出会いは突然に③
先々と前を歩くティエリアを、ニールは追いかける。
「待てよ~」
ティエリアは少しだけ振り返って、そして無視して今度は走り出した。全速力で。
「ええ!?」
いきなりそうくるとは思っていなかったが、ここは意地になってニールも走って追いかけてみた。
「はぁはぁ」
「ぜぇぜぇ」
二人は公園のところまでくると、ベンチに座って荒い呼吸を繰り返す。
こんな全速力で走ったのは久しぶりかもしれない。
すぐ隣にあった自動販売機からニールはコーラを2つ買うと、1つをティエリアに渡した。
「ありがとう」
照れながら、ふたをあけて中身を口にする。炭酸飲料独特の爽快感が全身を走り抜ける。
朝からなんの水分もとっていなかったので、喉はかわいていた。
ほぼ一気に飲み干した。
できればウーロン茶系がよかったのだが、文句はいえない。もらったものなんだから。
「お前さん、俺のこと嫌いか?」
「別に・・・・」
じっと地面を俯いて、それから空を見上げた。
「ならデートでもするか?」
「いいが別に。買いたい服があるんです。ついてきますか?」
おお、誘いに乗った。
あんだけ嫌そうにしてたのに。
こうしてティエリアはニールを伴って買い物に出かけた。
「なぁ。これってデートっていうより」
「正解。ただの荷物もち」
あっちの店に入って新作の服だの、挙句にはゲーム店にはいって新しいゲーム機の購入、本屋に入って文庫本に漫画の新刊、ハードカバーの本とか。
いろいろかったティエリアはすっきりとした気分だった。
いろいろもたされたニールはちょっとどんよりとした気分だった。
「家まできてください。飲み物くらいだしますから」
「あ、うん」
ティエリアの後ろをたくさんの荷物を抱えながら歩く。
それから30分くらいして、ティエリアの家についた。
一戸建ての家だ。くる途中で話したが、親は海外赴任中で大学生の従兄弟と一緒に住んでるらしい。
「おかえり、ティエリア」
「おかえ・・・り?」
「ただいま」
なぜかニールがそう言っていた。
刹那は途中で首を傾げている。
「ティエリアが・・・・男拾って帰ってきた」
「拾ったとかゆうな!これ臨時の英語の講師。町でこえかけられて・・・荷物もちにさせた」
「やっぱりデートじゃなかった」
がっくりとするニールに、アレルヤが中に入るように促してくれた。
中に入って、リビングルームでティエリアが入れたアッサムの紅茶を飲みながら、アレルヤが冷蔵庫を物色している。
「刹那、ケーキ食べた?」
「食べた」
「もう、勝手に食べないでよ。お客様に出そうと思ったらなかった!」
「ケーキに名前を書いておかないほうが悪い」
刹那の思考はいつもずれている。
簡単なクッキーを出されて、ニールはそれを口にする。
なんだろうかこの沈黙は。
「賑やかな家だな」
「別に」
ティエリアは一瞥をくれてやると、また沈黙する。
紅茶を飲む静かな音だけが聞こえる。
「臨時講師、おい、格ゲーはできるか?」
刹那に、服の袖をひっぱられる。真っ赤な目をしたうさぎみたいだった。刹那は大きな目でニールを見上げると、ティエリアも誘って部屋で格闘ゲームをしはじめた。
「うっしゃ、勝った」
「くそ、負けた!」
街角で出会ったティエリアにデートの誘いをした最終結果が、隣家に住んでる刹那の部屋とされている客室で一緒に格闘ゲーム。
夕暮れになり、そろそろニールは帰る時間になった。
「また遊びにくるよ」
「もうこなくていい」
「遊びにくるならガンダムのガンプラ買ってきてくれ」
「ろくなもてましもできなくてすみません」
ペコリとアレルヤがお辞儀して家の中に戻っていく。刹那は自分の家に戻った。
「その・・・この前は、線路に落ちた時は、たすけて、くれてありがとう」
ニールは少し瞳を和ませるとティエリアの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「な、何をする!」
「いやなぁ。かわいいと思って」
「かわいい?」
ボンと、ティエリアの顔が紅くなる。
「また遊ぼうぜ」
「もうごめんだ!」
まるで台風のような男性だった。
なのに、なんでこんなに胸がかき回されるのか、ティエリアには分からなかった。
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