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それいけ一護君

恋次から、6番隊の隊花は椿だと聞いた。

朝から、一護の朝食はご飯と梅干しだけだった。

それをルキアが不憫に思い、おかずを分けてくれた。

「白哉義兄様は、相変わらずのようで」

「知らぬ」

白哉は、ルキアと同じメニューで少し辛口のものを食べていた。ルキアのものは普通の味付けで。一護のものに至っては、梅干しだけであった。

その日は休みだった。

庭では、6番隊の隊花であるという椿が咲き誇っていて、白哉はその一輪一輪を見て、淡い微笑みを浮かべていた。

一護がしたのは、咲いている椿の花をの全てを斬り落とすことだった。

「へっへっへ。これでどうだ」

まるで、どこぞの悪党のような台詞だった。

昼前になり、また椿を愛でにきた白哉は、椿が一輪もないのに驚いていた。

「く・・・やられた」

椿は、もったいないのでルキアにいって、氷の中に保管して、氷室に移動させた。

「貴様も、仕返しにしては少しやりすぎではないか」

「いーや、白哉にはこれくらいしないと、ききやしねぇ」

「しかし、この椿たちは兄様が丹精こめて咲かさせた由緒ある花・・・」

「高いのか?」

「貴様の給料ではきかぬくらいにな」

ぐっと、一護が詰まる。

いくら朽木一護になったとはいえ、家庭に金はいれてないのでまるで、居候のような存在だった。

「で、でも今日の朝飯は梅干しだけだぞ」

「厨房にいき、何か頼めばよかったのだ」

「それが、最近は白哉様ご命令で無理ですとか言わる始末だ」

「うーん。兄様にも困ったものだな」

ルキアは、白哉の一護に対しての嫌がらせを、まだ真剣に受け取っていなかった。

一護とて、できることなら穏便にすませたいのだ。義兄にあたる人なのだし。

一護と白哉の冷戦は、かなりの間続いている。

それなのに、お年玉に200万もする純金のコインをくれたり、ちょっと意味が分からない。

「一護、一緒に謝ってやるから、今回の椿の件は謝ろう。兄様にとっては特別なのだ。緋真姉様と一緒に育てた椿たちなのだ・・・・」

「え・・・・・」

一護は、驚いた。

緋真。白哉にとって、何にも代えがたいほどに大切な、亡き妻。

緋真と一緒に育てた椿という時点で、一護は謝る決意をした。

「俺、謝ってくる」

「待て、一護。私も行く!」

白哉の部屋に行き、一護は頭を下げた。

「あんたの大事な椿を、一輪残さず切り落としたのは俺だ。緋真さんと育てた、大事な椿とは知らなかったとはいえ、今回は俺がやり過ぎた」

「もうよい」

白哉の頬を涙が伝っていた。

「え、あの、ほんとにすんません!」

一護は土下座した。

「く・・・・くくく、ここまでうまくひっかかるとは」

「へ?」

白哉は、目薬をもっていた。

「あーーーー!!!」

「兄の土下座での謝罪、きちんと伝令神機で写しておいた。知り合いに一斉送信だ」

ぴっと音を立てて、メールが送られた。

「ふんがーーー!」

「ま、待て一護!とどまれ!」

一護は、ついに切れて、けれど暴力には訴えずに、白哉の部屋にあった花瓶の花ごと水を白哉にぶっかけた。

「兄は・・・この銀白風花紗が家10軒に相当するものと知っての行為か?」

「だからなんだ!洗う時くらいあるだろ。その手間が省けてよかったな」

「もうよい。頭の悪い兄といると、私の頭の中まで空っぽになりそうだ。下がれ」

「べーだっ」

あっかんべーをして、一護は去っていった。

とりあえず、ルキアは持ってきたタオルで白哉の髪をふき、休日でも着ている死覇装と隊長羽織を変えさせて、銀白風花紗をかわかすために天日に干した。

「兄様、少し一護にきつく当たり過ぎではありませんか?あれでは一護も怒ってしまいます」

「ルキア、これは戦争なのだ」

「せ、戦争ですか」

「そうだ。和平は遠いのだ」

「そうですか・・・兄様、では私もここで失礼します」

ルキアも、白哉の部屋を後にした。

一護は、ルキアと寝室でいちゃこらしていた。

「ルキア、好きだぜ・・・・」

「あ、一護・・・・・」

一護に押し倒されて、でもルキアも満更でもないようで。

「ルキア、かわいい」

「一護、好きだ・・・・・」

ルキアを膝の上に乗せて、抱き締めた。

睦み合うことこそしなかったが、抱擁したりキスをしたりしていた。

ルキアと背中合わせになって体温を共有しあい、本を読んでいた。

たまにお互いの髪をなでたり、どちらかの膝に寝転んだりしていた。

甘い時間だった。

大戦も終わり、平和だった。

ルキアの隣にいれることを、一護は心から感謝していた。

昼食の時間になって、食堂のいくと、一護の皿にめざし1匹が乗っていた。白飯もなしだ。

「ちょっと、厨房いってくる」

「あ、一護!」

「おらおらおら、白哉の命令だからって、めざし1匹はないだろ」

そう言われて、厨房の料理人は、普通の昼食を一護にくれた。

「え?白夜の命令は?」

「今回は、そのようなことは承っておりませんので」

「?なんか変な感じだな」

そのまま、昼食を食堂まで運んで椅子に座ると、栗のイガイガが置いてあって、一護はおもいっきり尻に突き刺さって、叫んだ。

「いってー!」

ルキアは、おろおろしていた。白哉はそしらぬ顔だ。

「白哉義兄様よ、言いたいことあるなら口で言ったらどうだ」

「知らぬ」

「いや、これ絶対お前のしわざだろ!」

「知らぬ」

「キーー!」

一護は、栗のイガイガを白夜の頭に向かって投げた。それをひょいっとかわす白哉。

とりあえず、昼食を食べて、またルキアと寝室に引きこもった。

「今日は天気が良いのだ。散歩にでも行かぬか?」

「おう、たまにはいいかもな」

そうして、梅の花を見ながら川沿いを歩いた。何故か、白哉も一緒だった。

「なんで白哉がいやがんだ」

「私がお誘いしたのだ。たまには夜ではなく、昼の散歩でもどうかと」

「余計なことを・・・・・」

白哉が、ルキアを奪うように、連れて歩き出す。

「あ、待て、ルキアの隣は俺のもんだ!」

そうやって、右側は一護が、左側は白哉が占領して、お互い一歩も引かなかった。

「その、歩きにくいのだが」

ばちばちと、見えない目線での火柱をあげる二人。

「そうだ、ルキア、今日飲みに行こうぜ」

「む・・・・」

白哉が眉を潜める。

白哉は、自分から飲みに行こうとか誘うタイプではない。

結局、その夜は白哉も加わって、普通の居酒屋に来ていた。

「なんでついてくんだよ」

「たまには、庶民の味を知りたいからだ」

「まぁまぁ、一護も兄様も。ここは焼き鳥が美味いのだ。酒もいろいろある。最近のものでは、辛いものでは日本酒がよいかもしれぬ」

すにで、ルキアは酒を飲んでいた。

「おい、ルキア、ここにあった瓶の中身・・・」

「ああ、全部飲んでしまった。ふわふわするなぁ・・・・」

「うわー、あれアルコール度高いのに・・・・」

ルキアは、焼き鳥のほかにホルモン焼きをいくつか食べて、酔っぱらった。

「ういー。おい、いちごおおお、すきだぞおおおおおおおお」

「酒癖わりぃなぁ」

「ルキア」

「はい、兄様」

「眠れ」

「ぐー・・・・ZZZZZZ・・・」

「え、おいまじか?」

「本当だ。私は、酔ったルキアを簡単に眠らせることができる」

どうやら、嘘ではないらしい。

仕方なく、白哉と一護で飲んだ。焼き鳥を中心に食事もした。会話という会話もあまりなかったが、ふと白哉が尋ねてきた。

「今、兄は幸せか?」

「どういう意味だ」

「そのままの意味だ。兄は、幸せか?」

「ああ、幸せだぜ。ルキアと結婚できて、愛して愛されて、ちょっと姑ちっくな義兄に困ってたりするけど、幸せだ」

「そうか。それならば、よいのだ」

酔っぱらったルキアを背中に背負って、一護は会計を支払うと、歩き出した。

「私は、夜の散歩に行ってくる。先に帰っていろ」

「へいへい」

一護は、ルキアを背負いなおして、朽木家にまで帰宅すると、爆睡しているルキアをパジャマに着替えさせて、布団に寝かせた。

そして、一護は風呂に入った。

このまま湯を抜いてやろうかと思ったが、今日の夕方は比較的平和だったのでやめた。

やがて、白哉が帰ってくる。

「みやげだ」

そういって、辛子明太子入りのおにぎりを渡された。

「おう、ありがとう」

「ルキアは寝たか?」

「ああ」

「そうか。私も湯あみをして寝る」

こうやって、一護の好物のものを渡してきたり、優しかったり、白哉は本当によく分からない。

でも、冷戦状態は続いているようで。

翌朝起きると、朝食は猫まんまだった。厨房にいくと、それしか出してはだめだと白哉に言われていると言われた。

「けっ!」

「ふん!」

「二人とも、仲よく!」

結局、ルキアの多めの朝食を分けてもらい、そのまま13番隊の執務室にまでやってきた。

「いつか、ぎゃふんと言わせてやる」

「一護、兄様は恥ずかしがっておいでなのだ」

「いーや、違うね。あれは、姑みたいなもんだ。義弟の俺が気に食わねーんだ」

「でも、本当に兄様に嫌われているのなら、一緒に住めぬぞ?」

「それは・・・・」

言葉に詰まる。

だから、よく分からないのだ。

白哉に、切り落とした椿の花は氷室に保管してあると知らせると、白哉は嬉しそうに微笑んだ。

切り落としたことを攻めてこない。

それどころか、礼を言ってきた。

本当に、よく分からない。

でも、何故だか分からない、今のままでもいいかと思うのだった。



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