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あなたの手で、殺してくださいⅢ

「僕は、アニューがイノベイターであると気づいていた。気づきながら、誰にも言わなかった」
「どうしてだ!何故いってくれなかった!」
「言ったら、あなたはどうしていた?」
「それは・・・・・」
ライルは言葉に詰まる。

「彼女がイノベイターであると分かれば、誰も彼女の周りからいなくなる。彼女を愛する者も」
「俺はどんなことがあってもアニューを愛していた!」
「では、途中の基地で降ろされても、仲を裂かれても良かったと?」
「こんな結果になるくらいなら、そのほうがマシだ!」
「それは結果論だろう」
ティエリアは、ライルに頬を叩かれていた。
ティエリアは、抵抗すらしない。
そのまま、上の服を裂かれる。

ティエリアは、刹那が求めたように、大声で叫ぶ、という行為をしなかった。
叫び声もうめき声も、泣き声一つ漏らさない。

「あなたが、私を汚したいなら、好きなようにすればいい。それで、刹那に対する憎しみが少しでも薄れるというのなら。私は、何もできなかった。ただ、願うことしか。私を傷つけることで満足するなら、好きなだけ傷つければいい。刹那は・・・・彼も、人間だ。何の思いがなく、アニューを殺したわけではない。傷ついていないはずがない。これだけは言っておく。刹那も、人間なんだ・・・・」
そこではじめて、ティエリアが涙を零した。

俺は、何をやっているんだ。
ライルは苛立ちと悲しみの狭間に立っていた。

ティエリアは手を伸ばして、ライルの額に口付けた。
出陣前、アニューが口付けてくれたのと同じ場所だ。

ライルは、ティエリアを突き飛ばす。
それでも、何度でもティエリアは手を伸ばして、ついにライルを抱きしめた。

「・・・・・・・・・・」
「刹那も私も、許してくれとはいわない。逆に、憎んでくれという。憎むことで、生きる意味を見出せるならば、それでも構わない」
「どうしてだ・・・・お前も刹那も、なんでっ」
言葉が、そこで途切れた。

ライルは泣いていた。
ただ、エメラルドの綺麗な目を見開いて。

「人間という生き物は・・・・それでも、誰かを愛してしまう。ライル・・・アニューの、私の中にある記憶を、全てあげよう」
ティエリアが、目を金色に光らせ、ライルと額をあわす。

脳量子波の使えないライルに、ティエリアは自分の記憶の中のアニューと対面させる


「ライル・・・聞こえる、ライル」
「アニュー?」
目を開けると、そこは忘れな草が生い茂る花畑だった。
一面緑と水色の海に覆われて、アニューはいつもの制服姿で微笑んでいた。

「アニュー!」
ライルは駆け出して、アニューを抱きしめる。
「ライル!」
アニューも駆け出して、ライルを抱きしめた。
二人でキスをする。
長い間、抱擁は続いた。
「ここ、は?」
「ここは、ティエリアの心の表層。私が頼んで、出陣前に、記憶の一部を継承してもらったの。それが、今再現されているこの光景」
「アニュー・・・・」

「私は、イノベイターだった。ティエリアもそれを知っていた。ティエリアは優しいから、私をライルから引き離さないでくれた。イノベイターとして覚醒しつつある私を」
「アニュー」
「お願いだから、ティエリアを責めないで。そして、きっと私を殺すであろう刹那を」
「お前、そんなことまで!」
「なんていうのかな。予知夢っていうのかしら。アロウズが襲撃してくる前の朝、私はイノベイターとして覚醒し、あなたを連れてアロウズに戻る夢を見た。でも、夢は途中で変わった。私がイノベイターとして完全に覚醒し、あなたを殺そうとする夢。私は何度も叫んだわ。自分に、止めてって。でも、止まらなかった。あなたは、それでも私を取り戻そうとしてくれて・・・でも、私はあなたを殺そうとした。それを、刹那が止めてくれたの」
アニューは、髪にブルーサファイアの忘れな草の髪飾りをしていた。

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