始祖なる者、ヴァンパイアマスター24
古城に戻ると、恋次は白哉の元に帰り、ルキアはしばらくの間古城に滞在するらしかった。
「ブラッディ・ネイが、ブラッディ・エターナルという、浮竹殿にそっくりの寵姫を新たに迎えたのだが、浮竹殿と血縁関係があるわけがないから、きっと他人の空似ですね」
「そりゃそうだよ。浮竹に子はいないんだから」
その、ブラッディ・エターナルが、女体化した時の浮竹と京楽の間にできた、受精した卵子から作られていることを、浮竹も京楽も知らなかった。
ブラッディ・ネイの寵愛は、今ブラッディ・エターナルが独占していた。
血を与えて、血族にしていた。
「そういえば、冒険者ギルドで、僕たち向けに依頼がきてたね」
「どんな依頼だ?」
浮竹が、魔法書を読みながら、京楽に尋ねる。
氷で冷やした麦茶を飲みながら、浮竹はS級ダンジョンで入手した魔法書を最後のページまで読み終えると、京楽に向き直った。
「なんでも、古代遺跡に出現する、機械じかけのゴーレムを倒してほしいらしいよ。他のSランク冒険者も討伐にいったけど、みんな負けて帰ってきたんだって」
「機械じかけの、ゴーレム。失われた古代文明の遺産か」
古代文明といっても、その間も浮竹は生きていたのだが。
人間世界に興味はなかったので、人間社会の文明がどうとかなんて、知らなかった。
おまけによく休眠していて、実に5千年の間眠っていた。実際に活動していたのは、3千年くらいだ。
「報酬が、古代文明の幻の魔法書らしいよ」
がたりと、浮竹は席を立った。
「京楽、退治しにいくぞ」
「ええっ!」
「じゅあ、私は留守番しておきますね」
「いや、ルキア君もきてくれ。古代のゴーレムを倒せるなんて、ドラゴン退治よりよっぽど珍しい」
「あの、私にはドラゴン退治も珍しいものなんですけど」
ポチのための、ドラゴンの肉は大量に手に入れていた。
アイテムポケットのドラゴンの素材を売るためにも、3人は冒険者ギルドに行くことになった。
冒険者ギルドに顔を出すために、認識阻害の魔法をかけていた。
浮竹はエルフの魔法使いに、京楽はハーフエルフの剣士に、他の人間から見たらそう見えた。
ルキアは、エルフの神官に見えるようにしておいた。
「おや、Sランク冒険者の浮竹さんと京楽さんじゃないか。今回は、一人仲間が増えているんだね」
ギルドマスターが、浮竹たちの対応に当たってくれた。
「うちのギルドの存在する、どのSランク冒険者でもだめだったんだ。残るは、あんたらしか、頼れる相手がいない。無理を承知で頼む。ゴーレムを、退治してはもらえないだろうか」
「報酬は、本当に古代文明の幻の魔法書なんだな?」
「ああ、そうだ。売れば、一生遊んで暮らせる」
「売らない。読んで、自分のものにする」
「魔法使いなら、それもありだろう」
この世界において、魔法は神が人間に与えた能力であった。人間社会で、魔法は研究され、増えていった。
それを、ヴァンパイアたちも覚えていった。
人間がいなければ、魔法は少なく、多彩な魔法は生まれなかっただろう。
ヴァンパイアは、その種族独特の魔法を持っている。
血の魔法と呼ばれる、自分の血を使って武器として使用したりするものだった。
他の種族には使えない魔法だ。
浮竹がもつ魔法のほとんどは、人間の文明が発明した魔法だった。
「引き受けてくれるか」
「ああ、引き受けよう」
「ありがたい!そっちのエルフの神官の女の子は、冒険者登録していないようだな?登録しないと一緒にいけないから、登録しておこう」
適性検査で、ルキアはAクラスの冒険者となった。
「Sクラス冒険者のパーティーにはAクラスのメンバーもいたこともあるし、お前さんたちなら大丈夫だろう」
浮竹は、この前クリアしたドラゴンのS級ダンジョンの素材を、解体工房で出して、大金を手に入れていた。
ドラゴンそのものをほいほいと出されて、受付嬢は失神寸前だった。
「ちょっと待て、まだあるのか」
ギルドマスターが、ストップをかける。
「まだ、半分だが?」
「すまないが、これ以上は買い取れない。資金が足りない。加工して売りさばかないと、続きを買い取れん」
「じゃあ、残りは隣国ででも売る」
「ああ、そうしてくれ」
ギルドマスターは、冷や汗をかいていた。
冒険者の最高ランクはSクラスであるが、Sクラスの中でも上位の者と下位の者がいる。
浮竹たちは、Sクラス以上の冒険者で、上位存在であった。
もしもSクラスの上に階級があるなら、そこに振り分けられていただろう。
冒険者ギルドから、直接馬車を出してくれた。
その古代遺跡まで、馬車を利用して移動した。
10日かかった。
途中に町で宿をとったりしていた。
目の前に浮かぶ光景に、京楽は目を見開いていた。
「大地が、浮かんでる!」
「大地そのものに、風の魔法がかけられている。半永久的な魔法だ」
「すごい遺跡ですね」
ルキアが、驚いていた。
「こんな遺跡をみるのは数百年ぶりだ。よく、荒されずに残っていたものだ」
馬車は最寄りの村に残して、徒歩で古代遺跡に向かったので、人間はいなかった。
遺跡を探索して、ワープ装置を利用して、浮いている島を移動する。
途中までくると、討伐依頼の出ていた機械じかけのゴーレムと遭遇した。
「ギギギギ。エラーエラー。侵入者を発見、これより掃討に移ります」
機械じかけのゴーレムの体は、ミスリルでできていた。
神の金属と呼ばれるミスリル製のために、魔法も剣も普通は効かないのだ。
京楽が、雷の魔法を纏わせたミスリル銀の剣で切りかかるが、傷一つ負わせれないでいた。
「浮竹、そっちにいったよ!」
「ライトニングノヴァ!」
浮竹は、雷系の魔法を使って爆発させるが、ミスリルでできたゴーレムには効いていなかった。
「浮竹殿、危なない!」
ゴーレムがレザービームで攻撃してきた。
それを、ルキアがシールドを張って、防いでくれた。
「ルキア君、防御を頼む」
「はい!」
「京楽は、俺に魔力を注いでくれ」
「わかったよ」
浮竹が呪文の詠唱に入る。
「我は神の子の焔。炎は踊り踊り、悲しみも怒りも飲みこむのである。我は神の子の焔。神の怒りの炎により、ここにきたれ、炎の精霊王、イフリート、フェニックス!トライアングルエクスプロージョン!」
ごおおおおおおおおお。
凄まじい火力の炎が燃えさかる。
浮竹は、炎の精霊王、イフリート、フェニックスの3体の炎を召還して、魔法としてゴーレムに浴びせた。
「ガガガピー。損傷を確認。これより、自動モードを手動モードニキリカエ・・・ガガガガピーーー」
ミスリル製のゴーレムは、半ば体を溶かされていた。
「ミスリルを溶かす炎・・・すごいね」
「禁呪だ。普段は、使わない」
「浮竹殿、その札は?」
「ああ、東洋の妖の友人からもらったものだ」
浮竹は蛇を召還して、その蛇からもミスリルを溶かす炎を吐かせていた。
「活動を、完全に停止、シマス」
ゴーレムは、半分体を溶かしたまま、その意思を失った。
京楽は、その溶けたミスリルのゴーレムに、まだ動かないか念のため血の刃を向ける。
札のせいで猛毒になっている京楽の血は、存在が生物であったならほぼ死んでいただろう。
機械仕掛けのゴーレム、人工生命体なので、京楽の血の毒はきかなかったし、すでに動きを停止していた。
「このゴーレムの体、持って帰ろう。ミスリルでできているから、いい武器防具ができそうだ」
「とりあえず、ミスリルが溶解したままだと危ないので、固まるのを待とうよ」
ミスリルの溶解が止まるまで、浮竹、京楽、ルキアは遺跡を探検し、出没するモンスターを倒した。
「東洋の僕の加護のお陰で、血が猛毒になるから、血の刃で切るだけでモンスターを倒せられて楽でいいよ」
「俺には、毒ではないのだがな」
「そりゃ、主である浮竹に血を吸われるんだから、僕の血が浮竹にとって猛毒であるはずがないよ」
浮竹は、札を使って黒い蛇を召還すると、炎を吐かせたり、戒めてその毒で殺したりして、東洋の友人からもらった札を大切そうに使った。
モンスターは後から住み着いた存在らしく、主にキメラが多かった。
「フレイムロンド!」
蛇も一緒になって、炎を吐いた。
キメラは、黒焦げになって倒れていく。
「あ、宝箱!」
きらんと、浮竹の目が光った。
「ちょっと、ここは古代の遺跡だよ。宝箱に、ミミックは・・・・」
でも、ミミックだった。
「暗いよ怖いよ狭いよ息苦しいよ~~~」
じたばたともがく浮竹を見て、京楽は苦笑いを浮かべる。
「浮竹殿、今助けます!」
ルキアも大分慣れたのか、ルキアが助け出してくれた。
「ウィンドノヴァ」
風の爆発を起こして、ミミックは消えていった。
後に残されれたのは、古代の魔法書だった。
「やった、魔法書だ。何々・・・・・古代エルフ語でかかれているな。翻訳魔法を使ってと・・・・」
浮竹は、魔法書の解読に取り掛かった。
周囲にはもうモンスターはいないようだったが、ルキアが念のために結界を張ってくれた。
そして、浮竹と京楽の魔力を回復するように、魔力回復の魔法を使ってくれた。
「ルキアちゃん、ありがとね。さっきのでごっそり魔力をもっていかれたから、助かるよ」
「ええと・・・・炎と雷の融合・・・・・ライトニングフレイムストーム。ふむふむ。新しい魔法をまた一つ覚えれた!」
浮竹は、顔を輝かせた。
そして、ルキアに結界を解いてもらい、移動して出てきたキメラにその魔法を使った。
「ライトニングフレイムストーム!」
まず最初に電撃が走り、同時に炎の嵐が起こる。
キメラは、体を黒焦げにした後、灰となった。
「ちょっとオーバーキルだな。禁呪ではないが、違う属性を組み合わせた魔法は珍しい。覚えてれよかった」
更に奥に進んで、右に曲がるとまた宝箱があった。
「宝箱っていうかミミック!」
浮竹の中で、宝箱はミミックになっていた。
でも、その宝箱は普通の宝箱だった。
「なんだ、ミミックじゃないのか。京楽、適当に中身をアイテムポケットに入れておいてくれ」
「浮竹、でも古代の魔法書だよ」
「何、それを早くいえ!」
浮竹は、京楽の手から魔法書をひったくった。
「浮竹殿は、本当に魔法書というか、魔法の収集が好きなのですね」
「まぁ、浮竹の趣味だからね。昔から収集が好きだったみたいで、今だと民間魔法も含んて2千以上の魔法を使えると思うよ」
「2、2千をこえる魔法・・・・凄まじいですね」
普通、魔法使いが使える魔法は10種類程度。Sランクの魔法使いでも、50種類がやっとといところだ。
チートもここまでくれば、もう呆れるしかない。
「浮竹、どんな魔法だったの」
「水中で呼吸できる魔法だった。攻撃魔法じゃないが、海や湖の地形のダンジョンで、使えそうだ」
「よかったね。使える魔法で」
「別に、しょうもない民間の魔法でもいい。新しい魔法なら、どんなものでも大歓迎だ」
何気に、ネクロマンサーが使うような魔法も覚えているが、使わないことにしていた。
死者の冒涜を、浮竹は嫌っていた。
大事な血族が反魂で蘇り、死していくのを目の当たりにして、余計に黒魔術と呼ばれる種類の、アンデットを操ったりする魔法は使わない。
するすると、黒蛇が浮竹の元にやってきた。ミスリルでできたゴーレムの熱が下がり、触れても大丈夫だと教えてくれた。
「黒蛇を置いてきていた。ミスリルの熱が下がって、アイテムポケットに入れても大丈夫なようだ」
来た道を戻り、ゴーレムのところにまでくると、京楽がアイテムポケットに収納した。
「さて、帰ろうか・・・・って何してるの」
「黒蛇たちに、お宝の場所を探してきてもらった。宝箱をあけに移動するぞ」
「はぁ・・・本当に君は、宝箱というかミミックが好きだね」
浮竹は、遺跡で残っていた全ての宝箱をあけた。
全部ミミックで、浮竹は嬉しそうにかじられていた。
「暗いよ怖いよ狭いよ息苦しいよ~~~」
じたばたもがく浮竹を、京楽とルキアが助ける。
浮竹は黒蛇を操って、ミミックを倒すと、ミミックは古代の魔法書をドロップした。
「なになに、熱がさらにあがる魔法・・・・使えないな。でも覚える」
古代の魔法書といっても、いい魔法ばかりではない。つまらない民間魔法がほとんどだった。
「京楽、今度熱を出したら、更に熱を出すようにしてやるからな」
「やめてよ、僕を殺す気なの?」
「ヴァンパイアは、熱が出たくらいじゃ死なない」
「浮竹殿、熱をあげる魔法であれば、低体温の危ない時とか、寒い時なんかに使えるのではないですか?」
「さすがルキアちゃん。変な魔法だけど、低体温の危ない時に使うのはいいかもね。寒い時には、僕の体温をあげて、浮竹を抱いて体温を分けてあげる」
その言葉に、浮竹は少し赤くなって、京楽の頭を殴った。
「なんで殴るのさ!」
「抱くとかいうからだ」
「あ、私は気にしていませんので」
ルキアは真っ赤になりながらも、聞こえなかったふりをすることにした。
「じゃあ、どうせだから堂々としよう」
「京楽?」
「愛してるよ、浮竹」
「んっ」
舌が絡むキスをされて、肩に噛みつかれて吸血された。
浮竹は、体重を京楽に預けて、お返しにと京楽の首筋に噛みついて、吸血した。
ルキアは真っ赤になって、あたふたしていた。
「ルキアちゃん、ごめんね。古城に戻るまで、馬車でまた10日も揺れると思うと、その、渇きがね・・・・」
人間社会に居る時に、人工血液を口にしていると、ヴァンパイアだとばれてしまう。
血の帝国は人間国家と国交をしているが、それでも人々はヴァンパイアを恐れ、人を襲い血を吸って殺すヴァンパイアがいるので、ヴァンパイアハンターがいた。
「ここは血の帝国から遥かに離れた人間たちが住む世界ですから。ヴァンパイアとばれるのは、危険です」
本当は、10日も馬車に揺れるのに、人間の御者を雇いたくなかったのだが、ギルドマスターに怪訝な顔をされるので、大人しく人間の御者を雇った。
「とりあず、することはもう終わった。帰ろう」
遺跡から一番近い村に待たせてあった馬車に乗りこみ、3人は冒険者ギルドのある、ガイア王国の街まで戻った。
「約束のゴーレムを退治してきた。ミスリルでできているから、武器防具になると思って、アイテムポケットに入れて持って帰ってきた」
解体工房で、機械仕掛けのミスリル製の、半分溶けたゴーレムを出した。
ギルドマスターは驚いた、受付嬢は、やっぱり規格外だと、顔を青くさせていた。
「ミスリルが溶けたのか。どんな魔法を使えば、そうなるんだ」
「鍛冶師だって、ミスリルを溶かして武器防具を作るだろう。それと似たようなものだ」
「鍛冶師は特別な炎を使う。まぁいい、依頼達成だ。報酬金金貨2千枚と・・・このゴーレムは、ギルドで買い取っていいか?」
「好きにしてくれ」
「では、金貨7千枚で買い取ろう」
「分かった」
「あと、ドラゴンの素材を打って莫大な額を手に入れたから、残っているドラゴンの素材があれば買いとるぞ」
「わかった」
浮竹と京楽は、アイテムポケットから10体のドラゴンの死体と、素材になる部分を出した。
ポチの肉は確保しておいたので、全てを売ることにした。
「金貨1万5千枚で買い取ろう」
少し買いたたかれている気もするが、買い取ってくれるだけありがたいので、その金額で売却した。
「また、ドラゴンを退治したら持ってきてくれ。買いとる」
「ああ、分かった」
「それじゃあ、僕らはこれで」
ルキアは、解体工房に入らず、ギルドの外で待っていた。
「なぁ、エルフのお嬢ちゃん、俺らと茶しようぜ」
「人を待っている」
「そんなつれないこと言うなよ」
「ごほん」
宇井竹が咳払いすると、ちんぴらに近いことをしていたBランク冒険者たちが驚く。
「Sランクの、浮竹さんと京楽さんの仲間でしたか。失礼しました。おい、お前らいくぞ」
「ちっ、Sランクだからって大きな顔しやがって。今に見てろ」
「ブラッディ・ネイが、ブラッディ・エターナルという、浮竹殿にそっくりの寵姫を新たに迎えたのだが、浮竹殿と血縁関係があるわけがないから、きっと他人の空似ですね」
「そりゃそうだよ。浮竹に子はいないんだから」
その、ブラッディ・エターナルが、女体化した時の浮竹と京楽の間にできた、受精した卵子から作られていることを、浮竹も京楽も知らなかった。
ブラッディ・ネイの寵愛は、今ブラッディ・エターナルが独占していた。
血を与えて、血族にしていた。
「そういえば、冒険者ギルドで、僕たち向けに依頼がきてたね」
「どんな依頼だ?」
浮竹が、魔法書を読みながら、京楽に尋ねる。
氷で冷やした麦茶を飲みながら、浮竹はS級ダンジョンで入手した魔法書を最後のページまで読み終えると、京楽に向き直った。
「なんでも、古代遺跡に出現する、機械じかけのゴーレムを倒してほしいらしいよ。他のSランク冒険者も討伐にいったけど、みんな負けて帰ってきたんだって」
「機械じかけの、ゴーレム。失われた古代文明の遺産か」
古代文明といっても、その間も浮竹は生きていたのだが。
人間世界に興味はなかったので、人間社会の文明がどうとかなんて、知らなかった。
おまけによく休眠していて、実に5千年の間眠っていた。実際に活動していたのは、3千年くらいだ。
「報酬が、古代文明の幻の魔法書らしいよ」
がたりと、浮竹は席を立った。
「京楽、退治しにいくぞ」
「ええっ!」
「じゅあ、私は留守番しておきますね」
「いや、ルキア君もきてくれ。古代のゴーレムを倒せるなんて、ドラゴン退治よりよっぽど珍しい」
「あの、私にはドラゴン退治も珍しいものなんですけど」
ポチのための、ドラゴンの肉は大量に手に入れていた。
アイテムポケットのドラゴンの素材を売るためにも、3人は冒険者ギルドに行くことになった。
冒険者ギルドに顔を出すために、認識阻害の魔法をかけていた。
浮竹はエルフの魔法使いに、京楽はハーフエルフの剣士に、他の人間から見たらそう見えた。
ルキアは、エルフの神官に見えるようにしておいた。
「おや、Sランク冒険者の浮竹さんと京楽さんじゃないか。今回は、一人仲間が増えているんだね」
ギルドマスターが、浮竹たちの対応に当たってくれた。
「うちのギルドの存在する、どのSランク冒険者でもだめだったんだ。残るは、あんたらしか、頼れる相手がいない。無理を承知で頼む。ゴーレムを、退治してはもらえないだろうか」
「報酬は、本当に古代文明の幻の魔法書なんだな?」
「ああ、そうだ。売れば、一生遊んで暮らせる」
「売らない。読んで、自分のものにする」
「魔法使いなら、それもありだろう」
この世界において、魔法は神が人間に与えた能力であった。人間社会で、魔法は研究され、増えていった。
それを、ヴァンパイアたちも覚えていった。
人間がいなければ、魔法は少なく、多彩な魔法は生まれなかっただろう。
ヴァンパイアは、その種族独特の魔法を持っている。
血の魔法と呼ばれる、自分の血を使って武器として使用したりするものだった。
他の種族には使えない魔法だ。
浮竹がもつ魔法のほとんどは、人間の文明が発明した魔法だった。
「引き受けてくれるか」
「ああ、引き受けよう」
「ありがたい!そっちのエルフの神官の女の子は、冒険者登録していないようだな?登録しないと一緒にいけないから、登録しておこう」
適性検査で、ルキアはAクラスの冒険者となった。
「Sクラス冒険者のパーティーにはAクラスのメンバーもいたこともあるし、お前さんたちなら大丈夫だろう」
浮竹は、この前クリアしたドラゴンのS級ダンジョンの素材を、解体工房で出して、大金を手に入れていた。
ドラゴンそのものをほいほいと出されて、受付嬢は失神寸前だった。
「ちょっと待て、まだあるのか」
ギルドマスターが、ストップをかける。
「まだ、半分だが?」
「すまないが、これ以上は買い取れない。資金が足りない。加工して売りさばかないと、続きを買い取れん」
「じゃあ、残りは隣国ででも売る」
「ああ、そうしてくれ」
ギルドマスターは、冷や汗をかいていた。
冒険者の最高ランクはSクラスであるが、Sクラスの中でも上位の者と下位の者がいる。
浮竹たちは、Sクラス以上の冒険者で、上位存在であった。
もしもSクラスの上に階級があるなら、そこに振り分けられていただろう。
冒険者ギルドから、直接馬車を出してくれた。
その古代遺跡まで、馬車を利用して移動した。
10日かかった。
途中に町で宿をとったりしていた。
目の前に浮かぶ光景に、京楽は目を見開いていた。
「大地が、浮かんでる!」
「大地そのものに、風の魔法がかけられている。半永久的な魔法だ」
「すごい遺跡ですね」
ルキアが、驚いていた。
「こんな遺跡をみるのは数百年ぶりだ。よく、荒されずに残っていたものだ」
馬車は最寄りの村に残して、徒歩で古代遺跡に向かったので、人間はいなかった。
遺跡を探索して、ワープ装置を利用して、浮いている島を移動する。
途中までくると、討伐依頼の出ていた機械じかけのゴーレムと遭遇した。
「ギギギギ。エラーエラー。侵入者を発見、これより掃討に移ります」
機械じかけのゴーレムの体は、ミスリルでできていた。
神の金属と呼ばれるミスリル製のために、魔法も剣も普通は効かないのだ。
京楽が、雷の魔法を纏わせたミスリル銀の剣で切りかかるが、傷一つ負わせれないでいた。
「浮竹、そっちにいったよ!」
「ライトニングノヴァ!」
浮竹は、雷系の魔法を使って爆発させるが、ミスリルでできたゴーレムには効いていなかった。
「浮竹殿、危なない!」
ゴーレムがレザービームで攻撃してきた。
それを、ルキアがシールドを張って、防いでくれた。
「ルキア君、防御を頼む」
「はい!」
「京楽は、俺に魔力を注いでくれ」
「わかったよ」
浮竹が呪文の詠唱に入る。
「我は神の子の焔。炎は踊り踊り、悲しみも怒りも飲みこむのである。我は神の子の焔。神の怒りの炎により、ここにきたれ、炎の精霊王、イフリート、フェニックス!トライアングルエクスプロージョン!」
ごおおおおおおおおお。
凄まじい火力の炎が燃えさかる。
浮竹は、炎の精霊王、イフリート、フェニックスの3体の炎を召還して、魔法としてゴーレムに浴びせた。
「ガガガピー。損傷を確認。これより、自動モードを手動モードニキリカエ・・・ガガガガピーーー」
ミスリル製のゴーレムは、半ば体を溶かされていた。
「ミスリルを溶かす炎・・・すごいね」
「禁呪だ。普段は、使わない」
「浮竹殿、その札は?」
「ああ、東洋の妖の友人からもらったものだ」
浮竹は蛇を召還して、その蛇からもミスリルを溶かす炎を吐かせていた。
「活動を、完全に停止、シマス」
ゴーレムは、半分体を溶かしたまま、その意思を失った。
京楽は、その溶けたミスリルのゴーレムに、まだ動かないか念のため血の刃を向ける。
札のせいで猛毒になっている京楽の血は、存在が生物であったならほぼ死んでいただろう。
機械仕掛けのゴーレム、人工生命体なので、京楽の血の毒はきかなかったし、すでに動きを停止していた。
「このゴーレムの体、持って帰ろう。ミスリルでできているから、いい武器防具ができそうだ」
「とりあえず、ミスリルが溶解したままだと危ないので、固まるのを待とうよ」
ミスリルの溶解が止まるまで、浮竹、京楽、ルキアは遺跡を探検し、出没するモンスターを倒した。
「東洋の僕の加護のお陰で、血が猛毒になるから、血の刃で切るだけでモンスターを倒せられて楽でいいよ」
「俺には、毒ではないのだがな」
「そりゃ、主である浮竹に血を吸われるんだから、僕の血が浮竹にとって猛毒であるはずがないよ」
浮竹は、札を使って黒い蛇を召還すると、炎を吐かせたり、戒めてその毒で殺したりして、東洋の友人からもらった札を大切そうに使った。
モンスターは後から住み着いた存在らしく、主にキメラが多かった。
「フレイムロンド!」
蛇も一緒になって、炎を吐いた。
キメラは、黒焦げになって倒れていく。
「あ、宝箱!」
きらんと、浮竹の目が光った。
「ちょっと、ここは古代の遺跡だよ。宝箱に、ミミックは・・・・」
でも、ミミックだった。
「暗いよ怖いよ狭いよ息苦しいよ~~~」
じたばたともがく浮竹を見て、京楽は苦笑いを浮かべる。
「浮竹殿、今助けます!」
ルキアも大分慣れたのか、ルキアが助け出してくれた。
「ウィンドノヴァ」
風の爆発を起こして、ミミックは消えていった。
後に残されれたのは、古代の魔法書だった。
「やった、魔法書だ。何々・・・・・古代エルフ語でかかれているな。翻訳魔法を使ってと・・・・」
浮竹は、魔法書の解読に取り掛かった。
周囲にはもうモンスターはいないようだったが、ルキアが念のために結界を張ってくれた。
そして、浮竹と京楽の魔力を回復するように、魔力回復の魔法を使ってくれた。
「ルキアちゃん、ありがとね。さっきのでごっそり魔力をもっていかれたから、助かるよ」
「ええと・・・・炎と雷の融合・・・・・ライトニングフレイムストーム。ふむふむ。新しい魔法をまた一つ覚えれた!」
浮竹は、顔を輝かせた。
そして、ルキアに結界を解いてもらい、移動して出てきたキメラにその魔法を使った。
「ライトニングフレイムストーム!」
まず最初に電撃が走り、同時に炎の嵐が起こる。
キメラは、体を黒焦げにした後、灰となった。
「ちょっとオーバーキルだな。禁呪ではないが、違う属性を組み合わせた魔法は珍しい。覚えてれよかった」
更に奥に進んで、右に曲がるとまた宝箱があった。
「宝箱っていうかミミック!」
浮竹の中で、宝箱はミミックになっていた。
でも、その宝箱は普通の宝箱だった。
「なんだ、ミミックじゃないのか。京楽、適当に中身をアイテムポケットに入れておいてくれ」
「浮竹、でも古代の魔法書だよ」
「何、それを早くいえ!」
浮竹は、京楽の手から魔法書をひったくった。
「浮竹殿は、本当に魔法書というか、魔法の収集が好きなのですね」
「まぁ、浮竹の趣味だからね。昔から収集が好きだったみたいで、今だと民間魔法も含んて2千以上の魔法を使えると思うよ」
「2、2千をこえる魔法・・・・凄まじいですね」
普通、魔法使いが使える魔法は10種類程度。Sランクの魔法使いでも、50種類がやっとといところだ。
チートもここまでくれば、もう呆れるしかない。
「浮竹、どんな魔法だったの」
「水中で呼吸できる魔法だった。攻撃魔法じゃないが、海や湖の地形のダンジョンで、使えそうだ」
「よかったね。使える魔法で」
「別に、しょうもない民間の魔法でもいい。新しい魔法なら、どんなものでも大歓迎だ」
何気に、ネクロマンサーが使うような魔法も覚えているが、使わないことにしていた。
死者の冒涜を、浮竹は嫌っていた。
大事な血族が反魂で蘇り、死していくのを目の当たりにして、余計に黒魔術と呼ばれる種類の、アンデットを操ったりする魔法は使わない。
するすると、黒蛇が浮竹の元にやってきた。ミスリルでできたゴーレムの熱が下がり、触れても大丈夫だと教えてくれた。
「黒蛇を置いてきていた。ミスリルの熱が下がって、アイテムポケットに入れても大丈夫なようだ」
来た道を戻り、ゴーレムのところにまでくると、京楽がアイテムポケットに収納した。
「さて、帰ろうか・・・・って何してるの」
「黒蛇たちに、お宝の場所を探してきてもらった。宝箱をあけに移動するぞ」
「はぁ・・・本当に君は、宝箱というかミミックが好きだね」
浮竹は、遺跡で残っていた全ての宝箱をあけた。
全部ミミックで、浮竹は嬉しそうにかじられていた。
「暗いよ怖いよ狭いよ息苦しいよ~~~」
じたばたもがく浮竹を、京楽とルキアが助ける。
浮竹は黒蛇を操って、ミミックを倒すと、ミミックは古代の魔法書をドロップした。
「なになに、熱がさらにあがる魔法・・・・使えないな。でも覚える」
古代の魔法書といっても、いい魔法ばかりではない。つまらない民間魔法がほとんどだった。
「京楽、今度熱を出したら、更に熱を出すようにしてやるからな」
「やめてよ、僕を殺す気なの?」
「ヴァンパイアは、熱が出たくらいじゃ死なない」
「浮竹殿、熱をあげる魔法であれば、低体温の危ない時とか、寒い時なんかに使えるのではないですか?」
「さすがルキアちゃん。変な魔法だけど、低体温の危ない時に使うのはいいかもね。寒い時には、僕の体温をあげて、浮竹を抱いて体温を分けてあげる」
その言葉に、浮竹は少し赤くなって、京楽の頭を殴った。
「なんで殴るのさ!」
「抱くとかいうからだ」
「あ、私は気にしていませんので」
ルキアは真っ赤になりながらも、聞こえなかったふりをすることにした。
「じゃあ、どうせだから堂々としよう」
「京楽?」
「愛してるよ、浮竹」
「んっ」
舌が絡むキスをされて、肩に噛みつかれて吸血された。
浮竹は、体重を京楽に預けて、お返しにと京楽の首筋に噛みついて、吸血した。
ルキアは真っ赤になって、あたふたしていた。
「ルキアちゃん、ごめんね。古城に戻るまで、馬車でまた10日も揺れると思うと、その、渇きがね・・・・」
人間社会に居る時に、人工血液を口にしていると、ヴァンパイアだとばれてしまう。
血の帝国は人間国家と国交をしているが、それでも人々はヴァンパイアを恐れ、人を襲い血を吸って殺すヴァンパイアがいるので、ヴァンパイアハンターがいた。
「ここは血の帝国から遥かに離れた人間たちが住む世界ですから。ヴァンパイアとばれるのは、危険です」
本当は、10日も馬車に揺れるのに、人間の御者を雇いたくなかったのだが、ギルドマスターに怪訝な顔をされるので、大人しく人間の御者を雇った。
「とりあず、することはもう終わった。帰ろう」
遺跡から一番近い村に待たせてあった馬車に乗りこみ、3人は冒険者ギルドのある、ガイア王国の街まで戻った。
「約束のゴーレムを退治してきた。ミスリルでできているから、武器防具になると思って、アイテムポケットに入れて持って帰ってきた」
解体工房で、機械仕掛けのミスリル製の、半分溶けたゴーレムを出した。
ギルドマスターは驚いた、受付嬢は、やっぱり規格外だと、顔を青くさせていた。
「ミスリルが溶けたのか。どんな魔法を使えば、そうなるんだ」
「鍛冶師だって、ミスリルを溶かして武器防具を作るだろう。それと似たようなものだ」
「鍛冶師は特別な炎を使う。まぁいい、依頼達成だ。報酬金金貨2千枚と・・・このゴーレムは、ギルドで買い取っていいか?」
「好きにしてくれ」
「では、金貨7千枚で買い取ろう」
「分かった」
「あと、ドラゴンの素材を打って莫大な額を手に入れたから、残っているドラゴンの素材があれば買いとるぞ」
「わかった」
浮竹と京楽は、アイテムポケットから10体のドラゴンの死体と、素材になる部分を出した。
ポチの肉は確保しておいたので、全てを売ることにした。
「金貨1万5千枚で買い取ろう」
少し買いたたかれている気もするが、買い取ってくれるだけありがたいので、その金額で売却した。
「また、ドラゴンを退治したら持ってきてくれ。買いとる」
「ああ、分かった」
「それじゃあ、僕らはこれで」
ルキアは、解体工房に入らず、ギルドの外で待っていた。
「なぁ、エルフのお嬢ちゃん、俺らと茶しようぜ」
「人を待っている」
「そんなつれないこと言うなよ」
「ごほん」
宇井竹が咳払いすると、ちんぴらに近いことをしていたBランク冒険者たちが驚く。
「Sランクの、浮竹さんと京楽さんの仲間でしたか。失礼しました。おい、お前らいくぞ」
「ちっ、Sランクだからって大きな顔しやがって。今に見てろ」
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