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ホットケーキ

「うまい」

目を輝かせる浮竹に、京楽も満足げな様子だった。

現世でいうホットケーキなるものを、材料を手にいてたので作ってみたのだ。、

かき交ぜて焼くだけだったが、食べてみてこれは甘味ものが大好きな浮竹なら大好物に違いないと、浮竹を呼んだのだ。

一番隊舎の厨房をかりて、総隊長自らが料理など、普通はありえないことを、京楽はしてしまった。専用の料理人が、自分が作るというのも断って、京楽は生まれて初めて自分で料理をした。

本当なら、もっと手の込んだフランス料理とか・・・・現世にいかないと食べられない食事をさせてあげたかったのだが、京楽の料理の腕は普通だった。

本場の場所で修行でもしない限り、コースものの料理など作れないだろう。

「京楽も食べてみろ」

一口サイズにカットされたそれを、口に含むと甘みが口の中に広がった。

尸魂界では蜂蜜は高級品だ。でも、現世にいけば蜂蜜の成分を含んだメープルシロップなるものがうっている。

手頃な値段で、甘くておいしい。

まだ浮竹と京楽が隊長になった頃の数百年前は、食事も質素なものだったが、ここ十数年でかなり変わった。

現世のメニューがよく登場するようになったのだ。

カレーとかシチューはけっこう昔からあったが、子牛のフィレステーキだの、フォアグラだの・・・・・。

現世でいう珍味や高級料理が、尸魂界の料理屋でも出るようになった。

ホットケーキも、かなり前に一時流行ったのだが、蜂蜜が高価になりすぎて、廃れていた。

「浮竹の喜ぶ顔がみたくてね」

京楽は、浮竹の頬にキスをした。

浮竹は、京楽を手招きする。

眼帯を外される。

いつもは見れない、京楽の右目が露わになる。醜い傷跡があった。

視力をなくした右目に、浮竹はキスをした。何度も。

それは、褥での決まり事。

右目にキスするのは、愛し合っている最中の、愛の証。

「浮竹・・・?」

どういうつもりなのかと様子を見ていると、浮竹は何度もキスをしてきたり、キスをせがんだりと、明らかに情欲していた。

自分の唇をペロリと舐めて、京楽の肩に服越しから噛みついてきた。

熱をはらんで潤んだ瞳に見つめられて、はっとなる。

「あ、まさか・・・・・・」

ホットケーキの元は、夜一から手に入れたものだ。

「まさか、夜一・・・・・・・」

伝令神機で、夜一をよび出す。

「なんじゃ」

「夜一、君ホットケーキの粉になにかいれたかい?」

「おや、もう気づかれたか。ちょっと、夜が激しくなる薬をな・・・・・」

「あほーーー!浮竹に食べさせちゃったじゃないか!」

「いいではないか。伴侶じゃろう?思う存分、愛してやればよい」

「夜一様・・・・・・・」

通話の途中で、砕蜂の甘い声が響いて、京楽は目も当てられないとばかりに天井を仰いだ。

「君、砕蜂ちゃんにも、何か飲ませた?」

「おお、よくわかるのう」

「夜一様、誰と通話しているのですか」

「おっと。まぁ、そういうことじゃ。ではな」

「ではな・・・・・じゃあない!」

すでに、通信は切れていた。

浮竹が、抱き着いてくる。

「苦しいのかい?」


浮竹を抱き上げて、隊首室の奥にある寝室に入る。

どさりと浮竹軽い体を横たえると、浮竹はまた甘えてきた。

「京楽・・・・・・」

それが、薬のせいなのは分かっている。

本当なら、思い切り抱いてやりたいが、昨日濃厚に交わったばかりだ。

これ以上、浮竹に負担をかけたくないし、出しつくしてしまって、交わる気になれない。

浮竹も、欲情はしているようだが、昨日あれだけ激しく交わったのだ。

性を放つことはできないだろう。


「あっ」

膝を割って、浮竹の熱に触れてみたが、やはり反応していなかった。

「京楽・・・・・・苦しいんだ。したくないのに、体が熱い・・・・」

浮竹は熱で潤んだ翡翠の瞳に涙をためていた。

「俺はおかしくなったのか?母のように、淫乱になってしまったのか?」

「そんなことんないよ、浮竹」

頭を撫でてやり、思い切り甘く甘く、唇をむさぼって、死覇装の中に手を差し入れる。

「んっ」

甘い声に、反応しそうになるが、やはり気分だけで体がおいついていかなかった。

胸の先端をつまむと、びくりと浮竹の体が強張った。

「するのか?・・・・・・・・だるくて、したくないけど、熱くて、苦しくて・・・・・どうにか、なりそうだ・・・・・・・・」

「僕が、責任もつから」

交わることはしない。

ただただ、甘く甘く貪っていく。

「あっ・・・・・」

浮竹が、京洛の右目に何度もキスをしてくる。何度も何度も。

「愛してる春水・・・・・・・」

せがまれて、舌が絡み合うキスをした。

「愛してるよ・・・・・十四郎」

浮竹の熱は反応していない。

ドライのオーガズムでいってしまった体を抱き締めると、浮竹は意識を手放していた。

京楽の体から、汗が滴った。

抱きたいのに、抱けなかった。

「きついね・・・・・」

抱きたいのに抱けないのが、こんなにきついものだとは思わなかった。想い人に手を出すことを禁止されているのに、近いものがあった。

京楽は、水浴びをして熱さましをして、寝室に戻る。浮竹は、大部薬から解放されたのか、起きていたがその瞳は熱をはらんでいなかった。

「俺も、水浴びてくる・・・・・・・・・」

少しよろけて立ち上がったが、足取りはしっかりしていた。

水浴びをしてきた浮竹の、濡れた髪をドライヤーでかわかしてやる。本当に、ここ十数年で便利になったものだ。浦原がもってくる、現世の技術のおかげで、TVまで見れるようになった。

「ホットケーキ・・・まだのこってるんだけど、どうしよう」

浮竹が、隊首室のテーブルにおきっぱなしの、食べかけのホットケーキを指さす。

一番隊は、執務室の奥に隊首室があって、さらにその奥に京楽専用のベッドルームがあった。

隊首室には、生活に必要なものがほとんど揃えられているし、広かった。

奥の部屋のベッドルームも、現世でいう五つ星ホテルのスィートルームクラスのものだ。

「もう、あれは食べちゃだめだよ」

「でも、もったいなくないか」

「また変になりたいの?」

首をぶんぶん振る浮竹。

もったいないが、捨ててしまおう。

もっと、通常時なら歓迎したかもしれないが・・・・・乱れ狂う浮竹など、めったにお目にかけることができないし。

日持ちするものでもないので、廃棄処分した。


その後、しばらく二人はホットケーキを食べることはなかったという。










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