闇
浮竹が視力をなくした。
それはあまりにも突然のことで、京楽すらそんなことになると思っていなかった。
原因は、最近新たに開発された薬だった。
肺の病によく効いて、発作もなくなるほどの効き目に、バカ高い値段のそれを求めて京楽は走り回った。
やっと手に入れて、浮竹に飲ませたころには、服用したほんの一部の者が視力を失うという、致命的な副作用があると知った後だった。
「浮竹、僕が見えるかい?」
「だめだ・・・・ぼやけていて、輪郭くらいしか分からない」
浮竹の場合、完全に視力をなくしたわけではないが、明るさがわかったり人の姿をかろうじで映すくらいで、症状としては酷いことに変わりはなかった。
4番隊の卯ノ花に見てもらたところ、眼球にも神経にも異常はなく、時間の経過と共に自然に見えるであろうという診断だった。
最初は大騒ぎだったが、視力をなくした者が、なくした順から徐々に回復していると知って、京楽も胸をなでおろした。
でも、浮竹が視力を取り戻すには1週間以上はかかりそうだった。
「こっちであってるかな・・・・」
雨乾堂で、壁伝いに歩いていると、机につまずいてこけた。
「なんだ?机・・・・・・?」
手でさわってみるが、散らばった書類があるようだ。手探りでそれを集めて、机をなんとか元にもどしてその上においてみる。
「こっちで・・・・」
雨乾堂の外の鯉に、餌をやろうと思ったのだ。
それくらい、目が見えていなくてもできるだろうと思って。
「うわ!」
掛軸の前においてあった花瓶を割ってしまった。けっこう値段がしたのに。溜息をつきながら、移動する。
鯉の餌をおいてあった袋を手にして、池にいる鯉に餌をやろうとして、滑ってこけた。
バシャン。
池に落ちて、浮竹はもうどうにもできずに、清音を呼んだ。
「清音ー。助けてくれー」
「隊長!目が見えないのに、なに無茶してるんですか!」
やってきた清音に怒られた。
「いや、鯉に餌をやろうと思ってな」。毎日していることだから、それくらい目が見えなくても大丈夫と思って・・・・」
この冬の冷たい時期に、池に入って水浸しになるなど、風邪をひけといっているようなものだ。
「とにかくあがってください!」
手をかされて、浮竹が池からでた。
「こっちへ」
手をとられていたが、見えない中どんどん進んでいくものだから、恐怖心にかられた。
「うわっ」
雨乾堂にある僅かな段差に躓いた。こけて怪我をするはず・・・だったが、暖かい腕の中に抱き込まれて、それが誰であるかすぐに分かった浮竹は、名を呼んだ。
「京楽・・・・・」
「浮竹、無理しないで!これは僕のせいだ!」
自分を責め続ける京楽の姿を、見えない目でとらえる。ぼんやりとした輪郭しか見えなかったが、それで充分だった。
「俺のために、薬を手に入れてくれたのだろう?確かに副作用でこんなことになるとは思っていなかったが、今は肺が楽なんだ。薬は確実に効いている」
「副作用さえなければ・・・・・」
そうすれば、浮竹が肺の病で吐血することもなくなるのに。もどかしい思いを抱えたまま、京楽は浮竹を抱き上げた。
「山じいには、許可をとってあるから。目が見えるようになるまで、ずっと傍にいるよ」
「おいおい、大げさな・・・・・」
「大げさじゃないよ!見えないだろうから分からないだろうけど、慣れた雨乾堂の中でさえ、躓いたりしてるじゃないか!」
京楽は、浮竹を抱き締めた。
「本当にごめんね・・・・・ああっ、怪我してるじゃないの!」
「え?」
「足の指から、血がでてる」
裸足で移動していたせいだろうか。多分、花瓶を割った時に、怪我をしたのだろう。痛みをさほどかんじなかったせいで、分からなかった。
「清音ちゃん、救急箱もってきて」
「はい!」
まずは、衣服を着換えさせて、用意されていたタオルで浮竹の長い白い髪から水分をとると、ドライヤーで乾かしていく。
「救急箱もってきました」
「ありがとう。さがっていいよ」
「ああ、清音ありがとう。あとは京楽に任せるから」
「はい。京楽隊長、浮竹隊長をお願いします」
清音はそれだけ言い残すと、隊舎のほうへ下がってしまった。
「これ、本当に痛くないの?」
傷口をつつかれたが、痛みは微塵も感じなかった。
「もしかすると、これも薬の副作用・・・・?」
「勘弁してくれ。痛覚がないと、何かで怪我しても分からない」
「大丈夫、目が見えるようになるまで僕がいつでも傍にいるから」
足の傷口を、京楽が舐めた。
「なにやって・・・・」
「消毒」
「ばかっ!」
ちゃんとアルコール消毒され、ガーゼで傷口を覆った。
「そのなんだ・・・・目が見えないせいで、何もできないのは苦痛だな。東仙は、こんな世界を生きていたのか・・・・・」
今はもういない、東仙要のことをふと思い出した。
「東仙君は、もとから目が見えないから暗闇になれていたからね。突然視力を失うほうがきついと思うよ・・・」
京楽に抱き上げられて、いつの間にか布団に寝かされていた。
「んっ」
触れられただけなのに全身に雷が走ったような衝撃を覚えた。
「京楽・・・・?」
「見えなくなると、感じやすいってきくけど、本当みたいだね」
衣服をはだけられて、胸の先端をつままれた。
「あああ!」
浮竹は驚いていた。愛しい京楽の姿が見えないのに、快感だけを与えられていく。
「んんっ」
舌が絡まるキスをして、離れていく京楽を、浮竹は求めた。
「京楽、もっと・・・・・・」
「キス、好きだね?」
口づけしながら、京楽は浮竹の花茎に手をかけた。
「ああっ」
いつもの数倍感じた。
「だめだ、いってしまう・・・・・・」
「まだ、触っただけだよ?」
「もういい。中にこい」
ぐちぐちと、指を潤滑油まみれにして、性急に蕾をほぐしていく。
前立腺を触られるたびに、あられもない声をだした。
「ああああっ」
京楽に貫かれたのと同時に、浮竹はいってしまった。
びくりと、体が痙攣する。はぁはぁと荒い息をつく浮竹が、酸素を求めてくる。
口づけすると、浮竹は京楽に抱き着いた。
「いつもより、積極的だね?」
「お前が見えないのが、怖い」
「ごめんね」
前立腺を幾度もこすりあげられ、突き上げられて、浮竹は精を放った。
「ああああ!!!」
びりびりと、全身を快楽が突き抜ける。前でいってるのと同時に、後ろでもかんじていってしまったのだ。
「春水、春水」
「ここにいるよ、十四郎」
抱き締めてくる腕に、ほっとする。
そのまま何度か、結合部が泡立つまで挿入を繰り返されて、京楽も浮竹の中に欲望をぶちまけて果てた。
「何も見えないのは、確かにいつもより感じるが、でも不安の方が大きい」
「いきなり抱いたりして、ごめんね。目隠しプレイ一度やってみたかったんだけど、君が嫌がると思ってしてこなかった。目がみえない今ならと思ってしまって」
「このバカ!」
蹴りを放つ。
それはひょいっと避けられてしまった。
「こっち側だよ、浮竹」
「あれ?」
暗闇におちた。
「何も見えない」
「えっ。影も?」
「光も見えない」
「ちょっと!」
浮竹と京楽はさっと湯あみを済ませると、4番隊舎の卯ノ花に浮竹を診てもらった。
「大丈夫です。視力を取り戻そうとしているだけです。あと2~3日もすれば、ぼんやりとですが次第に見えるようになってくるでしょう」
その言葉に、二人してほっとした。
それから、浮竹が光を取り戻す間、京楽は常に傍にいた。
光を認識し、ぼやけていた輪郭がはっきりと見えてくる。
「不細工だな」
歪んで見える視界には、京楽の姿も歪んでいた。
「酷いな」
「大丈夫だ、今の俺にはどんな美人を見せようと、等しく不細工に見える」
「浮竹隊長、目が見えなくなってしまったというのは、本当ですか」
「その声、朽木か」
「そうです・・・本当に目が・・・・」
翡翠色の視線が、アメジストの視線と合わさるが、どこか違うところ見ているようだった。
ルキアの頭を、浮竹は撫でた。
「大丈夫、少しずつ視力は戻ってきている。今の朽木は相当な不細工に見えるが、一応視力は戻ってきているよ」
「そうですか!白哉兄様がとても心配していたのです」
「あの白哉がか」
「そうです。日番谷隊長も、同じようなかんじでした」
「嬉しいな」
浮竹は微笑んだ。
そっと耳打ちされる。
「京楽隊長が邪魔で、お見舞いにもいけないと言っていました、二人とも」
「そうか」
くすくすと笑う。
「どうしたんだい、浮竹、ルキアちゃん」
「なんでもない」
「なんでもないです」
それから3日経って、浮竹の視力は完全に回復した。まだ薬の効果は残っているのか、肺の病独特の痛みはなかった。
それから1か月は、肺の病の発作は一度としてなかった。
副作用さえなければ、浮竹の肺は治るのに。
もどかしい思いを抱えている京楽が、浮竹の傍にいた。もう視力は戻っているが、いつも通り視力があろうとなかろうとべったりなのだ。
その邪魔な京楽のせいで、白哉も日番谷も、結局浮竹が遊びにくるまで、見舞いどころか雨乾堂までいけないのであった。
京楽が放つ、浮竹は自分のものというアピールは、確実に効いていた。
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