僕はそうして君におちていく7
二人だけでひっそりとクリスマスパーティーをして、プレゼントを交換しあった。
京楽からのプレゼントは手袋で、浮竹からのプレゼントはマフラーだった。
「寒い季節だから、いいね」
「ああ、京楽もありがとう。手袋、大事に使わせてもらう」
京楽は、浮竹からもらったマフラーを首に巻いて、浮竹は京楽からもらった手袋をした。
暇な時もあるが、編み物をしている時間はないので、それぞれ呉服屋で買ったものだった。着物ばかりを扱っているわけではなく、いろいろと取り扱っていた。
冬のバーゲンセールで買ったもので、京楽は高い手袋を買ったが、浮竹はあまり金がないので安いマフラーを購入した。
「俺のは安物だから、すまないな」
「言えば、お金あげたのに」
「お前にプレゼントするものを、俺がお前にもらった金でどうする!」
「僕は、君にもらえるなら何でも嬉しいよ」
京楽は、浮竹を抱きしめた。
その柔らかな白髪に顔を埋める。
最近、京楽にハグされることが増えた。でも、友人の関係上なのだろうと思って、浮竹は何も言わない。
京楽は、それが心地よくもあり、苦痛でもあった。
嫌なら嫌だと、はっきりしてほしかった。
拒絶されないということは、少しは自分のことを好きになってくれているのだろうか。
年末も一緒に過ごし、年明けには初詣にいった。
人がいっぱいで、浮竹は京楽とはぐれて、一人と神社の裏側にいく。
京楽が霊圧を辿って見つけてくれたので、すぐに合流できた。
「おみくじ引いてたんだ。はい、これが君の分」
「ああ、ありがとう」
京楽は大凶で、浮竹は吉だった。
「今年の僕の一年は、ついていないんだろうか」
「俺がいるだろ。お前の大凶なんて、吹き飛ばしてやるさ」
頼もしい浮竹の言葉に、京楽も笑った。
京楽も浮竹も、山じいからお年玉をもらった。
京楽には5千環を、浮竹には3万環を。
「この違いって何、山じい」
山じいに聞くと、山じいは「日頃の行いじゃ」と言って、去って行った。
「なんだか、この年でお年玉って少し恥ずかしいな。先生の気持ちは嬉しいが」
「ああ、僕からも君にお年玉あるんだよ。受け取って」
差し出されたお年玉袋を、浮竹は受け取らなかった。
「受け取ってもらえないなら、捨てるか燃やすしかないね」
本当に捨てるか燃やすかしそうなので、仕方なく浮竹は受け取る。
中には、10万環入っていた。
「京楽、さすがにこんな額は」
「甘味屋にでもいって、ぱーっと使おう。君のおごりで」
浮竹は、苦笑する。
ようは、一緒に出掛けてその時かかるお金に使ってほしいようだった。
いつもは京楽のおごりなので、浮竹も素直にお年玉をもらった。
新しい小説がちょうど欲しかったのだ。それに使っても、ばちは当たらないよなと思いながら、浮竹は大事そうにもらったお金を鍵付きのタンスにしまいこむ。
ある日の午後の授業は、稽古試合だった。
京楽と浮竹は向かいあい、礼をすると、どちらともなく木刀を手に襲いかかる。
何度も切り結びあう。
「破道の4、白雷」
浮竹は、鬼道の腕が京楽より優れていた。
詠唱破棄でも、十分に威力はある。
それをさっと避けて、木刀で喉を一突きしようとすると、さっとかわされた。
15分ほど切り結び合い、浮竹が汗で地面を足で滑らせたところに、京楽の木刀が浮竹の首元にやってきて、勝者は京楽となった。
「運が悪かったな」
「今度は、俺がお前を負かせてやる」
「再戦、いつでも受けつけるよ」
「しばらくはいい。お前とはいつも剣を交えているから。先生に言って、訓練を受けてみよう」
「げ、山じいのあの訓練を受けるの?」
「お前を負かすためだ」
「よくやるね・・・・・」
地獄ともいわれる、山本総隊長の訓練は、過酷を極めた。
それを、体の弱いはずの浮竹は、汗水を垂らしながらも克服する。
「のう、春水、十四郎」
「はい、先生」
「なんだい、山じい」
「そなたらは、卒業したらそれぞれ席官になってもらおうと思っておる。昨今の死神不足は大変でのう。貴族というだけで死神になったような輩もいる。質をよくするために統学院を建設したが、きっとお主らは、隊長まで昇りつめると思うのじゃ」
「ちょっと、まだ院生だよ。話が飛びすぎでしょ」
「俺もそう思います、先生。普通の死神になって経験を積んでから、席官になるほうがいいと思います」
「そうは言うてものう」
「こればっかりは、譲れないね。いきなり席官なんて、他の死神が黙っていないでしょ」
「うーむ。難しいのお」
山本総隊長は、立派な長い髭を触りながら、思案する。
「まだ卒業まで猶予はある。5回生、6回生は普通の死神に交じって、実地訓練も頻繁に行う。その結果を見て、判断することにしよう」
その当時は、まだ学院は6年生まであって、飛び級で卒業することはできなかった。
飛び級で卒業できるなら、京楽も浮竹もすでに死神になっているだろう。
山本総隊長は、京楽と浮竹を下がらせた。
「霊王の、意思・・・・か・・・・・」
----------------------------------
私は、生まれついてずっと霊王だった。
世界であった。
私は四肢を切断され、心臓を奪われて水晶の中に閉じ込められた。
私はそれでも世界だった。
私は、ふとある日右腕が誰かに宿っていることを知った。
私は、その者を見守った。
その者の持つ感情が、私を震えさせた。
私は動けない。
けれど、その時の私は自由だった。
水晶の中に閉じ込められたままの私は、自由を、仮初の体で体験した。
私はそれでも世界であった。
死神を憎んだ。
私をこうなるようにした死神を。
私の右腕を宿した者は、死神になろうとしていた。
それを、私は止めることができない。
できることなら、私の代わりになってほしかった。
私は自由が欲しかった。
ただ、それだけなのだ。
私は、また長い眠りについた。
ふと目を覚ますと、私は右腕になっていた。
愛しい。
そう思った。
右腕を宿らせた、私から見れば赤子よりも小さい存在が、愛しかった。
ただ、それだけだった。
---------------------------------------
4回生になっていた。
京楽も浮竹も、成績はよく、剣の腕も鬼道の腕も、普通の死神以上だった。
それでも、学生であることはかわりなく、授業を受け続けた。
浮竹と京楽は、二人で他の死神に交じって実地訓練をすることが多くなった。
すでに、卍解を習得済だった。
それを知っているのは、恐らく山本総隊長のみ。
山本総隊長の企みかはわからぬが、席官クラスが請け負う虚の退治を任されることが多くなっていた。
時折、手傷を負うこともある。
普通の死神以上といっても、まだ正式な死神ではない。
生死をかけた戦いに、まだ慣れていなかった。
--------------------------------
私は、世界であり続けようとした。
私が死ぬ時、それは世界が滅びる時。
私が残した右腕は、呪詛がかかっていた。
私を宿すと、私になるという。
いつか。
「私」になったその時。
私は、はじめてこの世界から解放される。
それを心待ちにしながら、私は世界であり続けた。
また、長い眠りに私はつく。
どうか、目覚めた時は自由でありますように。
その願いは、目を覚ますたびに叶わなかった。
私は世界。
霊王。
私を宿らせるは、すなわち霊王となること。
それを、赤子より小さいあの死神になる青年は、知らなかった。
京楽からのプレゼントは手袋で、浮竹からのプレゼントはマフラーだった。
「寒い季節だから、いいね」
「ああ、京楽もありがとう。手袋、大事に使わせてもらう」
京楽は、浮竹からもらったマフラーを首に巻いて、浮竹は京楽からもらった手袋をした。
暇な時もあるが、編み物をしている時間はないので、それぞれ呉服屋で買ったものだった。着物ばかりを扱っているわけではなく、いろいろと取り扱っていた。
冬のバーゲンセールで買ったもので、京楽は高い手袋を買ったが、浮竹はあまり金がないので安いマフラーを購入した。
「俺のは安物だから、すまないな」
「言えば、お金あげたのに」
「お前にプレゼントするものを、俺がお前にもらった金でどうする!」
「僕は、君にもらえるなら何でも嬉しいよ」
京楽は、浮竹を抱きしめた。
その柔らかな白髪に顔を埋める。
最近、京楽にハグされることが増えた。でも、友人の関係上なのだろうと思って、浮竹は何も言わない。
京楽は、それが心地よくもあり、苦痛でもあった。
嫌なら嫌だと、はっきりしてほしかった。
拒絶されないということは、少しは自分のことを好きになってくれているのだろうか。
年末も一緒に過ごし、年明けには初詣にいった。
人がいっぱいで、浮竹は京楽とはぐれて、一人と神社の裏側にいく。
京楽が霊圧を辿って見つけてくれたので、すぐに合流できた。
「おみくじ引いてたんだ。はい、これが君の分」
「ああ、ありがとう」
京楽は大凶で、浮竹は吉だった。
「今年の僕の一年は、ついていないんだろうか」
「俺がいるだろ。お前の大凶なんて、吹き飛ばしてやるさ」
頼もしい浮竹の言葉に、京楽も笑った。
京楽も浮竹も、山じいからお年玉をもらった。
京楽には5千環を、浮竹には3万環を。
「この違いって何、山じい」
山じいに聞くと、山じいは「日頃の行いじゃ」と言って、去って行った。
「なんだか、この年でお年玉って少し恥ずかしいな。先生の気持ちは嬉しいが」
「ああ、僕からも君にお年玉あるんだよ。受け取って」
差し出されたお年玉袋を、浮竹は受け取らなかった。
「受け取ってもらえないなら、捨てるか燃やすしかないね」
本当に捨てるか燃やすかしそうなので、仕方なく浮竹は受け取る。
中には、10万環入っていた。
「京楽、さすがにこんな額は」
「甘味屋にでもいって、ぱーっと使おう。君のおごりで」
浮竹は、苦笑する。
ようは、一緒に出掛けてその時かかるお金に使ってほしいようだった。
いつもは京楽のおごりなので、浮竹も素直にお年玉をもらった。
新しい小説がちょうど欲しかったのだ。それに使っても、ばちは当たらないよなと思いながら、浮竹は大事そうにもらったお金を鍵付きのタンスにしまいこむ。
新しい一年も、また仲良く過ごしていけそうだった。
ある日の午後の授業は、稽古試合だった。
京楽と浮竹は向かいあい、礼をすると、どちらともなく木刀を手に襲いかかる。
何度も切り結びあう。
「破道の4、白雷」
浮竹は、鬼道の腕が京楽より優れていた。
詠唱破棄でも、十分に威力はある。
それをさっと避けて、木刀で喉を一突きしようとすると、さっとかわされた。
15分ほど切り結び合い、浮竹が汗で地面を足で滑らせたところに、京楽の木刀が浮竹の首元にやってきて、勝者は京楽となった。
「運が悪かったな」
「今度は、俺がお前を負かせてやる」
「再戦、いつでも受けつけるよ」
「しばらくはいい。お前とはいつも剣を交えているから。先生に言って、訓練を受けてみよう」
「げ、山じいのあの訓練を受けるの?」
「お前を負かすためだ」
「よくやるね・・・・・」
地獄ともいわれる、山本総隊長の訓練は、過酷を極めた。
それを、体の弱いはずの浮竹は、汗水を垂らしながらも克服する。
「のう、春水、十四郎」
「はい、先生」
「なんだい、山じい」
「そなたらは、卒業したらそれぞれ席官になってもらおうと思っておる。昨今の死神不足は大変でのう。貴族というだけで死神になったような輩もいる。質をよくするために統学院を建設したが、きっとお主らは、隊長まで昇りつめると思うのじゃ」
「ちょっと、まだ院生だよ。話が飛びすぎでしょ」
「俺もそう思います、先生。普通の死神になって経験を積んでから、席官になるほうがいいと思います」
「そうは言うてものう」
「こればっかりは、譲れないね。いきなり席官なんて、他の死神が黙っていないでしょ」
「うーむ。難しいのお」
山本総隊長は、立派な長い髭を触りながら、思案する。
「まだ卒業まで猶予はある。5回生、6回生は普通の死神に交じって、実地訓練も頻繁に行う。その結果を見て、判断することにしよう」
その当時は、まだ学院は6年生まであって、飛び級で卒業することはできなかった。
飛び級で卒業できるなら、京楽も浮竹もすでに死神になっているだろう。
山本総隊長は、京楽と浮竹を下がらせた。
「霊王の、意思・・・・か・・・・・」
----------------------------------
私は、生まれついてずっと霊王だった。
世界であった。
私は四肢を切断され、心臓を奪われて水晶の中に閉じ込められた。
私はそれでも世界だった。
私は、ふとある日右腕が誰かに宿っていることを知った。
私は、その者を見守った。
その者の持つ感情が、私を震えさせた。
私は動けない。
けれど、その時の私は自由だった。
水晶の中に閉じ込められたままの私は、自由を、仮初の体で体験した。
私はそれでも世界であった。
死神を憎んだ。
私をこうなるようにした死神を。
私の右腕を宿した者は、死神になろうとしていた。
それを、私は止めることができない。
できることなら、私の代わりになってほしかった。
私は自由が欲しかった。
ただ、それだけなのだ。
私は、また長い眠りについた。
ふと目を覚ますと、私は右腕になっていた。
愛しい。
そう思った。
右腕を宿らせた、私から見れば赤子よりも小さい存在が、愛しかった。
ただ、それだけだった。
---------------------------------------
4回生になっていた。
京楽も浮竹も、成績はよく、剣の腕も鬼道の腕も、普通の死神以上だった。
それでも、学生であることはかわりなく、授業を受け続けた。
浮竹と京楽は、二人で他の死神に交じって実地訓練をすることが多くなった。
すでに、卍解を習得済だった。
それを知っているのは、恐らく山本総隊長のみ。
山本総隊長の企みかはわからぬが、席官クラスが請け負う虚の退治を任されることが多くなっていた。
時折、手傷を負うこともある。
普通の死神以上といっても、まだ正式な死神ではない。
生死をかけた戦いに、まだ慣れていなかった。
--------------------------------
私は、世界であり続けようとした。
私が死ぬ時、それは世界が滅びる時。
私が残した右腕は、呪詛がかかっていた。
私を宿すと、私になるという。
いつか。
「私」になったその時。
私は、はじめてこの世界から解放される。
それを心待ちにしながら、私は世界であり続けた。
また、長い眠りに私はつく。
どうか、目覚めた時は自由でありますように。
その願いは、目を覚ますたびに叶わなかった。
私は世界。
霊王。
私を宿らせるは、すなわち霊王となること。
それを、赤子より小さいあの死神になる青年は、知らなかった。
PR
- トラックバックURLはこちら