氷
うだる夏の太陽の視線に、じっとりと汗ばむ。氷で冷やしていたはずの麦茶も、いつの間にか生ぬるくなっていた。8月の終わり。
蝉の鳴く声が、うるさい。ミーンミーンと、耳を塞いでも聞こえてくる音にいい加減うんざりする。せめて風でもと、あおぐうちわで風を起こしてみるが、熱気をはらんだ風だけがやってきて、ちっとも涼しくない。
こんな日には水浴びをしたい・・・・・。
でも、したらしたでまた寝込むのだろうと思うと、自分の体の弱さに嫌気がさした。
「暑い」
声に出すと、余計に暑く感じた。
額から流れ出た汗が、顎を伝って畳の上に落ちる。
「暑い」
そういって、長い白髪を乱して浮竹は、生ぬるくなった麦茶を飲みほして、畳の上に寝転がった。
「暑いっていったら、余計暑くなるよ」
「分かってる」
見ているだけでも暑苦しい、死覇装の上に隊長羽織、さらにその上に女もの着物をきている京楽を睨む。
「なんとかしろ」
「そんな無茶な」
「俺のためなら、なんでもするんじゃなかったのか」
「なんでもするよ」
「じゃあ、あの暑い太陽を消してくれ」
窓の外の太陽を指さすと、京楽が浮竹に近づいた。京楽は、汗一つ浮かべていない。その涼しげな顔が気に入らなくて、浴衣が大きく乱れるのも関係なしに、京楽の背中を蹴った。
「足癖の悪い子だね」
足首をとらえられて、キスをされる。
暑いからと、胸元を大きく広げていたら、じっと京楽が見てきた。黒曜石の瞳と翡翠の瞳が絡み合う。どちらが先だったろうか。気づけば、唇を重ねていた。
「おい、こんな暑い中するのは勘弁だぞ」
「それは僕も同じことだよ。汗かいてないから涼しそうに見えるだろうけど、確かに暑さには強いけど、こんな暑い中で動きたくないよ」
「あのな・・・・」
浮竹が、長い白い髪を乱して、下からのぞき込んでくる。潤んだ翡翠色の瞳と、暑さでやられているとはいえ、白い肌が艶めかしい。ああ、何かふっかけられるなと身構える。
「氷室、もってただろう?」
13番隊にも氷室はあるが、この夏の暑さで消耗が酷く、もう残り少ないのだ。上級貴族の京楽は、8番隊の氷室の他にも、個人で大きな氷室を所有していた。
「かき氷がくいたい。宇治金時で」
「いやだっていったら?」
「夏が過ぎるまで、お前とはしない」
「そんな殺生な」
京楽が、音をあげた。愛しい浮竹に触れないことほど、堪えるものはないからだ。
「分かったよ」
地獄蝶を飛ばして、個人で所有する氷室を解放させて、家人に氷を雨乾堂までもってくるように伝えた。家人の中には、元死神もいるので、瞬歩を使える者がいる。
チリン。
音だけは涼しい、風鈴が音を鳴らす。
「ありがとう」
京楽は、家人の一人から氷の塊を受け取って、大きな皿にいれた。それから、現世から買ってきたかき氷機を使って氷を削っていく。器にしゃりしゃりっとしたかき氷がもられる。小倉餡と抹茶シロップをかけて、宇治金時のかき氷の完成だ。一口食べてみる。まったりとした甘さが口いぱいに広がり、その冷たさに心地よさを感じた。
「まだかー。溶けるーーー」
だらだらしっぱなしの浮竹の傍に寄って、宇治金時のかき氷をいれた器を、その頬に当てた。
「冷たい!」
浮竹がその冷たさに驚いて、また浴衣を乱す。
「ちゃんとかき氷できたから。君、いつまでもそんな扇情的な恰好してないで、ちゃんと浴衣を着なさい」
「はぁ?扇情的?」
浮竹は自分の姿を見る。胸元をはだけさせて、裾から太ももが見えていた。
「そんな風に見えるのは、お前くらいだ」
「そんなことないよ」
君は知らないのだ。どれだけの男が、君をそんな目で見ているかを。
浮竹は、京楽からかき氷を受け取って、幸せそうにそれをほうばっていく。暑い夏にも楽しみはある。かき氷を食べ終えた浮竹は、強請ってきた。
「もう一人前」
まだ食べるつもりか。あまり食べさすと、体を冷やして熱を出すだろうから、京楽は硝子細工の器をとりあげて、残っていた氷を全部くだいて、ビニール袋に入れた。それを放り投げると、浮竹が冷たいと、嬉しそうな声をあげた。
「全部溶けたら、終わりか・・・・・」:
外の甘味屋にいけば、かき氷くらい売ってるだろうが、浮竹の場合直射日光にあたるだけで倒れてしまう。食べにいくことも、真夏にはなかなかできないのだ。
ごろごろと、溶けてく氷と戯れる浮竹が可愛くて、思わず伝令神機で写真を撮った。
うだる暑さは、まだまだ続きそうで。
「今日の夜、いいかい?せっかく氷室をあけてあげらんだから、お礼くらいもらってもいいよね?」
少し無理があるかもしれないけれど。夏場で体を重ね合わすのは暑さとの闘いでもある。暑いのを嫌がる浮竹と、最近ろくにしていないので、はっきりいうとたまっていた。
「1回だけなら」
よっしゃと、内心でガッツポーズをとる京楽の思いなど知らずに、浮竹は氷と戯れていた。
チリン。
涼しい音を鳴らすしか能のない風鈴が、生ぬるい風に吹かれて揺れていた。
蝉の鳴く声が、うるさい。ミーンミーンと、耳を塞いでも聞こえてくる音にいい加減うんざりする。せめて風でもと、あおぐうちわで風を起こしてみるが、熱気をはらんだ風だけがやってきて、ちっとも涼しくない。
こんな日には水浴びをしたい・・・・・。
でも、したらしたでまた寝込むのだろうと思うと、自分の体の弱さに嫌気がさした。
「暑い」
声に出すと、余計に暑く感じた。
額から流れ出た汗が、顎を伝って畳の上に落ちる。
「暑い」
そういって、長い白髪を乱して浮竹は、生ぬるくなった麦茶を飲みほして、畳の上に寝転がった。
「暑いっていったら、余計暑くなるよ」
「分かってる」
見ているだけでも暑苦しい、死覇装の上に隊長羽織、さらにその上に女もの着物をきている京楽を睨む。
「なんとかしろ」
「そんな無茶な」
「俺のためなら、なんでもするんじゃなかったのか」
「なんでもするよ」
「じゃあ、あの暑い太陽を消してくれ」
窓の外の太陽を指さすと、京楽が浮竹に近づいた。京楽は、汗一つ浮かべていない。その涼しげな顔が気に入らなくて、浴衣が大きく乱れるのも関係なしに、京楽の背中を蹴った。
「足癖の悪い子だね」
足首をとらえられて、キスをされる。
暑いからと、胸元を大きく広げていたら、じっと京楽が見てきた。黒曜石の瞳と翡翠の瞳が絡み合う。どちらが先だったろうか。気づけば、唇を重ねていた。
「おい、こんな暑い中するのは勘弁だぞ」
「それは僕も同じことだよ。汗かいてないから涼しそうに見えるだろうけど、確かに暑さには強いけど、こんな暑い中で動きたくないよ」
「あのな・・・・」
浮竹が、長い白い髪を乱して、下からのぞき込んでくる。潤んだ翡翠色の瞳と、暑さでやられているとはいえ、白い肌が艶めかしい。ああ、何かふっかけられるなと身構える。
「氷室、もってただろう?」
13番隊にも氷室はあるが、この夏の暑さで消耗が酷く、もう残り少ないのだ。上級貴族の京楽は、8番隊の氷室の他にも、個人で大きな氷室を所有していた。
「かき氷がくいたい。宇治金時で」
「いやだっていったら?」
「夏が過ぎるまで、お前とはしない」
「そんな殺生な」
京楽が、音をあげた。愛しい浮竹に触れないことほど、堪えるものはないからだ。
「分かったよ」
地獄蝶を飛ばして、個人で所有する氷室を解放させて、家人に氷を雨乾堂までもってくるように伝えた。家人の中には、元死神もいるので、瞬歩を使える者がいる。
チリン。
音だけは涼しい、風鈴が音を鳴らす。
「ありがとう」
京楽は、家人の一人から氷の塊を受け取って、大きな皿にいれた。それから、現世から買ってきたかき氷機を使って氷を削っていく。器にしゃりしゃりっとしたかき氷がもられる。小倉餡と抹茶シロップをかけて、宇治金時のかき氷の完成だ。一口食べてみる。まったりとした甘さが口いぱいに広がり、その冷たさに心地よさを感じた。
「まだかー。溶けるーーー」
だらだらしっぱなしの浮竹の傍に寄って、宇治金時のかき氷をいれた器を、その頬に当てた。
「冷たい!」
浮竹がその冷たさに驚いて、また浴衣を乱す。
「ちゃんとかき氷できたから。君、いつまでもそんな扇情的な恰好してないで、ちゃんと浴衣を着なさい」
「はぁ?扇情的?」
浮竹は自分の姿を見る。胸元をはだけさせて、裾から太ももが見えていた。
「そんな風に見えるのは、お前くらいだ」
「そんなことないよ」
君は知らないのだ。どれだけの男が、君をそんな目で見ているかを。
浮竹は、京楽からかき氷を受け取って、幸せそうにそれをほうばっていく。暑い夏にも楽しみはある。かき氷を食べ終えた浮竹は、強請ってきた。
「もう一人前」
まだ食べるつもりか。あまり食べさすと、体を冷やして熱を出すだろうから、京楽は硝子細工の器をとりあげて、残っていた氷を全部くだいて、ビニール袋に入れた。それを放り投げると、浮竹が冷たいと、嬉しそうな声をあげた。
「全部溶けたら、終わりか・・・・・」:
外の甘味屋にいけば、かき氷くらい売ってるだろうが、浮竹の場合直射日光にあたるだけで倒れてしまう。食べにいくことも、真夏にはなかなかできないのだ。
ごろごろと、溶けてく氷と戯れる浮竹が可愛くて、思わず伝令神機で写真を撮った。
うだる暑さは、まだまだ続きそうで。
「今日の夜、いいかい?せっかく氷室をあけてあげらんだから、お礼くらいもらってもいいよね?」
少し無理があるかもしれないけれど。夏場で体を重ね合わすのは暑さとの闘いでもある。暑いのを嫌がる浮竹と、最近ろくにしていないので、はっきりいうとたまっていた。
「1回だけなら」
よっしゃと、内心でガッツポーズをとる京楽の思いなど知らずに、浮竹は氷と戯れていた。
チリン。
涼しい音を鳴らすしか能のない風鈴が、生ぬるい風に吹かれて揺れていた。
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