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卯ノ花と浮竹と京楽3

4番隊隊長、卯ノ花烈は菩薩のようで、慈悲深く回道の腕に優れ、酷い怪我や病気も癒してくれる、まるで女神のような存在だ。

そんな卯ノ花は、阿修羅の顔ももっている。

にこにこと穏やかな笑みを浮かべながら、病室を抜け出して甘味屋にいくような患者・・・浮竹を簀巻きにしたりする。

京楽の血が珍しいからと、しおしおになるまで献血したりする。

ちなみに、注射の腕は下手だ。

何度もブスブスと刺されるが、回道で癒すので問題はないと思っているようだった。

「卯ノ花隊長、この薬苦すぎるんだ。どうにかならないか」

数日前、肺の病で血を吐いて、入院することになってしまった浮竹は、大分回復して卯ノ花にどどめ色の粉薬を見せた。

「これは、とても効能があるのです。良薬口に苦しというでしょう。諦めて飲んでください」

「そんなぁ」

卯ノ花に飲めと言われたら、飲むしかない。

救護詰所のボスである卯ノ花に逆らえる者はいない。

「この簀巻き、いい加減解いてくれないだろうか」

昨日黙って病室を抜け出し、弁当屋で弁当を頼んでそれを昼食にした件で、勝手に病室から抜け出さないようにと簀巻きにされた。

食事と風呂とトイレの時は自由になるが、その時間以外は簀巻きでベッドの上で放置プレイである。

ただでさえ暇なのに、救護詰所内を散歩もできないし、ずっとベッドの上はきつかった。

「浮竹、見舞いにきたよ~」

「ああ、いいところにきましたね京楽隊長。献血でも・・・・・・」

「急用を思い出したので、帰るね!」

瞬歩で去ろうとする京楽を、がしっと卯ノ花が阻んだ。

「献血、しましょうね?」

「ひいいい」

「京楽、俺の分まで血を抜かれてこい」

「浮竹、そりゃないよ」

「まぁ、冗談はこのくらいにして」

え、冗談だったの?

二人して、目を瞬かせた。

「浮竹隊長は簀巻きから解放します。ですが、くれぐれも許可なく病室を抜け出したりしないように。救護詰所を許可なく出て行ったら・・・どうなるか・・・・わかりますね?」

にこにこにここ。

注射器を片手に、卯ノ花は微笑んだ。

ひいいいい。

浮竹だけでなく、京楽も青ざめた。

「新しい毒に対する血清が完成しまして、それのテストがまだなので・・・・」

ひいいいいいいい。

毒打たれる!

血清打たれても、そういう毒は絶対猛烈に痛かったりするのだ。


浮竹は簀巻きから解放されて、卯ノ花は病室を去っていた。

「浮竹、大丈夫かい?」

「ん、ああ。相変らず4番隊の飯は味がしないので、昼飯を許可なく抜け出して弁当買ってきて食べたら、簀巻きでベッドに放置プレイされた」

「せめて許可はとろうよ」

「飯の味がしないからという理由では、許可が下りないんだよな、俺の場合」

他の患者は救護詰所の飯に文句をいったりしないので、浮竹が悪い、ということになる。

「君の好きな桃をもってきたんだ。むいてあげるから、食べるでしょ?」

「ああ」

浮竹は、京楽に桃をむいてもらい、一口サイズにカットされたのを食べながら、小首を傾げた。

「それにしても、卯ノ花隊長は恐ろしい」

「うん」

「優しくて綺麗だけど・・・・山姥(やまんば)みたいだよなぁ。悪鬼ともいうべきか。菩薩の顔の裏に阿修羅を隠してる」

「浮竹、めったなこと言うもんじゃないよ!卯ノ花隊長に聞かれたら殺されるよ!ほら、話をすれば卯ノ花隊長が」

「ひいっ」

「あはははは、冗談だよ」

からからと笑う浮竹の頭を拳で殴って、浮竹はベッドに横になった。

「明日には退院できると思う」

「そう。よかった」

叩かれた頭をなでながら、京楽が微笑む。

お見舞いの桃の他にあったおはぎを食べながら、京楽と浮竹は他愛ない会話をした。それから、口づけを交わし合い、互いを抱擁する。

「浮竹隊長、京楽隊長」

音もたてずに現れた卯ノ花に、二人は真っ青になった。

「こここここ、これは別になんでもないぞ!」

浮竹は、京楽を突き飛ばして、ぶんぶんと首を振っていた。

「病室でいちゃつくのは、ほどほどにしてくださいね?」

にーっこりと、卯ノ花は微笑む。

手術を終わらせてきたのか、血の匂いがかすかにした。

「京楽隊長は、とても元気そうですね。献血しましょうか」

ずるずると、卯ノ花に引っ張られていく京楽。

「助けて~浮竹~~~」

「なむ」

「誰か~~助けて~~~~」

助ける者など誰もいないと分かっていても、京楽は助けを求めた。

献血のためと、10回以上も注射器を刺されて、なかなか血管が浮き出てきませんねぇと、回道をかけながら、卯ノ花は笑う。

「浮竹のばか~~~~」

卯ノ花に文句は言えなくて、助けてくれなかった浮竹に文句をたらす。

「京楽のあほおお。京楽が浮竹浮竹うるさいから、俺まで献血に!」

隣のベッドにやってきた浮竹は、副隊長の虎徹に献血のための針をさされた。

「お、うまいな、虎徹副隊長」

「いえ、普通ですよ」

「僕なんて・・・・・」

もう10回以上針を刺されている。それでやっと血管を見つけて、卯ノ花は献血を開始した。

二人して、ちゅーっと血を抜かれていく。

しおしおになるまで。

「はい、献血してくださったご褒美です」

卯ノ花に野菜ジュースを渡されて、それを飲みながら、二人はふらふらと休憩室にかけこんだ。

「絶対、抜く血の量多すぎるよな」

「そうだね。しおしおだ」

野菜ジュースは、おいしくなかった。

「浮竹、なるべく入院しないでね」

「そうしたいが、体がなぁ」

卯ノ花が怖いからとは、二人とも言えない。

だって、背後に卯ノ花がいたのだ。

気づいた時には背後にいて、心臓が止まるかと思った。

「京楽隊長、また献血にきてくださいね。京楽隊長の血は珍しいので、いつでも不足気味なのです。浮竹隊長は、体を大切にしてくださいね。最近寒いので、風邪にも気をつけてください」

にこりと微笑んで、卯ノ花は去っていく。

「こ、怖かったー」

「僕、心臓一瞬止まったよ」

卯ノ花烈。

彼女が、初代剣八であることを、二人はまだ知らない。

長く戦うためだけに、回道を身につけたことも。

それが今や、瀞霊廷で癒し手として欠かせない存在となっていた。












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