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500年に一度の世界


やがて、明後日になった。

ボーンドラゴン退治の日がきて、マリアードなどは特にクナイと手裏剣、刀の手入れに慎重になっていた。

「マリアード、どうせユリエスとカリンが倒すんだから、そんなに武器点検しなくていいんじゃないの?」

そんなアルザに、マリア―ドは怒ってアルザの頭にクナイを刺した。

「ぎゃああああ」

痛みに転げまわるアルザに溜息を零す。

「私たちは金のカッシーニャ。4人で一つのパーティーですわ。たとえ少ししか戦力にならなくとも、仲間として力を合わせるのは必須ですわ。駄犬のあなたに言ってもむだでしょうけれど」

駄犬のアルザも、一応は自分の魔剣の手入れを昨日のうちにしておいた。

聖属性付与(ホーリーエンチャント)の魔法は、魔法が苦手なアルザでも使用可能が数少ない魔法の一つだった。

「用意はいいか?集合だ」

ユリエスが皆に声をかける。

「馬車では時間がかかりすぎる。カッシーニャになるから、全員その背にのれ。

「ええっ!?」

「まじですの、ユリエス」

「振り落とされないだろうな?」

心配する3人を置いて、ユリエスは水色の瞳を真紅に輝かせた。

ふしゅるるるるる。

目の前に3メートルはあろうかという、蒼銀のフェンリルが現れた。カッシーニャだ。

まずは、カリンがその背によじ登った。次にマリアードとアルザが。

アルザはすでに落っこちないかと小便をちびりそうになっていた。

「行くぞ!」

真紅の瞳を水色に変えて、ユリエスは空を翔けだす。そのスピードは速く、3人とも振り落とされないように必死だった。

「空のエアリアル!」

(どうした)

「ユリエスの周りに空の結界を!振り落とされても大丈夫なように!」

(承知した)

本当は、風のシルフに頼もうかと思ったが、風の結界よりも空の結界のほうが強そうで。
万が一振り落とされても、風の結界なら緩やかに落ちていくが、空の結界の場合落ちてもユリエスの背にも戻る。

空のエアリアルは、空であれば空間を捻じ曲げることができた。

「はぁ、安心した・・・」

アルザは、振り落とされそうになっていたので、空の結界に守られ、吹き抜ける風さえ感じなくなって、安堵していた。

空を翔けて、1時間くらいしただろうか。

ボーンドラゴンのテリトリーに入った。闇の空気が濃くなる。

「ここからは、歩いていくぞ」

森の開けた場所にユリエスは音もなく、着地した。

カリン、アルザ、マリアードの順番に大地に降りる。

ボーンドラゴンは飛空する。ユリエスは、人の姿に戻ることはなかった。

やがて、気配を察知したボーンドラゴンが現れた。動く骨のドラゴンだ。20メートルはあるだろうか。巨大で、闇のブレスをはいてきた。

「グリーンウッド、緑の天蓋を!」

カリンが命じる。

(緑の天蓋よ、黒き聖女を守れ)

ざあああと、構築された植物の盾が、闇のブレスを受ける。受けた場所から、緑はみるみるしおれ、枯れていった。

「気をつけろ。生気を奪うぞ」

ユリエスは、カッシーニャのままボーンドラゴンの足に食らいついた。

ボキボキメキメキ。音をたてて、ボーンドラゴンの右足が砕かれる。

「まずい」

骨を飲み込むことなく、ユリエスは吐き出した。

これが生前のダークドラゴンであれは、食いちぎてって肉を食らっていたであろう。

「わたくしも行きますわよ!全聖属性付与(ホーリーエンチャントオール!)」

クナイや手裏剣、刀に聖属性が付与される。

「キシャアアアアアアアア」

ボーンドラゴンが、かみ砕かれた右足を高速再生させながら吠えた。

マリアードは構わずに、その巨体に切りかかる。

聖なる力に触れた部分が粉々に砕かれていく。再生はしなかった。

「聖属性がききますわよ!」

「よっしゃ!聖属性付与(ホーリーエンチャント)!」

アルザが愛刀である魔剣に聖属性を付与させて、ボーンドラゴンに切りかかった。

「シャオオオオオオオオオオオ!」

ボーンドラゴンは巨大な尻尾で薙ぎ払おうとする。その尻尾に、ユリエスは嚙みついた。

「ブレスを食らえ!」

太陽の精霊ドラゴンであるカッシーニャのブレスは、火属性だ。アンデット系に効果はあるが、ボーンドラゴンは何千℃というブレスに、骨をきしませるだけで、炎は効果がなかった。

「ちっ」

アルザが、ボーンドラゴンの頭蓋骨に剣を突き立てる。ボロボロになって崩れていく頭蓋骨は、けれど高速再生した。

「なんで!聖属性に弱いんじゃなかったのか!」

「この骨ドラゴン、学習してやがる。聖属性に対抗する古代魔法をまとってやがる」

ユリエスがその体にアルザを乗せて、空を翔ける。

「どこかに核があるはずだ。アルザ、探知できるか?」

ユリエスの体に必死にしがみつきながら、アルザは翠の目を瞬かせた。

「感知の魔法は僕の得意技だからね。ちょっと時間かかるよ」

「構わない。カリンとマリア―ドに後は任せる。俺も魔法で攻撃するが」

マリア―ドは、クナイや手裏剣で骨に攻撃していた。再生されても何度も攻撃すると、神聖魔法をレジストしていた古代魔法がその部分からはぎとられていく。

「いきますわよ!」

マリアードは、クナイでボーンドラゴンの右後ろ足を切り飛ばした。

「アイスティア、凍らせて!」

(わかったのじゃ)

氷の精霊アイスティアを召喚し、切り離された右足を凍らせると、再生はおきなかった。

「世界よ凍れ!我が息吹は神の言葉!凍れる獅子の鬣よ!全てを凍てつかせ、世界よ回れ!
氷魔世界(アイシクルワールド)!」

ユリエスの放った氷の魔法が、ボーンドラゴンを大地に縫い付ける。

「はああああ!」

マリアードが、凍って動けないポーンドラゴンに攻撃する。

「ジュアアアアアアアア」

ボーンドラゴンは闇のブレスを吐いた。

「夜のパンデモニウム!闇の吐息を夜の世界に閉じ込めて!」

(夜よ踊れ。世界の息吹をこの夜の帝国に)

パンデモニウムは、アルビノのロードヴァンパイアだ、眼鏡をかけている。カリンの隣に降臨すると、夜の空間にボーンドラゴンのブレスを封じた。

「ボーンドラゴンね・・・・・」

「ジルフェ!?」

召喚してもいないのに、風の上位精霊ジルフェが降臨した。水色の波打つ髪風に泳がせている。ユリエスも美しいが、ジルフェは精霊だけに人外の美しさをもっていた。

「風刃(エアリアルエッジ)!」

真空を放ち、ボーンゴーレムの骨をスライスしていく。

「黒羽風(フェザースラッシュ)」

ジルフェは、背中にある6枚の漆黒の翼を羽ばたかせた。黒い羽の雨が、ボーンドラゴンの体中に降り注ぐ。

触れた場所から、粉々になってくだけていくが、高速再生が止まらない。

「キシャアアアアアアア!」

「古代語でうるさいんだよ。再生するし、もう知らん」

そう言って、ジルフェは風をまとわせて消えてしまった。

「ちょ、いきなり現れていきなり消えないで!」

すでにジルフェは去った後だった。

「もう一撃!」

マリアードは、ボーンドラゴンの左足を切り離した。骨と骨が分離して、ばらばらになる。

「カリン!」

マリアードが、カリンを庇った。

押し倒された。すぐ上を、ボーンドラゴンの尖った骨が飛んでいく。

「ユリエス、どうにかできる!?」

すでにドラゴンの形を留めることをやめた骨たちは、意思をもってユリエスとその背にいるアルザ、カリン、マリアードに一撃を加えようとする。

「骨のスカルニアボーンを呼べ!」

ユリエスが叫ぶ。

「あ、そっか!」

魔物ドラゴン、骨のスカルニアボーンを呼ぶと、スカルニアボーンは宙を飛ぶ骨を一か所に集めて、圧力をかけた。

「ギュルワアアアアア!」

「ボーンゴーレムの核は、右目だ!」

ユリエスの背の上で、ずっと探知の魔法で核を探っていたアルザが叫ぶ。

「スカルニアボーン、そのまま拘束を!」

(了解した)

「最後はお前が決めろ、マリアード!」

マリアードはクナイを手に大地を走る。ドラゴンの形を取り出したボーンドラゴンの、空洞の右目を貫いた。

「ギャオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

狂ったように、暴れだすボーンゴーレムは、そこら中に闇のブレスを吐いた。

そのブレスを浴びると、生命力を取られる。

ユリエスが、カッシーニャの体でカリンとマリアードをくわえて、天高く走る。

「空のエアリアル!」

カリンは、エアリアルを召喚し、その竜の形をした背の上に、カリン、アルザ、マリアードが乗った。

ユリエスは、天を走る。そして、蒼銀の弾丸となって、大地を貫いた。

ボーンドラゴンは、核を失いバラバラになりかけていたが、まだ命があった。そこに、風の魔法をまとわせたユリエスが、その3メートルはあろう巨体でつっこみ、その爪と牙でボーンドラゴンを粉々にしていく。

「圧力(プレッシャー)!」

念のため、骨の破片を粉々に砕いていく。

後に残ったのは、粉々の白い粉になった、ボーンゴーレムの成れの果てだった。

「退治した証に骨の一部もっていく約束だったけど・・・・・白い粉になってしまった」

ユリエスが、フェンリルの姿から人間の姿に戻って、困った顔をしていた。

「過剰殺傷ってやつー?」

アルザが、白い粉になったボーンゴーレムの粉で遊んでいた。

「これ・・・・魔力やどってるよ」

カリンが、白い粉を手に取る。多分、水に溶かせると魔水になる。色々と便利に使えるかも」

魔水は、その通り水に魔力が宿ったものだ。精霊化学の発達したこの世界での燃料の一部となる。

「夜のパンデモニム。夜の空間にこの白い粉を収納して」

(アイテム収集用に、あるのではないのだがな・・・・・・)

「そんな硬いこと言わずに」

夜のパンデモニウムは、粉で遊んでいたアルザも収納した。

「ああん、出してえええ」

泣き叫ぶアルザ。

「出してあげて」

ぺっと、空間からアルザだけが吐き出された。

「いてて」

「これだけの魔水の元があれば、けっこう稼げますわね。ギルドには核を提出して、あとのこの白い粉は報奨の一部としてもらうというのはどうかしら?」

マリアードの言葉に、みんな頷く。

SSランクのモンスターハンター、通称「金のカッシーニャ」には、命の危険があるほどの魔物ではなかったが、それなりに苦戦はした。

「金のカッシーニャ」は、こうして冒険ギルドでSSランクを保ちながら、魔物を駆逐していく。
500年い一度の成熟期を迎えたサーラの世界は、鼓動を高鳴りだす。

魔物の活性化をとめるために、また「金のカッシーニャ」の面子はモンスター退治に追われるのであった。




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