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無題

「はっくしょん」

大きなくしゃみをした浮竹は、こたつの中に入った。それでも寒くて、毛布を被った。

「はっくしょん。あー、風邪かな・・・・」

開け放たれたままの窓から、白い何かが降ってきた。

「お、雪か。今年の初雪だな・・・・・・・」

「よっと、お邪魔するよ」

京楽が、閉め切っていた扉から入ってくる。

「こんなに寒いのに、窓を閉めないのかい」

「換気のために開けておいたんだが・・・・流石にしめるか」

こたつから出たくなくて、京楽に閉めてもらった。

「あー。こたつ最高。みかんもあるし、これで今年も無事に過ごせる・・・・」

「ちょっとぐうたらしすぎじゃないかい?」

「いいんだ。冬はこたつの上で仕事するし・・・・寝る時以外は大抵こたつの中だ」

「こたつ星人じゃないか」

「いいな、それ。冬の間中ずっとこたつの中にいたい・・・・」

「明日、隊首会だよ」

京楽が、念のために教えた。

「う、忘れてた。こんな寒い中、外を歩きたくない・・・・隊長羽織の上に何か羽織ろうかな」

「僕みたいに、女ものの着物でも着るかい?」

「それすると、冗談でなく女装みたいになるからいやだ」

一度、廓で花魁の恰好をさせられて以来、女ものの着物を着るのに拒絶反応がでた。

「朽木と白哉から、この前マフラーと手袋をもらったからな・・・それでも、つけていくか」

「山じいが怒るよ。たるんどるって」

「それでもいい。こたつの外は氷河だ」

「大分、こたつに毒されてるね」

「ちょっと暑くなってきた・・・・・着こみすぎたかな」

「顔赤いよ・・・・熱あるんじゃない?」

「こたつがあるから熱は・・・・・・あるかもしれない。眩暈がする」

「こたつの中で汗かいて、それが冷えたんだ。こたつもほどほどにしないとね」

浮竹が嫌がるのをなだめて、こたつから出す。

布団をしいて、横にならせて解熱剤と肺の病の薬を飲ませる。

「うーん。冬の布団は、最初は冷たくて嫌だけど、こうやっているとぬくいな」

布団の中に、湯たんぽ代わりとばかりに京楽を寝かせて抱き着いていた。

「あったかい・・・・眠くなってきた。少し。寝る・・・・・」

「おやすみ」

浮竹が完全に寝たのを確認してから。布団の中から出て、毛布と布団をちゃんとかぶせて、こたつの中に入ってみる。

確かに、これは中毒になりそうだ。

「暇だね。何をしようかな・・・・・」

浮竹の寝顔を見ていると、こたつの入っていた京楽まで眠くなってきた。こたつの中で寝るなんて、風邪をひくようなものだと分かっているけど、結局その暖かい魅力に抗えずに、京楽はこたつの中で寝てしまった。

「京楽、京楽”!!」

起こされると、すごい寝汗をかいていた。それがすぐに冷えて、寒さを覚えた。

「俺にこたつから出ろと言っていたお前がこたつで寝てどうする。寝汗がすごいこのままじゃ風邪をひいてしまう。湯あみしてくるといい。いつものように、下着とか服とか揃えてあるから」

「浮竹も寝汗酷かったんでしょ。一緒にお風呂に入ろう」

「いいが、何もしないな?」

「熱が下がったばかりの君に、無理強いするほど飢えてはいないよ」

二人で湯あみをした。

白桃の湯の元をいれて、ちゃぷんと大人二人には少し狭い浴槽に浸かる。

「あー。極楽」

「この湯の元、高いんだよ」

「いくらだ?」

ごにょごにょ。耳打ちされて驚く。

「たかが湯の元で、そんなにするのか」

浮竹の肺の病の薬の1か月分の値段がした。高級店で飲む喰いしほうだいのその金額に、浮竹は湯を捨てるのがもったいないと感じた。

でも、一度浸かった湯をわかしてまた入る気にはなれない。

湯あみが終わり、のぼせる前に風呂からあがった二人は、互いの髪の水分をふきあって、湯を流した。

「ああ、お金が流れていく・・・・・・」

「大げさだよ、浮竹」

京楽から、白桃の湯の匂いがした。

「俺からも匂いはするか?」

「するね。甘い花の香とまじって、すごく甘ったるい匂いがする。食べたくなっちゃう」

「食べられると困るから、やめてくれ」

浮竹の髪をかわかしながら、京楽はその白い髪に口づける。

「シャンプー変えたんだね」

「ああ、松本副隊長からもらったやつをな・・・・・・」

この前、京楽からもらったシャンプーをあげたら、お詫びにと女性死神に人気の高いシャンプーをもらった。

シャンプーの銘柄にこだわらない浮竹は、もったいない精神があるので、そのシャンプーを使っている。

その匂いが、これまた異性の心をくすぐるような甘ったるいものなのだ。

ここでは、京楽がその対象となった。

「浮竹、そのシャンプー使うのはいいけど、風呂上がりはあんまり外に出ちゃだめだよ」

「どうしてだ?」

「ものすっごく甘ったるい匂いがして・・・・僕でも、君を食べたくなる。他の死神も同じようなことを思うかもしれないから」

「またまた。そんなの、京楽だけだ」

「いや、ほんとに甘ったるいんだってば」

「白桃の湯と同じくらいにか?」

「もっとだよ」

「ええっ」

浮竹は、京楽白桃の湯の匂いに、少し貪りたくなった。それ以上と言われて、浮竹はシャンプーを元のものに変えようと決意する。

「今のシャンプーはもったいないから、清音にでもあげるか・・・・」

後日、清音にシャンプーをあげると大変喜ばれた。女性に人気の品で、品薄で欲しても手に入らないという。

「その、使いかけで悪いが・・・・・」

「いえ、いっそ使いかけのほうが、隊長とおそろいのものを使ったって気分がでていいです」

お礼にと、清音からこれまた女性に人気の石鹸をもらった。

使う前に、匂いをかいでみる。金木犀の香がした。大分きつくて甘ったるい。

甘ったるいものは、食べもの以外にいらないので、体を洗うためであったが、手を洗う時のために使った。

外を見ると、また雪がちらちらと降っていた。

ちなみに隊首会には、また熱をぶり返して参加できなかった。

京楽が、たまに甘ったるい匂いをさせることがある。そんな日は、浮竹のところで泊まり、一緒に湯あみをした日らしいという噂が、隊長たちの間で流れた。

実際そうなので、二人は否定もしないし、肯定もしなかった。

「羨ましい・・・私も夜一様と一緒のお風呂に入りたい・・・・・・」

砕蜂の想いは燃え上がる。

後日、夜一を同じ匂いを漂わせた砕蜂が、京楽に礼をいうという珍しい姿を見かけることができたのだという。

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