院生時代の部屋 雑煮三昧
ぬ(はぁと、浮竹は溜息をついた。
「今日の昼飯も雑煮だ。朝飯も雑煮だった。夜も雑煮なんだ」
もちを飾りすぎた上流貴族の、京楽なんかが中心となって、カビを生やせるのはもったいないと食堂に寄付したのだ。
その量が多すぎて、1日3食雑煮になっていた。
「僕は、自分ちの料理人呼んで、いつも違うメニュー作ってもらってるからねぇ。食材も僕の財布から出ているから、文句を言うやつはいないし」
「すまない京楽、雑煮が終わるまで、お前のところの料理を一緒に食べていいか?」
「勿論だよ。キスしてキス!」
仕方なくキスをすると、ベッドに押し倒された。
「ううん・・・・」
ぴちゃりと、舌が絡み合う。
「好きだよ、浮竹」
「あ、京楽・・・・」
ハグをして、離れる。
京楽はもっとその先にいきたいのだけれど、浮竹は拒絶したままだった。
「早速食堂にいくかい?」
「ああ。雑煮を食べないでいいと思ったら、気分が楽になってきた」
食堂にいくと、京楽家専門の料理人が、慌てて二人分の食材を用意して、料理をしてくれた。
今夜のメニューは、うなぎのかば焼きとお吸い物、ご飯に煮込んだ鯛のアラだった。
「はぁ・・・久しぶりのまともな、というか相変わらず豪勢だな」
「こんなの、普通でしょ」
周囲の生徒たちが羨ましそうにしていた。
みんな、雑煮なのだ。
雑煮でない二人に、自然と視線が集中する。
「いいよな、上流貴族は」
「ほら、あっちでも違う上流貴族が違うご飯食べてる」
綱彌代時灘(つなやしろときなだ)だった。
4大貴族綱彌代家の分家の末裔だ。
同じ学年の院生だからと、時折浮竹が声をかけるが、いつも無視するような人物だった。
綱彌代時灘は、後に隊長であった東仙を嘆かせる原因となる、自分の妻及び友人を殺害するが、
4大貴族であるからと、その罪を許される。
それはまた別のお話で。
京楽は、興味もなさそうに、綱彌代時灘を見た。
他の者を屑扱いする上流貴族で、好きではなかった。
「浮竹、食べ終わったら早めに寮に戻ろう」
雑煮ばかりで飽きた院生たちの鬱憤が、こちらにまで及んできそうなのだ。
その前に、浮竹は食堂の料理長を呼んだ。
「もちでも、雑煮以外のものを作れるだろう?焼いてみたり、お吸い物にいれたり。雑煮ばかりでは、他の生徒たちがもたない」
「はぁ・・・でも、明日からは通常通りのメニューですので」
「それならよかった」
その言葉を聞いた院生が、みんなに聞こえるように大声でいった。
「雑煮三昧、今日でおしまいだって!明日からは普通のメニューが食えるぞ」
わあああと、歓声があがった。
よほど、1日3食雑煮がきいていただろう。
何せ、ここ3日連続で雑煮三昧だったのだ。流石に飽きる。
だからと外で食べるにも金がかかる。
食堂は安くて美味くてボリュームがあるが常だったのだ。明日から通常運転委戻るようだった。
「浮竹君だったか。あまったもちでおはぎを作ってみたんだ。持って帰りなさい」
「いいんですか?」
浮竹の目がきらりと輝いた。
おはぎをいれた重箱をもらい、浮竹はルンルン気分で京楽の元に戻った。
「寮に戻ろうか」
「うん」
寮に戻り、おはぎを食べだす浮竹。
「重箱は、明日返さないとな」
「僕にも一つちょうだい」
「たくさんあるから、好きなだけ食べるといい」
重箱3段に、おはぎが詰め込まれていた。
浮竹が、甘味物だと人の3倍は食べると知れていたようで。
「甘くておいしいね」
「ああ。壬生のおはぎにも負けない味だ。学院の食堂の料理長は、元々甘味物を作る職人だったらしい」
初めての情報だった。
時折、浮竹に甘味物を流してくれていたのだ。
「ああ、もつべきものは友人と知り合いだな」
重箱にあったおはぎを、京楽は4つほど食べたが、残りを全て浮竹がペロリと平らげてしまった。
「明日から、普通に食堂のメニューを食べよう。僕らだけ、特別メニューばかりしていると、嫉妬されてろくなことにならないからね」
「ああ、そうだな」
京楽家の料理人の作る料理はおいしいが、いつも豪華なのだ。
さすが上流貴族といいたいところだが、浮竹もその味になれてしまって、食堂の料理を食べれなくなることを懸念していた。
「しかし、何故にこうまで雑煮三昧だったのか・・・・・」
それが、大半が自分が寄付したもちのせいだと、知らない浮竹に安堵する。
「まぁ、誰かがもちを大量に寄付したそうだよ。綱彌代とか」
完全に、人のせいにしていた。
「あいつは、4大貴族の末裔だからな。ありそうだな」
浮竹は、騙されているとも知らないで、納得してしまった。
翌日、久し振りに朝食をとりにいった。
「京楽のぼっちゃんから寄付されたもち、なんとか使い切りました」
そういう料理人に、浮竹が京楽をジト目でみた。
「ふーん。犯人は、お前だったのか」
「いや、これは違うんだ!」
「俺にまで嘘をつくのか。今日一日、口聞いてやらん」
「ええ、そんなー!キスやハグは!?」
つーんと、浮竹はついてくる京楽の言葉に反応しないまま。朝食を食べ終えてから授業に出た。
ほんとに1日中口を聞いてくれなくて、泣きそうな京楽がいたそうな。
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