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育毛剤の謎

「育毛剤・毛が伸びるヴァージョン」

そう書かれた薬と、浮竹は睨めっこしていた。

つい先日、虚と破面の大群が襲ってきて、たまたま近くにいた浮竹たち13番隊がその処理に出動した。いつもなら臥せっているか、仕事をしているか、茶での飲んでるいるか・・・・とにかく、一番争い事とは無縁そうな浮竹も出撃した。

古参の隊長らしく、腕も鈍っていなかった。

次々に虚を駆逐し、率いていた破面にとどめをさす。だが、破面は最期に一撃を放った。
その一撃は、浮竹の首を少し切った。そして左半分の髪を、肩より上でざっくりと切られてしまった。

首の傷自体は大したことはなかった。

だが、散っていく白髪が、ここまで綺麗に伸ばすのに何年かかったと思っているんだと、叫びたくなるほど哀れにざくざくなっていた。

浮竹は迷った。正直に、髪を切られてしまったといって、京楽に肩の上ですっぱりと髪をきってもうかどうかを。

だが、京楽は浮竹の腰より少し短い髪が大好きだった。その長さがちょうどいいのだと、いつも髪を触ってきては、手で白い髪を梳いていた。

浮竹が髪を切られたのを、京楽はまだ知らない。

そんな時、どこから聞きつけてきたのか、12番隊の隊長である涅マユリがやってきた。

「毛に困っているんだろう。私の開発したこの育毛剤を使うといいことあるヨ」

思いっきり怪しい育毛剤を、それこそ無料でおいていった。

その薬を、使うか使わないかで、悩んでいるのだった。

別に女ではないのだから、髪を切られたことであまりどうこうは思わなかったが、京楽のことを考えると、ちくりと胸が痛んだ。

「ええい、悩んでいても仕方ない!」

薬は、塗り薬でなく飲むタイプのものだった、

「あれ?オロナミンCの味がする・・・・・けっこう美味い?」

浮竹が首を傾げた旬案、ぶわりと髪がうねった。部屋中髪の毛だらけになっていた。

「効果に限度はないのか!」

浮竹は、やっぱり飲むんじゃなかったと後悔した。まだ伸びている。

毛根からではなく、毛先から伸びているようで、浮竹は斬魄刀を手に取ると、肩より上でざっくりと髪を切ってしまった。

ぱったりと、髪は伸びなくなった。

京楽に髪を揃えてもらおうと、8番隊隊舎までくると、七緒が浮竹の姿に吃驚した後、京楽が実家に帰って数日は帰ってこないと言われた。

「うーん。床屋なんていきたくないしなぁ・・・そうだ日番谷隊長!」

以前、日番谷が松本の髪を切っているという話を聞いたのだ。おしゃれ好きの松本が切ってもらうくらいなのだから、きっと髪を切るのもうまいに違いない。

そう思って、10番隊の執務室に寄った。

「浮竹?」

ざんばらな髪をみて、日番谷が眉間の皺を深くした。

「誰にやられた。やり返してやる」

「おいおい、日番谷隊長、これは」

ぶわあああああああああ。

いきなり、浮竹の毛が伸び出した。

「ぎゃあああああああああ!?」

うねった髪にぐるぐる巻きにされて、日番谷は悲鳴をあげていた。

「なんだこの髪は!」

「さっきの髪型は自分で切ったんだ。それで、こうなったのは涅隊長のつくった育毛剤のせいだーーーーーーーーーー」

切っても切っても、伸びる髪。

「ちょっと我慢してろ」

「何をするんだ?」

「蒼天に座せ、氷輪丸!」

髪を、氷で凍らせると、髪はぴたりと伸びなくなった。

「やっぱな。毛先が生き物みたいになってたんだ」

「毛先が・・・・・・・」

日番谷は、鋏を何処からか取り出すと、浮竹の髪を切っていく。

ちょうど、腰より少し短い位置で。

「ああ、助かるよ日番谷隊長」

いつもと同じ長さにそろえられた髪をみて、浮竹も安堵した。

「それより、この髪の海、どうするんだ」

「捨てるとか?」

「量がありすぎるだろう!」

「焼くとか?」

「匂いが・・・・そもそもどこで焼く?」

「・・・・・」

「・・・・・」

無言のあと、結局毛を集めて大きな玉をつくり、それを流魂街の外れで燃やすことになった。

「おい、火つけるぞ」

「ああ」

巨大な毛玉に火をつけると、毛玉はきしゃあああああと叫び声をあげた。

「髪が生きている!?どういう育毛剤なんだ涅マユリーーー!」

その髪は、浮竹を襲ってこなかった。日番谷のほうにいく。

「日番谷隊長!」

日番谷の動きを、髪がまるで糸のように邪魔をして、そして日番谷は抵抗も空しく、浮竹の髪の眉の中に取り込まれてしまった。

「くそ、双魚理!」

斬魄刀を始解し、髪の繭から日番谷を救い出すと、日番谷は浮竹に抱き着いた。

「浮竹、好きだ!」

「ええええ!?」




なんだかんだがあって、涅マユリを糾弾する。

髪は結局焼いて始末したが、おかしくなった日番谷が元に戻らないのだ。

「どうすれば、日番谷隊長は元に戻るんだ!」

「おやおや、天才の私としたことが、育毛剤に惚れ薬の成分を混ぜてしまっていたようだネ。まぁ、そのうち元にもどるんじゃないかネ」

「そんな無責任な!そもそも、なぜ薬を服用した俺にではなく日番谷隊長が!」

「そんなの、私の知ったことではないヨ。薬を服用したのは浮竹隊長だろう。自分で後始末をつけることだネ」

日番谷は、しばらくの間おかしかった。雨乾堂の浮竹の傍にずっといるのだ。

言葉を出すと思ったら、

「浮竹好きだ!」

それだけ。


そして、いよいよ運命の日がくる。京楽が帰ってくるのだ。

こんな日番谷隊長と出会わせるわけにもいかなくて、10番隊の執務室に霊圧を消して逃げた。

「うきたけーーー?」

背筋を撫でられて、ぞわりと肌が泡立った。

「京楽、いつの間に!」

「君、なんでも日番谷隊長とできてるらしいねぇ」

「ちょっとまて!これは涅マユリのせいで!」

「問答無用!」

日番谷を引きはがそうとする京楽。

「浮竹、好きだ!」

「日番谷隊長、いい度胸だね?」

花天狂骨を出してきた京楽に、浮竹が怒る。

「日番谷隊長は俺が守る!俺のせいでもあるんだ、これは」:

「うきたけ~~~~~~?浮気するの~~~~~?」

黒曜石に宿った光に、ぞくりときた。

「んうっ」

日番谷をくっつけさせたまま、京楽は浮竹に手を出した。

「ほら、日番谷隊長も悔しかったら、これくらいしたらどうだい」

「ああっ」

死覇装の隙間から手が伸びてくる。
膝を膝で割られ、激しい口づけを受けて、立っていらなくななった浮竹は、自然と京楽に身を任せた。

「やあっ」


「-------------俺の目の前でいちゃつくとは、いい度胸だなお前ら。蒼天に座せ、氷輪丸------!!」

浮竹は、咄嗟に京楽を盾代わりにした。

「ぬああああああああ」

京楽は、氷の龍に、天高くもちあげられていく。

「日番谷隊長、正気に戻ったのか!」

「記憶までばっちり残ってやがるよこんちくしょう!」

氷輪丸を鞘に納める日番谷に、浮竹は謝った。

「今回のことは、非常にすまないと思っている。怒っているなら、好きにしてくれてかまわない」

「別に怒ってねーよ。それに、悪くなかった」

「何が?」

「人を「好き」になる感情がな・・・・・・・・・」

耳まで真っ赤にして、日番谷はそういうと、半壊し執務室を後にした。浮竹は、嬉し気にその後を追うのだった。




「浮竹、今夜は寝かせないからね・・・・」

はるか上空で、氷の龍を粉々に砕いた京楽は、怒っていた。

その怒りと一緒に抱かれて、浮竹は無理をさせられるのだが、それはまた別のお話。




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