家族
「そこまで!」
なんでもありの一騎打ち勝負。
負けたのは、京楽。勝ったのは浮竹。
鬼道で姿をくらませて、竹刀で打ってこられて、反応すると鳩尾を蹴られた。ばばばっと、回転や側転をして距離をとって鬼道での攻撃。
それに交じっての木刀と蹴りの攻撃に翻弄されて、さしもの京楽も竹刀を手から取り落とした。
「勝者、十四郎」
山本総隊長の言葉で、試合は終わった。
「ほんと、足癖悪いよね、君って」
「蹴りを主体とした体術だ。足癖が悪いわけじゃあない」
「どこで習ったの、そんなの」
「学院時代に、帰郷したときにじいさまから」
「へ、じいさま!?」
「まだ生きてるぞ、俺の祖父は」
ほらっと、写真を見せてもらう。どこが浮竹の面影のある好々爺だった。
「浮竹も、おじいさんになったらこんなかんじになるのかな」
「さぁ。俺はどっちかっていうと母親似だから」
「ああ、だからそんなに美人なのか」
揶揄すると、頭をぽかりと殴られた。
「俺のことは置いといて、俺の母親は美人だぞ」
写真を見せてもらうと、まさに今の浮竹を女性にしておしとやかさと気高さを加えた感じだった。髪の色は黒だが。
「一度、会ってみたいなぁ」
「会わてやらん。間違いが起こったら大変だから」
「いや、いくらなんでも浮竹の母親に手を出したりしないよ、僕は」
「母が・・・・・手を出してきそうだから。合わせやらん」
「え、君の母親って手癖悪いの?」
聞いてみると、浮竹はなんともいえない顔を作った。
「8人も子供をつくるくらい、お盛んなだったからな。今の俺の給料がないと、きっと見た目がいいから体を売っていた。俺がもし病弱じゃなかったら、学院に受かってなかったら・・・・そっちの世界に、半ば無理やり入れられていたかもしれない」
初耳だった。
浮竹は、下級とはいえ貴族だ。父親母親、兄弟7人、それに他の親類・・・・・そのほとんどを、今の浮竹が養っている。
「浮竹、お金がいるなら僕にいってよ?」
「養える額は、俺も給料からもらっているし、これ以上お前に頼りたくない」
貧しいのは、昔から慣れている。贅沢さえしなければ、食うに困るほどではなかった。最初の頃は。
浮竹が肺の病を患い、母がもっと丈夫な跡取りをと子供を作っていくと、気づけば8人兄弟になっていた。
薬代が、医者代が、とにかくバカにならないのだ。
髪が白くなった時、両親は泣いていた。
少しでも生きながらえるためにと、ミミハギ様を宿らせた。そのおかげで、病で死ぬことはなかったが、治ることもなくなった。
仕送りに、薬代に、飲食代。
それで、浮竹の給料は消えてしまう。京楽がいなければ、切り詰めて生活していただろう。
「昔も裕福ではなかった。多分、今も裕福じゃない。でも、食うに困るわけでもない」
兄弟は、みんな自立しているが、浮竹の仕送りの額が多いので、つい頼ってしまうのだ。
「悪口は言いたくないが・・・・母は、淫乱だった。父も色狂いで・・・お互い、馬が合ったんだろうな。8人も子供を産んでもまだ、次が生まれるかもしれない」
そんな血を引いているのが、少しだけいやだった。自慢の父と母であるが、反面色に狂っているのだと知られたくなかった。
「でも、大事にしてもらっていたんだろう?まだましじゃないか」
「そうか?」
「僕のとこなんて、金があるから放置しまくりだよ。金さえ与えればそれでいいと思っているんだ。親の愛情なんて、注いでもらった記憶がない。僕の中の母親は、乳母だった」
「それはそれで、悲しいな・・・・・・・・」
「長男は特別。次男は二の次。父と母の顔なんて、うちにいた頃でも年に数回拝めればよいほうだったよ。乳母が死んで、僕は一人になって、僕をもてあました家族は、僕を無理やり学院に・・・・・って、なんで君が泣いてるのさ」
「俺は、小さい頃は孤独だったけど、兄弟がいたから。父と母は、ちゃんと面倒を見てくれて、愛してくれて・・・・でも、お前は」
「僕なんかのために、泣かないで」
抱き締められて、浮竹の翡翠の瞳からまた一粒、涙が零れた。
「もうやめよう、身内の話は」
「そうだな」
「気分を変えるために、飲みに行こう」
「こら、十四郎、春水!こんな真昼間から酒なぞ・・・・・・・逃げたか」
浮竹と京楽は、瞬歩で逃げた。
昼からあいている居酒屋を探して、酒を飲む。
馴染みの店が開いていたのはラッキーだった。
「浮竹、飲め飲め」
「そういう京楽ももっと飲め」
二人して飲む酒は、美酒だった。
いつか、時がきたら。
いつかきっと。
浮竹は思う。
京楽を、愛する人を家族に紹介しようと。
それは、浮竹もおなじだった。
時がきたら、あの放置主義のくせに、隊長になったとたん手の平を返してきた家族ではあるけれど。
紹介しよう。愛する人を。
なんでもありの一騎打ち勝負。
負けたのは、京楽。勝ったのは浮竹。
鬼道で姿をくらませて、竹刀で打ってこられて、反応すると鳩尾を蹴られた。ばばばっと、回転や側転をして距離をとって鬼道での攻撃。
それに交じっての木刀と蹴りの攻撃に翻弄されて、さしもの京楽も竹刀を手から取り落とした。
「勝者、十四郎」
山本総隊長の言葉で、試合は終わった。
「ほんと、足癖悪いよね、君って」
「蹴りを主体とした体術だ。足癖が悪いわけじゃあない」
「どこで習ったの、そんなの」
「学院時代に、帰郷したときにじいさまから」
「へ、じいさま!?」
「まだ生きてるぞ、俺の祖父は」
ほらっと、写真を見せてもらう。どこが浮竹の面影のある好々爺だった。
「浮竹も、おじいさんになったらこんなかんじになるのかな」
「さぁ。俺はどっちかっていうと母親似だから」
「ああ、だからそんなに美人なのか」
揶揄すると、頭をぽかりと殴られた。
「俺のことは置いといて、俺の母親は美人だぞ」
写真を見せてもらうと、まさに今の浮竹を女性にしておしとやかさと気高さを加えた感じだった。髪の色は黒だが。
「一度、会ってみたいなぁ」
「会わてやらん。間違いが起こったら大変だから」
「いや、いくらなんでも浮竹の母親に手を出したりしないよ、僕は」
「母が・・・・・手を出してきそうだから。合わせやらん」
「え、君の母親って手癖悪いの?」
聞いてみると、浮竹はなんともいえない顔を作った。
「8人も子供をつくるくらい、お盛んなだったからな。今の俺の給料がないと、きっと見た目がいいから体を売っていた。俺がもし病弱じゃなかったら、学院に受かってなかったら・・・・そっちの世界に、半ば無理やり入れられていたかもしれない」
初耳だった。
浮竹は、下級とはいえ貴族だ。父親母親、兄弟7人、それに他の親類・・・・・そのほとんどを、今の浮竹が養っている。
「浮竹、お金がいるなら僕にいってよ?」
「養える額は、俺も給料からもらっているし、これ以上お前に頼りたくない」
貧しいのは、昔から慣れている。贅沢さえしなければ、食うに困るほどではなかった。最初の頃は。
浮竹が肺の病を患い、母がもっと丈夫な跡取りをと子供を作っていくと、気づけば8人兄弟になっていた。
薬代が、医者代が、とにかくバカにならないのだ。
髪が白くなった時、両親は泣いていた。
少しでも生きながらえるためにと、ミミハギ様を宿らせた。そのおかげで、病で死ぬことはなかったが、治ることもなくなった。
仕送りに、薬代に、飲食代。
それで、浮竹の給料は消えてしまう。京楽がいなければ、切り詰めて生活していただろう。
「昔も裕福ではなかった。多分、今も裕福じゃない。でも、食うに困るわけでもない」
兄弟は、みんな自立しているが、浮竹の仕送りの額が多いので、つい頼ってしまうのだ。
「悪口は言いたくないが・・・・母は、淫乱だった。父も色狂いで・・・お互い、馬が合ったんだろうな。8人も子供を産んでもまだ、次が生まれるかもしれない」
そんな血を引いているのが、少しだけいやだった。自慢の父と母であるが、反面色に狂っているのだと知られたくなかった。
「でも、大事にしてもらっていたんだろう?まだましじゃないか」
「そうか?」
「僕のとこなんて、金があるから放置しまくりだよ。金さえ与えればそれでいいと思っているんだ。親の愛情なんて、注いでもらった記憶がない。僕の中の母親は、乳母だった」
「それはそれで、悲しいな・・・・・・・・」
「長男は特別。次男は二の次。父と母の顔なんて、うちにいた頃でも年に数回拝めればよいほうだったよ。乳母が死んで、僕は一人になって、僕をもてあました家族は、僕を無理やり学院に・・・・・って、なんで君が泣いてるのさ」
「俺は、小さい頃は孤独だったけど、兄弟がいたから。父と母は、ちゃんと面倒を見てくれて、愛してくれて・・・・でも、お前は」
「僕なんかのために、泣かないで」
抱き締められて、浮竹の翡翠の瞳からまた一粒、涙が零れた。
「もうやめよう、身内の話は」
「そうだな」
「気分を変えるために、飲みに行こう」
「こら、十四郎、春水!こんな真昼間から酒なぞ・・・・・・・逃げたか」
浮竹と京楽は、瞬歩で逃げた。
昼からあいている居酒屋を探して、酒を飲む。
馴染みの店が開いていたのはラッキーだった。
「浮竹、飲め飲め」
「そういう京楽ももっと飲め」
二人して飲む酒は、美酒だった。
いつか、時がきたら。
いつかきっと。
浮竹は思う。
京楽を、愛する人を家族に紹介しようと。
それは、浮竹もおなじだった。
時がきたら、あの放置主義のくせに、隊長になったとたん手の平を返してきた家族ではあるけれど。
紹介しよう。愛する人を。
PR
- トラックバックURLはこちら