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おかん

「海燕、何気にいい体してるよな」

ペタペタペタ。

海燕の体を触る浮竹に、海燕はこそばゆそうにしていた。

「そりゃ、鍛錬してますからね。隊長も、鍛錬してるんですから、それなりに筋肉あるでしょう」

「いやあ、寝込むことが多いからなぁ」

今度は、海燕が浮竹の体を触った。

「あー。ちょっと肉落ちてますね。しっかり食べて体動かさないと、いざっていう時が大変っすよ」

「そうなんだよなぁ。でも食べて鍛錬しても、また熱が出たりして寝込んで、意味がない時が多いような気がして・・・・・」

「それでも食べて鍛錬しないと」

「ああ、そうだなぁ」

浮竹の脇腹あたりを触って、海燕は眉を顰める。

「肋骨の位置がわかりますね。ちょっと肉落ちすぎです」

「今回は10日も臥せっていたからな。大分肉も落ちてるだろう」

血を吐いて倒れた。

入院こそしなかったものの、体力が回復して起き上がって動き回れるようになるまで、10日かかった。

「海燕の筋肉いいな。俺もほしい」

ペタペタ触ってくる浮竹に、お返しだと薄い筋肉しかついていない浮竹を触ってると、すごい霊圧の高ぶりを感じて、海燕は浮竹から距離をとった。

「海燕君~~~~?何、浮竹を嫌らしい手つきで触ってるのかな?」

にこっと笑みながら、殺気を含ませている。

「いや、京楽隊長誤解です!俺は邪(よこしま)な感情で触ってたわけじゃありません!」

「僕の浮竹に触れていいのは、僕と診察する卯ノ花隊長くらいだよ」

じわりと、高ぶった霊圧が海燕に集中する。

海燕はその霊圧の高さに、冷や汗をかいた。

浮竹は、海燕の手からいつも突っ込みに使うハリセンを奪って、京楽の頭をばしばしと叩いた。

「痛い!痛いから浮竹!」

「海燕は、俺の副官だ。俺が寝込んで肉が落ちたことを気にかけてくれて、触って確かめていただけだ!海燕をいじめるな!」

「分かったから!僕が悪かったよ!」

ばしばしとハリセンでさらに何度か叩いて、浮竹は満足したのかハリセンを海燕に返した。

「京楽、今日は暇か」

「暇じゃないと、こうやって遊びにきてないよ」

本当は、書類仕事がたまっているのだけれど、愛しい浮竹に会うために放置していた。

そのうち、伊勢に耳をひっぱられて、監視付きで仕事をさせられるだろう。その時は、まぁその時で。

京楽は、浮竹をお姫様抱っこした。

「おい、京楽!」

「うーん、大分肉おちちゃったね。甘味屋いこうか」

お姫様抱っこだけで、浮竹の体重がわかるほど、京楽は浮竹のことを知り尽くしていた。

京楽は、浮竹を床に降ろす。

甘味屋という言葉に、浮竹の目が輝く。

「しばらく行ってないからな。すごく行きたい」

海燕は、京楽の怒りがもう自分に向いていないことに安堵した。

「京楽隊長、浮竹隊長にいっぱい食べさせて、あと鍛錬も一緒につきあってやってください」

「海燕君、怒って悪かったね。君が浮竹をどうこうするわけはないと分かっているのに、目の前で実際に見ると、どうにも怒りの感情が先走ってしまってね」

「いえ、俺も悪かったですから」

海燕は、京楽にぺこりと謝った。

「海燕、京楽に謝ることなんてないぞ。京楽、ほら甘味屋いくんだろう!俺の財布はお前なんだから、行くぞ」

京楽を財布扱い。

海燕は、噴き出すのをこらえた。

4大貴族に並ぶほどの上流階級の貴族である京楽を、財布がわりだなどというのは、浮竹くらいだ。

浮竹は給料のほとんどを仕送りで使って、残った金で薬を買い、付き合いで飲み食いするときのために金を残しているが、京楽と一緒になって食べに行ったり飲みに行ったりする時は、いつも京楽が金を出してくれる。

なので、浮竹の中で京楽は財布になっていた。

「今日は新作メニューが出るらしいよ」

「よし、行くぞ。海燕もどうだ?」

「いや、俺はいいです。仕事ありますし」

浮竹は、自分の分の仕事は既に終わらせていた。10日間臥せっている間の仕事はほぼ海燕が処理して、浮竹が必要な書類だけは残しておいた。

それを、浮竹は2日はかかるであろう仕事を、4時間で終わらせてしまったのだ。

浮竹は優秀だ。

病で臥せり、隊首会を欠席したりすることはあれど、仕事はちゃんとこなすし、その戦闘能力の高さは折り紙つきだ。

霊圧の高さだけなら、京楽よりも上かもしれない。

浮竹の異様なまでの霊圧の高さが、浮竹の肺に宿るミミハギ様のせいでもあるいうことを、浮竹以外は誰も知らない。

浮竹自身、ぼんやりとそうかもしれないと思っているかんじで。

「甘味屋に行くぞ!ほら、京楽!」

すでに雨乾堂の外に出ていた浮竹を追うように、京楽がその後に続く。

「海燕、お土産買ってくるから、留守番よろしく!」

浮竹は、海燕に手を振った。

それに応えて、手を振る。

「京楽隊長の財布をすり減らす勢いで、食べてきてください。それから、鍛錬も忘れないように」

浮竹が笑顔になるのは、いつも京楽と一緒にいる時が多い。海燕の前でも笑顔になってくれるが、京楽が傍にいると、その確率は数段にアップする。

本当に、仲がいい二人だ。

「夫婦ってやつですか。んで俺はあの夫婦の姑かおかんか・・・・・」

自分の立ち位置を、ふと不思議になって検証してみるが、やはりあの二人のおかんってかんじだろうか。

浮竹も京楽も、海燕をおかんだと思っているだなんて、海燕は知らないのであった。

浮竹は食べまくり、京楽の財布の中身をごっそり減らした。

海燕におみやげのおはぎを買って、鍛錬の意味を兼ねて走って帰った。

海燕におはぎを渡して、久しぶりに二人は木刀を手に、庭で打ち合いをした。稽古だ。

浮竹が勝ったり、京楽が勝ったりで、どちらが強いのか明確には分からなかった。

「浮竹隊長、風呂わいたので入ってください!稽古で汗流して、そのまま放置するとまた風邪ひくでしょう!」

おかんな海燕の声に、京楽も浮竹も。

「海燕君って、絶対に浮竹のお母さんだよね」

「否定はしない」

そう思うのであった。

海燕はおかん。

京楽と浮竹だけでなく、その周囲の者もそう思っていることを、海燕は知らない。







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