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星(IF

その日は、晴天だった。

窮屈な義骸に入り、二人で護廷13隊に内緒で現世に出かけた。総隊長と元隊長がまるでかけおちのようにいなくなったことは、書き置きのせいもあり、すぐにばれてしまったけれど。

連れ戻される間の数時間を、ただ山の頂上から星を見上げていた。

大分北の地方で、都会の汚い空気もなく、綺麗な星が見えた。

「ごらんよ浮竹。あれが北斗七星だよ」

「へえ、あれがか」

何十万光年、何百万光年、何千万光年と離れている星の名前や星座を教えてやる。

「あれはカシオペア座。あれが乙女座。あっちはてんびん座だ」

「京楽は、物知りだな」

「今日のために、少し勉強したからね」

現世から見える星と、尸魂界から見える星は全然違う。

星座なんて覚えても、なんの得にもならないけれど、愛しい浮竹のためなら苦など何もない。

「学院を卒業したとき、卒業旅行で夜の間だけ海と空をみたでしょ。あの時みたいだね」

手を伸ばせば、届いてしまいそうで。

星の海を、二人で漂った。

「空が落ちてきそうだ」

「そうだね」

「綺麗だな、京楽」

「君とまた現世の星の空を見れて、嬉しいよ」

浮竹が逝ってしまい、戻ってくるまでの数年間ずっと一人だった。護廷13隊の総隊長という地位が重くのしかかり、浮竹を供養する暇もあんまりなくて。

ただ仕事にのめりこみ、酒をたまに一人で飲む。他の隊長との付き合いで飲むこともあるが、夜まで飲み明かすことはなかった。

「男性死神協会の会誌に飾りたい」

そう言って、浮竹は京楽からもらった携帯で星空の写真をとった。

「っくしょん」

「浮竹?やっぱり、寒い?」

「少し・・・・」

もってきていた毛布を、ふわりと浮竹にかけてやった。大きめにできているそれは、京楽を包んでもまだ余裕があった。

「こんな大きな毛布・・・なんのためかと思ったら、一緒に寝るときに使うのか」

「浮竹は、ミミハギ様を失ったと同時に肺の病もなくなったけれど、病弱なのは変わりないからね」

「心配をかけてすまない」

「いいんだよ。君を心配するのも、生きている楽しみの一つだから」

つまらないだろうと問うと、額にキスをされた。

「君のことに関して、飽きることなんて何もないよ。何度経験しても、したりない」

こうやって、二人で星を見るのも見飽きたりないのだと、ずっと星の海を見上げていた。

北国の山の頂上で、敷布を広げてそのうえで寝転がっていた。

京楽は、隊長羽織を着ているが、浮竹はただ白い羽織を着ているだけだった。背中に13番隊の文字はない。隊長羽織は、朽木から阿散井と名を変えたルキアが着ている。

「隊長をやめても、やはり現世には霊圧の高い者は気軽にいけないものなのだな」

ましては、総隊長となった京楽が現世にお忍びで遊びにいくなど、あってはならないことなのだが。

「今日は、君を始めて抱いた日だから・・・・・・・」

今でも忘れていないのだと告げると、浮竹は白い頬を恥ずかしさで上気させていた。

その姿が愛らしくて、口づけを落としていく。

「あっ、京楽・・・・・・」

「浮竹、君はどこもかしこも甘いね。君から香り立つ甘い花のようだ」

浮竹は甘い花の香りがする。赤子の頃、花の神にささげられ、愛された。病弱な赤子が丈夫になりますようにと、花の神にすがって。花の神は、丈夫さは与えてはくれなったが、甘い香を浮竹に与えた。

子供の頃、どうして自分からは花の匂いがするのかと両親を問い詰めると、花の神に、少しでも長生きできるように捧げたのだと言われた。

愛しい者をなくさないように、捧げるのだ。

もう廃れてしまった、花の神に、今でも感謝している。甘い花の香は嫌いではないから。

花の神の名は、椿の狂い咲きの王。

椿のように、冬に狂い咲く、花の王の神。

「流れ星だ」

「ああ、本当だね」

星が落ちる------------。

「何か願ったかい?」

「京楽といつまでも一緒にいれますようにって」

「奇遇だね。僕も、浮竹とずっと一緒に在れますようにって」

暖かい毛布の下で、手を握りあった。

唇を重ねると、吐息が零れた。


「ああ、そろそろ時間かな・・・・・・」

「?」

「現世にいってくるって、七緒ちゃんに書き置き残しておいたからね。気づかれて、そろそろ連れ戻される時間だ」

「京楽総隊長、浮竹元隊長!」

七緒と、数人の席官がやってくる。

浮竹は、元隊長と呼ばれていた。浮竹さんと呼ぶのはあまりにも変なので。

「いくら平和とはいえ、総隊長が尸魂界を出て現世に遊びにいくなど、言語同断です!」

「たまにはいいじゃない。目をつぶってよ」

「いいえ、いけません。浮竹元隊長も、止めてください・・・・・」

「すまない、俺も期待してついていってしまった・・・・・」

「とにかく、穿界門を開きます」

尸魂界に続く道が現れる。

京楽と浮竹は、七緒と数人の席官に見守られて、瀞霊廷に帰って行った。


「おはよう」

「ああ、おはよう」

二人して、寝過ごしてしまった。

昨日は、夜更けまで星を見ていた。星の海は、空が落ちてきそうな錯覚を覚えた。、

「七緒ちゃんには、悪いことしたなぁ」

始末書を書くのが、七緒になってしまったのだ。浮竹は元隊長で今は一般死神扱いだし、総隊長が始末書を読むのだが、その始末書を読むはずの総隊長が始末書を書く羽目になるのは、流石に世間体が悪いからと、七緒になった。

「お詫びに、伊勢副隊長の好物を買ったらどうだ?」

「ええと・・・確か、羊羹だったかな。それなら、いいのが置いてあるんだ」

高級菓子店から、近いうちに二人で食べようと、京楽が羊羹を買い求めてそれを執務室の戸棚の中に隠しいたのだ。

「これはうまそうだな」

「食べる?」

「でも、伊勢副隊長に・・・・・」

「もう一度買いにいけばいいだけだよ。食べちゃおう」

二人して、羊羹を食ってしまった。

京楽が、仕事を終えて、七緒のために羊羹を買いにでかける。その後を追って、浮竹が走り出す。

花の神の愛児は、隊長となり、一度死に、そして花の神の愛によって蘇った。いつも・・・・幼い頃から、髪や肌から甘い花の香をさせていた。

椿の狂い咲きの王は、愛した白い髪の子が蘇るために全てを捨てた。浮竹は蘇り、椿の狂い咲きの王は体も精神体も、その存在の意味も全てなくした。

傍らにいる男が、狂い咲くように愛を注いでいるから、存在意味をなくしても平気だった。

花天狂骨。

花に狂う。

花の神の名と同じ響きの斬魄刀を持つ男に、慈悲を与えた。

愛し子を愛する男は、花に狂っているから、慈悲を与えた。

椿の狂い咲きの王、花の神は、天から骨になって笑う。

「愛している-----------」

浮竹と京楽は、もう今はない花の神に愛されていた。





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