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翼に意味はない

GL小説です。苦手な方は回れ右。ユウキ様へ。ちょっとリク内容と違う話になってしまいましたが。
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その翼に意味はない。
この背中にある翼に意味はない。

だって、空を飛ぶこともできないのだから。綺麗な純白の天使の翼。
私が欲しかったものは、こんなものじゃない。

ヒリングは、今日も気だるげに起きたままの姿で天宮回廊を歩き出す。通り過ぎる人がひそひそと噂をしだす。
今日もきた。
魔女だ。
「白い翼をもった魔女がきたぞ!!」
同じ白い翼をもった天使たちは、ヒリングを避けて逃げ出す。
ヒリングは蒼穹の空を睨みあげて、地面を強くけりつけた。

「魔女で、何が―――悪い」

魔女。
天使の中で、エーテルも何も持たず、羽ばたくことのできない翼をもちながら、王たちと同じ金色の瞳をもつ存在。それは全て魔女。
歴史上ではヒリングの他にティエリアという存在が確認されているが、ティエリアは王であるニールに救われ、今は東の宮殿で一緒に穏かな時間を過ごしているという。
東の王ニール。西の王刹那。南の王と北の王は不在。

「ヒリング」

一人の美しい少女が、ヒリングに話しかけた。
「あんたなんか大嫌い!」
ヒリングは、その少女に唾を吐きかける。

「ヒリング」
哀しそうに、フェルトは艶やかなピンク色の極彩色の髪を揺らして、走り去っていったヒリングが残していった、白い羽毛を拾い上げた。

「フェルト王――魔女などに話しかけていると、呪われますよ」
彼女を諌める声がした。
フェルトは、今度空位のままの北の王に君臨することが決まった。

なぜ、ヒリングがこうまで、フェルトのことを毛嫌いするのかフェルトには分からなかった。
子供の頃は一緒に育った、いわゆる幼馴染、なのに。
成長するに従い、エーテルがないヒリングは魔女の烙印を押されて、宮殿からスラム街で放り出された。ヒリングが舐めてきた苦汁の人生を、真綿で包まれ育てられたフェルトが理解できるはずもない。

それでも――昔のように、彼女の微笑みがみたい。
フェルトはそう思った。

フェルトが北の王になることが決まった。
これでいよいよ、魔女は死刑だ。
人々は晴れやかな笑顔で会話をする。

王たちが集う天宮で、フェルトは戴冠式を行った。
「フェルト、おめでとう」
ニールと側にいる、元魔女であったティエリアは、拍手をする。
刹那は柔らかく微笑んでいた。
刹那とティエリアは、フェルトの友人だ。ニールは年の離れた兄のようなかんじだ。

「魔女は、どうして存在するの?」
「それはだなぁ」
うまい答えが見つからなくて、ニールは元魔女であるティエリアを見る。

「この世界の哀しい存在。それが魔女。ただの突然変異。存在する意味はない。その翼に意味がないように」
美しいティエリアは、東の王ニールにエーテルを与えられて羽化した。もう魔女ではない。その翼は羽ばたくことだってできる。

「私――ヒリングを、魔女から元に戻したいの」

「正気か?」
刹那が言葉をかける。
ヒリングはフェルトを毛嫌いしている。あんな相手に、情をかければ寝首をかかれるだけだ。

「だって・・・・友達、だから」


それからしてすぐに、魔女ヒリングは、処刑が決まった日のカレンダーを自嘲気味に見ていた。
「死んでも泣く人なんていないんだから」
そう、この翼が羽ばたかないように。
私が死んでも泣いてくれる人なんて、誰もいない。

北の王にフェルトがなったことが唯一の救いか。
写真たてにおさまった、二人だけでとった幼い頃の写真を見つめる。
「嫌い――」

金色の瞳から、涙が溢れて、床に滴った。

ヒリングは、そのまま処刑者の牢獄に閉じ込められた。

「ヒリング」

「何しにきたの?あざ笑いにきたの?」
「違うわ。私、あなたをパートナーにしたいの」
「いらない!エーテルなんていらない!!」
ヒリングは、まるでかんしゃくをおこす子供のように泣き叫んだ。
「同情なんていらない」

フェルトは牢獄の鍵をあけて、ヒリングを抱き締めた。

「あなたは一人じゃないわ。私がいるから。私があなたを守るから」

ふわりと優しいエーテルが、ヒリングを包み込む。
分け与えられるエーテル。それを吸い込む魔女、ヒリング。

「どうして?エーテルが」
「だから、言ったでしょ。私はだめなの。だから死刑になるの。エーテルを、他人のエーテルを吸い込む――他の魔女と違う。この世界で最悪の存在」
ヒリングは泣きながら笑った。
金色の瞳が太陽のようだ。

「処刑に日にち、早めてもらおうかなぁ」
「逃げよう」

「え?」

思ってもみない言葉をかけられる。
「兵士は眠らせておいた。いくならいまだ」
牢獄を出ると、入り口で刹那が壁によりかかり、二人を待っていた。
「ありがとう、刹那」
「フェルト、ほら、人間界への鍵だ。ほんとにいくのか?お前はもう北の王なんだぞ」
「私は決めたの。彼女と生きるって」
「何よ――勝手に話し進めないよバカ!私、あなたと一緒にいくなんていってない」

「一人じゃ、ないよ。一緒にいこう?ヒリング」
ヒリングの太陽の瞳に、鮮やかなピンクの髪が揺れる。北の王となるはずの美しい少女。一方自分は、エーテルを吸い取る最悪の魔女。

嗚呼――。

幼い頃に戻りたい。
まだ親友同士だったあの頃に。

フェルトはヒリングの手をとって駆け出す。
どんな静止も振り切って。

「王が乱心なされた」
「魔女に誑かされた」

兵士が動きだした。
人間界の扉のすぐ近くにまできたのに。

「戻れ、魔女!身分をわきまえろ」
「フェルトー!あなた何をしようとしているのか分かってるの!?同情なんていらない!」
ヒリングは、美しいフェルトの顔に唾を吐きかける。
フェルトは優しく笑って、兵に囲まれながらも微笑む。

「一緒に人間界にいこう。自由がある」
「何言ってるのよ!堕ちるんだよ!?天使じゃなくなるんだよ!?」
金色の瞳からあふれ出た涙は止まらない。

「それでも。あなたを私は選んだから。あなたは一人じゃない。さぁ、いこう?」

ニール、ティエリア、刹那が兵士たちにエーテルで魔法をかけ、睡眠の魔法をかけた。

「ありがとう。王になったのに、ごめんなさい」
「気にすんなって。俺も、ティエリアのためにもうすぐ王をやめるつもりだ」
「ニール」
魔女をパートナーに選んだ者は、王であり続けられない。
魔女でなくなってもだ。元魔女というだけで、侮蔑される。この世界でどんなに辛くヒリングが過ごしてきたのか少しだけ分かったきがフェルトにはした。

「いこう。自由を探しに」
「バカじゃないの!?私はいかない」
「じゃあ、私も一緒に処刑される」
フェルトは王の証であるエーテルの核を取り出すと、あろうことが粉々に砕いた。
いかに王とはいえ、これは処刑確実。代々受け継がれていた北の王の証である核を砕くなど。

「バカ・・・ほんと、バカ!」
泣き続けるヒリングの手をとって、フェルトは人間界に続く扉をあけた。

その翼に意味はない。
この背中にある翼に意味はない。

だって、空を飛ぶこともできないのだから。綺麗な純白の天使の翼。
私が欲しかったものは、こんなものじゃない。
でも、隣にいて欲しかった人がいる。
これは夢じゃない。

ヒリングとフェルトは、手を繋ぎあって、人間界に落ちていく。
光の泡沫となる天使の証である白い翼。

「ここが、地上」
荒れ果てた荒野だった。近くに街がある。
「いこう、ヒリング」
「バカ!」
ヒリングは黄金の瞳で天を仰ぎ、閉じていく天上界を見て、フェルトの艶やかすぎる極彩色のピンク色の髪に手を埋めて、目を閉じる。
一瞬だけ重ねる唇。

「ねぇ、私は一人じゃないの?」
「私がいるよ」
人間となって堕ちた二人を見守るように、天上界でニールとティエリア、刹那が二人を見守る。

「歩き出そう?明日にこの道は続いてるから」
「うん。歩こうかな。たまには未来を夢見てもいいよね」

二人の美しい少女は、天上界から堕ちてただの人間になった。
もうエーテルはない。魔法も使えない。羽ばたくこともできない。

この人間界で、きっと生きていくことは大変で、辛いだろう。
でも、一人じゃないから――
二人が空を仰ぐと、そこにはヒリングの瞳のような黄金の太陽が笑っていた。

「ヒリングの瞳みたい」
「フェルトだよ、きっと。フェルトの存在みたい」

また触れるだけのキスをする。そのまま二人は荒野を歩いていく。

ただ、明日へ向かって。

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