僕はそうして君に落ちていく2
2回生になっていた。
親友、という地位を築いたまま、京楽はよく浮竹の傍にいた。
相変らず花街には遊びにいくし、浮竹に似た遊女にはまって、大金をつぎ込んだりもした。
ある日、集会があった。
夏の暑い日だった。
山じいの話は長くて、ああ、浮竹がふらついている、これは倒れるなと思い、近づいてそっとその体を抱き上げた。
「春水、十四郎!?」
「ごめん山じい、浮竹熱中症みたい。医務室につれていくよ」
お姫様抱っこと呼ばれる形で抱き上げて、医務室に連れていくと、朦朧とした意識の狭間で、浮竹が京楽に謝っていた。
「すまな・・・・い・・・迷惑を・・・・」
「いいから、ほら、水飲んで」
氷水の入ったコップを手渡すと、こくこくと氷水を嚥下するその白い喉に、ごくりと唾を飲みこんだ。
艶やかだった。
今までのどの遊女よりも、妖艶だと思った。
浮竹をベッドに寝かせて、氷枕を作ってやり、体全体を冷やしてやった。
医務室に教師はおらず、浮竹と京楽の二人きりだった。
浮竹の意識はない。
ごくりと、京楽はまた唾を飲みこんだ。
浮竹の、桜色の淡い唇に、自分のそれを押し付けた。
浮竹の反応はなかった。
それに安堵する。
「君が、好きだよ・・・・・」
僕はもう、君に魅入られているんだ。
君の元へ落ちていく。
いつか、君も僕の元へ落ちてきてくれたら・・・・・・。
淡い願いを胸に、浮竹の介抱を続けた。
秋になり、浅打は斬魄刀として、二人の手の中にあった。
2回生で斬魄刀を手にするような優秀な生徒は初めてで、教師たちも山じいも喜んだ。
きっと、よき死神になると。
その頃、京楽も浮竹と同じ死神になろうと思っていた。
元々、放蕩がすぎて入れられた学校だった。死神になる気はなかった。
だけど、浮竹に出会ってしまった。
浮竹は、家族に恩返しがしたいと、死神になりたくて必死だった。一緒に死神になれたら、きっと学院を卒業しても隣にいれると思えた。
浮竹を自分のものにしたいという、浅ましい欲望を抱いたまま、浮竹の傍で親友として隣に立ち、笑い時には喧嘩もして、けれど比翼の鳥のようにお互いを支え合った。
「今度の実習は、現世で行われるそうだ。浅打しか持たない者がほとんどだから、本物の死神もついていくし、虚を退治することになるが、弱い虚しか出ない場所の予定だ」
教師の言葉に、浮竹と京楽は、現世にいってみたいという、虚退治とは違う思いを現実にすることになる。
やがて、実習が始まった。
「ほんとに、弱いのしか出てこないね」
すでに始解をして二つの斬魄刀の姿になっている、元浅打は、面白いようにスパスパと襲い掛かってくる虚を両断した。
「気を抜くな!」
「大丈夫。お互い斬魄刀があるからね。鬼道も使える。それに、念のためにと席官の死神さんもいることだし・・・・」
襲い掛かってくる虚を退治しながら、京楽は気楽でいた。
ほんの一瞬のことだった。
「京楽、よけろ!」
突然のことで、京楽は何が起こったのかわからなかった。
席官が、血を流して傷ついていた。
「なんだ、こんな強い虚が出るなんて聞いてないぞ!」
他の院生たちは、散り散りに逃げ出している。
「緊急退避だ!援軍を呼べ!」
ざわめく実習で、京楽はただ浮竹を抱きしめた。
京楽を庇って、浮竹は背中に大けがを負っていた。
「許さない・・・」
ゆらりと。
高まっていく霊圧に、浮竹を傷つけた虚が、餌がここにあるとやってくる。
京楽は、たった一撃で、席官を傷つけた虚を退治してしまっていた。
「浮竹、今4番隊の人に診てもらうからね!」
「京楽・・・・・無事で、よかった・・・・・・」
「浮竹、しっかりして!」
「お前は、俺の光・・・・・」
それが何を意味するのか、結局実習が緊急退避で終わった後も分からなかった。
血を流す浮竹の傷は深かった。
「僕を庇うなんて、なんて無茶をするの」
4番隊の死神に回道をかけられる浮竹を見ながら、守ってくれたことに感謝より悲しみが深かった。
僕を庇うなんて。
浮竹は、親友を庇ったつもりなのだろう。
でも、京楽は浮竹が傷つくことを恐れた。
ただでさえ体が弱いのだ。
そこに虚の傷まで加えてしまえば、きっと生死に関わる。
幸いなことに、傷は深かったが、傷に急所はなかったので、処置が終わり救護詰所で入院、という形になった。
「浮竹・・・・・」
病院のベッドの上で、青白い顔で眠る浮竹は、美しかったがまるで死んでいるようで、京楽はその頬に手をあてて、その暖かな温度に浮竹が生きているのだと、安心した。
「浮竹、好きだよ」
そっと唇に唇を重ねて、浮竹の少し長くなった白髪を撫でた。
浮竹は、3日間昏々と眠り続けた。
京楽は、学院をさぼってずっと浮竹の傍にいた。
「ん・・・京楽?俺は・・・ああ、お前を庇って、俺は倒れたのか」
「浮竹!何処か痛いところはない!?」
京楽が、目を覚ました浮竹に、声をかける。
「ちょっと、背中が引きつるような痛みがある」
「僕を庇うから!本当に心配したんだよ。君が死んでしまうかと思った」
「いや、大げさだろう。虚でやられたくらいで、死にはしない」
でも、4番隊が駆けつけるのが遅かったら、最悪失血死もありえた。
「浮竹、約束して。もう僕を庇ったりしないって」
「それはできない。お前は、俺を庇うだろう?」
「それは・・・・・・」
「なら、俺もお前を庇う」
「お互い、強くなろう。虚なんかにやられないくらい、強く」
「ああ、そうだな。虚なんかにやられて、死神になる前に命を落とすなんて、ばかげている」
今回の実習では、死者が3人でた。
今後の実習でも、死者は出るだろう。
お互い、強くなろうと心に決めた。
浮竹は、意識を取り戻したものの、まだ全快ではなく、数日入院を余儀なくされた。
「浮竹、傷はもう大丈夫なの?」
「ああ、京楽。ありがとう、もう大丈夫だ。あさってには、退院できるって」
4番隊の死神に傷を大分癒してもらったおかげで、浮竹の入院は1週間ですんだ。
「何か、欲しいものとかない?」
「アイスが食べたい」
「暑いもんね。後で買いに行くから、二人で食べようか」
「ああ!」
浮竹は甘いものが好きで、夏場はよくアイスやらかき氷やらを好んで食べた。
そんな浮竹が愛しくて、京楽は浮竹の願いならなるべく叶えた。
「京楽のお陰で、無事退院できた。いろいろと付き添ってくれて、ありがとう」
「僕たち親友じゃない」
「そうだな」
「比翼の鳥みたいだね」
「どちらかが欠けると、飛べなくなると?」
「そんな関係でいたいってだけだよ」
頭の中で、何度浮竹を組み敷いて犯したことだろうか。
浅ましい欲を抱えたまま、親友として笑っていた。
ああ。
落ちていく。
君の元へ。
親友、という地位を築いたまま、京楽はよく浮竹の傍にいた。
相変らず花街には遊びにいくし、浮竹に似た遊女にはまって、大金をつぎ込んだりもした。
ある日、集会があった。
夏の暑い日だった。
山じいの話は長くて、ああ、浮竹がふらついている、これは倒れるなと思い、近づいてそっとその体を抱き上げた。
「春水、十四郎!?」
「ごめん山じい、浮竹熱中症みたい。医務室につれていくよ」
お姫様抱っこと呼ばれる形で抱き上げて、医務室に連れていくと、朦朧とした意識の狭間で、浮竹が京楽に謝っていた。
「すまな・・・・い・・・迷惑を・・・・」
「いいから、ほら、水飲んで」
氷水の入ったコップを手渡すと、こくこくと氷水を嚥下するその白い喉に、ごくりと唾を飲みこんだ。
艶やかだった。
今までのどの遊女よりも、妖艶だと思った。
浮竹をベッドに寝かせて、氷枕を作ってやり、体全体を冷やしてやった。
医務室に教師はおらず、浮竹と京楽の二人きりだった。
浮竹の意識はない。
ごくりと、京楽はまた唾を飲みこんだ。
浮竹の、桜色の淡い唇に、自分のそれを押し付けた。
浮竹の反応はなかった。
それに安堵する。
「君が、好きだよ・・・・・」
僕はもう、君に魅入られているんだ。
君の元へ落ちていく。
いつか、君も僕の元へ落ちてきてくれたら・・・・・・。
淡い願いを胸に、浮竹の介抱を続けた。
秋になり、浅打は斬魄刀として、二人の手の中にあった。
2回生で斬魄刀を手にするような優秀な生徒は初めてで、教師たちも山じいも喜んだ。
きっと、よき死神になると。
その頃、京楽も浮竹と同じ死神になろうと思っていた。
元々、放蕩がすぎて入れられた学校だった。死神になる気はなかった。
だけど、浮竹に出会ってしまった。
浮竹は、家族に恩返しがしたいと、死神になりたくて必死だった。一緒に死神になれたら、きっと学院を卒業しても隣にいれると思えた。
浮竹を自分のものにしたいという、浅ましい欲望を抱いたまま、浮竹の傍で親友として隣に立ち、笑い時には喧嘩もして、けれど比翼の鳥のようにお互いを支え合った。
「今度の実習は、現世で行われるそうだ。浅打しか持たない者がほとんどだから、本物の死神もついていくし、虚を退治することになるが、弱い虚しか出ない場所の予定だ」
教師の言葉に、浮竹と京楽は、現世にいってみたいという、虚退治とは違う思いを現実にすることになる。
やがて、実習が始まった。
「ほんとに、弱いのしか出てこないね」
すでに始解をして二つの斬魄刀の姿になっている、元浅打は、面白いようにスパスパと襲い掛かってくる虚を両断した。
「気を抜くな!」
「大丈夫。お互い斬魄刀があるからね。鬼道も使える。それに、念のためにと席官の死神さんもいることだし・・・・」
襲い掛かってくる虚を退治しながら、京楽は気楽でいた。
ほんの一瞬のことだった。
「京楽、よけろ!」
突然のことで、京楽は何が起こったのかわからなかった。
席官が、血を流して傷ついていた。
「なんだ、こんな強い虚が出るなんて聞いてないぞ!」
他の院生たちは、散り散りに逃げ出している。
「緊急退避だ!援軍を呼べ!」
ざわめく実習で、京楽はただ浮竹を抱きしめた。
京楽を庇って、浮竹は背中に大けがを負っていた。
「許さない・・・」
ゆらりと。
高まっていく霊圧に、浮竹を傷つけた虚が、餌がここにあるとやってくる。
京楽は、たった一撃で、席官を傷つけた虚を退治してしまっていた。
「浮竹、今4番隊の人に診てもらうからね!」
「京楽・・・・・無事で、よかった・・・・・・」
「浮竹、しっかりして!」
「お前は、俺の光・・・・・」
それが何を意味するのか、結局実習が緊急退避で終わった後も分からなかった。
血を流す浮竹の傷は深かった。
「僕を庇うなんて、なんて無茶をするの」
4番隊の死神に回道をかけられる浮竹を見ながら、守ってくれたことに感謝より悲しみが深かった。
僕を庇うなんて。
浮竹は、親友を庇ったつもりなのだろう。
でも、京楽は浮竹が傷つくことを恐れた。
ただでさえ体が弱いのだ。
そこに虚の傷まで加えてしまえば、きっと生死に関わる。
幸いなことに、傷は深かったが、傷に急所はなかったので、処置が終わり救護詰所で入院、という形になった。
「浮竹・・・・・」
病院のベッドの上で、青白い顔で眠る浮竹は、美しかったがまるで死んでいるようで、京楽はその頬に手をあてて、その暖かな温度に浮竹が生きているのだと、安心した。
「浮竹、好きだよ」
そっと唇に唇を重ねて、浮竹の少し長くなった白髪を撫でた。
浮竹は、3日間昏々と眠り続けた。
京楽は、学院をさぼってずっと浮竹の傍にいた。
「ん・・・京楽?俺は・・・ああ、お前を庇って、俺は倒れたのか」
「浮竹!何処か痛いところはない!?」
京楽が、目を覚ました浮竹に、声をかける。
「ちょっと、背中が引きつるような痛みがある」
「僕を庇うから!本当に心配したんだよ。君が死んでしまうかと思った」
「いや、大げさだろう。虚でやられたくらいで、死にはしない」
でも、4番隊が駆けつけるのが遅かったら、最悪失血死もありえた。
「浮竹、約束して。もう僕を庇ったりしないって」
「それはできない。お前は、俺を庇うだろう?」
「それは・・・・・・」
「なら、俺もお前を庇う」
「お互い、強くなろう。虚なんかにやられないくらい、強く」
「ああ、そうだな。虚なんかにやられて、死神になる前に命を落とすなんて、ばかげている」
今回の実習では、死者が3人でた。
今後の実習でも、死者は出るだろう。
お互い、強くなろうと心に決めた。
浮竹は、意識を取り戻したものの、まだ全快ではなく、数日入院を余儀なくされた。
「浮竹、傷はもう大丈夫なの?」
「ああ、京楽。ありがとう、もう大丈夫だ。あさってには、退院できるって」
4番隊の死神に傷を大分癒してもらったおかげで、浮竹の入院は1週間ですんだ。
「何か、欲しいものとかない?」
「アイスが食べたい」
「暑いもんね。後で買いに行くから、二人で食べようか」
「ああ!」
浮竹は甘いものが好きで、夏場はよくアイスやらかき氷やらを好んで食べた。
そんな浮竹が愛しくて、京楽は浮竹の願いならなるべく叶えた。
「京楽のお陰で、無事退院できた。いろいろと付き添ってくれて、ありがとう」
「僕たち親友じゃない」
「そうだな」
「比翼の鳥みたいだね」
「どちらかが欠けると、飛べなくなると?」
「そんな関係でいたいってだけだよ」
頭の中で、何度浮竹を組み敷いて犯したことだろうか。
浅ましい欲を抱えたまま、親友として笑っていた。
ああ。
落ちていく。
君の元へ。
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