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堕天使と天使8

今回の依頼は、悪魔退治だった。

悪魔と魔族は似ているようだが違う。悪魔は契約で人の魂を食う。また、誰かに召還されて使役されたりもする。

対価は主に人の魂だが、それは使った本人でなくてもよかった。また、必ずしも人でなくてもいい。

黒魔術の中には悪魔を使役して、対価としてモンスターの魂を払う魔法がある。

人は背徳的な者でもなければ、黒魔術の中の悪魔召還の魔法は使わない。

また、魔族は神族と対になる闇の種族だが、人と同じ知能と高い魔力、生命力をもち、分類的には亜人に入った。

悪魔は完全なモンスターだ。

依頼は、アークデーモン退治だった。

ある貴族の後継ぎが攫われて、アークデーモンに生贄にされたのだという。

救出はもう無理だが、せめて仇をとってくれとのことだった。

アークデーモンを召還した黒魔術師はもう捕まっており、その裏で暗躍していた貴族の次男もすでに逮捕されていた。

「さて、悪魔退治はちょっと面倒だけど、魔王討伐なんかを考えると遥かに楽勝だね」

「お前の思考が理解できない。魔王は魔族の王だろう。何も悪いことはしていない。魔王討伐などありはしない」

浮竹は、車の運転をしていた。

「いやぁ、おとぎ話や昔話では、魔王が悪として出てくる本があるじゃない」

「あれは創作物だ。確かにかつて魔王は世界を我が物にせんとして、人間や神族と争った時代もあったが、もう数千年も昔のことだ」

「あーあ。あの頃は楽しかったのに」

100年足らずしか生きていないと思っていた京楽は、実は創造神の作った12人の使徒と呼ばれる天使の一人だった。

千年を天使として生きて、その性欲の強さと天使とも悪魔とも人間とも寝る問題児だとして、堕天使に落とされた。

堕天使に落とされてから、さらに数千年が経った。

関係をもった相手の数は、数えきれない。

今は浮竹一筋だか、過去が過去だけに、浮竹は京楽の愛を信じてはいるが、心の何処かで疑問を抱えていた。

「とにかくついたぞ」

貴族の屋敷の駐車場に車を止めると、浮竹と京楽は車を降りた。

当主と謁見する。

「ああ、祓い屋の人か。どうか頼む、長男の仇を討ってほしい」

「アークデーモンを操っていた黒魔術師と次男はもう捕まったのでは?」

「そうなんだが、実際に手をくだしたアークデーモンが、まだこの世界で我が物顔でうろついている。許せない。報酬は金貨5000枚。やってくれるか」

「謹んでお受けいたします」

京楽の身の切り替わりの速さに、浮竹が驚いた。

貴族だけあって、金はあるようだった。

いつもの金貨30枚だとかそんな依頼の100倍はする報酬に、浮竹もまたいい収入になりそうだと、心の中で喜んだ。

「それで、そのアークデーモンはどのあたりに?」

「この町の外れにある、魔窟で儀式をしている。長男を生贄にした後、更に上位のグレーターデーモンを召還したようだ」

「グレーターデーモン!Sクラスだね」

「そうだ。だから、君たちにお願いした。Sクラスなみの腕をもつと、冒険者ギルドのギルドマスターから紹介されて。今冒険者ギルドでは、Sランク冒険者はダンジョン攻略にあたっていて、Aランクの冒険者はいるが、君たちの方が確実だと言われた」

「じゃあ、その魔窟に向かうので、地図をもらえないかな」

「分かった。用意しよう」

浮竹と京楽は、地図を手に車で魔窟の近くまで移動して、徒歩で魔窟の中に入っていく。

「きゃはははは」

「くふふふ」

中は、インキュバスやサキュバスもいる、悪魔の巣窟になっていた。

浮竹が天使のセラフであることに恐れを抱き、すぐに逃げ出していく。逃げる間際に仲間ともいえる堕天使の京楽に、一緒にこないかと囁きかけるが、そんな輩は浮竹が魔法で退治してしまった。

「この奥にアークデーモンとグレーターデーモンがいる。用意はいいか、京楽」

「任せて」

「サンシャイン!」

まずは、奥に続く扉を開けると、疑似太陽を作り出してデーモンたちの目を焼いた。

視界が真っ白になって、目が見えなくなっている間に、浮竹と京楽は禁忌の魔法を使う。

「エターナルフェニックス!」

「ヘルコキュートス!」

氷と炎の魔法を放つ。

アークデーモンは倒れていったが、グレーターデーモンは生きていた。

「この程度の光と魔法で死ぬと思ったか」

「死ぬんだよ、君は、これから僕らの魔法で」

「ふん、天使と堕天使如きが・・・・・」

浮竹は、6枚の翼を広げた。

「フェザースラッシュ」

「く、ちょこまかと、こざかしい!」

グレーターデーモンの手が、浮竹の首にかかる。

「セラフか。食せば我の力はもっとます。魔王になれるかもしれない」

「僕を忘れないでよね。セイントホーリーノヴァ!」

「ぐぎゃああああああ!聖属性の禁忌だと!堕天使が何故使える!」

浮竹は、グレーターデーモンが魔法でやられている間に、手をしりぞけて、魔法陣を描いた。

「きたれ、大天使長ミカエル!」

自分の父を呼んだ。

グレーターデーモンが出た場合、セラフの直轄になる。

「元気にしていたか、我が息子よ」

「はい」

「グレーターデーモンか。消え去れ」

「うぎゃあああああああ!!」

グレーターデーモンは、世界で一番強い天使とされる大天使長ミカエルの手で、無に返された。

「堕天使の京楽とは、うまくいっているのか?」

「多分」

「堕天使京楽」

「は、はい」

名を呼ばれて、京楽はびくりとなった。まさか、浮竹が大天使長ミカエルを呼び出すとは思っていなかったのだ。

普通のセラフでも呼び出せない。だが、浮竹はミカエルと人間との間のハーフだ。ミカエルの血を引いていることで、ミカエルを呼び出すことができた。

洞窟の中だし、禁忌ばかり放っていては、崩れる可能性もあるので、手っ取り早く父親に退治してもらったことになる。

「私の息子を悲しませたら、容赦しないからな」

「はいーーー」

京楽は、ぺこりとお辞儀して、ミカエルが天界に帰っていくのを見ていた。

「京楽、戻るぞ」

「ちょっと浮竹、いきなり大天使長ミカエルを呼ばないでよ。寿命が縮まったよ」

「お前は何千年と生きているのだろう?少しくらい縮んでも平気だろう」

「酷い!」

泣き真似をする京楽を放置して、アークデーモンとグレーターデーモンの魔石を手に、貴族の館に報告に行った。

「約束の金貨5000枚だ。その魔石は、こちらで預かろう。砕いて、魔法水をつくり、息子の墓に注いで、少しでも冥福を祈りたい」

「ああ、分かった」

魔石の冒険者ギルドでの買取り額は金貨500枚はいくだろうが、報酬が金貨5000枚のため、魔石は貴族に譲った。

「ああ。せめて安らかに・・・・・・」

貴族の当主は、魔石を手に、泣いていた。

報酬の金貨5000枚をアイテムポケットにいれて、浮竹はこう言った。

「セラフの力でよいなら、祈りを捧げよう」

「本当か!是非に頼む!金貨500枚を払う!」

セラフの祈りは、死者を天国に運んでくれるとされていた。

セラフが人前に現れることが滅多にないのだが、たまに召還に応じてくれたセラフが、死者に祈りを捧げて、その魂を天国まで導く。

浮竹は貴族の長男の墓に、セラフの祈りをささげると、ぱぁあと虹がでて、死者の魂が浮かび上がる。

「父様。先に逝くことをお許しください。天国にいきます」

「ああ、息子よ・・・・どうか、安らかに」

親子は、一時的な対面を果たしたが、死者の魂が地上にとどまっていられる時間は少なく、浮竹の祈りに合わせて、魂は天に昇っていた。

「ありがとうございます。追加報酬の金貨500枚です」

その報酬もアイテムポケットに入れて、浮竹と京楽は車で自宅に帰った。

次の依頼が届いていた。

ヴァンパイア退治だった。浮竹と京楽は、そのヴァンパイアを退治しようとして、不思議な出会いをするのであった。

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