「京楽は、盗賊をやめてしまったのだな」

「うん・・・・もうあじとには帰れないね」

盗賊の頭をやめてしまった京楽と、エリュシオンの歌声を失い、神子の資格を失った浮竹。

出会いは最悪だった。

京楽は浮竹を殺すために、神殿を訪れたのだ。生きたまま捕らえてもよかった。
でも浮竹の美しさと儚さに捕らえられたのは、京楽のほうだった。

「さて、これからどうするかなぁ」

黒い愛馬のクロウを走らせて、二人でクスクスと笑って、泉があることろまでくると、馬を休ませるために下りた。

「ほら」

「大丈夫、一人で降りれる」

「だめでしょ」

「わっ」

ずっと歩いたことのない浮竹の足は筋肉がついていないため、まだ歩くには十分ではない。
京楽に以前のように抱き上げられて、浮竹はその背中に手を回す。

浮竹にあった、白い翼はエリュシオンの地から去ると同時に溶けてきえてしまった。元からただの神子の象徴であり、飛べるわけでもなかったし、邪魔だったので逆にすっきりしていた。

「エリュシオンで・・・ずっと、君の声を聞いていたんだよ。ありがと。こんな僕を選んでくれて。君は天使になれたのに・・・女神にたてつくなんて、ほんと命知らずだなぁ」

「だって、俺は天使になんてなりたくなかった。愛する者を、京楽を生贄に捧げて天使になんてなれるものか。それに、天使なんてただ長い時を生きるだけで魅力なんてちっともないぞ。人間として、短いけれど精一杯生きるからこそ素晴らしいんだ」

京楽は、浮竹を包み込んで、優しくキスを落とす。

「これからどうしよう?一応、銀行に預けた2億環金貨があるけど・・・・」

「じゃあ、そのお金を少しだけおろして、旅にでよう。俺を、海の向こう側につれてってくれると以前いっていたな。お前はハープが弾けるとか。俺は歌を歌えるだろう?二人で一人の吟遊詩人として、世界をあてもなく旅するなんてどうだろう」

「お、いいね」

京楽は、浮竹を地面に下ろすと、そこらに咲いていた可憐な花を浮竹の髪に飾った。

浮竹は、長すぎた白い髪を切り、今は腰くらいの長さで切りそろえていた。

「隣の国にいこう。クロウ、馬も一緒に・・・隣の大陸から旅をしよう!」

「ああ!」

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「ほんとにこれで良かったのかよ、ルキア」

「ああ、いいのだ一護」

エリュシオンの歌声を宿らせたはずのルキア。でも、歌声は結局宿らなかった。

宿ったのは数日。

そう、エリュシオンの歌声は歌声を持っている者を殺さない限り、宿らないのだ。

でも、その歌声はエリュシオンの歌声そのもの。違いなど、同じエリュシオンの歌声をもつ白哉でも、判別がつかない。

「一護は、私の傍にいろ」

「わーってるよ」

ルキアの前に跪いて、その手に恭しくキスをする聖騎士の一護。

一人、白哉がそんな二人を見守っていた。

「エリュシオンにいけたというのに・・・・天使にならないとは。さすが、私の半身か」


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「らららら~~~エリュシオンへの扉は~~~・・・あれ?」

浮竹は、船の上で首を傾げた。

失ったはずの、エリュシオンの歌声が、戻ってきている。

あまりの美しい歌声に、船の乗客は拍手喝さいに涙まで流して、浮竹に続きの歌を歌ってくれるようにせがむ。

遠いエリュシオンの地で、天使に囲まれながら女神アルテナは船の上にいる浮竹と京楽を水鏡で見ていた。

「本当に・・・天使にならずに逃げだすとは。人間はかくも愚かで醜く、それでいて魂は気高く美しく儚い・・・・・・」

天使たちが、エリュシオンの地で笑いさざめいていた。

争いの一切ないエリュシオンの地は楽園.。

長い寿命を持つ天使と、女神アルテナが生きる世界。時折魂に神格を宿した人を招き入れ、天使にしたり、神子がよこした聖なる人間を天使にしたり・・・・。

とにかく、エリュシオンの住民は天使か神かのどちらかだけ。

人間のままエリュシオンの地を踏んだのは、浮竹と京楽くらいだ。

「人は人であるから幸せ・・・か。天使になりたくない。神は、人に天使になれるチャンスを与える。誰もが天使を選ぶ・・・でも、二人は違った」

エリュシオンの扉は、今でもソウル帝国の聖神殿の奥にある。

エリュシオンの歌声をもつ者だけが、扉をあけるとされている。
エリュシオンの歌声をもつ資格があるものが、愛しいものを生贄に捧げて扉を開き、天使となるためにエリュシオンを訪れる。

人は、愛する者を犠牲にしてまで神に近づこうとする。

でも、この世界の浮竹と京楽は違った。


風が緩やかに、ハープの音を運んでくる。

「続き、歌いなよ」

「京楽!」

綺麗なハープの音に重ねるように、浮竹は目を瞑って歌い出す。

そう、エリュシオンの歌声で。

でも、もう浮竹のエリュシオンの歌声は、エリュシオンの扉を開くことはない。

背中にあった白い翼は、消えてなくなってしまった。

エリュシオンの歌声はあれど、その資格がないのだ。

全て、京楽を蘇らせるために捨てたのだ。エリュシオンの歌声でさえ、一度は捨てた。

京楽のハープの調べと美しい浮竹の歌声の旋律。

それこそが、本当のエリュシオンの世界、楽園なのかもしれない。

二人の愛の絆が、本当のエリュシオンへの扉なのかもしれない。



海鳥が二人の頭上を羽ばたいていく。

もう、浮竹は籠の中のカナリアではない。自由をえた美しい声で歌う人間だ。

「ららら~~エリュシオンへの扉は開かれた、天使たちは集う、女神の涙を見るために~。ららら~エリュシオンの地は楽園、神の奇跡の大地~。エリュシオンへの扉は今日も開く~~~でもそこから恋人たちは逃げ出す~。手と手を握りあって~~~♪♪」

逃げ出した京楽と浮竹を映す水鏡を消して、女神アルテナは微笑んだ。

そう、人の愛とは無限なのだ。

船の上を、何羽もの海鳥が蒼い空を飛んで横切っていく。
浮竹の歌声と京楽のハープの音を聞いて、そして飛び立っていくのだ。

ふわふわふわ。
舞い降ちる羽毛は、消えた浮竹の翼に似ていた。




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