翡翠をなくした日
秋も終わり、冬が始まろうとしていた。
ある日、京楽と浮竹は喧嘩した。喧嘩をすること自体、数年ぶりの出来事だった。
「お前なんて嫌いだ!」
「ああそうかい」
浮竹が、怒りに任せ京楽を睨みつける。
「このわからずや!」
「君のためを思って言っているのに!」
かっとなった京楽が、浮竹の胸倉を掴む。
「知るか!」
「ふん」
京楽は、決して手を出さない。たとえ喧嘩していても。
「こんなもの!」
いつかお守りにと、浮竹にあげた翡翠の石を、浮竹は京楽が見ている前で雨乾堂の近くにある池に投げ捨ててしまった。
ぽちゃんと音がして、浅いがどこかに落ちてしまった。
屋敷が数件建つ値段の翡翠。想いをこめて選んだ。それを、お守り石にすると、浮竹は喜んでくれた。互いの絆の証のようなもの。
「君という子は・・・・・!」
京楽が手をあげようとする。びくりと強張る体を、京楽は突き飛ばした。
「もういいよ。君なんて知らない」
「せいせいする!」
浮竹は去っていく京楽にそう言葉を投げて、雨乾堂に戻って行った。
それから1週間が過ぎた。二人は、喧嘩したままだ。
「あのー隊長?」
「なんだ清音」
「今日、確か京楽隊長が泊まりにくる日じゃ・・・・・」
「あんなやつのこと、口にするな!」
浮竹は、まだ怒っているらしかった。
一方の京楽は、新しい翡翠の石を探していた。浮竹のことはもう怒っていないが、浮竹は想いの証である翡翠を投げたことにきっと心を痛めるだろうと思って。
喧嘩してから、10日が過ぎた。
「きゃあああああ、やめてください、隊長!」
「放っておいてくれ!」
浮竹は、この寒い中、死覇装と隊長羽織という姿で、雨乾堂の近くにある池の中に入っていった。
「隊長、風邪ひいちゃいます!」
清音の制止の声を無視して、投げ落とした翡翠の石を探す。
「ない・・・・どうしてだ。ここら辺に投げたはずなのに」
「隊長!」
仙太郎が、池の中に入ってきた。浮竹を抱き上げて、池からあがらせようとするが、力強く拒否されて、池の外までふっとばされてしまった。
「俺のことは放っておいてくれ!ない・・・・・どうしてだ、ない・・・・・」
京楽に謝ろうと思った。でも、思い出の翡翠を投げてしまったことが自分でもショックで、どうしても取り戻したかった。
「清音、京楽隊長呼んでこい。俺たちじゃ、止めれない」
清音は、ことがことなので瞬歩で京楽を呼びにいった。
「なんだって、浮竹がこんな寒い中池の中に入ってるだって!?」
「はい。なんでも、京楽隊長にもらった大切な翡翠のお守り石を探すのだと聞かなくて・・・・・・」
「ああもう、あの子は!」
京楽は、清音と一緒に雨乾堂にやってきた。
「やめないか、浮竹!」
寒い中、池の中で石を探している浮竹の姿をみるだけで、心が凍り付いたように酷く軋んだ。
「止めるな京楽。あの石を見つけるまで、俺は池からあがらない。見つけて、お前に謝罪するまでは・・・・・・・!」
無理やり止めることもできた。
でも、それじゃあ浮竹の想いが浮かばれない。
「京楽!?」
京楽は、女ものの着物を脱ぎ捨てて、浮竹と一緒に池の中に入ってきた。
「風邪ひくぞ!」
「それはこっちの台詞だよ。君は、どうせ石が見つからない限り、熱を出しても探すんでしょ」
「それは・・・・」
図星だった。
あの石が見つかるまで、何度でも探すつもりだった。
そんな行為、熱を出して寝込んで、命を縮めるようなものだ。
二人だけでなく、清音と仙太郎も一緒になって探してくれた。
「あったーーーー!」
清音が、日の光に煌めく翡翠を掲げた。
「よかった・・・・・」
キラリと眩しく、緑色に光る翡翠を見て、浮竹は安堵したのか倒れてしまった。
「浮竹!」
その体は、すでに熱をはらんでいた。
「急いで着換えと毛布を!布団をしいて、タオル忘れないで。あと解熱剤と白湯を」
浮竹を池から抱き上げる。
冷え切ってしまったその体に、心が痛んだ。こんなことなら、喧嘩するんじゃなかったと。
まさか、浮竹が翡翠の石を投げるなんて思わなかったのだ。いつも身に着けて、大切にしてくれていたのに。
だから、余計に怒ってしまった。
新しい翡翠の石は見つけたけれど、まだ買っていなかった。あの翡翠の石は特別だった。浮竹に贈ったものの中で、多分一番大切にしてくれていた。
「浮竹、しっかりしろ!」
濡れた衣服を着換えさせて、濡れた髪と体をタオルでふく。厚めの夜着に着替えさせて、その凍えるような体温をあげるために毛布にくるんで、布団の上に寝かせた。
「翡翠見つけたぞ・・・・・すまなかった京楽。俺が悪かった」
「もう怒ってないよ。翡翠の石を見つけてくれた清音ちゃんと、手伝ってくれた仙太郎君に、元気になったら感謝の意を伝えるんだよ」
「ああ・・・・・」
用意されていた解熱剤と白湯を飲んで、その日浮竹はそのまま眠ってしまった。
そして、京楽が恐れていた通り、次の日には高熱を出して臥せってしまった。
京楽は、浮竹の傍にいたが、ふと思いついて細工師の元を訪れた。翡翠の石を、ペンダントにしたのだ。つけはなしが可能で、ただのお守り石として持つこともできるし、なくさないようにペンダントとして首からかけることができる。
「京楽・・・・いないのか?」
雨乾堂に帰ると、いつも京楽がいるせいで、姿を探している浮竹がいた。
「ここにいるよ。翡翠、ペンダントにしたから。チェーンを外せば、ただのお守り石として持つこともできるから」
「うん・・・・・・・」
浮竹は、京楽の手で首に翡翠のペンダントをかけてもらった。
「見つかってよかった・・・・・」
「もう、あんあ無茶しちゃだめだよ」
「ああ・・・・・」
冬の時期に池に入るなんて、高熱を出して命を縮ませるような行為だ。
「まだ熱あるみたいだから、大人しくしてなさい」
「京楽・・・・」
「なんだい?」
「嫌いっていってごめん」
「もういいよ。気にしてないから」
額に口づける。
翡翠をなくした日、浮竹は怒っていたがやり過ぎたと思った。翡翠をなくされた日、数年ぶりの喧嘩もあってが許せないと思ったが、すぐに想いは変わった。
結局、どんなに喧嘩しても元の鞘に収まるのだ。
二人は、永劫に近い時間を共に過ごしていく。
極上の翡翠の石は、キラキラと、いつまでも浮竹の瞳のように輝いていた。
ある日、京楽と浮竹は喧嘩した。喧嘩をすること自体、数年ぶりの出来事だった。
「お前なんて嫌いだ!」
「ああそうかい」
浮竹が、怒りに任せ京楽を睨みつける。
「このわからずや!」
「君のためを思って言っているのに!」
かっとなった京楽が、浮竹の胸倉を掴む。
「知るか!」
「ふん」
京楽は、決して手を出さない。たとえ喧嘩していても。
「こんなもの!」
いつかお守りにと、浮竹にあげた翡翠の石を、浮竹は京楽が見ている前で雨乾堂の近くにある池に投げ捨ててしまった。
ぽちゃんと音がして、浅いがどこかに落ちてしまった。
屋敷が数件建つ値段の翡翠。想いをこめて選んだ。それを、お守り石にすると、浮竹は喜んでくれた。互いの絆の証のようなもの。
「君という子は・・・・・!」
京楽が手をあげようとする。びくりと強張る体を、京楽は突き飛ばした。
「もういいよ。君なんて知らない」
「せいせいする!」
浮竹は去っていく京楽にそう言葉を投げて、雨乾堂に戻って行った。
それから1週間が過ぎた。二人は、喧嘩したままだ。
「あのー隊長?」
「なんだ清音」
「今日、確か京楽隊長が泊まりにくる日じゃ・・・・・」
「あんなやつのこと、口にするな!」
浮竹は、まだ怒っているらしかった。
一方の京楽は、新しい翡翠の石を探していた。浮竹のことはもう怒っていないが、浮竹は想いの証である翡翠を投げたことにきっと心を痛めるだろうと思って。
喧嘩してから、10日が過ぎた。
「きゃあああああ、やめてください、隊長!」
「放っておいてくれ!」
浮竹は、この寒い中、死覇装と隊長羽織という姿で、雨乾堂の近くにある池の中に入っていった。
「隊長、風邪ひいちゃいます!」
清音の制止の声を無視して、投げ落とした翡翠の石を探す。
「ない・・・・どうしてだ。ここら辺に投げたはずなのに」
「隊長!」
仙太郎が、池の中に入ってきた。浮竹を抱き上げて、池からあがらせようとするが、力強く拒否されて、池の外までふっとばされてしまった。
「俺のことは放っておいてくれ!ない・・・・・どうしてだ、ない・・・・・」
京楽に謝ろうと思った。でも、思い出の翡翠を投げてしまったことが自分でもショックで、どうしても取り戻したかった。
「清音、京楽隊長呼んでこい。俺たちじゃ、止めれない」
清音は、ことがことなので瞬歩で京楽を呼びにいった。
「なんだって、浮竹がこんな寒い中池の中に入ってるだって!?」
「はい。なんでも、京楽隊長にもらった大切な翡翠のお守り石を探すのだと聞かなくて・・・・・・」
「ああもう、あの子は!」
京楽は、清音と一緒に雨乾堂にやってきた。
「やめないか、浮竹!」
寒い中、池の中で石を探している浮竹の姿をみるだけで、心が凍り付いたように酷く軋んだ。
「止めるな京楽。あの石を見つけるまで、俺は池からあがらない。見つけて、お前に謝罪するまでは・・・・・・・!」
無理やり止めることもできた。
でも、それじゃあ浮竹の想いが浮かばれない。
「京楽!?」
京楽は、女ものの着物を脱ぎ捨てて、浮竹と一緒に池の中に入ってきた。
「風邪ひくぞ!」
「それはこっちの台詞だよ。君は、どうせ石が見つからない限り、熱を出しても探すんでしょ」
「それは・・・・」
図星だった。
あの石が見つかるまで、何度でも探すつもりだった。
そんな行為、熱を出して寝込んで、命を縮めるようなものだ。
二人だけでなく、清音と仙太郎も一緒になって探してくれた。
「あったーーーー!」
清音が、日の光に煌めく翡翠を掲げた。
「よかった・・・・・」
キラリと眩しく、緑色に光る翡翠を見て、浮竹は安堵したのか倒れてしまった。
「浮竹!」
その体は、すでに熱をはらんでいた。
「急いで着換えと毛布を!布団をしいて、タオル忘れないで。あと解熱剤と白湯を」
浮竹を池から抱き上げる。
冷え切ってしまったその体に、心が痛んだ。こんなことなら、喧嘩するんじゃなかったと。
まさか、浮竹が翡翠の石を投げるなんて思わなかったのだ。いつも身に着けて、大切にしてくれていたのに。
だから、余計に怒ってしまった。
新しい翡翠の石は見つけたけれど、まだ買っていなかった。あの翡翠の石は特別だった。浮竹に贈ったものの中で、多分一番大切にしてくれていた。
「浮竹、しっかりしろ!」
濡れた衣服を着換えさせて、濡れた髪と体をタオルでふく。厚めの夜着に着替えさせて、その凍えるような体温をあげるために毛布にくるんで、布団の上に寝かせた。
「翡翠見つけたぞ・・・・・すまなかった京楽。俺が悪かった」
「もう怒ってないよ。翡翠の石を見つけてくれた清音ちゃんと、手伝ってくれた仙太郎君に、元気になったら感謝の意を伝えるんだよ」
「ああ・・・・・」
用意されていた解熱剤と白湯を飲んで、その日浮竹はそのまま眠ってしまった。
そして、京楽が恐れていた通り、次の日には高熱を出して臥せってしまった。
京楽は、浮竹の傍にいたが、ふと思いついて細工師の元を訪れた。翡翠の石を、ペンダントにしたのだ。つけはなしが可能で、ただのお守り石として持つこともできるし、なくさないようにペンダントとして首からかけることができる。
「京楽・・・・いないのか?」
雨乾堂に帰ると、いつも京楽がいるせいで、姿を探している浮竹がいた。
「ここにいるよ。翡翠、ペンダントにしたから。チェーンを外せば、ただのお守り石として持つこともできるから」
「うん・・・・・・・」
浮竹は、京楽の手で首に翡翠のペンダントをかけてもらった。
「見つかってよかった・・・・・」
「もう、あんあ無茶しちゃだめだよ」
「ああ・・・・・」
冬の時期に池に入るなんて、高熱を出して命を縮ませるような行為だ。
「まだ熱あるみたいだから、大人しくしてなさい」
「京楽・・・・」
「なんだい?」
「嫌いっていってごめん」
「もういいよ。気にしてないから」
額に口づける。
翡翠をなくした日、浮竹は怒っていたがやり過ぎたと思った。翡翠をなくされた日、数年ぶりの喧嘩もあってが許せないと思ったが、すぐに想いは変わった。
結局、どんなに喧嘩しても元の鞘に収まるのだ。
二人は、永劫に近い時間を共に過ごしていく。
極上の翡翠の石は、キラキラと、いつまでも浮竹の瞳のように輝いていた。
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