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え、生きてる?3

ドクンドクンと、鼓動がする。

それは、心臓ではない。

肺から聞こえた。

いなくなってしまったミミハギ様の鼓動だった。

「浮竹十四郎。次の霊王よ」

「え?」

夢の中で、浮竹はミミハギ様に語りかけられていた。

「霊王がユーハバッハの亡骸のままでは困るのだ。次の霊王に相応しいのは、汝だ。私を宿した。霊王の右腕を宿した汝の肉体は、霊王となるに相応しい蘇りを果たした。次の霊王は、汝だ」

「そんなばかなことがあるか!!」

ばっと飛び起きると、ベッドの上だった。

「どうしたの?」

横で眠っていた京楽が、浮竹の様子を伺う。

「いやな夢を見たんだ。俺が霊王だと・・・・ミミハギ様が・・・・・」

「変な夢を見たんだね。まだ夜明けまで時間があるから、もう一度寝なよ」

「ああ、そうする」

次に起きると、朝だった。

浮竹は気づく。

失ってしまったミミハギ様が、再び自分の中に宿っていることに。

それは、霊王の右腕。

霊王になれる身代わりの証。

「浮竹?朝ごはん食べるでしょ?」

「ん、ああ」

浮竹は、何故失ったはずのミミハギ様が戻ってきたのか分からなかった。

夢の中の言う通りに、次の霊王になるためか。

「はい、お味噌汁」

「あ、ああ、すまない」

ぼーっとしながら朝ごはんを食べていると、京楽の出勤時間になった。

一番隊隊長補佐についているので、京楽と並んで浮竹も一番隊隊舎に向かう。

ユーハバッハの手による滅却師の侵略の爪痕は深く、瀞霊廷はまだまだ復興途中だった。

「京楽、もしも俺が霊王になって、霊王宮にしかいられなくなったら、どうする?」

「え?そんなの決まってるでしょ。拉致る」

「まじか」

「まじだよ。誰も分からない場所に隠す」

浮竹の運命は、変わろうとしていた。

ただ、地獄が溢れそうだからと蘇ったわけではなかったのだ。

ユーハバッハの亡骸を、いつまでも霊王として留めておけないので、天が下した答えだった。

ミミハギ様を・・・・霊王の右腕を、霊王を宿したことのある者を霊王とせよ。

死しているならば、今一度命を授け、霊王とせよ。

「浮竹?なんか怖い顔してる」

「京楽・・・・・俺は、霊王になりたくない!」

浮竹は、京楽に縋りついた。

「何言ってるの。霊王は、ユーハバッハの亡骸でなんとかなっているよ。君が霊王になる必要なんて・・・・・」

気づけば、囲まれていた。

「浮竹十四郎様。迎えに参りました。次代の、霊王様」

「なんだい、君たちは!」

京楽は斬魄刀を抜いた。

「我らは新たなる零番隊。浮竹十四郎様は、霊王となられるお方です。霊王宮にお連れします。邪魔をするなら、総隊長であるあなたとて、容赦はしません」

「待ってくれ!俺は霊王になんて、なりたくない!」

「これは天の定め。霊王になるのためだけに、あなたは蘇った。浮竹様・・・・・いいえ、霊王様」

京楽は、斬魄刀で新しい零番隊と切り結びあう。

零番隊は8人いて、いくら京楽が総隊長とはいえ、戦況は厳しかった。

「致し方ありません。総隊長は、代わりはいくらでもききます。やっておしまいなさい」

「はっ」

「待ってくれ!!」

隊長羽織を朱に染め上げる京楽を見かねて、浮竹は自分の斬魄刀を捨てて、零番隊に言った。

「俺は霊王になる。霊王宮に連れていけ。ただし、今後一切京楽に手出しするな」

「浮竹!!!」

「大丈夫だ、京楽。きっと、戻ってこれる・・・・戻ってこれなかったら、拉致ってくれ」

「霊王様がお通りになる。道を開けよ!」

浮竹は、零番隊が見守る中、霊王宮に続くゲートをくぐらされて、霊王宮に消えてしまった。

「浮竹ええええええ!!!」

京楽は叫ぶ。

愛しい者をとりあげられた。

ただ、大人しくいつもの日常に、浮竹が生き返ったということなど忘れて、生きろとでも?

京楽の左目には、狂気が宿っていた。

「待っててね、浮竹。必ず、拉致るから」



「霊王様。ユーハバッハの亡骸から、霊王様への力の譲渡が終わりました。これで、浮竹十四郎は死にました。新たなる霊王様です」

「俺は・・・・霊王、か」

「そうです。あなたが霊王様です。この世界を守る贄であり、絶対存在であり、ただ在るだけの存在」

「俺は、霊王になるために生き返ったんじゃない」

「いいえ、世界が霊王となるためにあなたを求めて、あなたを生き返らせた。ミミハギ様を宿していたあなたこそ、霊王に相応しいのです」



「京楽・・・・・・俺を、攫いにきてくれ」

霊王宮は、豪華な場所だった。

新たに建築されて、生きている霊王の浮竹を迎えるために人が住める空間になっていた。

「暇でしたら、下界を見てはいかがですか?」

意識すると、下界が見えた。

浮竹は、京楽を探した。

京楽は、斬魄刀を手に、伊勢と何か言い合いをしていた。

「京楽・・・・助けて、くれ。俺を、ここから連れ出してくれ・・・・・・」

浮竹は、京楽・・・・と呟く。

「京楽春水のことはお忘れください。あなたは霊王様なのです。ただ、ここに在ればよいのです。誰かへの想いなど、いらないはず」

零番隊のリーダーである黒髪の女性が、浮竹に膝ますづいた。

「霊王様、夕餉の支度が整いました。どうぞ、こちらへ」

ついていくと、豪華な食事が並んでいた。

けれど、浮竹は一口も食べずに、水だけを飲んだ。

「霊王様は生きていらっしゃる。食物を摂取しないと、霊王様のためになりません。今はまだ無理強いしはしませんが、どうしても食べないのであれば、点滴を受けてもらいます」

「俺は・・・・霊王になんて、なりたくなかった。ただ、京楽の傍にいれれば、それでよかったんだ」

「霊王様は、もう霊王様です。浮竹十四郎は死んだのです」

「俺は、ここにいて生きている」

「霊王様ですから。今ここにいるあなたは霊王様です。京楽春水は、もうあなたには不要の存在。お忘れなさい」

浮竹は、零番隊のリーダーである女性にむかって水をかけた。

「お怒りを、お沈めください。霊王様の怒りは、大地の怒りとなります」

「京楽・・・・・・」

浮竹は、ただ京楽を求めた。

院生時代から、ずっと一緒にいた。

恋人同士だった。

先に浮竹が神掛をして死んでしまっても、京楽は浮竹を愛し続けていた。

数日が経ち、浮竹はまた下界を見ていた。

京楽は、浮竹と呟いて、仕事も手につかないようだった。

「京楽・・・・俺はここにいる。連れ去ってくれ・・・・・」

霊王になんて、なりたくない。

でも、もう霊王だ。

それでも、京楽と一緒にいたい。

浮竹は、京楽と一緒に生きる道を模索しようとしていた。




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