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奴隷竜とSランク冒険者21

「ハッピーハローウィン!」

「は?なんだそれは」

「え、知らないの。ハロウィンっていって、子供が仮装してトリックオアトリート、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞって言って家々を訪問していくの。大人も仮装して、街では祭りも開かれてるよ」

「え、祭り?」

浮竹は、人の世界のお祭りを見たことはあるが、檻の中からだったので、そわそわしだした。

「お、お前が行きたいなら、そのハロウィンとやらの祭りにいってやらなくもない」

「ふふ、素直じゃないねぇ。でも、そんなとこも好きだよ。そうだね、浮竹は魔女のコスプレをしてもらおう」

「おい、俺は女じゃないぞ」

「コスプレに性別は関係ないよ。はい、黒い服にほうき」

あらかじめ用意していたのか、浮竹の衣装はすんなりと決まった。

「そして僕は、狼男だ。ふふ、魔女の君を食べちゃったりして」

「そ、そういうのは夜にいえ」

「え、ただの冗談なのに」

お互い顔を見合わせて、赤くなった。

「と、とにかく祭りにいくぞ」

「うん、そうだね」

王都だけあって、賑やかな祭りが開かれていた。

いろんな出店があって、浮竹は金魚すくいに夢中になって、金貨5枚はらってやっと1匹の金魚がとれた。

金魚すくいの屋台の主は、まさか金貨5枚も払う太っ腹がいるとはにわかに信じられず、浮竹と京楽を貴族だと思って、丁寧に接してきた。

「金魚、おまけで3匹足しておきますね。これ、おつりの銀貨3枚」

「京楽見ろ!おまけしてもらったぞ」

「良かったねぇ。金魚鉢も売ってるね。その金魚鉢とか飼育に必要なのもろもろ売ってもらえる?」

「え、この金魚鉢は魔法がかかってて、売り物じゃあないんですが」

「白金貨3枚でどう?」

「売った!」

屋台の主は、天国に行きそうなほどに幸福な顔をしていた。

そして、次の客を適当に扱う。

「ねぇ、この金魚鉢、水の魔法がかかってるね」

「ああ、そうなんです。水を綺麗に浄化してくれて、水をとりかえる必要がないんです。えさも自動的に出してくれて、あまり家にいられない人なんかにおすすめで」

「いいねぇ、気に入った。さらに白金貨2枚あげる」

Sランク冒険者である京楽と浮竹は、高級宿を家にしているが、帰ってこれない時も多い。

ダンジョンにもぐると2週間近くは時間を拘束されるし、クエストを受けても長いと半月くらい宿に戻ってこれない。

「浮竹、この金魚鉢なら金魚、世話しなくても飼えるよ」

「え、飼っていいのか!」

キラキラした眼差しで見つめられて、京楽は笑った。

「ペットなんていないからねぇ。ほんとは犬や猫を飼いたいけど、宿の主人に世話を任せることになるのが多そうだし、金魚くらいなら構わないよ」

「やったー、ペットだ!」

浮竹は、袋の中を泳ぐ4匹の金魚をじーっと見つめた。

「サンクチュアリ」

僅かに弱っていた個体を見つけたので、範囲魔法のヒールに相当するものを使うと、金魚はぴちぴちと跳ねて元気そうになった。

「浮竹、金魚なんかに癒しの魔法使わなくても」

「俺たちのペットなんだろう?ペットとは、家族であると教えられた。山じいに」

「まぁ、家族だけど。金魚が家族か。ふふ、面白いね」

「あ、フランクフルト!あれ食いたい!あと、ポテトフライも食いたい。その後は林檎飴を・・・・・・・」

なまじお金があるので、遠慮というものを知らない。

浮竹の胃は小さなブラックホールがあるようなもので、とにかくたくさん食べた。

「綿菓子をもう3個。たこ焼きあと2つ。焼きそば3つ」

付き合わされた京楽は、かなり疲れていた。

でも、浮竹とまるでデートしているようなかんじなので、食べ物を欲しがる浮竹に、財布のひもをあけてあれこれ買ってやる。

「そうだ、金魚に名前をつけよう。この赤いのがポチで、赤白まだらなのがたま、黒い出目金がたろうで、なんかわからんがこの青いのがじろーだ」

「そういえば、この金魚青いね。青いのってなかなかに珍しい」

「金魚といえば赤だからな」

「薔薇もそうだよね。青いのは珍しい」

浮竹は、じろーと名付けた青い金魚を特に気に入ったみたいで、早速餌をあげていた。

祭りを一通り楽しんで、一度宿に戻って金魚鉢に水を入れて金魚を放ち、もう一度祭りに出かける。

音楽が軽やかに流れ出し、皆踊っていた。

浮竹と京楽は、手を取り合い軽いステップを踏む。

周りは男女関係なしに、恋のダンスを踊っていた。

さすがに恋のダンスなんて知らないので、ワルツを踊る。

「あら、あの子綺麗」

「あら、どこ?」

「ほんと。白い長い髪に緑の瞳って珍しいわ。どこぞの貴族様かしら」

貴族なのは京楽なのだが、京楽は貴族を感じさせない容姿をしているので、黒髪に鳶色の瞳は珍しくもないが、女性の視線を集めていた。

「相手の人、かっこいい。でも、踊っている魔女の女性とお似合いね」

女性と間違われたことを、浮竹は文句を言うかと思ったが、楽しそうに踊って周りの言葉など耳に入っていなかった。

「さぁ、フィナーレだ!」

誰かがそう言って、花火がぱぁんぱぁんと打ち上がる。

京楽と浮竹は、ステップを踏んで踊り終わると、浮竹は空に向けて魔法を放った。

「カラミティプチファイア!」

それはいろんな色の炎を灯して、空へ空へとあがっていく。

「ファイアサークル」

京楽の魔法は、炎が輪になって踊りながら空へ吸い込まれていく。

「よ、いいね!ランクの高い冒険者さんとみた。祭りの最後に、売りれ残ったビールを半額で販売中だ。一杯どうだい?」

「いいね、もらうよ」

「俺も飲む!」

「浮竹は一杯だけね。酒に弱いんだから」

「むう」

浮竹と京楽は冷えたビールを飲む。

浮竹の頬が赤らんで、目がとろんとなる。

「もう酔ったのかい。今日はここまでだね。さぁ、帰ろうか」

「おんぶ」

「え?」

「おんぶしてくれなきゃ、帰らなない」

まさかの甘え方に、京楽はにやけた。

「酔った浮竹は素直でかわいいから、好きだよ」

「酔ってないぞ~~~~うぃっく」

酒癖の悪い親父みたいなかんじになっていたが、京楽から見ればそれもかわいいのだ。

「また、来年もこの祭りを楽しもうね」

「ああ。また、来年も・・・再来年も、ずっとずっと・・・・・・」

京楽は、浮竹に竜の刻印を刻まれて、不老不死に近い肉体になった。

祭りを、何度もで楽しめるだろう。

周りの人が一生を終えても、その後も、その後も。

京楽は、眠ってしまった浮竹をおんぶして、宿に帰路につくのであった。


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