僕はそうして君に落ちていく1
私は霊王。
霊王は私。
俺は霊王。
霊王は俺。
霊王の残滓、右腕が残した、霊王の器、浮竹十四郎。霊王宮で、彼はまたいつものように、愛しい京楽春水がやってくるのを待つ。
月に一度の、逢瀬を楽しみにして。
-------------------------------------
「この子は、浮竹十四郎という。お主の寮の部屋の相部屋の相手じゃ。体が弱くてのぉ。肺を患っていて、時折血を吐いて発作をおこす」
そういう、山じいの言葉を、どこか遠くで聞いていた。
まだ、少年独特の幼さの抜けない愛らしい顔立ちの少女に見えた少年は、にこりと微笑んだ。
「浮竹十四郎という・・・・・ええと、京楽春水であってるかな?これからよろしく」
「ああ、うん」
差し出された手を握りしめる。
華奢で、温かかった。
「聞いておるのか、春水!」
「ん、ああ、何、山じい」
「たわけ!」
山じいに、頭を殴られた京楽は、頭を手でさすりつつ、怒る師を見上げた。
「じゃから、この十四郎は体が弱い。いろいろと助けてやってくれ」
「うん、分かった」
一目ぼれ。
山じいに引き合わされた時、女の子かと思った。でも違った。
でも、胸はときめいたままで。
これが、世にいう一目ぼれというやつなのだろう。
相手は同性だ。
ということは、自分はいわゆる同性愛者なのだろうか?
でも、女の子は好きだ。
遊郭にだって、通い始めている。
好きになるのに、性別など関係ないのだと、その時初めて理解した。
死神統学院に入学して早々に、浮竹が血を吐いて倒れた。
その体を抱きとめて、医務室に運ぶ。
身体が軽すぎて、驚いた。
同じ性別なのかと思うくらい、華奢で。
白い髪は、なんでも3歳の時に病にかかって死にかけた時に色素を失ったのだという。でも、白い髪は京楽には神秘的に見えた。
翡翠色の瞳を際立たせる色だと思った。肌の色も白いし、院生の女ものの服をきせたら、女の子で通るんじゃないかと思った。
浮竹は、勉強もよくできたし、鬼道の腕も高いし、持っている霊圧はすごく高くて、剣の腕も強かった。
でも、体が弱いせいで、よく授業を欠席していた。
京楽はというと、浮竹と同じクラスになったはいいが、浮竹と顔を合わせると胸がどきどきしてしまうので、なるべく離れて過ごした。
よく授業をさぼった。
浮竹のことを忘れようと、遊女を抱くのだが、遊女に浮竹と名を呼んでしまい、「旦那の大切な人でありんすか?」と問われる始末だった。
「は~。重症だよねぇ、僕。いっそ、告白してみようかな・・・・」
でも、絶対に断られる。そう思った。
浮竹は、とにかくなんでも卒なくこなした。
発作を起こしたり、熱を出したりして授業を欠席すると、補習を受けて、出席日数を確保していた。
京楽は、落第にならないように、授業をさぼるときもあれば、出る時もあった。
そんなある日、京楽は浮竹に屋上に呼び出された。
まさか、自分の想いがばれたのだろうか。
それとも、浮竹も自分のことが好きなのだろうか。
そんな夢見がちなことを考えている京楽に、浮竹は怒声を放った。
「京楽、お前はちゃんとできるのに、何故授業をさぼるんだ!剣の腕だってあるし、鬼道だってできるし、その気になれば勉学だってできるだろうに!」
「え。なんで、知ってるの」
真顔でそう問われて、浮竹は困ったように微笑んだ。
「だって、友達だろう?」
ああ、うん。
友達だね。
今の関係は、友達といえるかも怪しいけど。
「分からないところがあったら聞いてくれ。もっと、俺を頼ってくれ。俺が病気や熱を出して休んだ時には、お前を頼るから・・・・・・」
浮竹は、すでに特進クラスでリーダー的存在になっていた。
その浮竹が、何を好き好んで、不良とかいわれている上流貴族の、学院をなめまくっている京楽の傍にいるのかというと、やはり寮で同じ部屋だということが大きいだろう。
山じいに、世話を任されているから。
そう言い聞かせて、京楽は浮竹への想いを封じ込めた。
浮竹に屋上で怒られた日から、京楽の生活は変わった。
浮竹が、授業をさぼっていると、やってきてひきずってでも、授業を受けさせるのだ。
仕方なく、京楽もさぼることをなるべく少なくした。
鬼道の腕もそうだが、特に剣の腕では京楽と浮竹が群を抜いており、二人が組まされることが多かった。
「京楽、本気でこい!」
「分かってるよ!君こそ、手加減はしないでよ」
木刀で、何度も切り結びあった。
時間だけが過ぎていく。
結局、引き分けになった。時間オーバーで。
どっちが本当に強いか。そんなことが、賭けの対象になったりしていた。
1回生の秋。
浮竹は、隣のクラスの女子に呼び出されていた。
京楽はその姿をたまたま目撃してしまい、こっそりと後をつけてしまっていた。
「浮竹君・・・・・あなたのことが好きなの!お願い、付き合って!」
女の子は、かわいい顔をした、浮竹に似合いそうな子だった。
心の中で、浮竹は僕のものだと、叫んだ。
「ごめん。今、そういうこと考えていられないから。ほんとにごめん」
「好きな人、いるの?」
「ああ・・・・」
ショックを受けた。
誰だろう、浮竹の好きなやつって。
ああ、後なんてつけるんじゃなかった。
京楽は、女遊びがさらに激しくなった。
付き合ってといってくる、金目当ての女を選んだ。純真でできているような子は、後後がめんどくさい。
金ももっていて、見かけもいい京楽はもてた。
ある日、花街に遊びにいって、酒を浴びるように飲んで帰ってきた京楽を、浮竹が叱った。
「京楽、女遊びはほどほどにしろ!酒ばかり飲んで女と戯れて・・・そんなことで、死神になれると思っているのか!」
「うーん。僕は、別に死神になりたいわけじゃないからね。女遊びをほどほどにねぇ・・・それとも、君が女の子の代わりをしてくれるの?」
そう言うと、浮竹は赤くなって、京楽の頬を叩いた。
「俺は男だ!」
「知ってるよ・・・・・ねぇ、君のことが好きっていったら、どうする?」
「俺は、男だ。京楽は女が好きなんだろう。見た目はこんなでも、俺は男だ」
中性的な外見を、浮竹は嫌っているようだった。
「知ってるよ・・・・・」
浮竹を抱き寄せて、ただ抱きしめた。
はじめは浮竹はビックリしてもがいていたが、大人しくなった。
「京楽とは、親友でありたい」
「うん、そうだね」
そうやって、少しずつ浮竹を壁に追いやっていく。
いつか、手に入れてみせよう。
京楽は、そう決意した。
浮竹から離れて、京楽は朗らかに笑った。
「君があんまりいい匂いするから、つい抱きしめちゃった。シャワー浴びるから待ってて。朝食、一緒に食べにいこう」
「ああ。俺、何か匂うか?」
「んー。なんか花の甘い香がする」
「ああ、ただのシャンプーの匂いだ。隣のクラスの女の子からもらったんだ。綺麗な髪をしているからって。こんな、老人みたな白髪、不気味なだけなのにな」
「そんなことないよ。僕も、その子には同意見だな。君の白髪は神秘的で綺麗だよ。短いのが少し寂しいかな。伸ばしてみたらどう?」
「でも、手入れとか大変だろう」
「何事も、慣れ、だよ」
「そうか。お前がそこまでいうなら、伸ばしてみようかな・・・・・・」
僕は。
僕は、そうして君に落ちていく。
君は、そうして僕に落ちていく。
霊王は私。
俺は霊王。
霊王は俺。
霊王の残滓、右腕が残した、霊王の器、浮竹十四郎。霊王宮で、彼はまたいつものように、愛しい京楽春水がやってくるのを待つ。
月に一度の、逢瀬を楽しみにして。
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「この子は、浮竹十四郎という。お主の寮の部屋の相部屋の相手じゃ。体が弱くてのぉ。肺を患っていて、時折血を吐いて発作をおこす」
そういう、山じいの言葉を、どこか遠くで聞いていた。
まだ、少年独特の幼さの抜けない愛らしい顔立ちの少女に見えた少年は、にこりと微笑んだ。
「浮竹十四郎という・・・・・ええと、京楽春水であってるかな?これからよろしく」
「ああ、うん」
差し出された手を握りしめる。
華奢で、温かかった。
「聞いておるのか、春水!」
「ん、ああ、何、山じい」
「たわけ!」
山じいに、頭を殴られた京楽は、頭を手でさすりつつ、怒る師を見上げた。
「じゃから、この十四郎は体が弱い。いろいろと助けてやってくれ」
「うん、分かった」
一目ぼれ。
山じいに引き合わされた時、女の子かと思った。でも違った。
でも、胸はときめいたままで。
これが、世にいう一目ぼれというやつなのだろう。
相手は同性だ。
ということは、自分はいわゆる同性愛者なのだろうか?
でも、女の子は好きだ。
遊郭にだって、通い始めている。
好きになるのに、性別など関係ないのだと、その時初めて理解した。
死神統学院に入学して早々に、浮竹が血を吐いて倒れた。
その体を抱きとめて、医務室に運ぶ。
身体が軽すぎて、驚いた。
同じ性別なのかと思うくらい、華奢で。
白い髪は、なんでも3歳の時に病にかかって死にかけた時に色素を失ったのだという。でも、白い髪は京楽には神秘的に見えた。
翡翠色の瞳を際立たせる色だと思った。肌の色も白いし、院生の女ものの服をきせたら、女の子で通るんじゃないかと思った。
浮竹は、勉強もよくできたし、鬼道の腕も高いし、持っている霊圧はすごく高くて、剣の腕も強かった。
でも、体が弱いせいで、よく授業を欠席していた。
京楽はというと、浮竹と同じクラスになったはいいが、浮竹と顔を合わせると胸がどきどきしてしまうので、なるべく離れて過ごした。
よく授業をさぼった。
浮竹のことを忘れようと、遊女を抱くのだが、遊女に浮竹と名を呼んでしまい、「旦那の大切な人でありんすか?」と問われる始末だった。
「は~。重症だよねぇ、僕。いっそ、告白してみようかな・・・・」
でも、絶対に断られる。そう思った。
浮竹は、とにかくなんでも卒なくこなした。
発作を起こしたり、熱を出したりして授業を欠席すると、補習を受けて、出席日数を確保していた。
京楽は、落第にならないように、授業をさぼるときもあれば、出る時もあった。
そんなある日、京楽は浮竹に屋上に呼び出された。
まさか、自分の想いがばれたのだろうか。
それとも、浮竹も自分のことが好きなのだろうか。
そんな夢見がちなことを考えている京楽に、浮竹は怒声を放った。
「京楽、お前はちゃんとできるのに、何故授業をさぼるんだ!剣の腕だってあるし、鬼道だってできるし、その気になれば勉学だってできるだろうに!」
「え。なんで、知ってるの」
真顔でそう問われて、浮竹は困ったように微笑んだ。
「だって、友達だろう?」
ああ、うん。
友達だね。
今の関係は、友達といえるかも怪しいけど。
「分からないところがあったら聞いてくれ。もっと、俺を頼ってくれ。俺が病気や熱を出して休んだ時には、お前を頼るから・・・・・・」
浮竹は、すでに特進クラスでリーダー的存在になっていた。
その浮竹が、何を好き好んで、不良とかいわれている上流貴族の、学院をなめまくっている京楽の傍にいるのかというと、やはり寮で同じ部屋だということが大きいだろう。
山じいに、世話を任されているから。
そう言い聞かせて、京楽は浮竹への想いを封じ込めた。
浮竹に屋上で怒られた日から、京楽の生活は変わった。
浮竹が、授業をさぼっていると、やってきてひきずってでも、授業を受けさせるのだ。
仕方なく、京楽もさぼることをなるべく少なくした。
鬼道の腕もそうだが、特に剣の腕では京楽と浮竹が群を抜いており、二人が組まされることが多かった。
「京楽、本気でこい!」
「分かってるよ!君こそ、手加減はしないでよ」
木刀で、何度も切り結びあった。
時間だけが過ぎていく。
結局、引き分けになった。時間オーバーで。
どっちが本当に強いか。そんなことが、賭けの対象になったりしていた。
1回生の秋。
浮竹は、隣のクラスの女子に呼び出されていた。
京楽はその姿をたまたま目撃してしまい、こっそりと後をつけてしまっていた。
「浮竹君・・・・・あなたのことが好きなの!お願い、付き合って!」
女の子は、かわいい顔をした、浮竹に似合いそうな子だった。
心の中で、浮竹は僕のものだと、叫んだ。
「ごめん。今、そういうこと考えていられないから。ほんとにごめん」
「好きな人、いるの?」
「ああ・・・・」
ショックを受けた。
誰だろう、浮竹の好きなやつって。
ああ、後なんてつけるんじゃなかった。
京楽は、女遊びがさらに激しくなった。
付き合ってといってくる、金目当ての女を選んだ。純真でできているような子は、後後がめんどくさい。
金ももっていて、見かけもいい京楽はもてた。
ある日、花街に遊びにいって、酒を浴びるように飲んで帰ってきた京楽を、浮竹が叱った。
「京楽、女遊びはほどほどにしろ!酒ばかり飲んで女と戯れて・・・そんなことで、死神になれると思っているのか!」
「うーん。僕は、別に死神になりたいわけじゃないからね。女遊びをほどほどにねぇ・・・それとも、君が女の子の代わりをしてくれるの?」
そう言うと、浮竹は赤くなって、京楽の頬を叩いた。
「俺は男だ!」
「知ってるよ・・・・・ねぇ、君のことが好きっていったら、どうする?」
「俺は、男だ。京楽は女が好きなんだろう。見た目はこんなでも、俺は男だ」
中性的な外見を、浮竹は嫌っているようだった。
「知ってるよ・・・・・」
浮竹を抱き寄せて、ただ抱きしめた。
はじめは浮竹はビックリしてもがいていたが、大人しくなった。
「京楽とは、親友でありたい」
「うん、そうだね」
そうやって、少しずつ浮竹を壁に追いやっていく。
いつか、手に入れてみせよう。
京楽は、そう決意した。
浮竹から離れて、京楽は朗らかに笑った。
「君があんまりいい匂いするから、つい抱きしめちゃった。シャワー浴びるから待ってて。朝食、一緒に食べにいこう」
「ああ。俺、何か匂うか?」
「んー。なんか花の甘い香がする」
「ああ、ただのシャンプーの匂いだ。隣のクラスの女の子からもらったんだ。綺麗な髪をしているからって。こんな、老人みたな白髪、不気味なだけなのにな」
「そんなことないよ。僕も、その子には同意見だな。君の白髪は神秘的で綺麗だよ。短いのが少し寂しいかな。伸ばしてみたらどう?」
「でも、手入れとか大変だろう」
「何事も、慣れ、だよ」
「そうか。お前がそこまでいうなら、伸ばしてみようかな・・・・・・」
僕は。
僕は、そうして君に落ちていく。
君は、そうして僕に落ちていく。
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