ルキアを忘れた一護 ルキアの幻
「ルキア、愛してる」
「私もだ、一護・・・」
二人は、幸せそうだった。
その様子を、井上は涙を滲ませながら見ていた。
「私の、黒崎君なのに・・・・・」
浦原商店に向かい、死後に記憶の一部が欠如するという薬を購入した。頑張ってためたお金で、浦原に口止めをした。
「誰に使うんですか?」
「さぁ・・・・・・」
「薬の使い方間違えると、大変なことになりますよ。だから、相手に飲ませる時は少量にしてくださいねぇ」
「はい・・・・・」
井上は、ルキアにも一護にも、薬を飲ませた。
だが、ルキアが死ぬことはないので、意味はないだろう。
「井上・・・ごめん、俺やっぱお前と別れるわ。ルキアを好きなまま、お前と結婚したことに問題があったんだ」
「嫌だよ、黒崎君!私を捨てないで!」
「ごめんな、井上。この家は、お前にやるから」
「そんなのいらない!どこにもいかないで、黒崎君!」
井上は、泣きじゃくっていた。
「じゃあ、俺出ていくから・・・・・・」
ルキアと一緒に、黒崎家を出ていく一護。
「朽木さんのせいだ・・・・何もかも、朽木さんのせい・・・・・・」
全部、朽木ルキアが悪いのだと思った。せめて、死後は私の元にきてほしい。
浦原から、飲ませる時に強く念じれば、その相手を忘れるというから、ジュースに混ぜて飲ませる時に、朽木ルキアを忘れろと、怨念のように呪うように強く念じた。
「やっぱ俺、ルキアのことが忘れられない・・・・さよならだ、井上」
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「黒崎君!!行かないで!!!」
ばっと起きると、そこは席官クラスに与えられる井上の館だった。井上は、その特殊な治癒能力が買われて、4席だった。広くも狭くもないその館の寝室のベッドで、井上は寝ていた。
「夢・・・・・・」
隣には、一護が寝ていた。
「ふふ・・・今の黒崎君は、私だけのもの」
それは、狂気に似た思い。
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「よお、茶虎、石田」
「黒崎!?お前も死んで、死神になったのか!」
10番隊に配属されていた石田と、居酒屋で出会った。隣には、6番隊に配属された茶虎がいた。
「そういう石田こそ、滅却師のくせになんで死神なんかやってるんだ?」
「先の大戦で、滅却師は凄い怨みをかったからね。滅却師のままだと、尸魂界でも命が危うそうで・・・・・仕方なしに、死神になったのさ」
「俺は、力があるなら人のために役立てたい。だから、死神になった」
「茶虎は立派なのに、石田が死神になったのは、保身のためか」
「仕方ないだろう!」
「そうだな・・・なぁ、朽木ルキアって知ってるか?」
「はぁ?知ってるも何も、君の恋人じゃないか」
「そうだぞ、一護。尸魂界の反対を押し切って、付き合っていたじゃないか」
二人の言葉に、やはりルキアとの記憶だけが欠如しているのが不思議で仕方なかった。
「俺の中に、今ルキアの記憶がないんだ。ルキアのことだけ、忘れちまっている」
「おい、それはどういうことだ!」
石田が問いつめてくるが、魂葬をしたルキアに連れられて、尸魂界にやってきた時には、もうルキアのことだけを忘れていたのだと話した。
「誰かに脳をいじられたか・・・・何かの病気か・・・・・・」
「今度、4番隊と12番隊の隊長に診てもらうことになってる。まぁ、なるようになるさ。俺は13番隊の6席に配置されたんだ。今月分の給料が出たから、二人ともおごってやるよ」
そうやって、3人は現世にいた頃の他愛ない話に花を咲かせた。
「ここの酒、うまいな・・・・酔っちまった」
「ほどほどにしとけよ、黒崎」
「そうだぞ、一護」
「ルキア・・・・愛してる・・・・・」
ルキアの幻を見ていた。
アメジストの瞳でくるくる表情のかわるルキアを。
「おい、今、黒崎、ルキア愛してるって・・・」
「んー?なんかふわふわしてすっげー心地いい。ルキアのことは忘れちまったけど、なんかさっき一瞬ルキアの幻を見た気がする」
「黒崎、お前やっぱり、何かが原因で記憶が欠如してるんだ。4番隊に、早めに診てもらえ!」
「うーん。まぁ、また今度な。じゃあ、俺帰るわ・・・・・」
ふらつきながらも、一護は井上の館に帰ってきた。
「黒崎君、酔ってるの?」
「ルキア、好きだぜ・・・・」
「黒崎君、私を見て!
「んー?井上・・・・?」
「そう、私は井上織姫。あなたの妻で、あなたは私の夫。朽木ルキアのことは、全て忘れなさい」
浦原から、薬の欠点を教えられていた。泥酔したり、記憶が混濁すると、思い出す可能性があると。今まさに、一護は泥酔していて、ルキアのことを思い出しかけていた。
もしも思い出しかけた時には、忘れさせたい者の名を強く思い、言いきかせること。
「井上・・・・俺が愛してるのは、井上だけだ・・・・・」
「嬉しい、黒崎君」
その日、二人は体を重ね合った。
そのことを、翌日に13番隊の執務室で一護から聞いたルキアは、茫然となった。
「そうか・・井上と・・・・」
「ルキア、俺のことは忘れろよ。恋次とやり直すのはどうだ?」
「一護・・・・私には、貴様しかいないのだ。愛している、一護・・・・」
「やめてくれ!俺は井上を愛してるんだ。洗脳するみたいな言い方は止めてくれ!」
「洗脳・・・・まさか!」
まさかと思い、浦原の店を訪ねた。
そこで、数十年前に、確かに井上に死後の記憶を欠如させる薬を、井上に売ったと聞き出した。
だが、薬の解毒薬はなく、泥酔したり意識が混濁すると思い出しそうになるくらいで、根本的な解決法はないとの、ことだった。
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