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さくら

桜の花が満開になった。

朽木邸の桜も、見事に咲きほこっていた。

そんな庭で、恋次と白哉は花見をしていた。縁側に腰かけて、朽木家お抱えの料理人が作った弁当を食べて、高級酒を飲み交わし合った。

「桜は好きだ」

白哉の言葉に、恋次が頷く。

「そりゃ、隊長の斬魄刀も千本桜ですしね」

「浅打と対話しているときに、ふと満開の桜を思い浮かべたのだ。桜のことばかり考えていると、浅打は千本桜になった。始解した時の千本桜の美しさに、私は言葉を忘れた」

確かに、白哉の千本桜は美しい。ルキアの袖白雪のような見かけの美しさはないが、始解、卍解した時の花びらの本流となった美しさは、瀞霊廷の死神がもつ斬魄刀でも5本の指に入るほどの美しさであった。

卍解すれば、桜の花びら一つ一つが、億の刃となって襲いかかってくる。美しいが、とても強い。そんな斬魄刀だった。

「なんか隊長にすごく似合ってますね。綺麗なのに、鋭い」

「斬魄刀を千本桜にしてしまうほど、桜が好きなのだ」

白哉は穏やかな顔で、庭の桜の花を見上げていた。

「ちょっと待っててください」

恋次は手の届く範囲にある桜の花を一輪手にとると、白哉の黒髪に飾った。

「よく似合ってますよ」

「女子(おなご)ではないのだ。髪に花を飾られても・・・」

「いいじゃないっすか。似合ってるんだから」

「ところで、お前の斬魄刀は何故に蛇尾丸なのだ?」

「いやー。浅打と対話してるときに蛇とか狒々とか動物をイメージしてたら、そのまま形になっちまって・・・まぁ、今の蛇尾丸に満足してますけど、もうちょっと優雅な斬魄刀でもよかったかもしれないって、千本桜を見ているとそう思います」

それに異を唱えるように、腰に帯刀した蛇尾丸が震えた。

「おっと、蛇尾丸の奴が怒ってやがる」

「私の斬魄刀に懸想するからだ」

「いや、千本桜は好きですけど、懸想しているのは隊長に、です!」

「知っている」

ふわりと、白哉が微笑んだ。

桜の花びらがちらちらと降り注いでいく。

その中にいる白哉は、美しかった。

「やっぱ、隊長めっちゃ美人ですね」

「中世的な美貌だとは、よく言われる」

「そうですね。男性にしては美しすぎるし、女性にしては凛としています」

「褒めすぎだ」

「いやいや、本当のことですから」

恋次に言わせたら、白哉を褒める言葉は尽きないだろう。

「隊長は美人です!」

白哉の手をとって、口づける。

「隊長・・・・・」

白哉をじっと見つめる。

ふっと、白哉が目を閉じた。

それを合図に、触れるだけのキスをした。

キスは、高級酒の味がした。喉を焼くような強い酒ではなく、清廉とした味だった。

「ん・・・・」

何度か白哉の唇を貪っている間に、キスがより深いものになる。

舌を絡め合わせていると、杯に桜の花びらが落ちた。

「もう、よい・・・・」

「隊長、好きです。愛してます」

「知っている」

花びらごと高級酒を口にした。

ふと恋次に抱き寄せられて、その体温の暖かさに安堵する。

「ふ・・・私も、甘くなったものだな」

ずっと昔は、近づくことさえ許さなかったのに。今は、白哉の心にまで恋次は入ってくる。

「後添えをと望む声が多い。だがそれを否定しているのは、緋真だけを妻として愛し、今はお前がいるからだ」

「隊長・・・・・」

恋次は、白哉を抱き締めたまま離さなかった。

「一生、離しません」

「お互い戦火になれば散る可能性もある。だが、永遠の安寧に近いものが訪れた今、こうやって寄り添いあうのもいいのかもしれぬ」

もう、ユーハバッハの侵攻のような、脅威は訪れないだろう。

死神は千年を生きる。

その無限に近い命を、共にしていくのも悪くないと、思うのだった。

ちらちらと。

桜の花びらが散っていく。

桜が好きな白哉は、ただその光景を恋次に抱き締められながら、目に焼き付けていた。



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