忘れな草Ⅶ
「ワタシヲワスレナイデ、ワタシヲワスレナイデ」
合成音声を出すハロを撫でる。
「私を忘れないで」
霧吹きで、また花をつけた忘れな草の植木鉢に水をやる。
可憐な水色の花は、今年も満開だ。
大き目の鉢植えに移して、花の量も多くなった。
時折、クルーがしゃがみこんでは、「かわいいな、この花。名前はなんていうんだ?」と花をつっつく。
それに、ティエリアが笑顔で「忘れな草です」と答えると、クルーはたいてい哀しそうな笑顔を返す。
「私を、忘れないで。たとえ何年たっても、私を・・・・忘れないで。何度でも咲くから」
ティエリアは唄を歌う。
忘れな草の唄を。
私を忘れないで 私を忘れないで
私は忘れな草 私は忘れな草
毎年毎年 花を咲かすから
どうか どうか 祈るように縋りつく
私を忘れないで 私を忘れないで
忘却 それは一つの罪
私は忘れな草 私は忘れな草
ティエリアは、水色の忘れな草の髪飾りをしていた。
トレミーの制服姿になっても、時折アクセサリーをつける。
買ってもらった、から。
「愛しているわ、ライル」
「俺もだ、アニュー」
花の手入れをしていると、ブリーフィングルームの入り口で、愛を囁く二人の声が聞こえた。
「ワタシヲワスレナイデ、ワタシヲワスレナイデ」
そっちのほうに、ハロが跳ねていく。
「うわ、なんだ、ハロかぁ?こんなとこで何してるんだ」
「ティエリアトイッショ、イッショ」
「ティエリア?そこにいるのか?」
ライルがアニューと手を繋いで入ってくる。
それに、ティエリアはまるで忘れな草のような可憐な笑みを零す。
アニューをイノベイターとして知っているティエリアにとっては、アニューの幸せは自分のようなものだ。とても嬉しく思う。
「ティエリア、また花の手入れを?」
アニューがしゃがみこむ。
「ああ。何年たっても、また出会うために咲く。忘れないように、手入れを」
「ティエリア・・・どうか、そんな哀しい笑顔をしないで」
アニューが、その豊満な胸に、ティエリアの顔を埋めさせる。
ライルは苦笑している。アニューとティエリアは、まるで同種の生き物のような香りがする。
「アニュー。幸せかい?ライルは優しい?」
「ええ、幸せよ。私には勿体無いくらい優しくて、幸せ」
「なら、いいんだ」
大切にしていた忘れな草を一輪手折ると、アニューに持たせた。
「大事にしているのに・・・いいの?」
「構わないさ」
「ワタシヲワスレナイデ、ワタシヲワスレナイデ」
「どうした、ハロ?」
昔覚えた言葉を繰り返すハロ。同じ姿形をしているのに、囁く相手が違う。
その現実を、けれど避けることはせずに直視して、無理やり笑顔を刻む。
「アニュー、幸せに・・・」
去っていく二人を見て、そして一緒についていってしまったハロに手を振る。
「僕は、ここにいます。どうか、忘れないで」
虚空に向かって、手を伸ばす。
私は忘れな草。どうか、忘れないで。
「・・・・・・・・・・忘れ、ないで」
そのまま、いてもたってもいられなくなって、刹那の部屋に足を向ける。
ロックは解除されている。
「忘れな草か・・・・」
コンピューターでデータ解析をしていた刹那は、ティエリアの髪飾りを撫でた。
「君は・・・僕を、忘れない?」
「忘れない」
突然何をいいだすのかとは、聞かない。
「そう・・・・・忘れられても、何年でも花を咲かせるから」
「忘れないといっている」
ベッドに寝転んだティエリアは、ポレロをぽいっと投げ捨てる。それは、刹那の頭にバサリとかかった。
ベッドに、いくつもの水色の宝石が、ティエリアの変わりに涙の影を零す。
「疲れているのか?」
刹那の問いに、ティエリアは答えない。
ティエリアは、無垢な表情のまま眠ってしまった。
何か、心の傷をうずかせるようなことがあったんだろう。ティエリアはこうやって、時折自己防衛を働かせるように意識を飛ばしたり、眠りについたりする。
そんなティエリアに、刹那は毛布を被せ、髪飾りを外す。
「忘れな草・・・・なぁ、あんたはずっと覚えていろよ。これを買ったのもあんただ・・・後は、俺が責任もつから。でも、ティエリアのことは忘れるな」
ロックオンに向かって、半ば無理な注文をつける。
でも。
死んでしまったからといって、ティエリアを忘れるだなんて、そんなこと絶対に許さない。
私を忘れないで 私を忘れないで
私は忘れな草 私は忘れな草
毎年毎年 花を咲かすから
どうか どうか 祈るように縋りつく
私を忘れないで 私を忘れないで
忘却 それは一つの罪
私は忘れな草 私は忘れな草
合成音声を出すハロを撫でる。
「私を忘れないで」
霧吹きで、また花をつけた忘れな草の植木鉢に水をやる。
可憐な水色の花は、今年も満開だ。
大き目の鉢植えに移して、花の量も多くなった。
時折、クルーがしゃがみこんでは、「かわいいな、この花。名前はなんていうんだ?」と花をつっつく。
それに、ティエリアが笑顔で「忘れな草です」と答えると、クルーはたいてい哀しそうな笑顔を返す。
「私を、忘れないで。たとえ何年たっても、私を・・・・忘れないで。何度でも咲くから」
ティエリアは唄を歌う。
忘れな草の唄を。
私を忘れないで 私を忘れないで
私は忘れな草 私は忘れな草
毎年毎年 花を咲かすから
どうか どうか 祈るように縋りつく
私を忘れないで 私を忘れないで
忘却 それは一つの罪
私は忘れな草 私は忘れな草
ティエリアは、水色の忘れな草の髪飾りをしていた。
トレミーの制服姿になっても、時折アクセサリーをつける。
買ってもらった、から。
「愛しているわ、ライル」
「俺もだ、アニュー」
花の手入れをしていると、ブリーフィングルームの入り口で、愛を囁く二人の声が聞こえた。
「ワタシヲワスレナイデ、ワタシヲワスレナイデ」
そっちのほうに、ハロが跳ねていく。
「うわ、なんだ、ハロかぁ?こんなとこで何してるんだ」
「ティエリアトイッショ、イッショ」
「ティエリア?そこにいるのか?」
ライルがアニューと手を繋いで入ってくる。
それに、ティエリアはまるで忘れな草のような可憐な笑みを零す。
アニューをイノベイターとして知っているティエリアにとっては、アニューの幸せは自分のようなものだ。とても嬉しく思う。
「ティエリア、また花の手入れを?」
アニューがしゃがみこむ。
「ああ。何年たっても、また出会うために咲く。忘れないように、手入れを」
「ティエリア・・・どうか、そんな哀しい笑顔をしないで」
アニューが、その豊満な胸に、ティエリアの顔を埋めさせる。
ライルは苦笑している。アニューとティエリアは、まるで同種の生き物のような香りがする。
「アニュー。幸せかい?ライルは優しい?」
「ええ、幸せよ。私には勿体無いくらい優しくて、幸せ」
「なら、いいんだ」
大切にしていた忘れな草を一輪手折ると、アニューに持たせた。
「大事にしているのに・・・いいの?」
「構わないさ」
「ワタシヲワスレナイデ、ワタシヲワスレナイデ」
「どうした、ハロ?」
昔覚えた言葉を繰り返すハロ。同じ姿形をしているのに、囁く相手が違う。
その現実を、けれど避けることはせずに直視して、無理やり笑顔を刻む。
「アニュー、幸せに・・・」
去っていく二人を見て、そして一緒についていってしまったハロに手を振る。
「僕は、ここにいます。どうか、忘れないで」
虚空に向かって、手を伸ばす。
私は忘れな草。どうか、忘れないで。
「・・・・・・・・・・忘れ、ないで」
そのまま、いてもたってもいられなくなって、刹那の部屋に足を向ける。
ロックは解除されている。
「忘れな草か・・・・」
コンピューターでデータ解析をしていた刹那は、ティエリアの髪飾りを撫でた。
「君は・・・僕を、忘れない?」
「忘れない」
突然何をいいだすのかとは、聞かない。
「そう・・・・・忘れられても、何年でも花を咲かせるから」
「忘れないといっている」
ベッドに寝転んだティエリアは、ポレロをぽいっと投げ捨てる。それは、刹那の頭にバサリとかかった。
ベッドに、いくつもの水色の宝石が、ティエリアの変わりに涙の影を零す。
「疲れているのか?」
刹那の問いに、ティエリアは答えない。
ティエリアは、無垢な表情のまま眠ってしまった。
何か、心の傷をうずかせるようなことがあったんだろう。ティエリアはこうやって、時折自己防衛を働かせるように意識を飛ばしたり、眠りについたりする。
そんなティエリアに、刹那は毛布を被せ、髪飾りを外す。
「忘れな草・・・・なぁ、あんたはずっと覚えていろよ。これを買ったのもあんただ・・・後は、俺が責任もつから。でも、ティエリアのことは忘れるな」
ロックオンに向かって、半ば無理な注文をつける。
でも。
死んでしまったからといって、ティエリアを忘れるだなんて、そんなこと絶対に許さない。
私を忘れないで 私を忘れないで
私は忘れな草 私は忘れな草
毎年毎年 花を咲かすから
どうか どうか 祈るように縋りつく
私を忘れないで 私を忘れないで
忘却 それは一つの罪
私は忘れな草 私は忘れな草
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