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浮竹の一日

「起きてください、隊長!」

「嫌だ!後2時間寝る!」

「浮竹隊長!」

「あと2時間!」

「もう仕事開始の時間ですよ!起きてください!」

「寝るーー」

浮竹は、たまにねぎたない。

海燕に布団を引っぺがされて、毛布だけをなんとか死守してまだ半分眠りの中にいた。

「ええい、いい加減にしてください!」

何処から取り出したのか、ハリセンでスパンと浮竹の頭を勢いよくはたいて、海燕は浮竹から毛布を奪った。

「寒い!死ぬ!風邪をひく!」

「ほら、起きて顔洗って歯を磨いて、朝食食べてください」

海燕の上官である浮竹は、たまに手がかかる。

海燕は、まるで自分が浮竹の母親になったような錯覚を覚えた。

「んー・・・・・・」

「ほら、食べたまま寝ない!」

「ふにゅ・・・・・・」

スパーン。

ハリセンが飛ぶと、浮竹も目を開けて、食事をつづけた。

昔はスリッパだったが、勢いが足りずにハリセンになった。


「やあ、おはよう浮竹。一緒に仕事しよ・・・・って、まだ朝食とってるのかい」

「京楽隊長!京楽隊長も、浮竹隊長に言ってやってくださいよ。この人、放っておくと昼まで寝るんですよ!」

「いっぱい寝て元気が出るならいいじゃない。病気で臥せっているよりもまだましじゃない」

「そりゃそうですけど、いい大人が一人で決まった時間に起きれないなんて、恥ずかしいです」

海燕にとって、浮竹は大切な上官だ。

その世話を焼くのが嫌なわけではないのだが、冬になると冬眠したように長く眠る浮竹が、心配だった。

「一度、卯ノ花隊長に相談したほうが・・・・・」

海燕がそういうと、浮竹は飛び上がった。

「海燕、卯ノ花隊長だけはやめてくれ!明日からきちんと起きるから!」

入院している時、何度怖い目を見たのか数えきれない。

浮竹にとって、卯ノ花隊長は病を癒してくれる大切な友人でもあるが、同時に天敵でもあった。

「ははーん、浮竹、卯ノ花隊長が怖いんだね。まぁ、僕も怖いけどね。この前の献血、僕の血は珍しいってしおしおになるまでとられたからね」

「そうだろう。卯の花隊長は、菩薩だが同時に阿修羅だ」

散々な言われようだった。

その頃、卯ノ花隊長は4番隊の宿舎でくしゃみをしていた。

「誰かが、噂してるのかしら」


「約束ですよ。明日から、きちんと時間通り、8時には起きてくださいね」

ちなみに、死神の仕事の始まりの時間は9時である。

7時には起きていて欲しいが、冬は何故か睡眠の長い浮竹のために、8時に起きることを条件にした。

1時間もあれば、身支度はできるだろう。

京楽はというと、身支度を整えた浮竹の隣で、黒檀の机にもってきた仕事を広げて、少しでも浮竹と一緒にいたいので、一緒に仕事をしていた。

京楽の副官である伊勢は、まだ副官になったばかりだったが、京楽が仕事をためまくって、雨乾堂にくるのを耳を引っ張って連れて帰ることが何度もあったので、浮竹の元に行っていても、仕事をもっていって自分でやってくれるなら、それでいいかという思考の持ち主であった。

浮竹と京楽は、自分たちの関係をあまり隠していない。

尸魂界でもオシドリ夫婦として有名だ。

二人は、一緒に昼飯をとり、午後も仕事をして、仕事が終わると二人でどこかに出かけたりして、夕飯の時間には帰ってくる。

京楽の分まで夕食を用意しないといけないのが面倒だったが、浮竹が喜ぶのであれば、それもやぶさかではない。

京楽は、浮竹の調子が良い時はよく雨乾堂に泊まった。

仕事に忙殺される時などは、自分の館に泊まることもあったが、その時は逆に浮竹のほうが京楽の8番隊に顔を出すのだった。

浮竹も、自分の館をもってはいるが、主に雨乾堂で生活している。

館は他の席官にかしており、浮竹には帰る場所というと雨乾堂なのだ。

そして、それは京楽にとっても同じようなものになっていた。

二人はとにかく距離が近い。

そのくせ喧嘩をして、顔を見合わせなくなると、海燕や伊勢が心配しまくるのだ。

「海燕、風呂入ってくるー」

「僕もー」

お前は一人で入れと、京楽に突っ込みを入れたいが、二人は本当に仲がいい。

雨乾堂の風呂は少し広く作られており、成人男性二人が湯船に浸かっても、少し狭いかなというかんじのところだ。

「今日は泊まるねー」

「今日も、でしょうが」

海燕がハリセンで京楽の頭をスパンと殴ると、京楽は浮竹の分まで布団をしいた。

ああ、やっと帰れる。

海燕は新婚だが、浮竹の面倒を見ていることが多くて、帰る時間が遅い時がある。

「俺は帰りますよ。くれぐれも、無茶はしないでくださいね」

海燕が雨乾堂を後にすると、京楽と浮竹はゴロゴロ布団の上で転がった。

互いの体を貪りあうこともあるが、基本は京楽は泊まるだけだ。

浮竹に無理をさせすぎると、熱を出してしまうので、加減の仕方も心得ている。

「あー、憂鬱だなぁ。8時に起きなきゃいけないなんて」

「僕はいつも6時半には起きてるけどね」

「6時半なんてまだ夢の中だ」

京楽は、6時半には起きて、一度8番隊の隊舎に戻る。

そして9時になると、その日の仕事を手に、また雨乾堂にやってくる。

「もう9時だ。寝るぞ」

「まだ9時だよ」

「いい子は寝る時間なんだ」

「僕ら、いい子じゃないでしょ。ねぇ・・」

「知らん。今日はしない。寝る」

「けち」

「知るか」

消灯。

翌日、京楽はいなくなっていて、海燕にハリセンで頭をはたかれて8時に起きた。

「うー。寒い眠い死ぬ」

昨日と同じような台詞を吐きながら、浮竹は着替えて歯を磨いて顔を洗って朝食を食べた。

9時前には、仕事の準備ができていて、海燕は手のかかる子供がようやく少しだけ成長した気分になった。

ふと、地獄蝶が飛んできた。

「ん?」

メッセージは、今日は一緒に仕事ができないという、京楽からの私的なメッセージであった。

「また仕事がたまったのかな」

京楽がもってくる仕事の量は、そう多くない。仕事がたまりすぎて、きっと伊勢あたりに外出禁止令でも出されているのだろう。

「ああ、隊長、実は今日様子を見に卯ノ花隊長が・・・・」

「ひいい」

卯ノ花が来ると知って、浮竹はガクガクと震え出した。

「冷静に、冷静に・・・・・」

「あ、きました」

「こんにちは、浮竹隊長。お体の具合はどうですか?」

やってきた温和な笑みを浮かべた卯ノ花隊長に、浮竹はにこにことつくり笑いを浮かべて、対応する。

「体のほうは大丈夫だ。ここ1カ月発作もないし、微熱を出したのが2日あったくらいで」

「そうですか。それはよかったですね。くれぐれも、無茶はしないように」

「卯ノ花隊長、浮竹隊長が朝なかなか起きてくれないんです。何か策はありませんか?」

海燕が、余計なことを聞いてくるので、浮竹は海燕の脇腹を蹴った。

「いてっ・・・ったく」

「朝ちゃんと起きれるような薬を、煎じておきましょう。飲めば、きっかり朝に起きます」

「それはいいですね!ぜひその薬をください!」

「やめろおおお、海燕、俺を殺す気か!」

「おや、浮竹隊長は、私の薬で死ぬとでも?」

「いいえ、めっそうもない。大丈夫。薬なんてなくても、自力で起きれる」

顔が青くなっていた。

「お顔の色が悪いですね。どこが悪いところでも?」

あんたのせいだーーー!!!

浮竹は、心の中でそう叫んだ。

海燕のバカヤロー!

後で、海燕のハリセンで海燕をはたいてやろうと思う、浮竹だった。

浮竹の一日は、そんなかんじで朝からはじまるのだった。






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