ひらひらと。
ひらひらと。桜が降る。
季節は春。
「やっぱ、この場所をとってよかったねぇ」
「ああ、そうだな」
現世にも四季があるように、尸魂界でも四季がある。
桜の花に囲まれながら、京楽と浮竹は花見をしていた。無論酒をのんでいる。
ひらひらと。
一枚の桜の花びらが、浮竹の杯の上に浮かんだ。
「風流だねぇ」
「ああ。綺麗だ」
「僕は、浮竹のほうが綺麗だと思うけどね」
白い髪に白い肌、翡翠の瞳、秀麗な容姿。
さらさらと風に吹かれて長い髪が流れるのと一緒に、さぁぁぁと桜の花びらが散って優しい雨が浮竹を包み込む。
まさに幻想的。
「桜の木の下には、死体が埋まってるって知ってるかい。だから薄紅色なんだよ」
「ただの迷信だ」
酒をぐっと呷って、浮竹は空になった杯に酒を注ぐ。
浮竹は酒に弱いわけではないが、強くもない。
逆に、京楽は酒豪だった。浴びるように飲む。酔わないわけではないが、飲み潰れることはなかった。
京楽と付き合って飲んで、先に潰れるのはいつも浮竹だった。
「伊勢君を呼ばなくてよかったのか?」
「そういう君こそ、三席の二人を呼ばなくてよかったのかい」
「あの二人は頼もしいけど、すぐにケンカするからなぁ。それに、たまには俺も京楽と二人だけで花を見ていたい」
それって殺し文句だよ。
京楽は、言葉を飲み込んだ。
「まぁ、一杯」
京楽が自分でもちこんだ酒を、浮竹の杯に注ぐ。浮竹は、逡巡もなしにそれを呷った。
「く、強いなこれ」
アルコール度の高い酒だ。現世にいった部下に買ってこさせた、ウォッカという名の酒だ。
「ウォッカっていってね。極北の地で、体を温めるために飲むものだそうだよ。浮竹にはちょっときつかったかな」
「俺は、もう少しアルコール度の低い酒の方が好きだな」
ぺろりと、唇を舐める浮竹の仕草に、京楽の喉がなった。
「ねぇ、ちょっといいかい?」
「何が・・・・ふわっ」
ついばむような口づけをされて、浮竹は驚いて目をきょとんとさせていた。
酒の勢いで、性行為をすることはけっこう多いが、流石に外ではしない。浮竹が嫌がるからだ。
「離れろ京楽」
唇を指でなぞられ、白い頬から細い首筋に落ちていく京楽の手を、浮竹が遮った。
「外だぞ、ここは。誰がくるかわからない、やめ・・・・」
深く口づけられる。舌がするりと入ってきて、上あごをくすぐり、歯茎をなぞって、浮竹の舌をからめとる。
「きょうら・・」
頭がぼんやりとなる。京楽のペースに飲み込まれるのは時間の問題だ。
「はい、おしまい」
せめてもの抵抗とばかりに、ぽかりと殴られて、京楽は浮竹を貪ることをやめた。本当なら、今すぐ押し倒してぐちゃぐちゃに犯したいが、外での行為を浮竹は嫌がるので、我慢だ。
「まったく・・・・・・・」
少し乱れた衣服を整えて、浮竹は京楽の杯をぶんどると、ぐいっと呷った。
「ああ、僕のお酒!もう、ちょっとしかなかったのに!」
「ふん。盛るからだ、このばか京楽」
ひらひらと、花びらが降ってくる。
馴染みの店で買った弁当を敷布の上に広げて、浮竹は酒はもういいとばかりに、花を見ながら卵焼きをかじっていた。
京楽も弁当を食べながら、酒を飲んでいる。
二人きりの花見は、静かだ。
わいわいとした、部下たちと一緒に花見するのもそれはそれで楽しいが、たまにはゆっくりと二人きりで花見をしたい。
京楽の誘いに、かじりついた形の浮竹だったが、京楽にとっては浮竹と二人きりになれる口実だ。
京楽は、浮竹を愛している。あまり表に出さないが、浮竹も京楽を愛している。
もう、院生時代からの付き合いだ。肉体関係をもった恋人になって、数百年もたつ。
おじさんといわれても仕方のない年齢にまできたが、それでも浮竹の秀麗な容姿は衰えなかった。
白い髪は、京楽が綺麗だから伸ばせばいいと何度も囁くので、伸ばしていたらいつの間にか腰より少し短いほどに伸びてしまった。
洗髪とかかわかすのとかけっこうめんどくさいが、似合っている、切るなと言われて伸ばしたままだ。長くなりすぎると、京楽が切りそろえてくれた。
京楽は、アルコール度の強い酒より、甘めのアルコール度の低い酒を好む。現世でいう果実酒やカクテルなどだ。
今日も、浮竹がもちこんだ酒は果実酒だった。
「ああ、幸せだなぁ」
浮竹の膝枕に寝転んで、京楽はご機嫌である。
浮竹は、同じく伸びた京楽の黒い髪を撫でていた。
京楽の髪はくせっ毛で、肩甲骨のあたりまで伸ばして結って、女ものの簪をさしている。女ものの着物も羽織っている。
それが似合うのだから、京楽の容姿も十分にいい。浮竹のように儚い幻想的な色を帯びた容姿はもたないが。
二人の関係は護廷一三隊でもかなり有名だ。できてるって、ほとんどの死神が知っている。
隊長羽織を互いに間違えてたり、浮竹からは京楽の酒の香りがしたり、逆に京楽からは浮竹の甘い花のような香りがしたり。
人目を憚らずいちゃついているわけではないが、本人たちはあまり隠そうとしていない。
「そういえば、このまえ日番谷隊長に、お菓子をプレゼントしたら、養命酒を送り返された」
「ぶっ」
京楽はふき出した。
「養命酒か。まぁいいんじゃないの。酒であることには変わりないだろうし」
「なんだか年寄り扱いされているようで」
「実際、僕たちいい年だからねぇ。何百歳になるっけ?数えるのやめてから随分と経つなぁ」
日差しがぽかぽかとしていて心地よい。
二人は、また酒を飲みあった。
京楽が浮竹に酒を注ぎ、浮竹が京楽に酒を注ぐ。
そんなことを繰り返していたら、もちこんだ酒が切れてしまった。弁当も食べ終わってしまい、後はただ桜の花を見上げるばかり。
ひらひらと、桜の雨が降る。
二人は、草っぱらの上で横になって、桜を見上げた。
「浮竹ー」
「なんだ、京楽」
「また、来年も二人で花見にいこうね」
「ああ、そうだな」
「今年は、そうだな。黒崎一護くんや朽木ルキアちゃんも誘って、わいわいやろうか」
「それもいいな。日番谷隊長や朽木隊長も誘おう。他にもいろんなメンバーを誘おう」
みんなでわいわいする花見もまた楽しいものだ。
尸魂界は、かろうじではあるがまだ平和が保たれている。
現世に赴くことのほとんどない浮竹と京楽は、現世に派遣される死神たちからいろいろと贈り物をもらうことが多い。
甘いものがすきな浮竹には甘味ものを。酒が大好きな京楽にはいろんな酒を。
「少し、眠ろうか」
「そうだな」
二人で見る花見。満足していたら、眠くなってきた。
今は二人以外誰もいない。仕事はもう片付けてある。さぼりがちな京楽だが、浮竹と二人の時間を作る時は本気で仕事を大量に短時間で済ませてしまう。
浮竹は、臥せっていない間に仕事を片付ける。
「ああ、風邪はひかないようにね」
浮竹に上着をかける京楽。
「あれ、浮竹ぇ?」
もう、すーすーと眠ってしまっている。浮竹は寝付きがいい。特に酒を飲んだ後はよく寝てしまう。
京楽は、浮竹の手をとって、口づける。
「おやすみ。いい夢を。さて、僕もねるかなぁ」
ひらひらと。
二人の上に桜が降り積もる。
ひらひらと。
浮竹の白い髪に、桜の花が降り注ぐ。
ひらひらと。
京楽の笠に、桜の花びらが舞い落ちる。
ひらひらと、ひらひらと。桜の薄紅色に包まれる世界。
静謐に満ちた、薄紅色の世界だった。
季節は春。
「やっぱ、この場所をとってよかったねぇ」
「ああ、そうだな」
現世にも四季があるように、尸魂界でも四季がある。
桜の花に囲まれながら、京楽と浮竹は花見をしていた。無論酒をのんでいる。
ひらひらと。
一枚の桜の花びらが、浮竹の杯の上に浮かんだ。
「風流だねぇ」
「ああ。綺麗だ」
「僕は、浮竹のほうが綺麗だと思うけどね」
白い髪に白い肌、翡翠の瞳、秀麗な容姿。
さらさらと風に吹かれて長い髪が流れるのと一緒に、さぁぁぁと桜の花びらが散って優しい雨が浮竹を包み込む。
まさに幻想的。
「桜の木の下には、死体が埋まってるって知ってるかい。だから薄紅色なんだよ」
「ただの迷信だ」
酒をぐっと呷って、浮竹は空になった杯に酒を注ぐ。
浮竹は酒に弱いわけではないが、強くもない。
逆に、京楽は酒豪だった。浴びるように飲む。酔わないわけではないが、飲み潰れることはなかった。
京楽と付き合って飲んで、先に潰れるのはいつも浮竹だった。
「伊勢君を呼ばなくてよかったのか?」
「そういう君こそ、三席の二人を呼ばなくてよかったのかい」
「あの二人は頼もしいけど、すぐにケンカするからなぁ。それに、たまには俺も京楽と二人だけで花を見ていたい」
それって殺し文句だよ。
京楽は、言葉を飲み込んだ。
「まぁ、一杯」
京楽が自分でもちこんだ酒を、浮竹の杯に注ぐ。浮竹は、逡巡もなしにそれを呷った。
「く、強いなこれ」
アルコール度の高い酒だ。現世にいった部下に買ってこさせた、ウォッカという名の酒だ。
「ウォッカっていってね。極北の地で、体を温めるために飲むものだそうだよ。浮竹にはちょっときつかったかな」
「俺は、もう少しアルコール度の低い酒の方が好きだな」
ぺろりと、唇を舐める浮竹の仕草に、京楽の喉がなった。
「ねぇ、ちょっといいかい?」
「何が・・・・ふわっ」
ついばむような口づけをされて、浮竹は驚いて目をきょとんとさせていた。
酒の勢いで、性行為をすることはけっこう多いが、流石に外ではしない。浮竹が嫌がるからだ。
「離れろ京楽」
唇を指でなぞられ、白い頬から細い首筋に落ちていく京楽の手を、浮竹が遮った。
「外だぞ、ここは。誰がくるかわからない、やめ・・・・」
深く口づけられる。舌がするりと入ってきて、上あごをくすぐり、歯茎をなぞって、浮竹の舌をからめとる。
「きょうら・・」
頭がぼんやりとなる。京楽のペースに飲み込まれるのは時間の問題だ。
「はい、おしまい」
せめてもの抵抗とばかりに、ぽかりと殴られて、京楽は浮竹を貪ることをやめた。本当なら、今すぐ押し倒してぐちゃぐちゃに犯したいが、外での行為を浮竹は嫌がるので、我慢だ。
「まったく・・・・・・・」
少し乱れた衣服を整えて、浮竹は京楽の杯をぶんどると、ぐいっと呷った。
「ああ、僕のお酒!もう、ちょっとしかなかったのに!」
「ふん。盛るからだ、このばか京楽」
ひらひらと、花びらが降ってくる。
馴染みの店で買った弁当を敷布の上に広げて、浮竹は酒はもういいとばかりに、花を見ながら卵焼きをかじっていた。
京楽も弁当を食べながら、酒を飲んでいる。
二人きりの花見は、静かだ。
わいわいとした、部下たちと一緒に花見するのもそれはそれで楽しいが、たまにはゆっくりと二人きりで花見をしたい。
京楽の誘いに、かじりついた形の浮竹だったが、京楽にとっては浮竹と二人きりになれる口実だ。
京楽は、浮竹を愛している。あまり表に出さないが、浮竹も京楽を愛している。
もう、院生時代からの付き合いだ。肉体関係をもった恋人になって、数百年もたつ。
おじさんといわれても仕方のない年齢にまできたが、それでも浮竹の秀麗な容姿は衰えなかった。
白い髪は、京楽が綺麗だから伸ばせばいいと何度も囁くので、伸ばしていたらいつの間にか腰より少し短いほどに伸びてしまった。
洗髪とかかわかすのとかけっこうめんどくさいが、似合っている、切るなと言われて伸ばしたままだ。長くなりすぎると、京楽が切りそろえてくれた。
京楽は、アルコール度の強い酒より、甘めのアルコール度の低い酒を好む。現世でいう果実酒やカクテルなどだ。
今日も、浮竹がもちこんだ酒は果実酒だった。
「ああ、幸せだなぁ」
浮竹の膝枕に寝転んで、京楽はご機嫌である。
浮竹は、同じく伸びた京楽の黒い髪を撫でていた。
京楽の髪はくせっ毛で、肩甲骨のあたりまで伸ばして結って、女ものの簪をさしている。女ものの着物も羽織っている。
それが似合うのだから、京楽の容姿も十分にいい。浮竹のように儚い幻想的な色を帯びた容姿はもたないが。
二人の関係は護廷一三隊でもかなり有名だ。できてるって、ほとんどの死神が知っている。
隊長羽織を互いに間違えてたり、浮竹からは京楽の酒の香りがしたり、逆に京楽からは浮竹の甘い花のような香りがしたり。
人目を憚らずいちゃついているわけではないが、本人たちはあまり隠そうとしていない。
「そういえば、このまえ日番谷隊長に、お菓子をプレゼントしたら、養命酒を送り返された」
「ぶっ」
京楽はふき出した。
「養命酒か。まぁいいんじゃないの。酒であることには変わりないだろうし」
「なんだか年寄り扱いされているようで」
「実際、僕たちいい年だからねぇ。何百歳になるっけ?数えるのやめてから随分と経つなぁ」
日差しがぽかぽかとしていて心地よい。
二人は、また酒を飲みあった。
京楽が浮竹に酒を注ぎ、浮竹が京楽に酒を注ぐ。
そんなことを繰り返していたら、もちこんだ酒が切れてしまった。弁当も食べ終わってしまい、後はただ桜の花を見上げるばかり。
ひらひらと、桜の雨が降る。
二人は、草っぱらの上で横になって、桜を見上げた。
「浮竹ー」
「なんだ、京楽」
「また、来年も二人で花見にいこうね」
「ああ、そうだな」
「今年は、そうだな。黒崎一護くんや朽木ルキアちゃんも誘って、わいわいやろうか」
「それもいいな。日番谷隊長や朽木隊長も誘おう。他にもいろんなメンバーを誘おう」
みんなでわいわいする花見もまた楽しいものだ。
尸魂界は、かろうじではあるがまだ平和が保たれている。
現世に赴くことのほとんどない浮竹と京楽は、現世に派遣される死神たちからいろいろと贈り物をもらうことが多い。
甘いものがすきな浮竹には甘味ものを。酒が大好きな京楽にはいろんな酒を。
「少し、眠ろうか」
「そうだな」
二人で見る花見。満足していたら、眠くなってきた。
今は二人以外誰もいない。仕事はもう片付けてある。さぼりがちな京楽だが、浮竹と二人の時間を作る時は本気で仕事を大量に短時間で済ませてしまう。
浮竹は、臥せっていない間に仕事を片付ける。
「ああ、風邪はひかないようにね」
浮竹に上着をかける京楽。
「あれ、浮竹ぇ?」
もう、すーすーと眠ってしまっている。浮竹は寝付きがいい。特に酒を飲んだ後はよく寝てしまう。
京楽は、浮竹の手をとって、口づける。
「おやすみ。いい夢を。さて、僕もねるかなぁ」
ひらひらと。
二人の上に桜が降り積もる。
ひらひらと。
浮竹の白い髪に、桜の花が降り注ぐ。
ひらひらと。
京楽の笠に、桜の花びらが舞い落ちる。
ひらひらと、ひらひらと。桜の薄紅色に包まれる世界。
静謐に満ちた、薄紅色の世界だった。
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