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カナリア「孤高なる豹」

ティエリアが、ミッションも終えて地上に刹那と二人で降りた時のことだった。
次の攻撃対象であるグループ組織の下調べをしていたのだ。無論、用心はちゃんとしていたし、一人で行動はせずに刹那と一緒に行動を共にしていた。
銃も、ちゃんと所持していた。
自信があった。自分の身は、自分で守れる自信が。
どこからか、情報が漏れたのだ。

「子供だからって、容赦はしないぞ、この人殺しが!」
「人殺しはお前たちの方だ」
屈強な男に何人も囲まれた。
ティエリアは銃を取り出す。刹那も銃を取り出す。
二人で駆け出す。
それが合図だった。
ティエリアは、的確な腕で敵の頭を撃ち抜いていく。刹那も、急所はそれてしまうが、胸や足などを撃って、二人で逃げる。
だが、相手の人数が多すぎる。
こちらはたったの二人だ。

ズキューン。
敵の腕から発射された銃が、ティエリアの右足を撃ちぬいた。
「くそ!」
痛みに対する神経を遮断して、そのまま走る。
「刹那、逃げろ!」
「ティエリア!」
「いいから、僕に構わず君だけでも逃げて生き延びろ!」
ティエリアが、銃に新しい銃弾を装填すると、壁を背に銃の撃ち合いをはじめる。
足から流れ出した血が、敵を引き寄せている。
このままでは逃げ切れない。
市街地の外れにきた。囲まれている。
ティエリアは、歯軋りした。

こんなところで。
こんなところで、死んでなるものか。

錆びた血の味が、口の中に広がった。
「こっちだ」
ティエリアは大声を出した。
そのまま、刹那とは反対の方向に駆け出す。
「僕はここだ!」
銃を手に、何人も殺す。
ついには、銃弾がつきた。ティエリアは、ずぼんの下の太ももにしていたガーターベルトからサバイバルナイフを引き抜くと、口に咥える。
ボロボロになった廃墟の壁伝いに歩く。
「死ね!」
目の前に現れた敵の銃弾をそのまま右肩に受けながら、襲い掛かる。
迅速なスピードで背後にまわり、その喉笛を、動脈ごとためらいもなくかききった。
「ひいいいい」
それを見ていた男の一人が、腰を抜かす。
サバイバルナイフで首を切断すると、ティエリアは腰をぬかした相手の右目にサバイバルナイフを突き立てた。男は、そのまま絶命した。
「くそ、たった一人になんてざまだ!」
「あっちにいったぞ。手負いだ!血の跡を追え!」

はぁはぁ。
呼吸が荒い。
刹那は、上手く逃げてくれただろうか。
刹那もばかではない。こんな状態に陥った時、どうするかくらいは習ったはずだ。
一人でもいいから生き延びろ。
それが、訓練の中の掟でもあった。

はぁはぁ。
血の流しすぎて、目の前がかすれてきた。

ティエリアは走る。
豹のようしなやかに、虎のように優雅に。
「ぎゃひ!」
また、男の一人の喉笛をかき切る。
これで、サバイバルナイフで喉の動脈を切って殺した人数は4人だ。銃で殺した数を含めると、15人以上は殺している。数としては壮絶だ。たった一人でガンダムなしでここまで戦えるなんて、トレミーの誰もが普段のかわいいティエリアを見ていると、思いつきもしないだろう。
立派な殺人者だな、僕は。

こんなにも、手は血まみれだ。

敵の喉をそのままかき切る。
ブシュウウと、おもしろいように噴水みたいに血が噴出して、ティエリアを真っ赤に染め上げた。
「僕は、諦めない」
石榴の瞳を金色に変えるティエリア。
そのまま、刹那が追われることがないように、あえて敵の前に姿を晒す。
「僕は、ここだ!」
走る。

途中で、足をもつれさせて倒れこんだ。
「くそ!」
這いずる。

こんなところで。
こんな、ところで。
死んで、なるものか。

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