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カナリア「アズラエル」

「このくそがき!手間かけさせやがって!こっちは17人も死んだんだぞ!」
囲まれて、腹を蹴られた。
衝撃で、眼鏡が吹き飛ぶ。
「げほっ、げほっ」
鳩尾を蹴られ、息が詰まった。

髪が抜けるくらいに強くつかまれ、顔を無理やり上げさせられる。
「女かよ。くそったれが!」
顔を蹴られた。

血に彩られてもなお美しい、ティエリア。

ゆっくりと、意識が沈んでいきそうになる。
それを、遮断していた痛みに対する神経のブロックを解除することでこらえる。
襲い掛かる、壮絶な痛み。
普通ならば、泣き叫びそうなほどの。
ティエリアはうめき声もあげない。

「おい、どうせ殺すならさ・・・」
ざわざわ。
「それもそうだな」
衣服が破かれる。
「何をする!」
驚きに目を見開く。
そのまま、何人もの男に圧し掛かられ自由を奪われる。

欲望にぬれたぎらついた瞳。

怖い、怖い、怖い。

このまま、僕は汚されるのか。

ズキューン。

銃声が鳴り響いた。
ティエリアの上にのりかかり、衣服を裂いて今にも犯そうとしていた一人が、どさりと倒れる。
「なんだ!?」
周囲の男たちが色めきたつ。
そのまま、男たちは銃弾の雨を受けて倒れていく。
「くそ、敵対グループか。こんな時に!くそったれがああああああ!!」
生き残ったメンバーが、銃で撃ち合いを始める。

流れる大量の血。
屍があちこちに転がる。

「僕、は」
流れ出る血を、自分の意思で止めた。
このままでは、出血多量で死ぬ。
意識下で出血を無理にとめると、その反動で数日の間体の全機能が低下するが、一縷の望みに希望を託す。

「ロックオン・・・・・」
血に濡れた手で、青空に向かって手を伸ばす。

影が、ティエリアの上に落ちた。
幾人もの影が。
「女か・・・・」
「どうする?殺すか?」
「まだガキだな・・・」
「仲間割れってところか?」
周囲に集まった男が、衣服を裂かれ肌も露なティエリアを見下ろす。
その視線の中には、明らかな欲望が混じっていた。
「連れて帰ろう。死んだら死んだで捨てればいい。何か情報が聞きだせるかもしれない」
リーダーらしき男が、血に染まって虚ろな瞳のティエリアを見下ろした。
視線が、合う。
「殺せ」
ティエリアが、掠れた声をあげる。
「僕を殺せ」
生きて捕まるくらいなら、死んだほうがましだ。
「殺せ・・・・・・」
「上等だな、ガキ」

ティエリアは、血に濡れた手を、地面に転がったままのサバイバルナイフにゆっくりと伸ばす。
「おい、てめぇ!」
「黙ってろ」
リーダーが、声を荒げた男の行動を止める。
ニヤリ。
ティエリアは、唇の端を吊り上げた。

ぞっ・・・・。

その場にいた誰もが、背筋が粟立つ感触を覚えた。

なんて、美しい。
傷ついてもなお、ここまで壮絶に美しく、凛々しく気高くあれるのか。
サバイバルナイフをゆっくりと握り締める。
それを、ゆっくりと敵に向かって振り上げる。よろよろと立ち上がる。
緋色の瞳は、敵の急所を見つめている。
殺さなければ殺される。

後ろから羽交い絞めにされ、サバイバルナイフが金属的な音をたてて落ちる。
「殺す・・・・!殺さないのなら、殺す・・・・!!」
「やっかいなガキだな。身体能力が人間じゃねぇ」
リーダーが、じっと改めてティエリアを見る。
「・・・・・・・・・アズラエルか、お前は?」
酷死天使アズラエル。
今のティエリアは、返り血に染まり、己の血に染まり、それでもなお女神のように美しい。
天使のように。

羽交い絞めしていた相手を、ティエリアは投げ飛ばす。
「くそ、どこにそんな力があるんだ!」

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