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些細な喧嘩

「浮竹のバカ!わからずや!」

「京楽のアホ!とんちんかん!」

二人は、珍しく喧嘩をした。

鴛鴦夫婦として瀞霊廷で有名であるが、数百年も一緒に生きてたら、喧嘩もたまにはする。

二人はぷいっと別々の方向を向いて、京楽は8番隊の隊舎に戻っていってしまった。

喧嘩の原因は、今日の昼のメニューが美味しいか美味しくないかの、本当に下らないことだった。

「京楽のアホ・・・・・」

喧嘩しておいて、すでに浮竹は寂しくなっていた。

京楽に謝りにいこうかと思ったが、京楽に対して怒っているので、やめにした。

次の日、京楽はいつも雨乾堂にくるのに、こなかった。

やはり、喧嘩が原因だろうか。

謝りにいこうか。でも自分から折れるには癪に障る。

結局、そのまま1週間喧嘩をしたまま、顔を合わせることはなかった。

「ぐ・・・・ごほっごほっ」

浮竹は、京楽と喧嘩別れして8日目に、発作を起こした。普段の吐血より、大量の鮮血をまき散らして、清音がすぐに回道をかけたが効果はでず、4番隊の救護詰所に運ばれた。

意識が混濁する。ごほごほと、咳が止まらない。

血をずっと吐いている。

ああ、ここで死ぬんだろうか。

京楽に謝っておけばよかった。

そう思いながら、浮竹は昏睡状態に陥った。

ことの顛末をルキアから聞かされた京楽は、居ても立っても居られずに、4番隊の救護詰所に向かった。

ガラス越しに、集中治療室で絶対安静で昏睡状態の浮竹を見る。たくさんの管がつけられており、それがとても痛々しかった。

「浮竹・・・・ごめんよ。僕が悪かった。だから、早く目を覚まして・・・・・」

京楽の祈りはすぐには届かず、1週間の間浮竹は昏睡状態だった。

卯ノ花から話を聞くと、大きな発作で、命の危機があったが、今は峠はこしたということだった。

「君の好きなおはぎ、何時でも食べれるようにしているから、早く目を覚ましてよ・・・」

そんな京楽の願いが通じたのか、8日目に浮竹が目覚めた。

発作も落ち着いて、普通の病室に移る。

「浮竹・・・そのごめん!僕が悪かった」

「京楽・・・・俺こそ、言いすぎた。すまない」

二人は和解した。

喧嘩をしても、だいたい1週間で元の鞘に戻る。今回は浮竹が大きな発作を起こしたせいで、実に2週間ぶり以上に仲直りをした。

病室で、まだ安静を言い渡されている浮竹を、京楽は毎日見舞いにきた。

「桃、買ってきたんだ。好きでしょ?」

「ああ。桃は好きだ」

皮を剥いて、一口サイズに切ったものを、浮竹の口に運んだ。

「甘いな・・・・・」

果汁をぺろりとなめる仕草が艶めかしくて、京楽はドキリとした。

桃は、3つもってきたのだが、3つとも一気に浮竹は食べてしまった。

やがて、退院の日を迎えた。

雨乾堂まで、ゆっくり歩いて帰った。手を繋いで。

しばらくの間運動をしていなかったし、病院食で浮竹は少し痩せた。

「甘味屋に行こうか」

「お、いいな」

いつでも食べさせようと思っていたおはぎは、浮竹が目覚めないので買うのをやめてしまったのだ。

かわりに、甘味屋に連れて行ってあげようと思っていた。

浮竹と京楽は、一度雨乾堂に戻り、荷物を置くとそのまま甘味屋に出かけた。

久しぶりだったので、浮竹はおはぎを5つとぜんざい2つという、いつもよりかなり少なめの寮だった。

「どうしたの。食欲ない?いつもならこれの3倍は食べるのに」

「卯ノ花隊長に、甘味物ばかり食べていたら糖尿病になると言われた」

卯ノ花の言葉を、浮竹は気にしているようだった。

「糖尿病になるなら、すでになってるでしょ。今まであんだけ甘味物を食べてきたんだから」

「それもそうか」

浮竹は、更に注文して、結局は3人前を平らげてしまった。

「はー。久しぶりの甘味物は美味いな。生き返る。救護詰所の飯はくそまずいからな」

その場に卯ノ花がいたら、「献血をしましょう」といって、しおしおになるまで血をとられていたところだろう。

「ねぇ、今日、君を抱いてもいいかい?」

ストレートな京楽の質問に、浮竹は赤くなりながら頷いた。

「しばらくしていなかったもんな・・・きっと、お互いたまってる」

最低でも1週間に1回は体を重ねていた。

今回は1か月ほど交わっていない。

勘定をすませて、雨乾堂まで手を繋いで帰った。

「君と手を繋いで歩くってあんまりないよね」

「恥ずかしいからな。でも、俺が意識のない間、心配かけさせたからな」

手を繋ぎたいと言い出したのは、京楽だった。

瞬歩を使わずに、歩いて帰る。

夕日に、浮竹の白髪がオレンジ色に染まり、綺麗だと思った。その白い肌も隊長羽織も、オレンジ色に染まっていた。

ただ、翡翠の瞳だけが鮮やかで。

「君の瞳は、本当に翡翠のようだね」

そう言うと、浮竹ははにかんで笑った。

「日番谷隊長の目も、翠だろう」

「日番谷隊長の目は、エメラルドかな。君の瞳は翡翠だ。極上の」

浮竹は、またはにかんで笑った。

「そんなこと言うの、お前くらいだ」

「そうだね。僕以外に口説かれたりしないでね」

「お前くらいだ。俺を口説くのは」

「君は容姿がいいから。死神たちに憧れられている。中には不埒なことを考えるやつもいるかもしれない」

京楽の言葉に、浮竹が首を横に振る。

「容姿のせいなのは慣れてる。それに俺が隊長だ。襲ってくるやつはいないさ」

「そうだね。でも、心配なんだ」

手を繋ぎながら、ゆっくりと歩いた。

夕暮れのオレンジ色に二人は照らされて、とても仲のよい二人に、すれ違う死神たちが「おしどり夫婦だ」と言っていた。

それに二人で苦笑する。

「おしどり夫婦だってさ」

「そりゃ、数百年も恋人をやっていると、そう見られても仕方ないな」

浮竹も否定しない。

おしどり夫婦として有名な二人は、手を繋ぎながらゆっくりと雨乾堂の帰路につくのであった。

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