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結婚記念日

今日は海燕の結婚記念日だった。

妻である都と結婚して、ちょうど1年が経ったのだ。

浮竹は何をプレゼントしようと迷っていた。

海燕の好きなものはおはぎ。おはぎをあげるのもいいが、それではあまりにもいつもと変わらない。

そこで、京楽に頼んで現世の酒を購入した。

赤ワインとグラスとコースターを一式。

「京楽、海燕は喜んでくれるかな?」

「上官である君が心をこめてくれるものなら、例え安酒でも喜ぶだろうさ」

雨乾堂では、今日は浮竹は海燕の助けを借りず一人でおきた。少しでも仕事の負担を減らそうと、いつもは朝餉をもってきてもらうのだが、自分で取りに行った。

「隊長・・・・今日一体なんなんですか。全部自分で片付けようとして」

「ああ、いいんだ海燕。今日は特別だから、ほんとは休暇を与えたかったんだが、この前まとまった休暇を与えたばかりだから無理だったから、そのな、うん、なんていうか、今日の海燕には休んでほしいっていうか特別だから」

自分でも何を言っているのかよくわからなかった。

「海燕、結婚記念日おめでとう!」

花を、差し出した。

まるで、プロポーズみたいな。

見ていて、京楽がぴしりと凍り付いた。

「え、結婚記念日?・・・・ああ、俺と都、結婚して1年も経ったのか」

海燕は、そんなことすっかり忘れていた。

この前誕生日を祝ってもらったので、差し出された花をみてまた誕生日を間違えたのかと思った。でも違った。この上官は、自分でも忘れてしまうような結婚記念日をしっかり覚えていてくれたのだ。

嬉しさと恥ずかしさがない交ぜになって、海燕を襲う。

「隊長の、きもち、確かにうけとりました」

花を受け取る。

ピシリ。

その言動に、京楽がまた凍り付いた。

嬉しさと恥ずかしさがまざってドキマギしている二人を、べりっと無理やりはがして、浮竹を自分の後ろに隠す。

「いっとくけど、うちの子はあげませんからね!」

「いや、何言ってるんだあんた。隊長は俺の上官だ!」

「違う、僕のものだよ!」

「違う、俺の上官だ!」

「違う、僕のものだよ!」

「違う、俺の上官だ!」

二人して、ぜいぜいと言い争いを続けた。

「あのな。俺は俺だ。誰のものでもない」

浮竹が、呆れた声をだして京楽を押しのけた。

「結婚記念日のプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるか、海燕」

「え、この花がそうじゃないんですか」

「それは、ただの挨拶みたいなものだ」

そう言って、赤ワインとグラスとコースターが入っている箱を渡した。

「こんな高そうなもの・・・・」

「お前にはいつも世話になってるからな!」

「ありがとうございます。グラスとかも2つあるようだし、今日帰って都と二人で飲みます」

「ああ、そうしてくれ」

この時代、西洋の酒は珍しいもので、尸魂界に置いていないわけではないが、目の飛び出るような値段がするので、京楽に頼んで現世から購入したのだ。

なんとか、京楽の給料の範囲で買えた。

「はー。うちの上官がどうしようもないって思ってたこと、撤回します」

「何、お前そんなこと思ってたのか!」

「だって、自分で起きないし、放っておいたら熱だすし、やっと下がってまだ安静にしてなきゃいけないのに甘味屋に出かけるわ、甘味物を食べたらその包み紙を放置してほったらかすわ
・・・・どうしようもない上官だけど」

浮竹が悲しそう顔をする。

「でも、陽だまりみたいで。誰にでも優しくて、死神としての矜持をもっていて、見た目は儚いけど芯は強くて、・・・この前、入ったばかりの朽木が隊長にミスってお茶ぶっかけた時も笑って許して・・・逆に濡れた朽木のこと心配して。もう、いろいろと、俺はあんたにメロメロなんですよ。13番隊の副隊長についてよかった。あんたの副官になれたこと、幸せです」

「海燕・・・」

じーんと感動して、浮竹はほろりと涙を浮かべた。

「あー!海燕君が浮竹泣かした!いーけないんだ、いけないんだ!」

京楽は、二人の上官と副官の在り方としての、いいムードをぶっ壊してくれた。

「京楽隊長、あんたは帰れ!」

「言っとくけど、その結婚記念日用のプレゼントも花も、僕が入手したんだからね。浮竹はお金出して、手配してくれと頼んできたんだけど、僕がいなきゃ手に入らなかったんだからね」

「京楽、今海燕といい話をしているんだ。ちょっと黙ってろ」

京楽は恋人である浮竹に冷たくあしらわれて、いじけだした。

「いいもんいいもん。呪いの藁人形で海燕君のこと呪ってやるんだから」

「京楽・・・・・」

仕方ないなと、海燕が見ている前で京楽を抱き締めて、キスをした。

「ちゃんと、お前にも感謝しているから。機嫌を直せ」

「浮竹・・・・もっとキスして」

「ん・・・んあっ」

どんどん浮竹を貪っていく京楽の頭を、海燕がはたいた。

「何するの!」

「あんたは、少し盛るの控えたらどうですか。先週あんたが隊長をしつこく抱いたせいで、隊長熱出しましたよ」

「え、ほんとなの」

「微熱だ。気にするな」

「でも、僕は浮竹を抱くよ。今日は抱かないけど」

「京楽隊長、あんたはダッチワイフでも抱いてろ!」

「何、浮竹のダッチワイフあるの!?あるならぜひ欲しいんだけど」

「京楽・・・・このあほ!」

恋人である浮竹にまで頭をはたかれて、京楽はまたいじけだした。

「いいもんいいもん。どうせ僕はのけものだよ」

いい年をした大人が・・・それも、京楽のようなごついがたいの男がいじけていても、全然かわいくなかった。

京楽を放置して、海燕に浮竹は向き直る。

「とにかく、結婚記念日おめでとう、海燕。子供ができたら、ぜひ俺を名付け親にしてくれ」

「気が早いですよ隊長。まだ結婚して1年目だ。お互い忙しくて、子作りなんかそうそうできやしない」

「休暇が欲しいならいえよ。常識の範囲でなら、融通するから」

「ありがとうございます。ああ、都と新婚旅行に行けてないんで、来週から3日ほど休みもらっていいですか。ちょっと、現世の温泉に新婚旅行にいこうと思いまして」

「3日と言わす1週間休め!」

「でも、この前まとまった休暇もらたばっかだし、3日でいいです。それに隊長を一人にしたら、狼に食べれる羊を守る番人がいなくなるし、隊長の世話をしないと隊長のことだから昼ぐらいに起き出して、朝餉も食べずに昼餉だけ食べて仕事時間守らなさそうだし」

「俺って、そんなか?」

「はい。隊長の生活はだらだらしてます。びしっという人がいないと、昼寝とかするでしょう?勤務時間中に」

「う・・・・・・」

海燕がまとまった休暇をとっている間、浮竹は昼におきて、朝餉を食べずに仕事を昼からしだして、朝から起きている時勤務時間中に2時間ほど昼寝をしていた。

まぁ、仕事はちゃんと全部片すから、きつく怒られはしないのだが、他の護廷13隊の隊長がみたらなんていうか・・・。

病弱なのをいいことに、だらだらした生活を送ってしまうのも、事実だった。

「俺は心を入れ替える!ちゃんと朝に一人で起きて、昼寝もしない!」

「今年に入って、それ言うの5回目ですよ」

「う・・・・・・」

ずっと無視されている京楽は、お茶を飲んで縁側でぼーっとしていた。

「は~。存在を無視される隊長か。は~」

何かを悟ったような顔をしていた。

「海燕君、浮竹は僕が見ておくから、安心して新婚旅行にいっておいでよ」

「京楽隊長なら、確かに隊長をちゃんと起こしてくれるでしょうが、一緒になって仕事さぼって甘味屋にいったり、昼寝したり・・・・狼だし、心配ごとが多すぎて任せられません。俺がいない間の隊長の世話は、朽木に任せます」

「朽木ルキア・・・・白哉の義妹か」

「はい。いずれ、席官になると思っています。まだ13番隊にきたばかリで慣れてませんが、戦闘能力も高い。俺が自ら鍛えてやろうと思ってます」

「そうか。海燕に任せたら安心だな」

浮竹は笑った。

ああ、本当にこの人は陽だまりのような人だ。

海燕は思う。

京楽も、浮竹の笑顔にやられて、自然と微笑んでいた。

結局、海燕が新婚旅行にいった3日の間ルキアが浮竹の面倒を見ようとするのだが、京楽のいいようにいいくるめられてしまうのだった。

そして、狼である京楽に、美味しくいただかれる羊な浮竹の姿があったという。






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