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安静と嫉妬

「隊長、梅干し茶漬けもってきましたよ」

「ああすまない海燕。そこに置いておいてくれ」

肺の病で、せきこんで吐血まではいかなかったが、発作が酷くて4番隊隊舎に運ばれた浮竹は、
二日間の安静を言い渡された。

だが、以外にも早く回復してしまった。

好物である梅干し茶漬けを食べながら、暇だなぁと浮竹はどうやって時間をつぶそうかと考えていた。

いつも、京楽がきてくれるわけじゃあない。

この前、たまった仕事に、雨乾堂を訪れていた京楽は副官の伊勢に連れ帰られていった。今頃、仕事に忙殺されているんだろうなと思うと、傍にいてくれないことが少し不満で、長い白い髪を無造作に耳にかける。

「海燕、暇だ。花札でもしないか?」

「花札?俺、これでも仕事で忙しいんですけど」

「たまにはいいじゃないか」

安静といわれても、体はもう大丈夫だ。寝ているのにも飽きた浮竹は、半ば海燕を無理やり誘って花札をしはじめた。

しかし、1時間もして飽きた。

「海燕、将棋はできるか?」

「はあ、一応ルールは知ってますが」

「じゃあ、将棋をしよう。ただの将棋じゃ面白くないな。そうだ、勝った方は負けた方の我儘を一つ聞くこと。そうしよう」

将棋で海燕に負けるはずがない。

そう思っていた浮竹に、海燕はあっさり勝ってしまった。

「仕方ない。言い出したのは俺だ。なんでも我儘を聞いてやる」

その桜色の唇に、唇を重ねていいですかなんて、とても言えない。海燕は、言いたかった我儘を飲み込んで、浮竹の翡翠色の瞳を見た。

「じゃあ、耳かきしてください。膝枕してもらいながら」

「なんだ、そんなことでいいのか。こんなおっさんの、膝枕でいいなら」

海燕は、正座した浮竹の膝に頭をのせて、耳かき棒を渡すと、耳かきをしてもらっていた。

「こんなこと、都にさせればいいのに」

あなただから、してもらいたいんだ。

海燕は、また声を飲み込んだ。

都は確かに愛しい。でも、同じくらいに上官を愛しいと感じている。もってしまってはいけない感情を、浮竹に抱いてしまっている。

居心地の良さに、軽い眠気を感じた頃、あまりにも冷たい霊圧に、海燕は体を起こした。

「何してるんだい、志波君」

「ああ、京楽!仕事は終わったのか?」

海燕は、殺意に似た霊圧に、言葉を飲み込む。海燕だけに向けての霊圧で、浮竹には感じさせていない。

「京楽隊長・・・・」

「志波君。ほどほどにね?」

あんまり調子に乗ったら、怪我するよ。

そう瞳で語られる。

海燕がどいた浮竹の正座した足に、京楽が頭をのせる。

「僕にも、耳かきしてよ、浮竹」

「いいぞ。それより、仕事は終わったのか?」

「ああ、あらかた片付いたよ。後は七緒ちゃんでもできる仕事だから、任せてきた」

「そうか」

京楽の耳かきをしてやりながら、浮竹は顔を蒼くした海燕を見た。

「どうしたんだ、海燕?」

「いや・・・ちょっと、具合が悪くなったんで。失礼します」

「・・・?」

浮竹は気づいていなかった。鈍感な上司をもって、志波君もかわいそうにと思う気持ちと、副官であることを利用して浮竹に接してくる志波君が鬱陶しいんだとまぜこぜになった想いで、京楽は浮竹の白い髪を手に取った。

「この髪に触れていいのは、僕だけだからね、浮竹」

「変な奴だな」

海燕に触らせないようにといっても、浮竹のことだから、海燕にもこの白くて綺麗で長い髪を櫛ですかせたりするんだろう。

想像しただけで、ちょっと嫉妬心がわいた。

「志波君には、気をつけて」

「海燕に?意味が分からない」

ほんとに鈍感だなぁ。

京楽は、仰ぎ見たまま、浮竹の白い髪を手に取ると、口づけをした。

「君は僕だけのものって意味」

京楽は、浮竹の白い顔(かんばせ)に顔を近づけると、深い口づけをした。

「んっ・・・・・・・」

浮竹は、目を閉じた。

角度を変えて何度も貪っていると、浮竹の綺麗に整った爪が、浮竹の肩に食い込んだ。

「も、いいだろ、京楽」

「君は、僕だけのものだ・・・・・」

決して、誰にも渡すものか。

京楽は、浮竹を貪る。

甘すぎて、とろけそうだ。

浮竹からは、いつも甘い香りがする。花のような香りだ。

時折太陽のにおいもする。

京楽の腕の中で、浮竹は長い睫毛を伏せて、翡翠色の瞳で京楽を見ていた。、

「どうしたんだ、京楽」

「なんでもないよ」

嫉妬って怖いよね。そう言葉を飲み込んで、京楽は浮竹を抱きしめる腕に力をこめるのだった。












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