溝
長い白の髪を畳に乱れさせて、浮竹は動かなかった。
「浮竹!?」
雨乾堂にきた京楽は、ピクリとも動かない浮竹の様子に、発作でも起こしたのか、それとも高熱で倒れたのかと抱き起す。
すーすーすー。
よく眠っていた。
「寝てるだけかい・・・・でも、よかった」
浮竹の身に、何もなくて。
まだ、熱さの残る9月半ば。暑かったのか、布団を蹴飛ばしてしまっている。夜着も大分着くずしてしまっていて、肩まで見えていた。
薄いが、しなやかな筋肉のついた体のラインが見える。
そんなつもりは全然なかったのだが、無防備な浮竹の姿は扇情的すぎて、自分の中の熱が高まっていくのが分かった。
「ちょっとだけ・・・・・ね?」
浮竹の髪をなでて、その桜色の唇に口づける。露わになっていた肩にキスして、夜着を着直させていると、ガタンと音がたった。
「あんた・・・寝ている隊長になにしてるんですか!」
薬と白湯の乗ったお盆をひっくり返して、海燕が京楽にくってかかってきた。
「何をって・・・・キスしてただけだけど?」
「隊長は、発作をおこして寝てたんですよ!それをいいことに手を出すなんて、最低だ!」
「やっぱり発作おこしてたのかい・・・・・気づいてやれなくてごめんね、浮竹」
「今すぐ、出て行ってください。隊長にこれ以上手を出したら許しません」
「それは、僕と浮竹の話でしょ?部外者の君にとやかく言われる筋合いはないね」
京楽は、海燕が浮竹に恋慕しているのを知っていた。
だから、これは見せつける意味もあるのだと、眠っている浮竹にまた口づけた。
「この卑怯者!意識のない隊長になんて真似を!」
海燕は知らないのだ。
京楽と浮竹ができているのを。
いや、どこかで気づいているのかもしれないが、受け入れられないのだろう。
「・・・・・・く?」
翡翠色の目があいた。
「きょうら・・・く・・?」
まるで、甘えるような声で視線を彷徨わせる。
「僕はここにいるよ?」
「京楽・・・・・・海燕・・・・・・どうした、何かあったのか」
言い争っている二人に気づいて、浮竹が覚醒した。
「何かあったじゃありません隊長。京楽隊長が、隊長の意識がないのをいいことに手を出していたんですよ」
「ああ・・・・・京楽が悪い」
「そうでしょう!」
「そりゃないよ浮竹」
京楽が、悲しそうな目をする。
ざまーみろというかんじの海燕に、カチンときた。
「浮竹に、薬飲ませるんじゃなかったの」
「ああ、すみません隊長。薬はここにおいておきますから、白湯いれなおしてきます」
「あ、水があるから、白湯はいらないぞ、海燕」
「分かりました。ここに控えていますので、何かあったら言ってください」
「いや、もう下がってくれ」
「そうだよ、邪魔者はさっさと去ってくれないかな」
「京楽!」
浮竹に叱られても、京楽の態度は変わらなかった。
浮竹と自分の仲を邪魔する者は許さない、そんな独占的な瞳をしていた。
「浮竹、薬のんで横になって」
「いや・・・・もう、大丈夫だ。起きる」
薬と水をのんだが、体調はもう大丈夫なのだと、海燕の名を呼ぶ。
「海燕、布団を直してくれ。あと、着換えを頼む」
「はい、隊長!」
余裕を見せる海燕が悔しくて、出された死覇装を奪った。
「京楽?」
「僕が、着せてあげるよ」
「ああ、すまない・・・・・」
夜着を脱いで、死覇装をまとわせていく。それはいつもなら、海燕の役目だった。
「隊長羽織は?」
京楽が、次をよこせと海燕を見るが、海燕は隊長羽織を渡さずに、自分の手で浮竹に着せてしまった。
「隊長、今日はどうされますか。仕事は少しありますが、納期を伸ばしてもらうことも可能です」
「ああ・・・大分あったのに。海燕、お前が一人片付けたのか?」
「はい」
「すまない。ありがとう、海燕」
尻尾をぶんぶんふる犬に似ていて、京楽は口にしていた。
「まるで、飼い犬だね。みっともない」
「なんだと!」
「ああ、止めないか二人とも!」
浮竹が、溜息を零す。
「もっと仲良くできないのか」
「できません」
「できるわけないね」
京楽は、浮竹を抱き締めた。
「京楽!海燕が見ているんだぞ!」
「教えちゃえばいいじゃない。僕たちの仲を」
京楽の腕の中から逃れようとする浮竹を制して、京楽は浮竹に深く口づけした。
舌がからまる。
「んうっ・・・・・・・」
「京楽隊長、隊長に何を!」
「僕たちは、こういう仲なんだよ」
「隊長、しっかりしてください!」
二人の間に入り、京楽から浮竹を奪い返そうとする。
「海燕、もういい。下がってくれ」
「でも隊長!」
「きょうら・・・・・・あおるのはやめろ。ちゃんと、分かってるから」
浮竹は冷静だった。
「隊長」
「下がれ、海燕」
「でも!」
「ああ・・・・僕に嫉妬してるの?」
「そんなんじゃありません!」
抗う浮竹に手を出していく京楽。
「海燕がみてる・・・から・・・・ああっ」
海燕は、真っ赤になっていた。
「・・・・・君、さ」
京楽が、海燕の前にくる。
海燕の股間を、足でぐりぐりと蹴る。
「やっぱり。浮竹に欲情してるんだね・・・・・僕が羨ましいんでしょ」
「なっ」
すぐに飛び退る海燕は、真っ青になっていた。
「違うんです隊長!」
「海燕・・・・・。京楽も、いい加減にしろ!」
鳩尾に肘を入れられて、京楽が浮竹を貪ることをやめる。
乱れた死覇装を整えて、浮竹は上気した頬で二人を睨んだ。
「海燕はもういいから下がれ。京楽、お前は隊舎に帰れ」
「そりゃないよ、浮竹」
「言う通りにしないと、もう二度と抱かせてやらんぞ!」
「ちぇっ」
浮竹の言葉に、絶望した表情の海燕を見る。
京楽は、でもどこか満足げに去っていった。
「海燕」
ぎくりと、海燕は体を強張らせた。
「何もなかった、何も聞かなかった・・・・それでいいな」
「隊長、俺はあなたが・・・・・・!」
「海燕!」
名を呼ばれる。
「都はどうするつもりだ!」
「・・・・・!」
愛するはずの妻の名を呼ばれて、青くなっている海燕に優しい声をかける。
「お前らしくもない・・・・・いつもの海燕に戻れ」
「隊長・・・・・・」
浮竹は、文机に向かった。
「仕事をする。余った分の書類をもってきてくれ」
「分かりました」
全てをなかったことにする浮竹が、憎くてでも愛しくて、相反する矛盾する感情がごちゃまぜになって、海燕は混乱した。
でも、冷静になれと言い聞かせると、体は自然と動いた。
「書類、もってきます・・・・」
下がっていく海燕と、去ってしまった京楽の、深まっていく溝に、浮竹は頭を抱えた。
「どうして、俺なんだ・・・・・・」
京楽も海燕も。
本当に、どうかしている。
コップに残っていた水を飲みほして、浮竹は悩むのだった。
「浮竹!?」
雨乾堂にきた京楽は、ピクリとも動かない浮竹の様子に、発作でも起こしたのか、それとも高熱で倒れたのかと抱き起す。
すーすーすー。
よく眠っていた。
「寝てるだけかい・・・・でも、よかった」
浮竹の身に、何もなくて。
まだ、熱さの残る9月半ば。暑かったのか、布団を蹴飛ばしてしまっている。夜着も大分着くずしてしまっていて、肩まで見えていた。
薄いが、しなやかな筋肉のついた体のラインが見える。
そんなつもりは全然なかったのだが、無防備な浮竹の姿は扇情的すぎて、自分の中の熱が高まっていくのが分かった。
「ちょっとだけ・・・・・ね?」
浮竹の髪をなでて、その桜色の唇に口づける。露わになっていた肩にキスして、夜着を着直させていると、ガタンと音がたった。
「あんた・・・寝ている隊長になにしてるんですか!」
薬と白湯の乗ったお盆をひっくり返して、海燕が京楽にくってかかってきた。
「何をって・・・・キスしてただけだけど?」
「隊長は、発作をおこして寝てたんですよ!それをいいことに手を出すなんて、最低だ!」
「やっぱり発作おこしてたのかい・・・・・気づいてやれなくてごめんね、浮竹」
「今すぐ、出て行ってください。隊長にこれ以上手を出したら許しません」
「それは、僕と浮竹の話でしょ?部外者の君にとやかく言われる筋合いはないね」
京楽は、海燕が浮竹に恋慕しているのを知っていた。
だから、これは見せつける意味もあるのだと、眠っている浮竹にまた口づけた。
「この卑怯者!意識のない隊長になんて真似を!」
海燕は知らないのだ。
京楽と浮竹ができているのを。
いや、どこかで気づいているのかもしれないが、受け入れられないのだろう。
「・・・・・・く?」
翡翠色の目があいた。
「きょうら・・・く・・?」
まるで、甘えるような声で視線を彷徨わせる。
「僕はここにいるよ?」
「京楽・・・・・・海燕・・・・・・どうした、何かあったのか」
言い争っている二人に気づいて、浮竹が覚醒した。
「何かあったじゃありません隊長。京楽隊長が、隊長の意識がないのをいいことに手を出していたんですよ」
「ああ・・・・・京楽が悪い」
「そうでしょう!」
「そりゃないよ浮竹」
京楽が、悲しそうな目をする。
ざまーみろというかんじの海燕に、カチンときた。
「浮竹に、薬飲ませるんじゃなかったの」
「ああ、すみません隊長。薬はここにおいておきますから、白湯いれなおしてきます」
「あ、水があるから、白湯はいらないぞ、海燕」
「分かりました。ここに控えていますので、何かあったら言ってください」
「いや、もう下がってくれ」
「そうだよ、邪魔者はさっさと去ってくれないかな」
「京楽!」
浮竹に叱られても、京楽の態度は変わらなかった。
浮竹と自分の仲を邪魔する者は許さない、そんな独占的な瞳をしていた。
「浮竹、薬のんで横になって」
「いや・・・・もう、大丈夫だ。起きる」
薬と水をのんだが、体調はもう大丈夫なのだと、海燕の名を呼ぶ。
「海燕、布団を直してくれ。あと、着換えを頼む」
「はい、隊長!」
余裕を見せる海燕が悔しくて、出された死覇装を奪った。
「京楽?」
「僕が、着せてあげるよ」
「ああ、すまない・・・・・」
夜着を脱いで、死覇装をまとわせていく。それはいつもなら、海燕の役目だった。
「隊長羽織は?」
京楽が、次をよこせと海燕を見るが、海燕は隊長羽織を渡さずに、自分の手で浮竹に着せてしまった。
「隊長、今日はどうされますか。仕事は少しありますが、納期を伸ばしてもらうことも可能です」
「ああ・・・大分あったのに。海燕、お前が一人片付けたのか?」
「はい」
「すまない。ありがとう、海燕」
尻尾をぶんぶんふる犬に似ていて、京楽は口にしていた。
「まるで、飼い犬だね。みっともない」
「なんだと!」
「ああ、止めないか二人とも!」
浮竹が、溜息を零す。
「もっと仲良くできないのか」
「できません」
「できるわけないね」
京楽は、浮竹を抱き締めた。
「京楽!海燕が見ているんだぞ!」
「教えちゃえばいいじゃない。僕たちの仲を」
京楽の腕の中から逃れようとする浮竹を制して、京楽は浮竹に深く口づけした。
舌がからまる。
「んうっ・・・・・・・」
「京楽隊長、隊長に何を!」
「僕たちは、こういう仲なんだよ」
「隊長、しっかりしてください!」
二人の間に入り、京楽から浮竹を奪い返そうとする。
「海燕、もういい。下がってくれ」
「でも隊長!」
「きょうら・・・・・・あおるのはやめろ。ちゃんと、分かってるから」
浮竹は冷静だった。
「隊長」
「下がれ、海燕」
「でも!」
「ああ・・・・僕に嫉妬してるの?」
「そんなんじゃありません!」
抗う浮竹に手を出していく京楽。
「海燕がみてる・・・から・・・・ああっ」
海燕は、真っ赤になっていた。
「・・・・・君、さ」
京楽が、海燕の前にくる。
海燕の股間を、足でぐりぐりと蹴る。
「やっぱり。浮竹に欲情してるんだね・・・・・僕が羨ましいんでしょ」
「なっ」
すぐに飛び退る海燕は、真っ青になっていた。
「違うんです隊長!」
「海燕・・・・・。京楽も、いい加減にしろ!」
鳩尾に肘を入れられて、京楽が浮竹を貪ることをやめる。
乱れた死覇装を整えて、浮竹は上気した頬で二人を睨んだ。
「海燕はもういいから下がれ。京楽、お前は隊舎に帰れ」
「そりゃないよ、浮竹」
「言う通りにしないと、もう二度と抱かせてやらんぞ!」
「ちぇっ」
浮竹の言葉に、絶望した表情の海燕を見る。
京楽は、でもどこか満足げに去っていった。
「海燕」
ぎくりと、海燕は体を強張らせた。
「何もなかった、何も聞かなかった・・・・それでいいな」
「隊長、俺はあなたが・・・・・・!」
「海燕!」
名を呼ばれる。
「都はどうするつもりだ!」
「・・・・・!」
愛するはずの妻の名を呼ばれて、青くなっている海燕に優しい声をかける。
「お前らしくもない・・・・・いつもの海燕に戻れ」
「隊長・・・・・・」
浮竹は、文机に向かった。
「仕事をする。余った分の書類をもってきてくれ」
「分かりました」
全てをなかったことにする浮竹が、憎くてでも愛しくて、相反する矛盾する感情がごちゃまぜになって、海燕は混乱した。
でも、冷静になれと言い聞かせると、体は自然と動いた。
「書類、もってきます・・・・」
下がっていく海燕と、去ってしまった京楽の、深まっていく溝に、浮竹は頭を抱えた。
「どうして、俺なんだ・・・・・・」
京楽も海燕も。
本当に、どうかしている。
コップに残っていた水を飲みほして、浮竹は悩むのだった。
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