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カニ鍋

その日は、深夜まで雪が降った。

ちらちらと降り積もる雪を、窓から外を眺めていた浮竹は、少し窓を開けてみた。

室内に、ちらちらと雪が入り込んでくる。同時に身を震わすような寒気も感じて、すぐに窓を閉める。

「雪、けっこう積もるかな?」

「この調子なら、つもるんじゃないの」

こたつの中に入って、その暖かさに安堵する。

今日は、京楽が泊まる日だ。ためていた仕事を片付けてからきたので、夕方から雨乾堂に来ていた。

「夕餉食べるか?」

「うん」

「清音ーーー!仙太郎ー!」

「はい」

「どうしたんですか隊長」

「あ、このクソ女、俺のほうが先にきたんだぞ」

「なんだとこのインキンタムシがっ」

「まぁまぁ、二人とも落ち着け。そろそろ夕餉の用意をしてほしい」

「了解しました!」

「新鮮な材料手に入ってますから、美味しいですよ!」

そういって、仙太郎と清音は一度隊舎のほうまで下がってしまった。

「13番隊のところは飯がうまいからねぇ」

「今日は特別だぞ」

「え、どうしたんだい」

清音が、少し小さめの鍋をもってきた。その下に、火をつけたコンロを置く。すでにある程度用意されてあったのが、すぐにいい匂いがした。

「今日はカニ鍋だ」

「ええっ、カニだって」

尸魂界に海はない。魚介類を手に入れるために、定期的に専門の職人が海の幸を尸魂界に持ってくる。だから、カニはかなり高価な代物だった。

現世でもカニは高い。現世には禁漁区や禁漁期間があるが、尸魂界には関係なかった。

流魂街の住人が口する魚といえば、主に川魚か、多く取れて安めの海産物かだ。

カニは、13番隊の厨房係が食べやすいようにと、殻の部分をカットされていた。白菜やえのきだけ、しいたけ、人参と鍋に放りこんで、綺麗にカットされたカニを放り込んでいく。あと、海老とはまぐり、鮭をいれた。

「今日は豪勢だねぇ」

京楽も、今年になってカニを食べるのは初めてだった。

ぐつぐつといい匂いとともにカニが真っ赤になって、食べ頃と知らせてくれる。

海老やはまぐり、鮭も食べ頃で、良い出汁がでていた。

「隊長、追加です」

「ああ、そこにおいておいてくれ」

「お、酒かい」

熱燗であった。

「いいねぇ」

仙太郎と清音だけでなく、隊士のほとんどが今日はカニ鍋だった。

大分費用がかかったが、冬の寒くなる時期に士気をあげるためにもと、浮竹が許可をした。

本当は浮竹と京楽の分しかなかったのだが。

こたつに入りながら、いい匂いをさせてぐつぐつと煮込まれていく鍋を見る。

仙太郎と清音が、隊舎に下がったのを確認してから、二人は酒を飲みなながらカニを食べた。

はまぐりや海老、鮭もおいしかった。

カニの身をほじくりだすのに少々時間がいるが、美味しいのでそれも苦ではない。

からになったカニの殻は、深めの皿にいれた。

ふと、人参をみると紅葉の形に切ってあった。こんな細かいところにまで気配りがされてあって、京楽は少し羨ましかった。

8番隊の飯は、京楽が金を出している分それなりに豪華な時が多いが、いかにも職人が調理しましたというかんじで美味しいが、できたてを食べれるわけではないのでいつも冷めていて、13番隊で朝餉や昼飯、夕餉をとるようにできたてを食べれないのだ。

「んー体にしみるねぇ」

熱燗をあおって、海の幸を堪能する。

「今度、皆を誘ってカニ鍋でもするか」

「それもいいねぇ。あ、費用は僕がもつから」」

日番谷や松本、ルキアや今尸魂界にいる一護たちのメンバーも誘って。

「白哉は、流石にこないだろうな」

「そうだねぇ。誰かと同じ鍋をつつくのは貴族としてはないに近いから、多分むりじゃないかな」

「ないというわりには、京楽は平気なんだな」

「まぁ、院生時代からみんなで鍋を囲んだこともあるからね。いろいろと慣れたよ。入学するまでは、鍋なんて自分の分しか食べたことがなくて、よく残してたね」

「勿体ない・・・・俺が子供の頃は、川魚か安いいわしやアジとかばかりだったな。鍋なんて豪華なものはなかった」

「浮竹は下級貴族だし、兄妹が多いから、食べるだけでも大変じゃなかったのかい」

「ああ。俺の薬代で借金を重ねていたな。だから、隊長となった今は給料のほとんどを仕送りしているが、親族がそれに頼ってしまってな・・・だからといって、仕送りを打ち切るわけにも減らすわけにもいかないし」

困っているのだと、カニを食べながら言う。

「一族に隊長をもつとねぇ。給料の額が額だから」

京楽にはそれほど大金ではなかったが、浮竹には大金であろう。隊長の給料の額は。

カニを食べおえて、ついてきた卵とご飯をいれて、雑炊をつくる。

「やっぱり、しめは雑炊に限る。いい出汁がでていてうまい」

「美味しいねぇ」

全部食べ終えて、京楽も満足げだった。

「このまま、酒を飲み交わそう」

「いいぞ」

いつもの京楽用の強い日本酒と、浮竹用の甘い果実酒を取り出す。杯に互いの酒を入れる場合は、京楽は用意しておいた果実酒を注いだ。

京楽の好きな高級な日本酒は、喉を焼くくらいに強い。それに浮竹は飲ませ続けていると、酔って潰れてしまう。

「一護君たちは、冬休みらしい。朽木に誘わて遊びにきているが、あと2日くらいで帰るらしい。それまでに、彼らにもカニ鍋を食べてもらいたいな」

「まぁ現世ではカニなんて、こちら側より安いし、そこそこ食べ慣れているんじゃないのかい」

「一護君には双子の妹がいて―----」

1時間ほど、一護の話をしていただろうか。段々と京楽が不機嫌になってきた。

「どうしたんだ、京楽」

「浮竹、僕の気持ち知ってるでしょ?僕が一護君にあまりいい感情抱いていないこと」

「それは・・・・・んう」

いきなり口づけられて、浮竹は杯を零してしまった。

「あ、酒が・・・・」

「一護君のことはもいいよ。他の会話をしよう」

「あ、ああ、そうだな・・・・・・」

浮竹は失念しがちだった。

海燕によく似た一護のことを、浮竹は大好きだった。それを知っているから、嫉妬して京楽の機嫌が悪くなる。それなのに、一護のことを1時間ばかり延々と話してしまった。

「すまない、京楽」

「謝るほどのことじゃあないけどね。まぁ、浮竹があまりに楽しそうな顔するから、ちょっとね」

嫉妬しているのだと付け加えた。

浮竹は苦笑して話題を変えた。

3席の清音と仙太郎の話を始める。それが面白くて、他にもいろいろ聞いていたら、夜も暮れてしまった。

夕餉になる前に湯あみはすませていたので、そろそろ寝ようと、浮竹が切り出す。

「おい、それは俺の布団・・・・・・・」

「寒いでしょ。一緒に寝よう」

「仕方ないやつだなぁ」

甘えてくる京楽の願いを聞き入れる。

来客用の布団は、結局使われないまま、夜は更けていくのだった。

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