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院生時代の部屋28

山本元柳斎重國自身が、生徒の手合いを見る時がやってきた。

浮竹と京楽は山本元柳斎重國のお気に入りであり、愛弟子である。

特進クラスでも目を見開くような強さをもつ二人は、お互いでないと本気を出せない。今日も、浮竹と京楽がペアになって手合わせを行った。

浮竹が鬼道で攻撃してくるのを避けると、木刀で突きをいれられた。それを避けて、京楽は木刀で浮竹の体を凪はらおうとする。それを木刀で防いで、得意の蹴りの体術が上半身をかすめる。

「浮竹甘いよ!背中ががら空きだ!」

背中に向けて、竹刀を振り落とす。普通の浮竹なら、苦も無く避けるか木刀で受けるはずが、浮竹がよろめいた。

威力の乗った竹刀を殺しきれずに、そのまま竹刀は浮竹の肩を打った。そして、ふらりと倒れこんだ。

「浮竹!?」

京楽が、木刀を放り投げて浮竹を抱き上げた。

その体が熱かった。

「山じい、この子熱あるよ!」

「ふーむ。動きにきれがないと思っておったら、やはりそうであったか。十四郎は、まず相手の動きを探ることをするでな」

「そんな悠長なこと言ってないで、医務室に運んでくる」

浮竹を抱き上げて立ち上がり、医務室へ行こうとする。

「医務室に運んだら、帰ってくるのじゃぞ。お主にはクラス中の相手をしてもらうでな」

「勘弁してよ」

いつもなら、浮竹と京楽が別れて、特進クラスの他のメンバーと手合いをするのだが、その片方の浮竹が熱を出して倒れてしまった。

普通なら、そこで授業が終了なのだが、今回は特別に山本元柳斎重國がきていた。

みんな、お気に入りになろうと腕の見せ所だとばかりに、打ち込んでくるはずだ。

浮竹を医務室に送り、京楽が帰ってきた。

すでに、生徒の列ができていた。

「これ全部僕一人で相手するの・・・・」

「春水、お主なら造作もないことであろう」

「それはそうだけど」

結局、1時間半の授業の時間をまるまるとかけて、同じクラスの連中の手合いをした。

流石の京楽もばて気味だ。

浮竹や京楽ほどではないが、特進クラスというだけあって、腕に覚えのある猛者ばかりだった。

「山じいもうだめだ。次の時間も同じ授業の内容だけど、僕は抜けさせてもらうよ」

「こりゃまたぬか春水!」

山本元柳斎重國が相手でも、京楽は変わらない。

そのまま授業を抜け出した京楽は、浮竹のいる医務室にやってきた。

誰かが、浮竹にキスをしていた。

「誰だ、貴様!?」

突き飛ばして、浮竹を守ろうとする。

相手は、この前浮竹と京楽を侮辱した那由他という男だった。

「ほんとに、君彼氏?浮竹が隙だらけだよ。今日はこの辺で退散するけど、次はキスだけじゃすまさないから」

「この!」

殴った。本気なら顎が砕けるパンチだったが、手加減した。

那由他・・・・・本名を、如月那由他。上流貴族出身だ。京楽よりも、更に上の階級をいく、上流貴族。

今まで京楽がしてきたように、退学に追い込めなかった。

だが、浮竹のためなら、たとえ停学や退学になろうと、守ってみせる。

那由他が去った後で、京楽は毒消しとばかりに浮竹に口づけた。

「ん・・・京楽?」

「きづいたのかい、浮竹」

「ああ・・・元柳斎先生の授業だから、少し無理をして出てみたんだが、相手がお前だったせいもあり、だめだったようだ」

「たとえ山じいの授業でも、体調の悪い時は休まないと」

「そうだな・・・・・」

「熱は・・下がってるようだね。でも、あと1時間授業は様子見にして、出るなら昼からにしないと」

「すまない」

「いいんだよ。薬は飲んだかい?」

「いや、まだだ」

「じゃあ、今のうちに念のため解熱剤を飲むといい。本当は何か食べてからがいいんだけど、この時間は食堂もあいてないしね」

携帯していた薬箱の中から、解熱剤を渡されて、コップに水を入れられて、それを受け取って飲んだ。

「いたた・・・・」

「どうしたんだい?」

「お前の木刀をまともに受けた肩が内出血を・・・」

最後まで言わせず、浮竹の院生の服を脱がせる。

「おい、何をする」

「湿布でなんとかなるかな。だめなら、回道の得意な友達になんとかしてもらおう」

浮竹の白い肌に、肩から背中にかけて、内出血のあとがあった。

「大げさだな。湿布で十分だ」

「だめだよ、君の白い肌には傷一つつけたくない」

「大げさな・・・・・」

「抱くよ?」

「回道の手当てをうけることにする」

京楽の抱くよという台詞は、浮竹にとって脅し文句に近い。本当に抱かなくとも、その手前まではしてくる。

「2限目も山じいの授業だけど、僕は君が心配で抜け出してきた」

「せっかくの元柳斎先生の授業だぞ!」

「もう、クラス中の相手とは手合わせしたし、することもないだろうからね」

「ああ・・・・いつもは俺が半分を受け持つのに、全部お前が相手をしてくれたのか。すまないな」

「別にいいよ。昼まであと1時間くらいあるから、横になってなさいな」

「ああ・・・・・・・」

院生の服をしっかり直して、1時ばかり浮竹は寝た。

浮竹に、如月那由他に気をつけろと、言っておいたが、浮竹は苦笑するだけで、自分の身におこったことを知らなかった。

もしも、他の男にキスをされたと知ったら、浮竹のプライドが傷つくだろう。

それに、浮竹にキスをしていいのは、京楽の特権なのだ。

その日、寮に戻ると京楽は、一番腕のいい、4番隊に所属がきまっている女生徒の友達に頼み込んで、浮竹の内出血を治してもらった。

「ありがとう」

「どういたしまして」

綺麗に内出血が消えたのを確認して、京楽がほっとする。

「愛されてますね」

女生徒は、朗らかに笑った。

「なんなら、この立場をあげようか?」

「変態につきまとわれたくないので、丁重にお断りいたします」

朗らかに毒舌をされて、浮竹は溜息を零す。

「でも、正直羨ましいですよ。こんなに愛されるなんて」

「俺は、愛はいらないんだけどなぁ・・・・・」

窓から、ちらちらと雪が降ってきた。

「ああ、もうそんな季節か」

道理で熱を出すわけだ。寒さにやられたのだろう。

その日の雪はやまずに、数年ぶりに雪がつもることになる。初雪にも関わらず、吹雪とあいまって、次の日は休校になるのだが、それはまた別のお話。






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